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知覚が物質性に即す空間を実現。ラファエル・ローゼンダール個展「Details」


Rafaël Rozendaal
RR 24 03 22
2024, Acrylic on canvas, (H) 135.0 x (W) 195.0 x (D) 3.0 cm
©︎ Rafaël Rozendaal
Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art and the artist
Photo by Shu Nakagawa


Takuro Someya Contemporary Art は、ラファエル・ローゼンダールによる個展「Details」を開催。2022年の個展「Screen Time」以来、当ギャラリーでは約2年半ぶりの個展となる。
本展では、ローゼンダールが⻑年にわたり育んできたデジタル的構成感覚を、物質性をともなう絵画表現へ静かに置き換えていく《Manual》シリーズを紹介する。
コーディングを用いてイメージと色彩を統合した没入型スクリーン・インスタレーションで知られるラファエル・ローゼンダール(1980年生まれ)は、デジタル表現と抽象(アブストラクション)の交差における言語形成に⻑く関わってきた。
ウェブサイトがキャンバスとなる彼の世界では、ドメインがフレームとして機能し、インターフェイス主導のネットワーク環境によって形作られる。アルゴリズムを用いた生成や無限に変化し続ける彼のコンポジションは、技術的な正確さと感覚的な即時性を融合させながら、視覚的な要素を図式的な構造と鮮やかな色彩のフィールドに還元。独自の視覚体系と直感を通して現実世界を再構築しようとするこうした試みにおいて、ローゼンダールもまた、歴代抽象画家の系譜を受け継いでいるといえるだろう。


デジタル作品に並行して、ローゼンダールはこれまでのシリーズにおいても幾何学的抽象を思わせるジャカード織りのタペストリー《Abstract Browsing》や、デジタル画像を細かいストリップに裁断して再配置するレンチキュラー作品《Into Time》など、触覚的なテクスチャーと物質性に特徴づけられる多様なメディアで の制作を行ってきた。
「Details」と題された本展では、全工程をマニュアルで制作したペインティング シリーズ《Manual》を発表。
コードやアルゴリズムの専門的なエンジニアとの共同作業に頼っていた作品郡とは異なり、これらの絵画は、アクリル絵具、ローラー、キャンバスを使用してアーティスト自身の手で制作されたもの。ピクセルの機械的な正確さはキャンパス表面のゆらぎに置き換えられ、その上に絵具の薄いウォッシュをローラーで転がし、几帳面に重ねていく。コールドな色調に覆われた絵画シリーズは、平坦なキャンバスに立ち上がる空間を暗示しながら、絵画世界と空間的思考のあいだを往還し、それぞれのフォルムに静かな変動と浮遊感を与えます。ミニマルで図表的、終着点のない絵画の構図は、彼がウェブで行った抽象化の論理を反映しているが、キャンバスの上ではいっそう微妙な色合い、不透明度、テクスチャ、表面の変調を通じて語られることになる。《Manual》では、ローゼンダールの探求が感覚世界へとゆるやかに移行し、知覚が物質性に即す空間を実現しているのだ。



Rafaël Rozendaal
RR 24 05 20
2024, Acrylic on canvas, (H) 135.0 x (W) 195.0 x (D) 3.0 cm
©︎ Rafaël Rozendaal
Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art and the artist
Photo by Shu Nakagawa

本シリーズでは、美術史的にも複数の系譜と対話を試みている。構成的な明快さを持つ画面構成は、デ・ ステイルにみられる明確な構造、特にテオ・ファン・ドゥースブルフが提唱した要素主義(エレメンタリズ ム)̶̶静的な調和から非対称的かつ動的なバランスへの転換̶̶を想起させる。構造的かつ直感的なこれらの作品は、フォーマリズムに取り組みながら、その硬直性を和らげる効果を内包しています。また、 「最小限の具象性(ミニマル・フィギュレーション)」とでも呼べるその形式は、イメージなきフォルム、表現なき感情を追い求めたアグネス・マーティンの姿勢と静かに響き合う。本シリーズにおける物語を排した抽象性や、手続きを重視する論理の受容は、ジェネラティブアートとの親和性を示しつつも、コードではなく手作業による反復として具現化されている。また、日常的なモチーフを極限まで単純化した輪郭として描く点においても、マイケル・クレバーが示唆した「無表現性」への問いや、マーティンの瞑想的な反復とも共鳴している。16進数のカラーコードから手作業で調合された色彩へ̶̶用いる手段は変わっても、彼の関心は一貫して、還元のシステム、空間のバランス、そして知覚のふるまいへの探求に向けられているといえるだろう。ローゼンダールの形式的感覚は、絵画の伝統に根ざしながらも、同時にデジタル的な構造美学にも影響されている。



ローゼンダール初の絵画展となる本展で、かつてデジタル空間において最適化された UI 構造は、キャンバス上にモジュール化され、触覚的で、意図的な絵画空間においてふたたび息を吹き返していく。《Manual》シリーズは、見慣れた幾何学パターンを、より広範なヴィジュアル史の反響としてとらえ直し現前に呼応させる。調整されたフォルムは歴史的な共鳴といまにおける即時性の間を行き来し、記憶を読み込んだシステムが生み出す作品は、あたかも直感の産物であるかのように感じられるだろう。このとき絵 画は一幅のインターフェースとなり、かつては意味を担ったダイヤグラムは、再び知覚の風景としてひらかれていくことになるのだ。


ラファエル・ローゼンダール|Details
会期:2025年 7月26日(土)~2025年 9月6日(土)
レセプション:7月26日(土)15:00 – 18:00 ※作家在廊予定
夏季休廊:2025年8月12日(火)〜2025年8月16日(土)
開廊:火〜土 11:00 – 18:00
休廊:日曜・月曜・祝日
会場:Takuro Someya Contemporary Art
〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex I 3F TSCA
tel 03-6712-9887 |fax 03-4578-0318 |e-mail gallery@tsca.jp



ラファエル・ローゼンダール
1980年オランダ生まれ、ニューヨーク在住。2000年からウェブ作品を発表し活動を続け、インスタレーシ ョン、レンチキュラー作品、ファブリック、詩作などの作品へとスタイルを広げている。2018 年に十和田 市現代美術館(⻘森)で初の美術館個展「GENEROSITY 寛容さの美学」を開催。近年の主な展覧会にニューヨーク近代美術館 [MoMA](ニューヨーク)、ホイットニー美術館(ニューヨーク)、ポンピドゥ・センター(パリ)、ドルトレヒト美術館(ドルトレヒト)、クンストハル美術館(ロッテルダム)、ステデリック・ミュージアム(アムステルダム)、アーマンド・ハマー美術館(ロサンゼルス)など。著書には『Home Alone』(Three Star Books)、『Everything, Always, Everywhere』(Valiz)がある。

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