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text by Ryoko Kuwahara
photo edit by Ryoko Kuwahara
photo by Shuya Nakano

ローラ・アルバート×アヴちゃん(女王蜂)『作家・本当のJ.T.リロイ』対談

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1996 年に突如として文壇に現れた天才少年作家 J.T.リロイ。虐待やセックスワーカーとしての体験を綴った自伝『サラ、神に背いた少年』は世界的ヒットを記録し、時代の寵児になった彼。しかしJ.T.リロイという作家は実在せず、著書はすべてローラ・アルバートという女性によって書かれたものだったーー。文壇を揺るがす衝撃の実話を映画化したドキュメンタリー『作家、本当のJ.T.リロイ』の公開を祝し、ローラ・アルバートと女王蜂アヴちゃんによる対談が実現。彼女たちの戦いについて語った。



アヴちゃん「ドキュメンタリーでここまで感動したのは初めてです。フィクションでありノンフィクションであり、その間を紡ぐものとして世界を動かした物語だから、表現をする仕事の人は全員観なくてはいけないと思う」


ローラ「とても嬉しいわ。私は虐待をされて育ってきて、いろんな意味で血を流してきた。ジェンダーに関してもそう。作家デビューした頃は“Gender Fluid(流動的なジェンダー)”という言葉がなく、世間の目はとても厳しかったの。トランスジェンダーというとおかしい、怖いという見方をされていた。生きていたくないと思ったこともあったけれど、いつか自分がひとりじゃないと思えて、他の誰かの人生に影響を与えられたらというのが夢だったから、さっきの言葉を聞いて大切なプレゼントをもらったような気分よ」


アヴちゃん「私も同じような経験をしているんです。全ての経験をして、全部の感情を知って、全てを表現してから死にたいと思っているんだけど、それと同じ想いを映画を観て感じました。自分の経験や感情の全部を書くことができる人はなかなかいないけど、ローラさんはこの映画までの全てを書ききって、今もまだ続きを書いているんだろうなと思います」


ローラ「まさにそう、書いているわ。自分の中の声に突き動かされて、書かざるをえないの。小さいときに虐待を受けたり、トラウマを負った人は、なにかとても大事なものを失ってしまって、もしかしたら一生失ったままかもしれない。まるでイスから足が一本取れているみたいにね。その足を補うために、多くの人は怒りを利用して破壊的、自滅的になるけど、私たちは内側にあるマグマをアートにしている。それは魂がそうせざるをえないからで、誰のためでもなく自分のためにやっていること。同情やかわいそうという声がほしいわけじゃない」


アヴちゃん「わかります。よく思うのが、軽音楽部に入りたくてギターを始めた人と、自分の中にあるウワーッとしたものをどうにか表現するためにギターを始めた人では全く違うということ。周りには軽音楽に入りたくて始めた人があまりに多いけど、この映画を観ると仲間がいたという気持ちになる。
私は、人に感銘を与えて支持される作品の中心にあるのは本人の経験であるべきだと思う。あなたの物語が世界を動かしたのも、経験に基づいたものだから。世の中には本人をスキップした作品が溢れているけど、本来、個人の経験がコアにあって作られるというのは自然なことですよね」


ローラ「その経験に性的欲求や虐待が含まれているからって、オープンに話すことで攻撃されることもあるのはおかしなこと。ちゃんと目覚めていないとセレブがどうしたこうしたみたいなことで関心が終わってしまうけど、私たちにはその目を覚ます役割があるのよ。だから『黙れ』なんて言うなと思う。耳を塞がず、実際に起こっている真実について話さなくてはいけない。声をあげることに、なんの許可もいらないのよ」


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