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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#13山

C240473



登山ではなく、歩山を提案したい。
面倒くさく、やたらと疲れそうな「登る」という言葉を下ろして「歩く」に置き換えれば、やってもいいかなと敷居が低くなると思う。
頂上を目指さずに、数駅分ほど歩くつもりで登山口から気楽に入り、適度な所で空気と眺めを楽しんでから、弁当を食べて帰って来る。
それをピクニックと呼ぶと興味は萎むが、歩山と「山」を添えるだけで、想像の景色に穏やかな風が吹く。
山は良い。ほとんど愛していると言ってもいいくらい良い。
海は勿論良いが、山だって良い。川だって良いし、街も良いのだが、やはりなんといっても山が良い。
「孤独は心のふるさとだ」と無頼の作家坂口安吾が言ったが、人は孤独を楽しめるようになったら、いよいよ一人前。孤独は大人のたしなみである。上手にそれで遊ぶのが粋とも言える。
街での孤独は、ビルの影に入って冷たく、身を切るような痛みがあるが、山は孤独を美しく映してくれる。独断だが、山は一人で行くのが良い。むしろ、一人で行かない山は山でなく、ただの土盛りだ。
安全面での心配は、よく整備された日本の登山道などでは、まず道に迷う事もない。雨具と食べ物を持って歩き出せば、先には優しい孤独が迎えてくれるだろう。
街の孤独、職場の孤独、様々な関係上の孤独。それらとは全く別次元の、生き物が持つべき美しい孤独が山の中にはある。
頂上を目指してあくせく登る必要は無い。そこに山があっても登らなくていいのだ。ただ、ぼんやりと額に汗が滲む程度に散歩をすれば、山の愉しさを頂戴できる。

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