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text by Shiki Sugawara

Fantastic Fest /日本未上陸映画特集 : 『LAIKA』

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1957年、旧ソビエトは一匹の雌犬を乗せたスプートニク2号と呼ばれる衛星を宇宙に打ち上げた。ライカと名付けられた彼女は地球軌道を周回した最初の動物となった。昔この話を知ったとき“宇宙に行ったライカ犬はどうなったんだろう”と、最初から片道切符だったライカ犬のその後に思いを馳せ、子供ながらに切ない気持ちになった。
本作『LAIKA』はそんな出来事にストップモーション・アニメ―ションのマジックをかけ “ライカ犬のその後”を私たちに見せてくれる作品だ。
三匹の子を持つライカはある日、餌を探しに行く途中で科学者によってさらわれてしまう。なんとか密かに子供たちを手元に置くことに成功するが、4匹は宇宙に打ち上げられる。不時着した先は地球から送られた沢山の動物たち、そして宇宙生物たちが暮らす惑星だった。新たな住処で楽しく暮らしていた彼らのもとに、邪魔者の宇宙飛行士が地球からやってくる――。


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ライカをはじめ、様々な動物たちや宇宙生物のキャラクターデザインは、チェコで70年代に放送されていた子供向けストップアニメーション番組のパペットがベースとなっている。まるで子供の頃からお気に入りだったぬいぐるみのように愛着を感じさせる風格を持ち、ビビットな色使いやその奇妙さの中に美しさすら内包するその姿は、彼らが持つ愛らしいキャラクター性に負けない生命力を宿す。対して人間たちの荒涼なデザインは一見して不吉な印象を与えるもの。身体的には我々と同じ構造をしているはずの彼らよりも、全身が黄色で一つ目の宇宙生物たちのほうが遥かに親しみを持つことが出来るのだ。
“技術進歩という名のもとに生態系をも全てコントロールしたいという人間たちの思い上がりは加速する一方です。私は、そんな現状を視覚的に見せたかった。そして、ストップモーション・アニメーションは、我々がいま抱える大きな問題を見せるのにピッタリだと思ったのです”クリムト監督は本作についてこう語った。



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2Dアニメ作品がほとんどデジタルペイントで制作される世になってから久しく経つ今、『KUBO/クボ 二本弦の秘密』『ぼくの名前はズッキーニ』『犬ヶ島』など2017年から2018年にかけて多くのストップモーション・アニメーション作品が公開され注目を集める。
そして『LAIKA』が生まれたチェコは、古くよりこの技法を積極的に採用しストップモーション・アニメーション大国と呼ばれる。童話のように幻想的であたたかみのある世界観の中に徹底したダークなシュールさを落とし込むチェコアニメの伝統的な特徴が確実に受け継がれている本作は、全てをコントロール出来ないからこそ生まれる“ムラ”や“揺らぎ”の魅力を伝える。
クリムト監督はこうも語っている。“現代のアニメーション作品において、人間の手によって形作られる創造力から生まれた物語、メッセージ、遊び心、そして表現の喜びが技術によって失われてしまうことがよくあります。そんな創造的な人間性こそがかけがえのないものだと私は思うのです”


実際のライカ犬は独りきりで宇宙に打ち上げられた。本作『LAIKA』はこの残酷ともいえる出来事を再創造することで、楽しく狂気に満ちたライカ犬の冒険へと私たちを誘い創造力の持つ大きな力を再発見させる。



『LAIKA』
2017, DIR. AUREL KLIMT, 88 MIN., CZECH REPUBLIC
https://fantasticfest.com/films/laika
This is the story of Laïka the space dog who, unlike in real life, did not die aboard Sputnik 2 in 1957. In this bizarre and charming stop-motion musical, Laïka crashes on a peculiar planet where she meets new friends.


text Shiki Sugawara

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