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映画『百円の恋』安藤サクラ × 新井浩文 対談

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観終わった後、身体の芯からむくむくと力が沸いてくるような、そんな力強い映画だ。安藤サクラ、新井浩文がダブル主演した話題作『百円の恋』。故・松田優作の志を受け継ぐ脚本家を発掘するため2012年に新設された「松田優作賞」の第1回グランプリを獲得した足立紳の脚本を、『イン・ザ・ヒーロー』(2014年)の武正晴監督が映画化した。2人が演じるのは、ボクシングを通じて“負けっぱなし”の人生から這い上がろうとする32歳ニートのヒロイン・斉藤一子と、挫折続きの人生を送ってきた中年ボクサー・狩野祐二。不屈の魂を持つ者たちの大勝負という意味では、マーティン・スコセッシ監督の大傑作『レイジング・ブル』(1980年)のように熱く、どん底でキラリと輝く“ボーイ・ミーツ・ガール”の物語という意味ではヤン・イクチュン監督の『息もできない』(2008年)のように痛く切ない。数々の共演歴を持ち、互いを深く尊敬する2人に、本作に込めた思いを効いた。

──できあがった映画を観て、感想はいかがでした?

安藤「なんか、すごいかっこいい映画だなって興奮しました。最後、一子さんがリングに上がるシーンで、ハイスピードになって、BGMがワーッと響いてくるところとか。心底かっこいいなって。武(正晴)監督も話してたんですけど、監督はあそこでグッとくるんですって。私はむしろ、ひとりでニヤニヤしちゃってるんですけど(笑)」

新井「うそ? うちは泣いたよ。初めて観たとき、あの試合からラストにかけては、やっぱグッときた」

安藤「でも私も、ああいう感覚を味わったのって、実は今回が初めてだった。極限まで肉体を作り込んだことも影響してるのかもしれないけど、最後の方はなんか自分じゃない人を観ているみたいで……。だからニヤニヤしちゃうのかも。そこは武さんの演出の凄さだなって」

新井「うん。いい映画ってみんなそうだけど、あるシーンが独立して素晴らしいんじゃなくて、そこに至るまでのフリみたいなものが最初からちゃんと積み上げられてる。だからグッとくるんだよね。まぁ自分が出てる場面は小っ恥ずかしいというか…。どの作品もそうだけど、やっぱ反省が先に立っちゃうので。『安藤サクラ、すげーなぁ』というのが、うちの素直な感想でした」

──新井さんは今回、「安藤サクラが出るなら」と出演オファーを快諾されたとか。

新井「はい。ホン(台本)も面白かったし。これまで共演したり、出演作を観たりして、安藤サクラがすごい女優さんだってことも、身に染みて知ってましたから。このホンをサクラが演ったら、ものすごいことが起きるに違いないと」

──安藤さんは、ご自分からオーディションを受けたんですよね。脚本のどこにそんなに惹かれたんでしょう?

安藤「うーん……やっぱりこう、自分を闘わせてくれるというか。このホンなら全力で闘えるなって。そういう作品に出会えるチャンスってなかなか無いので」

──この映画、ちょっとした日常描写の中に、記憶に残る名シーンがほんとたくさんあるんですよね。

安藤「あ、うれしいです! たとえば、たとえばどこですか?」

──ボクシングと出会って、ダルダルだった一子の身体が少しずつ絞られていくでしょう。100均コンビニの棚だし作業中に思わず出ちゃうシャドウボクシングも、どんどん動きが様になっていって。初めてフックがビシッと決まった瞬間、ゾクッとしました。ボクサーの動きをちゃんと見せるのって、大変だったのでは?

安藤「そうですね、それはすごくプレッシャーでした。私は中学校の頃に、少しだけボクシングジムに通ったことがあって。ボクシングという競技が大好きだし、すごく尊敬もしてるんです。だからこそ本気で取り組んでる人に失礼なことはしたくなかったというか……。『だって映画でしょ』とか『あれは役者さんがやってることだし』と思われないボクシングをしたかったので」

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