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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#9呼吸

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心が乱れた時。失恋による失意、激怒、不安、嫉妬などのネガティブな感情から、どうにも逃れられない状態になった時に、どうすればそれを乗り越えられるだろう?
一つは時間に委ねることだ。これは誰もが経験上知っている事で、とにかく忘れてしまうまで待つしかない。一日で済まされる時もあれば、半年たっても傷ついたままの時もある。だが、他に方法が無いのなら、とにかく時に委ねるしかない。これは平凡だが間違いなく効果的だ。
だが、忘れるまでの時間というのは、実際かなり苦痛なものだ。せめてその時間を短縮できる方法は、ないだろうか。できれば、副作用などなく、法外な出費をせずに済む方法は。
そんな謎解きめいた問いの答えは案外あっけない。大抵の答えは身近な場所にちょこんとあって、見つけられるのを望んでいる。
人に限らず、ほとんどの生物は呼吸によって、その命を支えられている。人生とは、生まれた時の最初の呼吸と、臨終の時の最期の呼吸の間のことである、という人もいるが、もっともだ。
生きているということは、死の草原に奇跡的に舞う蝶のようなもので、何かの拍子であっという間に死に含まれてしまう。
一般的な人は、呼吸を数分止めただけで死んでしまうが、この場合、生と死を隔てるのは、僅か数分の呼吸の差でしかないということになる。そして、どんな人物であろうが、全ては平等に呼吸というものに支配されていると言えるだろう。
また、この命を支配している呼吸の仕方は、その人がどういう質で生きているかの反映でもある。乱れた呼吸をする人の生き様、日常は、はっきり乱れている。

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