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その幸せは本物か? 1930年代から今に問いかける名作ディストピア小説




オルダス・ハクスリーが1932年に発表した小説『すばらしい新世界』は、見栄えのいい繁栄の裏側で人が持つべき理性や尊厳を失っている世界を描いたディストピア小説の傑作であり、ジョージ・オーウェルの『1984年』と並び称されることも多い。


本書の舞台は、破滅的な戦争の教訓ゆえ「安定」を絶対とする管理社会が築かれた26世紀のロンドン。


その世界には工場から生産され、生まれながらにして遺伝子の優劣によって身分を分けられた家族を持たない人々が暮らしていた。そんな環境でも、睡眠時教育で消費を美徳とした「生きる意味」を与えられ、発達した科学で死ぬまで健康な体を手に入れた人々に不満はない。むしろ、大多数の人間は奨励されるフリーセックスで寂しさと欲求を満たし、手軽に幸福感を得られる政府支給薬「ソーマ」を片手に、精神的に充足した人生を歩む。世界統制官と呼ばれる10人の統治者によって管理された、嫉妬も憎悪もない、まさに「すばらしい新世界」だ。しかし、そんな中でも世界のあり方に疑問を持つ人々は存在した。彼らは自分に、世界に、問いかける。この世界は本当に正しいのか、とーー。


1930年代、資本主義の発達に伴い、効率が第一優先として考えられるようになった世界へのアンチテーゼとして書かれた本書だけあって、さらに進化した資本主義の時代を生きる私たちにも通じるものが多い。

ひたすら消費を煽り、湯水のごとく供給される商品とインターネットから無限に湧き出る娯楽に熱中し、しかしその一方で家族の繋がりや人間関係は希薄化していく……もしかしたら、私たちも「すばらしい新世界」に片足を踏み入れているのかもしれない、そんなことを考えさせられる作品だ。


『すばらしい新世界』
オルダス・ハクスリー


早川書房 864円、ほか
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