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text by Ryoko Kuwahara

「本作はひとつのタブーを破るきっかけになった。家庭や学校など安全なところでこの問題について落ち着いて話し合うことが増え、初めて子どもたちが被害にあったと勇気をもって打ち明ける機会にもなった」『SNS-少女たちの10日間-』 ヴィート・クルサーク監督インタビュー


 

巨大スタジオに3つの子ども部屋を儲け、18歳以上の3名の役者を12歳の少女としてSNSに登録。その少女たちにコンタクトをしてきた成人男性たちとそのやり口をドキュメントした映画『SNS-少女たちの10日間-』が4月23日(金)から公開。登録直後から申請は鳴り止むことなく、声をかけてきた男性たちは10代から70代までの2458名にのぼった。精神科医、性科学者、弁護士や警備員など専門家の万全なバックアップやアフターケアを用意しながら、スタジオにて10日間の撮影を敢行したところ、男性たちの未成年に対する容赦ない欲望や行動はエスカレート。児童への性的搾取者が尻尾を出し始めた。現代の子どもたちがインターネットという窓から見る光景や危険をありのままに映し出したこの作品は本国チェコで大きな話題を呼び、警察も動き出すなど社会をも動かした。 本作の監督の一人、ヴィート・クルサークに本作の背景とその後の社会の変化などを聞いた。
 

――実験的な手法が印象的でした。インタビューではなくこのような手法を取られた理由を教えてください。
 

ヴィート監督「とても単純な理由です。子ども部屋のドアの向こうでは何が起きているのか、そこで児童虐待や性的な搾取などが起きていることを見せて証明するためにはこれしかなかったのです。同じようなことを保護者にお願いして実際の少女にやってもらうことは不可能なのでこれが唯一の形式でしたし、このフォーマットだったことで大きな社会的な議論のきっかけの一つになったとも思います。もしもこれがインタビュー形式で、昔こういうことがあったと語ってもらったとして、それは過去の出来事になりますが、こうしたことでリアルタイムで何が起こっているかを証明することができたのは問題提起の大きな力になりました」
 

――少女たちを12歳という年齢に設定したのはなぜでしょう。
 

ヴィート監督「専門家と話し合って様々な素材を提供してもらったことで、(インタビューのように)特定の人々の名前を出さずに様々な問題を知ることができるとわかりました。12歳というのは、子どもでもあるけど大人でもある境の年齢です。少女だけでなく、少年も同様です」
 


 


 

――構成に関しても聞かせてください。冒頭で調査による数字を出すこと、キャスティング場面で実際の被害の声を入れるなど、構成も卓越していました。ドキュメンタリーとして時系列を追うと共に、何をどう見せるかという点において考えたことや注意の引きつけ方にはどのようなものがありましたか。
 

ヴィート監督「観る人が自分の幼い頃に戻るような雰囲気を作りたいと思っていました。そのために、編集の段階で少女がピアノを弾いているシーンを入れたり、単純に少女を見ているだけの場面も作ったり、画面の中に入り込むような効果を求めた撮り方や編集を心がけましたね」
 

――俳優への精神的負担の軽減やリスク回避のためルールを決めたり専門家を入れたり注意をはらいながら制作されていますが、中でも難しかったことや気をつけていたことを教えてください。
 

ヴィート監督「常に精神科医や性科学者などの専門家がいて、悩み事などがあればいつも話しあえるような状態にしていました。俳優たちは3人同士でもよく話しあっていました。こだわったこととしては、本人たちの裸の写真は絶対に提供したくなかったので、身体の部分にはプロのモデルの写真を使って加工するなどということを試みました」
 


 


 

――少女たちにコンタクトする男性たちにはモザイクが入っていますが、部屋の様子や体型などから個人の特定ができしまうのではないかという懸念はありませんでしたか。
 

ヴィート監督「公開後に『似ている人がいる』など無数のメッセージが来ましたが、あのモザイクは4ヶ月かけて特殊なアニメーションを使って全て手作業で加工したものなので、実際に特定するのは非常に難しいと思います。私たちも特定させてリンチすることが目的ではなく、社会にこの問題に気づいてほしいというのが大きな目的ですからね。もしかしたら親戚や本当に身近な人は部屋の様子などで特定できてしまうかもしれませんが、私はそれはそれでいいと思いました。プラハに住んでいる大金持ちのアメリカ人が出てきますが、その弁護士からも連絡がありました。彼を映画に出すなら裁判にかけるぞという脅しの電話があったのです。しかし私は訴訟になった時に、彼は個人の保護という以上にもっと大きな問題を起こしているのだから逆に裁判にかけられたらこちらの勝ちだと思っていました」
 

――3人の出演者たちのサポートを公開後も続けられているそうですね。
 

ヴィート監督「ええ、撮影が終わった後にもいろんなストーリーがあります。プラハは人口100万人ですが、昨年1年の間で3人の俳優たちみんなが、映画に出てきた男性たちに喫茶店などで出くわしています。サビナは作品の中での名前で声をかけられたのですが、彼女はか弱く見えるものの非常にエネルギッシュな女性なので、その男性を追い払ったということでした。サビナは常にスカイプの着信音が鳴り響き、それを止められないという夢を1週間くらい見続け、その悪夢で起こされていました。アネジュカは元大臣の孫でもあり、容姿も可愛らしく、現実の生活でも大変モテるんですが、しばらくは男性と恋愛をする気になれないと言っていました。彼女たち3名は、具体的な内容は伏せますが、まだ引き続き保護を受け、専門的なケアを受けてもらっています」
 





 

――作品を観た子どもを持つ親や学校の先生たちの反応は?
 

ヴィート監督「チェコ国内では非常に反響が大きく、かつその反響が非常にポジティヴだったことはとても嬉しかったです。例えば学校の先生から、子どもたちが飽きずに最後まで興味深く観れるような形式でこのようなことを知ることができたのはすごく良かったという言葉を受け取っています。チェコでもこうした問題を取り上げた番組や作品はあるのですが、子どもたちが興味を持てないような説教くさいものばかりなんですよ。ティーンネイジャーは非常に敏感で、大人がこれはしてはいけない、あれはダメだと言うようなものには反発心を持ちやすいので、この形式にして良かったと思います。いろんな学校で、本作の観賞会をし、翌日に授業を全て無くして先生と生徒とで討論をしたという報告なども受けています」
 

――学校で観覧されているのは児童用にエディットしたバージョンですよね。
 

ヴィート監督「はい。厳密にいうと本作は3つのバージョンがあります。12歳以上、15歳以上、18歳以上のものです。12歳以上は生々しいところはカットされて教育的なものになっており、役者たちの笑い話も入れていたり、10歳の子たちが観ても大丈夫なものになっています。15歳以上のものは今制作中で、18歳以上のものはモザイクなしになっています」
 







――公開後、警察が動き出したり、実際にこの作中に出てきた中で告発された人がいたとそうですが、他にどのような反響や社会の変化が監督の耳に届きましたか。
 

ヴィート監督「一つの社会的な大きな変化として、Seznamというチェコの検索エンジンの中にあるサイトに、この作品に出てくるような人たちが出入りしているということがわかって、サイトが閉鎖されました。
本作は一つのタブーであった分野をこじ開けるきっかけになったと思います。チェコ国内は人口1千万人ですが、本作を映画館では60万人、テレビでは150万人が観ています。オンラインでは『ロード・オブ・ザ・リング』を上回る視聴率となりました。そして学校だけでなく家庭でも多くの議論がなされました。子どもたちを招いての夕食会を開いてこの映画に対して話すという企画をした家庭もあったり、本当に安全なところでこの問題について落ち着いて話し合ったことで、初めて子どもたちがこういう被害にあったと勇気をもって打ち明ける機会になったりという、タブーの扉を開くきっかけになったのです」
 

――本作中で監督はSNSサービスの提供者が対策を取っていないことも性虐待の蔓延の一つの原因と指摘していますが、他に監督が必要だと思う対策にはどのようなものがありますか。
 

ヴィート監督「この制作には2年半かかったので、どうやったら子どもを守れるかという問題に2年半向き合ってきたとも言えます。おかげで敵のことをよく知ることができました。敵を知ることによって、どこに注意して子どもたちを守ればいいかさらに考えることができるようになったと思います。
一番効果的な方法は家族でのコミュニケーションだと思います。何かがあった時に全て打ち明けられる環境づくりが大切。親子間での信頼性ですね。いつも包んでくれる家庭、親の存在を子どもが認識していること。例えば、チェコでは成績が悪いから親に見せられなくて自殺するという子もいますが、そのようなことも、問題を抱えても話せるような環境作りによって改善されるのではないでしょうか。実際に私は4人の子どもがいるのですが、8歳の息子が遠足に行った時に捨てられたポルノ雑誌を見つけたんですね。私はそれについて全て説明しました。この人たちは愛し合ってはいない、全て作り物である、性的な行為は愛があってこそのものだといった話をしたのです。そうしたコミュニケーションを常にとっていくことが大切だと思います」
 





 

text Ryoko Kuwahara (TW
 


『SNS-少女たちの10日間-』
4月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
公式HP: www.hark3.com/sns-10days
監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク 原案: ヴィート・クルサーク
出演: テレザ・チェジュカー、アネジュカ・ビタルトヴァー、サビナ・ドロウハー
配給:ハーク 配給協力:EACH TIME
【2020年/チェコ/チェコ語/5.1ch/ビスタサイズ/原題:V síti/104分/R-15】
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