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『ウィ、シェフ!』 ルイ=ジュリアン・プティ監督インタビュー


©Naïs Bessaih


移民大国フランスを舞台に、とある移民支援プロジェクトからインスピレーションを得て誕生したコメディ『ウィ、シェフ!』が5月5日より全国公開される。メガフォンを執ったのは、フランスが抱える深刻な問題を社会派コメディとして発表してきたルイ=ジュリアン・プティ監督。未成年の移民を調理師として育成し、安定した暮らしをもたらす活動をしている実在のシェフ、カトリーヌ・グロージャンをモデルにした本作では、一流レストランの元スーシェフが移民の少年たちと心を通わせ、未来に向かって歩んでいく姿を、ユーモアたっぷりに描いている。主演を務めたフランスを代表する俳優オドレイ・ラミーや、『最強のふたり』の名優フランソワ・クリュゼはもちろん、オーディションで選ばれた実際の移民の少年たちの演技にも注目だ。映画の日本公開を前に、ルイ=ジュリアン・プティ監督にリモートで話を伺った。


――社会問題を提起しつつ、エンターテインメントとしても面白い作品で、とても興味深く拝見させていただきました。まずは、この映画を作ることになった経緯を教えてください。


ルイ=ジュリアン・プティ監督「カトリーヌ・グロージャンさんという方との出会いがきっかけです。彼女は元シェフで、現在はフランスの南西部で移民の若者たちに料理を教えており、それを通じて彼らに雇用をもたらすという支援活動をされています。フランスには人手不足に陥っているセクターがいくつもあるので、そのようなセクターと移民をつなげることによって、何かしらの架け橋になることができればと思いました。それが最初のきっかけです」 


――作品を企画するにあたって、どのようなリサーチをされましたか?


ルイ=ジュリアン・プティ監督「事前調査には1年の月日を費やしました。星付きレストランのようなフランス料理の素晴らしい側面と、国が直面している移民の統合問題について調べるためには、それだけの時間が必要だったんです。フランスに来た移民の若者は、最初はどこに受け入れてもらえるのか。その後、どのような資格が必要で、どのような形でフランス社会に統合されていくのか、といったことを学びました。また、彼らは18歳までに何かしらの資格や教育を受けなければ、そのまま排除されてしまう現実があることも知りました」








――カトリーヌさんからは、映画に関して何かアドバイスや要望はありましたか?


ルイ=ジュリアン・プティ監督「一切ありませんでした。彼女はそういったところで前面に出てくるような性格ではないんです。私は彼女の伝記映画を作るというよりも、その生き様に興味を持ちました。彼女は非常に高いプロ意識を持って料理を追求しています。私はその姿勢や人間性、威厳を持って若者と接する姿に惹かれて、映画に描きたいなと思いました」


――社会派の作品でありながら、コメディを通して問題提起しているところが素晴らしいなと思いました。この問題にさほど興味がなかった人でも、純粋にエンターテインメントとして映画を楽しんでいる間に気づきが得られるかもしれません。


ルイ=ジュリアン・プティ監督「おっしゃる通りで、現代社会におけるさまざまな難しい問題を伝える手段として、私はコメディが最も適していると思っています。前作『社会の片隅で』(2018)のときと同じアプローチで、できるだけ入りやすく、観やすく、そして、少しでもユーモアを交えて楽しみながら、現代社会における時事的な問題を理解してもらえるような作品を目指しました」


――主人公のカティ・マリーが少年たちと少しずつ心を通わせていく様子を見守っているうちに、観客もいつの間にか彼女と一緒に学び、変わっていくことができるように感じました。主演のオドレイ・ラミーさんとは、どのように役を作り上げていったのですか?


ルイ=ジュリアン・プティ監督「オドレイ・ラミーには、少年たちと会う前に6ヶ月間の研修を受けてもらいました。料理のための特別なボキャブラリーや、少し女性に差別的な料理業界の雰囲気に慣れてもらい、よりリアリティを追求することが目的でした。また、カティが移民支援施設に到着して、初めて少年たちと会うシーンがありますが、実はオドレイと少年たちには、あのシーンを撮影する段階で本当に初めて対面してもらったんです。まるでドキュメンタリーのように、初対面から少しずつ心を通わせ、お互いの距離が縮まっていく様子を見守りつつ、私自身もありのままの感動を感じながら撮影を進めていきました」 








――少年役の俳優たちは演技未経験だったそうですが、どうやってあのように自然な演技を引き出したのですか?


ルイ=ジュリアン・プティ監督「少年たちは実際に移民支援施設で暮らしている若者の中から選びました。数百人の候補者を最終的に50人まで絞り、その中にメインキャストのギュスギュスとママドゥとジブリルの3人もいたんです。彼らにはあえてシナリオを渡さず、シーンごとに状況を説明することで、自然な演技をしてもらいました。最初にシナリオを読み込んだり、練習したりすることは一切しませんでした」


――移民の少年たちから聞いた話の中で、作品に反映したことはありますか?


ルイ=ジュリアン・プティ監督「撮影を進めていく中で、彼らからはいろんな話を聞きました。そのすべてを取り入れたわけではないのですが、リナ・デルトのレストラン(註:主人公カティが働いていた高級レストラン)に行くシーンでは、音とシンクロして少年たちの表情にスポットを当てるような撮り方をしました。その表情を見るだけで、彼らがどれほど厳しい道のりを経てここまでたどり着いたのかが伝わるシーンになっていると思います。私は映画に出演するということが、演技未経験の移民の子どもたちに与えるインパクトを理解しています。ですので、それが彼らの今後の人生にネガティブに働かないよう、人間的な触れ合いの部分を大切にして、それを裏切らないような形で進めました。そして、彼らからもたくさんの話を聞きました。私たちは本当によく話し合ったんです」


――少年たちが暮らす施設の施設長ロレンゾ役は、名優フランソワ・クリュゼさんが演じられています。彼が本作にもたらしたものは大きいのではないでしょうか?


ルイ=ジュリアン・プティ監督「私自身もフランソワ・クリュゼのファンだったので、あんなに偉大な役者と一緒に仕事ができたなんて、本当にこの上なく素晴らしい機会に恵まれたなと今でも思っています。助監督時代に彼と一緒に仕事をしたことがあり、もちろん念頭にはあったのですが、相手は『最強のふたり』という有名な映画にも出ている大スターですから。自分がアプローチしていいのかどうかもわからないままオファーしてみたら、電話をくださったんです。『脇役なのですが、本当にいいんですか?』と何度も念を押したのですが、『役者には小さい役とか大きい役とか関係ないから』とおっしゃってくださって、『あるのは偉大な映画だけだ』と快諾してくれました」


――実際に一緒に仕事をしてみて、いかがでしたか?


ルイ=ジュリアン・プティ監督「彼は撮影中のさまざまな場面でサポートしてくれました。特にケガをしてからは(註:クランクインだったサッカーのシーンの撮影中に、全治2ヶ月のアキレス腱断裂に見舞われた)、さらにいろんな意味で努力して、あらゆる形で貢献してくれたように思います。ケガをしたことで、逆にその姿を通して、人間のもろさや愛情深さなどを私たちに伝えてくれました。本当に感謝しています」








――近年、厳しい状況に置かれた子どもたちを描いた映画が世界中で発表されています。本作では同伴者のいない未成年の移民に焦点を当てていますが、国は彼らに対してどのようなサポートを行なっているのでしょうか?


ルイ=ジュリアン・プティ監督「ある意味、方策が見つからないからこそ、この映画を作ったとも言えます。移民が置かれている現状は非常に過酷なもので、特に若い子たちが難しい状況に直面しています。劇中で骨年齢を調べるシーンがあるように、18歳を境にした大きな壁があって、年齢のリミットを超えると社会から排除されてしまうんです。それも含めて、このような問題があるということを少しでも示したいと思いました。子どもたちに必要な支援の中で、私が最も有効だと思うのは教育です。手に職をつけることが唯一の解決策になるので、本当に必要なことだと思います。現在のフランスでは外食産業も人手不足のセクターの一つなので、移民問題を結びつけることによって解決策が見出せるのではないかと考え、この映画を通して問題提起することにしました。未成年の子たちが、こんなにも過酷な状況にあるということを訴えたかったんです」


――少子高齢化が進む日本にとっても、移民の受け入れというテーマは他人事ではないので、日本の観客も本作から気づきや学びを得られるのではないかと思います。これからこの映画を観る日本の映画ファンに伝えたいことはありますか?


ルイ=ジュリアン・プティ監督「この問題を解決するためのキーワードは多様性です。文化は国によって異なりますが、多様な文化や人種が共存していくことが非常に大切だと思うんです。教育や職業を身につけることも、もちろん必要不可欠なのですが、何か一つの文化が生まれるには、それぞれの人のルーツや家族との思い出がベースになるはずです。日本には日本料理という素晴らしい食文化がありますし、家族という概念も残っているので、日本の皆さんには興味を持って本作を観ていただけるのではないかと期待しています。それから、私はこの映画を愛とユーモアと人間性を持って作ったつもりです。人間の豊かさは多様性をお互いに認め合うことから始まるのだということを、この映画を通して伝えられたらうれしいです」


text nao machida



『ウィ、シェフ!』
5/5(Fri)、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町 他全国ロードショー
HP:ouichef-movie.com
監督:ルイ=ジュリアン・プティ
出演:オドレイ・ラミー フランソワ・クリュゼ ほか

2022年|フランス映画|フランス語|97分|5.1ch|シネスコ|原題:La Brigade|英題:Kitchen
Brigade|字幕翻訳:星加久実|後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ *G指定
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
(c) Odyssee Pictures – Apollo Films Distribution – France 3 Cinéma –
Pictanovo – Elemiah- Charlie Films 2022


一流レストランのスーシェフとして働くカティ。夢はいつか自分のレストランを開くこと。だが、シェフと大ゲンカして店を飛び出し、ようやく見つけた職場は移民の少年たちが暮らす自立支援施設だった。質より量、まともな食材も器材すらない。不満をぶつけるカティに施設長のロレンゾは少年たちを調理アシスタントにするアイデアを提案する。フランス語がちょっと苦手な少年たちと、天涯孤独で人づきあいが苦手なカティ。料理が繋げた絆は少年たちの将来だけでなく、一匹狼だったカティの世界も変えてゆく・・・。

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