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田辺晋太郎 「本当にあった旨い店」 第十五回 西麻布 またぎ

逢いたい人がいる

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店を選ぶ基準って もちろん味が大事なんだけど

でもそれよりももっと大事なこと

 

話を聞きたい

 

話を聞いてもらいたい

 

褒めてほしい

 

叱って欲しい

 

お客はみんな あまえんぼ

 

 

「オヤジさん また旨いもん食わしてよ!!」

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都会の中心 西麻布

 

「またぎ」

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囲炉裏を囲んで鍋をつつけば 心も体も温まる。

 

 

「葉山に猪とか鹿、鴨や野鳥、時には熊まで自分で撃ってきて出すお店があるらしい」

「春には山菜、夏は佐島で捕れる魚、秋には茸、冬はジビエと旬をリアルに感じられる店があるらしい」

 

風のうわさを聞きつけた食通たちがはるばる葉山まで訪れていた伝説の店

それが「山人 海人料理 またぎ」

 

 

2007年 夏 その伝説が動いた

 

なんと都会のど真ん中 西麻布に移転、これはみんな驚いた!

 

 

都会の杜で「またぎ」は生きていけるのか?そんな心配はどこ吹く風といわんばかりに

葉山の名店はあれよあれよと西麻布にとけこんだ

 

いや、とけこんだのではない

 

大通りから一本路地に入り50メートルもしないでたどり着くこの店の重たいドアを開けると

そこはもう葉山であり、「またぎ」でありそれぞれの「故郷」と共鳴する異次元だった。

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オカミさんに迎えられ席に座るとご主人の大島さんが厨房からご登場

 

「よぉ! 元気にしてんのかよ」

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一見大柄で武骨ながらも愛情と優しさがにじみ出てくる笑顔は葉山時代と何ら変わらない

「うちは田舎料理だから口にあうかはわからないけど、まぁ食ってけよ」

冗談半分に照れ隠しなのか自信の裏返しなのか、そんな言葉を残して準備にとりかかる。

 

今でも毎日横須賀の方から西麻布まで通っているご主人が佐島漁港の仲間から仕入れる金目鯛が登場

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お刺身かとおもいきや、よく燃えた炭で一瞬炙ることにより甘みをました金目鯛を特製のポン酢ダレで食べる「温かいお刺身」

 

肉を食べたい気持ちでやって来た人たちも一瞬でここの魚のファンになる。

「魚ってこんなに美味しかったんですね」

 

そしてプリプリの穴子を白焼きで

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弾力と旨味が正比例、酒がすすむ。

 

 

「ちょっと食べてみてくれよ」

といってオヤジさんが持ってきてくれたのは「秋刀魚のやわらか煮」

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なんだろう、このほっとする味は

 

都会で染み付いたなにか心をガードするような思い鎧をパチッとスイッチを押すように一瞬で解いてしまうような優しさがここにある。

 

北海道の行者にんにくでつくった松前漬け

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旨い、一言で片付けるのは失礼だが本当に滋味ぶかく心に入り込んでいく味だ。

 

 

そして見たこともないような大きさの椎茸が登場

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「大きければ大きいほど旨いんだよ」

 

その解説通り、余計なものは何もいらない。素材の味だけで泣ける。

 

 

いよいよお肉の登場となり、初陣飾るは猪の焼肉

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キレイに脂がついたロースは嫌な匂いもくどさも全くない

しかもこの猪は野山を駆けずり回りおいしいどんぐりをひたすら食べていたわけだから人が与えた餌を食べていた豚とは比べ物にならない芳醇さがある。

 

生きていた証、「生命」を感じられる味だ。

 

 

真打ち登場 鍋の出番!

 

猪と羆が一緒に楽しめる、これぞ「またぎ」の猪熊鍋

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猪の脂もさることながら天然の熊の脂こそ獣の王とも言える格別な上品さ。

 

この脂のおいしいところを両方いいとこ取りできるのがこの鍋の凄い所で、そこに季節の茸が加わりこれ以上ないエキスの宝庫となる。

味噌で味付けしたこの出汁をタップリと吸い込んだ大根とごぼうは、シャクシャクと歯触りを出す役目とともに旨味を口の中で溢れ出させる役目も果たす名脇役に成長。また香りとともにさらなる食欲を掻き立てるセリに至っては完全に主役を食うくらいの活躍、言ってみりゃ鍋のブルーリボン賞!

 

あっという間に鍋の中の具は空っぽ

 

残った出汁をすわして地上最強のシメ炭水化物が誕生する

それがこの「すいとん」

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ふわふわ もちもち シコシコ つるつる むちゅむちゅ

 

なんとも言えない歯触り 舌触り 喉越し 余韻

 

 

牛肉を食べるようになるはるか太古の昔から慣れ親しんだ猪や熊の脂や自然の旨味を味噌で味付けた汁、その旨味を吸い込んで離さないすいとんこそが日本人のソウルフードとも言えるのではないか?

 

イタリア人がマンマのパスタが故郷の味なら、日本人はこのすいとんなんだと断言できる、そんな旨さだ。

 

 

身も心も本能までも大満足したこの日のメニューだが、実はこれは「またぎ」にとって本の1ページにすぎない

 

鹿や猪、熊は一年を通して味わえるが、狩猟期間ならではの青首の真鴨、雉、野鳥、といったジビエや、その季節を彩る海の魚や川魚などの魚介類。

ハウス栽培でなく本物の山菜や茸、そしてオヤジさんお手製の惣菜が楽しめる。

 

今や食べ物で旬や季節を感じづらい時代ではあるが、本物の旬、そして「生命」をいただくことが出来る貴重な店

 

なによりもオヤジさんからその素材にまつわるストーリーを聞くことが一番のメインディッシュでもあり、昔話や思い出話をきくことが最上のデザートであり食後酒であるのがこの「またぎ」の良さでもある。

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またひとつ 都会に故郷ができた

 

 

西麻布 またぎ

 

ここもまた「本当にあった旨い店」

 

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またぎ

住所:東京都港区西麻布3-1-15 RFビル 1階

tel : 03-3796-3388

営業時間:18:00-23:000

定休日:日曜祝日

予約がとりにくい場合がございます。ご了承ください

photo  Shuya Nakano

 

 

 

田辺晋太郎

1978年11月5日生まれ、東京出身。2001年5月「Changin’ My
Life」のメンバーとしてEMIよりデビュー。その後は音楽プロデューサーとして、俳優の城田優をはじめ海外アーティストなどにも楽曲提供。2012年にはAKB48の渡辺麻友「ヒカルものたち」の作曲を担当しオリコン週間チャート一位を記録。その一方、文化放送「田辺晋太郎あなたへバトンタッチ」TOKYO MX「パ・リーグ主義!」などTV・ラジオでMC・DJといった実績も多方面に富む。MCスタイルは音楽テーマにとどまらず、社会一般に向けた話題など広く対応。また肉のコンシェルジュといった肩書きを持ち、監修した宝島社ムック『焼肉の教科書』は11万部の大ヒットを記録するなど幅広く活動中。

tanabe

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