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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#6 気内臓 チ・ネイ・ザン

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沖縄はようやく梅雨が明けたようだ。すでに一週間前からぽつりぽつり鳴き始めていた蝉たちは、この時を待っていたかのように、あちこちで発声練習に余念がない。来週になれば、その成果を青く抜けた大空へ存分に解き放ち、短い地上での生活を謳歌することだろう。
この土地に住む人間たちは、薄着になって夏の眩しさに目を細める用意がすでにできている。重い梅雨のあとの、重い夏がやっと来たのだ。
沖縄の夏が重いというのは、湿度や太陽の照りつけの重量感のことで、この島が少なくとも夏だけは東南アジアに属していることを感じさせる。なので、夏の沖縄にいると、幾重にも旅した東南アジアの眩しさに私は目を細めることになる。
地球上でも最も香しいと私が思っている東南アジアの中でも、タイ王国は、夜と昼とのコントラストの香気において他の諸国とは彩りが異なる。日没の頃に、街や田園をそぞろに歩けば、自分の動物としての色気が増すような高揚感をもたらしてくれる。
そんな王国にただの一度も住んだことがないのは、どうしたものか。いずれいずれの話は、どこに始まりが隠れているのだろう。人生の小さな宝探しである。
そんな思い入れのあるタイ王国。王国とわざわざ付けたいのは、国土に感じる品位に敬いを表したいからだが、その国にここ数年足繁く通って、いくつかの療法を学んだ。
そのうちの一つに気内臓療法がある。これはチ・ネイ・ザンと読み、字からも推測できるように、気と内臓に関係のある療法だ。
これを知ったのは、タイ王国の北都チェンマイにタイマッサージを習いに滞在していた時で、前知識は皆無で、たまたまゲストハウスで一緒になった人々の口からその名を聞いたのだった。
簡単に言えば、内臓をマッサージして身体だけでなく心の病、滞りもデトックスするというものらしく、人によってはかなり痛いが、術後は全体としてすっきりし、デトックスを実感できるという評判だった。
心身に何か問題がある人ほど、痛みが激しいと聞き、早速いくつかの施術者を紹介してもらい、自分のヘルスチェックとして受けてみる事にした。
まずは、滞在していたゲストハウスの目の前にあり、自分もマッサージのアドバンスコースを受講していたスクールLの代表であるC女史にお願いした。
前もって指示されていた通りに食事を抜いて診察台に仰向けになった。ウッドベースなタイ様式の施術部屋の中、ちょっとしたラグジュアリーエステに来ているようで、うきうきしているうちに施術は始まった。
感想を一言で済ますなら、痛かった、に尽きる。臍の周りをC女史の指が押すたびに針でも刺されたかと思う様な鋭い痛みだった。だが、覚悟していたせいか、想像よりも痛い時間は短かった。痛みよりも、C女史との間に断片的に交わされた会話の記憶の方が残っている。

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