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text by Ryoko Kuwahara

Escape Issue : Interview with Jen Shear & Vinnie Smith

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カリフォルニアのコラージュアーティスト、Jen ShearとViinnie Smithはアンティークの雑誌や本、写真を素材として作品を作り上げる。コンピュータやインターネットが台頭する現代において、コツコツとマーケットをまわり、見つけたお宝をもとにイメージを膨らませ、手作業で切り貼りしていく。彼らはそれを瞑想のような作業と言う。ありあまるほどの情報を遮断し、自分の内側を見つめることは、創造の種を咲かせるための大切なステップだ。



——「Pictures In The Sun」は情報化社会の影響、真実と虚構について思索した作品を展示したということですが、そのようなことを考えるきっかけとなったのは?


Vinnie「そもそもコラージュ自体が再作業みたいなものだと思うんだ。その行為自体がフィクションというかね。使用している写真は全て、本来は固有の物語や目的をもっていて、僕らはそれらの素材を再利用し、加工して、新たな価値を創造している。遊び心をもってね。僕らは物書きじゃないから結末も用意していないし、決められたストーリーやメッセージも、ニュースのようなものも必要ない。本来の物語や目的を内包しつつも、観る人それぞれが文脈化して、新しい物語を作ってくれたらそれでいいと思っている。作品をどのように読み解いてもらうかは自由なんだけど、なにかを作るうえで、主観的なイメージと架空のイメージがどうやって形成されるのかについては常に考えを巡らせている。大自然の写真が作り物のように見えることがあるように、物事は本物かどうか信じられなかったりするようことがある。それはとても興味深いことだと思う」


Jen「写真は時に、広い解釈で捉えることができるもの。多くの場合、写真の中の物語は見る人の解釈に委ねられているわ」


——なるほど。そこから、特にどのようなことを重視して制作していったのでしょう。


Vinnie「バランスにはかなり気を遣った。本質的に僕らの心を動かすもので、僕らが見つけられる範囲のものを使ったコラージュの実験というか。つまりは僕らが好む“限りあるもの”から逸脱しないバランスだね」

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Jen「限られたものとの出会いを大切にしつつ、結果を導き出すようにしたの。タイトルの『Pictures In The Sun』が表しているように、偶然見つけた素材やイメージに、新しい命を吹き込んでいったわ」


Vinine「世界には本当にたくさんの写真がある。特にデジタルは膨大だ。でも僕たちはふたりとも、古いものや古い世界が好きなんだ。iPhoneが世に出る前の世界を憶えている。グーグルではどんな写真でも見つけることができるし、インターネット上には全てがあるのを知っている。でも僕はアナログでありたいと思っているんだ。この作品にはコンピュータやインターネットが存在しない。『Pictures In The Sun』はとても大きなタイトルだから、いろんな意味を内包している。だから作品の中には存在しなくても、僕らはこの世界で見つけられるモノはどんなイメージをも広く参考にしているということでもあるんだよ」



——なぜそのタイトルにしたのですか?

Jen「かなりたくさんの候補があって、その中のひとつだったの。暗示のような意味合いでこのタイトルにしたのよ」


Vinnie「芸術品のような印刷物は、iPhoneやInstagramの出現で危うい立場になってきているけど、印刷物やプリントされた写真は物理的に存在し、太陽の光を浴びることができる。だけどインターネット上の写真は結局、フィジカルには存在しない。太陽を浴びることはできないんだ」


Jen「英語の慣用句で”giving something new light(古いものに新しい命を与える)”というのがあるのだけど、そのアイデアを受けたものでもある。”Pictures In the Sun”は響きが良いというのもあるけど、古いものを新しい見方でもう一度捉えるという意味を込めてもいるわ」


Vinnie「そう、暗いところに隠されていたものを掘り出すんだ」


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——あなたたちは普段から昔の雑誌や本からのイメージで作っていますが、その延長線上に今回の展示があったわけですね。



Vinnie「そうだね、特に変わりはなく続けていることだよ」


Jen「ええ、進化のプロセスとして制作したわ」


Vinnie「コラージュは感覚的な作業でもあるから、僕は常に“偶然”を受け入れることにしている。制作するうえで、自分が目指す方向に持っていこうとしていても、後になって全然納得がいかないこともあって。前日スタジオで作ったものを、次の朝もう一度、その偶然を受け入れられているかどうか確認するんだ。イメージを見つけること自体、いろんな偶然の一致だよね。例えばフリーマーケットには膨大な素材やイメージがあるけど、僕らが見つけて手にするのはほんの少し。それはまさに偶然の出会い。僕らはその出会いを全て受け入れることが好きなんだ。
面白いのが、たまに母親がコラージュした写真を見て『これはあの人よ!』なんて、僕の世代ではわからない有名な女優の名前を言ったりするんだ。僕らが知らずに使っているその写真の人物はもしかしたら悪い人の可能性だってあるわけだよね。そういうのを『まずいなあ』と思ったこともあったけど、 今はそれも『偶然の結果』と思うようにしているよ」



——なるほど。ちなみに、アンティークフリーマーケットはよくチェックしているんですか?


Jen「常にチェックしているし、何かを見つけるのが一番好きなの。モノを探して、再構築するのは本当に楽しい作業よ。期待してなくて良いモノを見つけた時は本当に興奮する!」


Vinnie「使わなくなった古いモノを捨てるのも楽しいよ。コラージュに使うイメージをずっとキープすることもあるけど、スタジオや家ではそんなにたくさんのジャンク品をキープできないからね」

——紙から切り抜くということはその一枚しか材料がないわけですよね。「うわっ、これは失敗した!」という時はどうするんですか?

Jen「その失敗は残念ながらよくあるわ。制作してから一週間後に好きになれない作品は、カットしたり、再構築したりするかな。過去に使ったモノを再利用することもある。もちろん、糊付けしてから『ああ! これは使わなければ良かった……』なんて思うこともあるけど、捨てずに暫くはキープしておくの」



——今の時代コピーとかあるから失敗しても何回でもできるけど、その一回きりみたいなのに向き合う緊張感を大切にしているんですね。


Jen「ええ、もちろんよ。一点一点をすごく貴重に感じてしまうけど、その思いや緊張感がイメージを使うことを妨げないように心がけているわ」


Vinnie「本当に好きなイメージに出会った時、そのイメージが完璧すぎて、『ここで使うべきか、どこで使うべきか』と考えすぎちゃうんだけど、そういう瞬間も大切にしている。その場合は、イメージの同調性を考えると解決するんだ。例えば、一週間を通して様々な異なる雑誌で、広告やニュースとして多くの同じ写真や絵を目にするよね。だから同じものを見つけられなくても、関連、類似していたり、似たものは別に見つけることができるんだ」


Jen「多くの雑誌に目を通してみると、何度も何度も同じイメージを見つけ出すことがあるの。その現象が起こったときはとてもそそられるわ。V. Valeを知ってる?彼はサンフランシスコを拠点に活動しているんだけど、『RE / SEARCH Magazine』の編集長で、いつもブックフェアにも参加しているの。彼はアメリカのさまざまなサブカルチャーやインディペンデントな小冊子や本が大好きなのよ。ちなみに、彼の有名な本のひとつでボディーワークについての一冊『Modern Primitive』というのがあって」


Vinnie「ここでのボディーワークというのは入れ墨だったり、ピアスだったりのこと」


Jen「そう。サンフランシスコの雑誌に目を通す度に今でもV.Valeの記事をよく見かけるわ。確か、彼は60年代には『Blue Cheer』というサイケデリックロックバンドもやっていたはずよ」


Vinnie「彼は若いアーティストを積極的に支援していて、僕が運営していたギャラリー『Ladybug house』にも何回か来たことがあるんだよ。V.Valeは 『RE / SEARCH Magazine』を始める前はCity Lights Bookstoreで働いていて、そこに詩人のアレン・ギンズバーグがよく来ていたんだ。その時代、ヒッピーとは全く異なる文化として、若いクリエイティヴな子達がパンクに夢中になっていたんだけど、アレン・ギンズバーグはパンクの文化を全然知らなかった。だから、アレン・ギンズバーグはV.Valeに100ドルを渡して、パンク現象が何であるか教えてくれるような出版物を始めるように言ったんだ。そしてV.Valesは異文化を理解しようと、アーカイブをしたり、書いたり、人々にインタビューをすることを始めた」


Jen「私はV.Valeの大ファンなの。でもまだ自己紹介をしたことがなくて。サンフランシスコに雑誌を探しに行く度に、常に様々な雑誌でV.Valeを見つけるんだけど、それ自体がすごく奇妙に感じたから、その写真を撮ってVinnieに送っているの」


Vinnie「V.Valeは60年代から活動しているんだよ。(写真を見せながら)これは70年代に撮られたパンクス達と一緒の彼。彼はどちらかというとヒッピーだったんだ。V.Valeは本当に沢山のライブやイベントに足を運んでいたから、色々な雑誌で彼を見つけることができる」


Jen「ロックンロールマガジンとかね」


Vinnie「パーティーのバックステージのピッピーおじさん。 そして、Jenはその雑誌のV.Valeの切り抜きを集めているストーカーだよ(笑)」


Jen「(笑) 。とにかく私は、世評というか世代に影響を与えるような現象も自分のコラージュワークに取り入れていきたいと思っているの」


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——意識的ではないのに、情報が段々とまとまっていくというのはありますよね。企画を立てるときにもよくそういうことがあります。


Jen「まさにね」


Vinnie「僕は無意識に印刷物に夢中だよ。特に写真のね。フィジカルの、手にとって触れる本は本当に素晴らしいんだ。意識せずにその本の世界に引き込まれ、浸ってしまうよ」

——なぜそんなにフィジカルな本にのめりこんだのですか?


Jen「なぜかしら。多分収集価値のあるものだからかな。大人になってコラージュをする前から雑誌を集めたりしていたの。私はよく引越しをしていたしNYにも住んだりしていて、エレベーターが付いてない建物ばかりだったから、引越の度にそれらを運びださなくてはいけないことに疲れちゃって。それで、本当にとっておきたい素材だけを切り取るようになったのよ。アートの実技を実践した感じね」


Vinnie「育ってきた環境は影響しているの?例えばアメリカンカルチャーやサブカルチャーだったりが自分の志向に入り込んできたり?」


Jen「高校時代、日本にいた時の私はとても孤立していた感じがしていて。私はオルタナミュージックやカルチャーにのめり込んでいたけど、学校の子達はもちろんそういったものに興味がなくて。さらに言語の壁もあったりで(インターナショナル)学校の外の人と出会うことは難しかった。だから人から直接何かを得ることより、自然と本や雑誌を気ままに読んだりするようになったわ」



——日本の雑誌で?


Jen「渋谷にタワーレコードがあったから海外雑誌とかも時々見ていたわよ」

Vinnie「僕もスクラップブックを作ったりしていたよ。タンブラー時代の前かな」


Jen「ヴィニーはどうして夢中になったの?」


Vinnie「似たような話しだよ。パンク、そしてフライヤー。高校の頃から時々ライヴを企画したり、ブッキングしていたから、そのライヴのためにヴィジュアルを作って、フライヤーを制作していた。ありがちな話だけど、ほとんどのアーティストは自分が普通じゃないと感じていて、だからこそ彼らは、自分が理解できることに夢中になったりそういったものを拠り所にするんだ。僕は様々な場所や異なる世代を通して、自分が何者であるかということを必死に理解しようとしていた。僕は歴史や写真、メディアを通して自分が誰だかを知る事が出来ている気がするよ」


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——機械での作業だと余計なものが頭に入ってきたり、浮かんだりしますが、手作業は自分とそのものという感じで没頭できて向き合えるのも魅力の1つになっていたりしますか。

Vinnie「どうだろう。難しい質問だな。物理的な作業や、実際に経験することはやりがいを感じるからね。皆はコンピューターを使えば技術的にもっと多くのことができると言うだろうけど、実際はコンピューターの中ではそういったやりがいはなかなか感じられない。僕らはもちろんコンピューターでの作業もできるし、Photoshopも使いこなせる。でもアナログで作られた自分の作品を見ると、レイヤーが見えて、深みがあるような気がするんだ」


Jen「限られたものを使って、物理的作業や手作業をすることはとても満足感を得られるの。限定されたなかで実験する方法を見つけることはすごく楽しいわ。 印刷物を使ってコラージュをしたり、それを体感すること自体がコラージュをとても特別なものをしてくれるの。私達は一緒に雑誌を作ったりもしているけど、プリントにはもう1つ良さがあるのよ。プリントされたものってとても民主主義的な存在で、誰もが雑誌やzineを手にする事ができるでしょう。面白いことにその雑誌を利用してzineを作って、zineがたまったら雑誌にして……と全てが繋がって循環しているの」


Vinnie「大抵の印刷物は退屈な写真が並べられているよね。本当に沢山の退屈な写真が。でもそれも良いなあと思うんだ。なぜなら少なくとも、その瞬間には印刷物も僕も実態としてそこに存在しているからね。例えば、僕がコンピュータを開けてネットサーフィンをし始め、興味があるページをクリックして、10分後には15個ぐらいのタブが開いているんだけど実際はたいして読んではいない。見てはいるけど、ほぼ理解に達していないんだ。最終的にはその場を離れて、それらを見返すこともないだろう。つまり存在すらしていなかったかのようになるんだ」


Jen「コラージュ作業はまさに瞑想のようなもので、自分の立ち姿を見ながら足元を沈ませていく感じ。インターネットの中にいると、ただクリックして『いいね』を押して、すごく気が散って全く集中できないのよ」

——作品を作っていくその瞑想のような無意識での作業には、自分が生きている時代のムードや背景なども要素として入ってきますか?


Vininie「もちろん。写真家は生きていること、旅をしていること、全ての経験を写真に投影し、印刷して、その中から1つを選ぶ。すごいことだよね。全ての経験が二次元の印刷物に投影されるんだ。それはコラージュにも言えることだね。次の世紀には破壊されて忘れ去られてしまうであろう芸術品を、別のものへと変えていくのを楽しんでいるんだ。歴史を理解し、その歴史の中に自分が存在する瞬間を感じることはとても面白いよ」


——JenやVinnieはコラージュや作品自体をフィクションのようなものと言っていたけれど、その時代においてのムードを感じて作ったものであるなら、それもひとつの事実、リアルということとかが言える気がします。


Vinnie「一般的に写真やある種のコラージュは文化的自己認識と言えると思うんだよね。それは本当に興味深いよ。文化が鏡を見て、何が起こっているか見て理解しようとする感じだと覆う。写真が飽和して、みんながその価値の低下を感じているよね。だから多くの写真家達はInstagramを恐れている。それでも僕らは写真を常に必要としているし、歴史資料としての写真の大切さも理解している。学校の歴史の授業中、大抵は寝ていたり、ほぼ聞いていなかったりするけど、ある歴史資料の写真を見た時には驚いたり衝撃を受け、まさに“今”を感じる。実際には自分たちは経験したことないことを理解するんだよ、おもしろいよね。僕は現代文化と関わりを持つことが得意じゃなくてね。ある意味では、それは後ろ向きなんだけど、実際には写真を通して“今”を学び、理解しようとしているんだ」



——写真がドキュメンタリーだとしたら、コラージュはなんなんだと思いますか。


Jen「分からないけど、コラージュは文化理解かな。コラージュもドキュメンテーションの形ではあるけど。ヴィニーはどう思う?」


Vinie「思いついたんだけど、忘れた(笑)。写真がドキュメンテーションならば、コラージュはそれを理解することかな。コラージュ自体に本当に沢山の手法があるし、イメージの扱いひとつにしても様々な形があるから。Jenの写真の扱い方と僕の扱い方も全然異なる。Jenのコラージュはとてもきっちりしていて、僕のは切り離されたイメージの境界線で遊んでみたりする。聞こえはちょっとドラマティックだけど、同時にイメージを劣化させたりすることも好きだ。僕のコラージュは、完全に破壊され、零落されたイメージを見せているのかも。『コラージュとは何か』について考えるのはとてもいいね。あ、待って!思い出した。コラージュは『内省(反芻)』なのかなと思うよ」



interview & text Ryoko Kuwahara


Jen Shear
BRAINDEADへの作品提供や8ballでの活動で注目されるカルフォルニアを拠点に活動する台湾出身のアーティスト。Low Rence, VI Dancer, Ace Hotel, Yale Union, Ladybug Houseと数々のギャラリーで展示を開催。継続して制作しているコラージュ作品はヴィジュアルアート界への疑問や批評を表現している。
http://jenshear.com/  instagram: @jen__shear

Vinnie Smith
サンフランシスコを拠点に活動するカルフォルニア出身のアーティスト。惜しまれつつ閉廊したギャラリー 「Ladybug House」を運営し、シーンを形成してきた重要人物。主に写真とコラージュ作品を制作している。
http://vinniesmith.us/


thanks to commune / commune Press
国内外のアーティストを紹介してきた新代田のgallery communeを2015年6月で閉鎖し、現在は出版レーベル commune Pressと主に週末限定で営業するzineやアートブックに特化したセレクトショップを運営。各国のArt Book Fairへの出展、国内外の展示キュレーション、アーティストマネージメントを手掛ける。
http://www.ccommunee.com instagram:@ccommunee

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