『子どもが教えてくれたこと』 アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督来日インタビューneol.jp | neol.jp

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text by Nao Machida
photo by Sachiko Saito

『子どもが教えてくれたこと』 アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督来日インタビュー

NeoL_kodomo2|Photography:Sachiko Saito



フランスで大ヒットを記録したドキュメンタリー映画『子どもが教えてくれたこと』が日本上陸した。アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアルという、5歳から9歳の5人の主人公に共通するのは、大きな病気を患っていること。治療を受けながら毎日を精一杯生きる子どもたちを、カメラは優しく見守るように追う。辛いこともあるけれど、好奇心を忘れずに日々を真っすぐ生きる彼らの姿に、心を動かされる人は少なくないはずだ。メガフォンを取ったのは、2人の娘を難病により亡くした経験を持つ女性ジャーナリスト、アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン。来日した監督に、本作の製作秘話や作品に込めた思いを聞いた。



——日本での公開おめでとうございます。難病を抱えた子どもたちを追ったドキュメンタリー映画と聞いて、最初は観るのが少し不安でした。とても悲しい作品を想像していたのですが、実際に観て驚きました。


アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督「あなたの気持ちはよくわかります。だからこそ、今回の来日プロモーションでは、決して病気の映画ではないのだということを伝えたいと思っています。病気だけをフィーチャーした映画だったら、誰も観たくないですよね。私だって観たくないです。でも、本作は子どもたちが”生きる”ということについて語った映画です」


——とても希望に満ちた作品で、観た後は心が温まりました。繊細なトピックですし、決して簡単な作品ではなかったと思いますが、あえてこのテーマを選んだのはなぜですか?


ジュリアン監督「私が本作を撮ったのは、『よし、がんばらなくては』という勇気ではなく、『この映画を撮りたい』という強い思いがあったからです。私は実生活で、重大な病気により2人の娘を亡くしました。その経験があったからこそ、”生きる”ということを皆さんと共有したいと思ったのです。病気の大変さについては、私の個人的なことですから、それを共有しようと思ったわけではありません。それよりも、子どもたちが人生や幸せをどのようにとらえて、どのように生きているかということを共有したいと思いました」




——映画に登場する5人の子どもたちは、それぞれ個性的でとても魅力的でした。どのようにあの5人を選んだのですか?


ジュリアン監督「本作ではもちろんオーディションをしたわけではなく、出会いを大切にしました。様々な小児科の先生と会ったり、病気の子どもたちを支援する協会の人々と会ったりしたのです。彼らは子どもたちの病気のことだけではなく、どのような家族がいるかも把握しています。私は子どもたちを選ぶ時に、家族がうまくいっていることが重要だと考えていました。どのような環境で病気に向き合っているのかを知った上で紹介していただいたのが、あの5人でした」


——ナレーションがなく、子どもたちの目線で進んでいくのがよかったです。撮影する上で、特に気をつけたことやこだわったことはありますか?


ジュリアン監督「まさに、子どもたちの言葉でこのドキュメンタリーを伝えるという点にこだわっていました。そういう意味では、おしゃべりすることに躊躇しない子であることも選ぶ基準の一つでした。でも、子どもたちは意外とすぐに信頼してくれるんですよね」


——信頼関係がスクリーンを通して伝わって来ました。


ジュリアン監督「そうですよね。出会いという意味では、観客と子どもたちの出会いも大切にしたいと思っていました。だから、あえてナレーションで病気を説明することはしませんでした。ひょっとしたら、観客にとって少しわかりづらい部分もあるかもしれませんが、それはそれでいいと思ったのです。例えばシャルルは、自分の病名をカメラの前では絶対に言いませんでした。そういう彼の思いを大切にしたかったので、私たちもそれをナレーションで説明するようなことはしたくなかったのです」


NeoL_kodomo|Photography:Sachiko Saito


——フランスの医師たちが、小さな子どもたちに病気や治療についてきちんと説明していたのが印象的でした。フランスでは当然のことなのでしょうか?


ジュリアン監督「フランスでも私が子どもの頃は、医師が子どもに病名を明かしたりはしませんでした。今の医師たちも、子どもを大人として扱っているわけではありません。ただ一人の人間として、『君の病気なのだから、君が当事者なのだ』という目線で話しているのだと思います。そのような傾向はごく最近になって、フランス全土に広がってきました。それは医療関係者にとっても、お父さんやお母さんにとっても、子どもにとっても、いいことだらけなんですよね。何かを隠してしまうと、そこには子どもに対するタブーが生まれます。でも、そのタブーには何の意味もないですし、何の役にも立ちません。例えば医師がイマドの病気について話すシーンでは、イマドは会話の中でまったく除外されていません。『君の人生のことについて語っているんだよ』というスタンスなのです」


——たとえ相手が幼くても、『あなたの命はあなたのものなんだ』という考え方に共感しました。


ジュリアン監督「私もとても心を動かされました。子どもたちと医師たちの関係性は、まるで共犯者みたいで、一緒に病気と向き合っているのが伝わってきました。例えばカミーユの担当医は、彼のことを”シェフ”と呼んでいます。本当にしょっちゅう会っている関係なので、そこには信頼関係もありますし、医師もカミーユの生活の一部なのです。それは大事なことです」


——5人の子どもたちは、まるで小さな哲学者のようで、その発言に何度もドキッとさせられました。自分は大人なのに、小さな彼らに情けないほど勇気付けられてしまいました。監督は彼らとたくさんの時間を過ごされたかと思いますが、特に印象に残っている言葉はありますか?


ジュリアン監督「私もあなたと一緒です(笑)。私自身も観客として、この映画を“生きた”という気持ちなのです。私はシナリオを書かなかったのですが、結果的に、大人だったらシンプル過ぎて言えないような言葉を彼らが口にしてくれて、とても幸せに思います。中でも印象に残ったのは、カミーユが『僕が死んだら、その時はもう病気じゃないんだ』と言ったこと。その言葉だけを取るとすごく過激なのですが、確かにそうだなと思いました。あとはテュデュアルの言葉です。彼が野菜をいじっている時に、とても穏やかに『幸せを阻むものなんて何もない。病気だからって幸せになれないことはないんだ』と言ったこと。あの言葉は頭の中で何度も反すうしています。その通りだなと思う一方で、大人になると人生において、いろんなことに幸せを阻まれますよね。『幸せを阻むものはない』と自分を解放しなければならないのだと、彼の言葉から学びました」


NeoL_kodomo3|Photography:Sachiko Saito


——アンブルの姉のリリーの言葉も印象的でした。彼女自身、まだ幼いのに、小さい頃から病気の妹を一番近くで見てきたわけですよね。そんな彼女が「もっと命を信じなきゃ」と語っていたのが印象的でした。リリーとはどのような話をしたのですか?


ジュリアン監督「アンブルだけに限らず、私は子どもたちの兄弟や姉妹の言葉を遮るつもりはありませんでした。カメラを回しながら、『しゃべっていいよ』と伝えていたのです。ただ、子どもというものは、『はい、どうぞ』とカメラを回しただけでは話しません。だから、遊びから入っていく必要がありました。私も低いテーブルについて、まずはアンブルと一緒に粘土遊びをしました。するとそこに姉のリリーが入ってきたのです。私が頼んだわけではないのですが、彼女は妹のいる前であの言葉を言ってくれて、本当に素晴らしいと思いました。お姉ちゃんにも、ちゃんとそれだけの自由があるんだなと感じた瞬間です」


——そこにも信頼関係があるわけですよね。


ジュリアン監督「そうです。信頼関係のベースになるのは、真実を伝えているかということなんですよね。2人は2歳違いなのですが、アンブルは生まれてすぐに心臓の病気であることがわかったそうです。そうなるとやはり妹の方に手がかかるので、どうしてもお姉さんがおざなりになってしまいます。でも、お母さんが2歳だったリリーに、『あなたのことがアンブルより嫌いなわけではないのよ。ただ、アンブルには病気のケアが必要なのよ』と包み隠さず話していたからこそ、そこに信頼関係が生まれたわけです」


——病気の子どもたちを撮影するにあたって、お父さんやお母さんから何かリクエストはありましたか?


ジュリアン監督「そこでもやはり信頼関係が大切になってきます。子どもたちは自ら『学校に行くところを撮って』とか、『友だちに会いに行くところを撮って』と言ってきました。私から提案するのではなく、子どもたちからの提案を受けて撮影したのです。もちろん、そこにはお父さんやお母さんがいない方がいいんです。その方が子どもたちは自由にできますから。お父さんやお母さんが私を信頼してくれたのは、私自身が娘の病気を経験したことで、子どもたちとどのように接するべきかをわかっていたからです。だからこそ、同伴しなくても撮影させてくださったのだと思います」


——本作を観て、生きることの素晴らしさや命の大切さを伝えてくれた子どもたちに感謝しています。監督は本作を通じて、どのようなことを感じ取ってほしいですか?


ジュリアン監督「あなたのおっしゃったことと同じです。私は病気の子どもたちの生活を見せるために、この映画を撮ったわけではありません。それよりも、大人たちに気づいてほしいのです。私たちの誰もが幸せになれる能力を持っているのだと、この映画を通して再認識してほしいのです。映画に登場する5人は、すごく特別な子どもたちというわけではありません。世界中のどんな子どもだって、生きることにワクワクしているはずです」


——そうですね。彼らのキラキラした表情から、いろんなことに気づかされました。


ジュリアン監督「ここに出てくる5人は、とても自然な姿で映画に存在しています。もちろん、彼らだって辛い試練を自ら選んだわけではありません。でも、そういう試練があった時に、その試練にどのように向き合うか。それを決める、つまりは人生を操縦するキャプテンは自分なのだということを、本作を通して感じてほしいです。大人はすべてのことをコントロールしようとしがちですが、子どもたちが自然なかたちで試練に対処していく姿を、人生のレッスンとして観てほしいです。とても自然に、でも少し大胆な気持ちで、自分が幸せになる方法を見出す。それを再発見してほしいなと思います」


photography Sachiko Saito
text Nao Machida




『子どもが教えてくれたこと』
公式HP:kodomo-oshiete.com
7月14日(土)よりシネスイッチ銀座 ほか全国順次ロードショー



監督・脚本:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン
出演:アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアル 
2016年/フランス/フランス語/カラー/80分/ヴィスタサイズ/DCP
日本語字幕:横井和子/字幕監修:内藤俊夫
原題:「Et Les Mistrals Gagnants」 
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
配給:ドマ
厚生労働省社会保障審議会特別推薦児童福祉文化財
文部科学省特別選定(青年、成人、家庭向き)
文部科学省選定(少年向き)  
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(c)Incognita Films – TF1 Droits Audiovisuels 

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