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text by Shinichiro JET Takagi
photo by Satomi Yamauchi

Fiction Issue : Interview with tofubeats about『FANTASY CLUB』

tofubeats_photography|Satomi_Yamauchi_NeoL1


別のメディアの話で恐縮だが、「TV BROS」のレビューで、tofubeatsの新作『FANTASY CLUB』は、キャロル・キングの「つづれおり」を感じると書いた。それは、いわゆるシンガー・ソング・ライター的な質感というより、前作『POSITIVE』や、前作から今作までの間にあったアニメ「クラシカロイド」の楽曲制作で詳らかになった、オーダーやイメージに対して求められるクオリティの要求に応えるというポップ・クリエイターとしてのtofubeatsの手腕を、キャロル・キングでいえば”A Natural Woman”や”The Loco-Motion”のような仕事に準えれば、そこから極私的な部分も垣間見えるSSWとしての性格が強く出た『つづれおり』への流れは、今作の『FANTASY CLUB』との性格や流れと共通性を感じたからだった。
その意味でも、tofubeats自身の内省が表れた本作だが、それらの表現は決して言い切り形ではなく、非常に曖昧で、判断を躊躇しながら、それ故に丁寧に心の襞を書くような構成となっている。それが影響してか、今回のインタビューも明確な質問ではなく、筆者が「思う」「感じる」という話を彼に伝え、問答するような形になっていること、そして具体的な音楽の話題よりも観念的な話になっていることをご容赦願いたい。
リスナーに「思考」させる作品を何故作ったか、彼のその考えとは。


 
——今作について既によく言われることだと思うけど、今回はSSW的な感触や「個」に向かった作品だと感じました。その意味でも、ポップス・クリエイターとしての作品性、要求されるであろうモノに対する回答性が強かった『POSITIVE』とは違った方向性がまず印象的に感じて。


tofubeats「今回はメジャー・デビューする前にやってたチル・ウェイヴとか、ドローンみたいな楽曲もやってて、その意味ではインディとかフリーダウンロード、メジャー・デビュー前にやってたこと、不特定多数に聴かれることを意識してない頃の要素がスゴく入ってるんですよね。その意味でも今回は自分が元々好きだった要素が一番入ってると思うんですよね。制作期間も一番長くとれたので、作品を吟味する時間があったし、『丸出し度合い』も実は一番制御されてるんですけど、今作の構成がもし意外に思われるとしたら、改めてメジャー・デビューしたんだなって思いますね。リスナーや消化する側が、僕の作品について『メジャー以降』が起点になっていて、イメージの原点にあるんだなって」


——活動の規模や注目性を考えれば、そういったリスナーが生まれるのも当然だと思うけど、そういった層に今作をアプローチすることに対する恐怖はあった?


tofubeats「不安はマジでありましたね。『いけるのか、これ』って。でも契約のタイミング上、これがコケたとしても、次で頑張ればいいかっていう。もう一枚リリースする事は決まってるんで(笑)」


——保険があったと(笑)。


tofubeats「だからチャレンジ出来るタイミングでもあったんですよ。それにいまは個人で動いてるんで、何かあっても大変なのは俺とマネジャーだけだなって。だから正直いえば高い打点は想定してなかったんですけど、反響が良くてホッとしてるというか、世の中を見くびってたと思いましたね。こういうのが良いのかな、ってやらなくても、ちゃんと評価してくれるんだって。『POSITIVE』は頑張って料理した作品だったけど、今回は最近の土井善晴さんの料理みたいな感じなんですよね」


——土井善晴さんの料理が頑張ってないとは言わないけど、煮干しで出汁を取って、その煮干しを具にした味噌汁にしちゃうとか、よりシンプルに、外連味が無くなってるよね。


tofubeats「しらすだけのチャーハンが結局美味しいとか(笑)。そういう感じですね。それにこれだけ市場がシュリンクしてたら、『不特定多数』ってないんですよね」


——不特定多数へのマーケティングに基いて作って100万枚をセールスするなんて事はあり得ない。


tofubeats「だから、主観しか頼るモノがないんですよ。自分がいいと思ってるから、人も良いと思ってくれる『はず』しか判断基準がない。でも、今回の作品も前回と同じぐらい売れてるから、それは嬉しいことであり、リスナーを信じきれてなかったのかな、ってちょっと反省しましたね」


——昨年、You Tube上に”shoppingmall”が発表された時、やっぱりその内容に驚いたんだよね。内容や映像の情感も含めて、スゴく寂寞とした風景にも思えて。


tofubeats「はい」


——ただ、それがアルバムになると、他の楽曲と連携することーーそれは個人的には”BABY”がある事から思わされたーーによって、全く違う景色に感じる仕立てになっていたのが本当に面白くて。そうなる事は想定していた?


tofubeats「そうですね。全曲そういう風になったらいいなと思ってました。その方がアルバムを作る意味があるなって。今までもそれを狙ってはいたんですけど、今回はよりそれが明確に出来るんじゃないか、っていう見通しがあったんですよね」


——それはどのタイミングで思ったの?


tofubeats「”shoppingmall”が出来た時ですね。『POSITIVE』が出来た直後には”BABY”と”FANTASY CLUB”、”OPEN YOUR HEART”の3曲は出来ていて、ライヴでも既にやっていたんですよね。その流れの上で”shoppingmall”が出来て、『これは”shoppingmall”から”BABY”までーーその間に”FANTASY CLUB”や”OPEN YOUR HEART”を挟みながらーーキレイに線が引けたら、アルバムが完成するな』って思ったんです」


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