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text by Nao Mahida

オリヴィエ・アサイヤス監督『パーソナル・ショッパー』インタビュー

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—前作『アクトレス~女たちの舞台~』と本作『パーソナル・ショッパー』はセレブリティーの世界を描いていますが、実生活でセレブの世界に生きるクリステンは、劇中ではアシスタント役を演じています。彼女にこのような役柄を与えた理由は?


アサイヤス「最もわかりやすい説明としては、クリステンはメジャーな映画スターであり、現代のセレブ文化の大きな一翼を担っているけれど、それを重荷に感じているように思うんだ。演技やキャリアといった観点からして、彼女はセレブ文化をさほど好きではないように思えるし、それによって助けられることもあまりないのではないかな。僕たちは一緒に手掛けた作品の中で、そのようなセレブ文化から距離を置いている。2つの作品では、セレブとしての重荷を彼女の背中から下ろして、他の誰かに背負わせているんだ(笑)。『アクトレス~女たちの舞台~』ではジュリエット(・ビノシュ)、そして『パーソナル・ショッパー』ではノラ(・フォン・ヴァルトシュテッテン)にね。言い換えれば、どちらの作品でも、僕の興味が映画スターやセレブとしてのクリステンではなく、人としての彼女にあることを示している。そういった意味では、これら2つの作品では、セレブというフィルターを通していない、最もありのままのクリステンの姿を見ることができるんだ」


—クリステンが本作の共同クリエイターだとおっしゃいましたが、彼女の右腕に入っているゲルニカのタトゥーは、『アクトレス~女たちの舞台~』の役作りでフェイクタトゥーとして入れたものだそうですね。彼女はそれを後に実際のタトゥーとして入れたそうですが、それも共同クリエイターであることの証なのでしょうか?


アサイヤス「そうなのかな、わからないよ(笑)。僕の記憶の限りでは、確かに『アクトレス~女たちの舞台~』の役作りで入れたフェイクタトゥーの一つだったように思う。なぜ本当に入れたのかは聞かなかった」


—これまでに作品の中で多くの女性を描かれていますが、監督にとって、創作の源としての女性とはどのような存在ですか?


アサイヤス「難しい質問だね。僕は女性にインスパイアされた初めてのアーティストというわけではないし、それは人類の歴史の一部だからね。僕はそこにものすごく小さい一章を加えただけで(笑)。それはさておき、僕は自分がなぜ女性にインスパイアされるのかを理解しようとしている。究極的には、僕らが生きる今世紀やその一つ前の世紀における最も魅惑的な歴史上の事件は、女性たちがそれまで持っていなかったステイタスを得たことや、社会がそれを受容するようになってきたということではないだろうか。女性たちが社会における自分たちのポジションを、自分たちの手で改めて獲得している、それはすごく大きな出来事だと思う。そして、僕はそれに必要とされるエネルギーにとても感じるものがあるんだ。そういったエネルギーはエキサイティングでモダンな登場人物を作り上げる。さらに、本質的に僕はフェミニストなのだと思う。現代社会のすべての悪はマチズモ(男意気)の危機から生まれるんだ。戦争もギャングスタラップもね(笑)」


—冒頭から主人公のモウリーンが霊媒師だったりと、パラノーマルな要素が含まれています。でも、彼女は自身のアイデンティティやジェンダーに疑問を抱く、多くの人が共感できそうなキャラクターで、本作の主軸には彼女の成長物語が描かれているように感じました。そこにあえてホラー的な要素を取り入れた理由は?


アサイヤス「自分が思い描いていたように物語を伝える上で、必要な要素だったから。モウリーンはとても孤独で、一人で過ごす時間が多い。彼女の周りの多くの出来事は想像の中で起きていて、現実世界との交流は非常に少ないんだ。不安や恐怖、混乱といった彼女の感情や、そういった感情が生み出すバイオレンスを、観客に分かち合ってほしかったんだ。それに、ジャンル的な要素を付与することによって、そういった感情をより物理的にすることができる。僕にはそれが必要だった。キャンバスに絵を描くようなもので、ジャンル的な要素も色彩のように使っているんだよ。特定の場所に赤が必要だからといって、キャンバス全体を赤く塗る必要はないんだ」

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