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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#29 インナーチャイルド

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千葉県船橋市で生まれた私は、3歳の時に同県の八千代市大和田新田に移り、十一歳までのおよそ8年間をそこで過ごした。つまりその土地は、自分の核となる何かを育んできた場所だと言えるだろう。先日、沖縄からの上京時を利用して、幼少期を過ごした場所を再訪してみた。なんとなく、今行くきべきだろうと気になったので。三十代の頃に、およそ三十年ぶりにその土地を訪れて以来、4度ほど訪れていたので、それほどの感慨はないと予想していたが、今回の再訪はそれまでとは違っていた。私は、津田沼駅で総武線を下車し、京成バスに乗り換えて、自衛隊習志野駐屯地を経て、渋滞の成田街道を高いシートから眺めつつ、八千代市大和田新田へと向かった。風景は様変わりしたかと思えば、40年前と変わらない所もあって、常に胸騒ぎを覚えていた。そして、薄々は感じていたが、この再訪の目的は、場所ではなくて、幼い頃の自分に会いに行くことだと、途中ではっきりとわかった。

ヒーリングの世界では、インナーチャイルドという概念がある。文字通り、自分の中にいる子供である。もう少し説明すれば、自己形成する幼少時に、満たされなかった思いが、ずっと自分の中に負の経験として影となり居座って、現在の自分に深く影響を与えているという概念だ。このインナーチャイルドを癒し、解放させてあげることで、現在の自分の状況が好転すると言われている。

その方法としては、心を十分に静めて深く自分の心の中へと入っていき、心の暗部で膝を抱えてうずくまっている子供の自分に会い、恐れや不安、悲しみなどの負の感情を、対話を通し励まし、抱きしめてあげることで、暗闇から手を引いて導き出してあげることだ。

理屈では、なんとなくわかると思うが、「心を十分に沈めて自分の中へ入っていく」ことは難しいことだと思う。心を静めることすら、性急に過ぎ行く一日の中では、忘れられていることが多いだろう。

そういう時は、物理的な導線を使うと容易になる。子供時代に会いたいのなら、子供時代に過ごした思い出深い場所を訪れればいい。そこでは、懐かしい風景の中で、幻のように子供時代の自分が遊んでいる姿が浮かんでくるだろう。街並みは変わっても、通学路の道筋は残っていることが多いし、そこをゆっくりと歩いてみるだけでも、小さく柔らかかった自分が現れるだろう。

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