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text by Meisa Fujishiro
photo by Meisa Fujishiro

藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#43 巨木に会いに

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巨大といっても突然変異の結果としてのケースと、他の個体が淘汰される中で、生き残った結果として大きかったというケースが考えられる。いずれにしても、放っておいたら巨大なものが出現しているのである。
 この自然が巨大な個を出現させるのは、種の保全のための多様性を得るためだというのが本筋かもしれないが、僕の想像だと、同時に種長をも出現させるためだと思う。大きな者が小さい者を束ねるというのは分かりやすい。大きさというのは攻撃力であり保身力でもある。人間以外は、身体的にこの攻撃力と防御力に直接優れた者が種長となる。人間では国のレベルでいえば、経済力と軍事力がこれに当たるのであろう。だが裸の個のレベルでいえば、他の動物と同じで、一般的には体の大きい方が強い。
 自然は種を束ねるために大きな者を出現させたのではないかと思う。大きな中心がある種は、それを持たない種に比べて、生存力が劣るのではないか。これは僕個人の想像でしかないが。


 栃の巨木を見上げながら僕が得たのは、森の王に謁見しているような感覚である。数本巡りながら、その幹元に座って背中で寄りかかり、その加護に入る事のなんとも言えない安堵は、人の中で暮らしていては得難いものだ。


 僕が日頃から、他の種族と触れ合う事を勧めている理由は、まさに人間からは貰えない感覚やエネルギーを得られるからだ。そしてそれこそがヒーリングになると信じているからだ。人間は同種の中でいると淀むと思う。家の中でばかり遊んでいたら、足腰が弱くなるというのと同じレベルの話である。もっと外に出て、風や温度を体感して、免疫力を高める。そのために、異種と交流し、中でも多種の王と触れ合えたら最高である。
 健康であるために、植物の王とも言える巨木に会いにいく。それを人間も本能的に知っていて、ずっとずっと崇めてきたのだ。
 実際に両手の平を幹に当てて目を閉じることを自然にする人が多いのは、僕たちはすでに交流の方法すら知っているのだ。
 公園にも大きな木があるが、やはり山に住む巨木は、野生の力に満ちていて、僕たちの野生、美しく健やかに生きようとする本能を刺激してくれると思う。街旅から一旦離れて、山の入り口へ。上を見ながら歩こう。


※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#43」は2017年7月23日(日)アップ予定。

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