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text by Masaki Uchida

『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』小池健監督インタビュー




『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』が完成した。2012年、モンキー・パンチの原作に漂う危険なテイストを反映させ、さらに大胆な解釈を取り入れ、大きな話題を呼んだスピンオフTVシリーズが山本沙代監督の『LUPIN the Third ~峰不二子という女~』だった。そのアダルトな匂いを継承しつつ、時代設定を1960年代後半から70年代中盤に設け、さらにハード&リアリズム、そしてエロティシズムを強調することによって、“かつてのルパン一味”を描いたエッジィなシリーズが、この小池健監督による『LUPIN THE ⅢRD』だ。『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』、『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』に続くこの3作目は、タイトル通り、峰不二子の主役回である。本作では、不二子がある“弱点”によって、何と子どもに翻弄されてしまう。狙った獲物を奪取するためには手段を選ばぬ永遠のヒロイン・峰不二子は、2019年の新作ドラマにおいてどう描かれているのか。シリーズの誕生から本作までのエピソード、そして峰不二子の魅力について、小池健監督に話を聞いた。


――『峰不二子の嘘』は『LUPIN THE ⅢRD』の3作目です。まずは『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの成り立ちからお話しいただけますか。


小池「この『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの前に、山本沙代監督の『峰不二子という女』(2012年)があって、僕はキャラクターデザインで参加していました。その前までの『ルパン三世』シリーズは、金曜ロードショー枠で年1の新作スペシャルを放送していました。三枚目の泥棒貴族が、ちょっとズッコけて、しかし最後はビシッとキメる、という大筋で、それが長年に渡って評価を得ているルパンでした」


――そうですね。最も多くの視聴者に認識されているルパン像ですね。


小池「ええ。もちろん、それはそれで魅力的なんですが、僕が強く影響を受けたのは、モンキー・パンチ先生の原作に描かれていた、アメコミに影響を受けた絵柄やストーリーのルパンであり、アニメで言えば車や銃器、ガジェットが細かく描かれていたファースト・ルパン(※1971〜72年に放送された『ルパン三世』TV第1シリーズ)だったんです。自分が子どもの頃に観た“大人の世界”を感じさせてくれたリアリズムのルパンを、僕も自分で手掛けてみたい。そんな想いを、『峰不二子という女』を制作している頃、プロデューサーに話して、賛同いただいたというのが、『LUPIN THE ⅢRD』シリーズ誕生の経緯でした」


――『LUPIN THE ⅢRD』シリーズは『次元大介の墓標』から始まっています。最初に次元のエピソードを持ってきた理由は?


小池「実は『峰不二子という女』のなかでも次元のエピソード回がとても視聴率が良かったんです。それで、『次元から始めてみようか』ということに(笑)」




――小池監督が抱いている“峰不二子像”とは?


小池「皆さんと同じだと思います。まずは優れた知能、美貌、フィジカルという三要素は欠かせません。そこにプラスどう面白さを加味するかが、今回の作品作りのポイントにもなったわけですが、やっぱり掴みどころのない“謎の女”という要素が魅力的なのかなと。そこもファースト・ルパンの峰不二子像と近いと言えますね」


――峰不二子はいつの時代も自由で、自立していて、行動原理もエピソード単位で明快ですよね。


小池「ルパンのキャラクターのなかでも、その時の自分の欲望に最も忠実ですよね。そしてルパンはどちらかというとチームを組んでそのブレーンも務めていますが、不二子はまず単独行動をしてみる。そこも自由さを感じさせる要因なのでしょうね」


――今回、不二子を主役に据えるにあたって、意識したポイントは?


小池「そもそも不二子は先ほどお話しした三要素の持ち主で、知能もルパンとほぼ同等なんです。なので、『不二子の“弱点”をどこに設けるか?』を考えました。今回はジーンという子どもが登場し、彼と行動することで、不二子が不自由になるような足枷を与えた。そこからこれまでとはまた一味違ったドラマが生まれるのでは?と考えました」


――本編中でも、「(子どもには不二子の)色気と話術が通用しない」というルパンの台詞があって、その弱点がとても明確に伝わってきます。


小池「そうですね。ジーンはある目的を抱えた少年なのですが、彼の心情がなかなか不二子の思い通りにならない。彼に振り回されながら、ひとつひとつハードルを飛び越えていくことでドラマに面白さを与えていこうと思いました」


――女性と子ども。その子どもが足枷となる。ジョン・カサヴェテス監督の『グロリア』(※主演、ジーナ・ローランズ。1980年)を想起させる設定ですね。


小池「実は脚本の高橋悠也さんとお話しする際、まさに『グロリア』は話題に上りました。『LUPIN THE ⅢRD』シリーズではクリエイティブ・アドバイザーとして石井克人(※映画監督)さんが参加されています。不二子に弱点を与えるというアイデアと『グロリア』というベンチマークは、石井さんからの提案でした。そこから、『グロリア』とは全く異なる女性と子どもの逃避行のストーリーを作ろうと話し合い、脚本の推敲を重ねていきました」





――終盤で観られる不二子の格闘シーンには、小池監督の(クエンティン・)タランティーノ好きのテイストが感じられました。アクションの流れも秀逸でした。


小池「ありがとうございます。今回、不二子の敵となるビンカム(vc:宮野真守)は接近戦を得意とするキャラだったので、そこで不二子がどう立ち回り、どんな奥の手で形勢を逆転するのかを調整することによって、見応えのあるアクションや、物語前半とは異なる、不二子のエロティックな魅力を引き出そうと考えました」


――次元は今回、ジャケットの下がTシャツというカジュアルなスタイルですね。


小池「今回は不二子とジーン、ビンカムを軸にストーリーが展開されていくので、ルパンと次元は、前半までは割とリラックスモードですね(笑)。どちらかと言えば黒子の役割に近い、抑えめなスタンスですね」


――不二子のファッションも見応えがあります。彼女の衣装替えについてはどのように決めていくのでしょうか?


小池「基本的には、ほぼ脚本の段階で決めて、シチュエーションに合わせて落とし込んであります」





――『LUPIN THE ⅢRD』シリーズは、毎回、必ず前後編に分かれていて、両方合わせて正味45分程度(上映時間54分前後)という尺です。個人的には「もっと観たい」と思わせる絶妙な長さだと感じられます。


小池「作っている側としては、30分では収まりきらないけど、60分以上よりは緊張感を持ったドラマ作りができる。何度も見直しながら作れるし、前後編に分けることで起承転結も組み易い。良い尺なんじゃないかと感じています」


――峰不二子を演じている沢城みゆきさんですが、声の魅力が破格ですね。


小池「たまりませんよね。柔らかいのに、ちゃんと語尾に棘がある。男を翻弄する魅惑的な声も、アクションにおける声の張り方も、ジーンとのやりとりで、つかの間、母性を感じさせる声色とか、全てを絶妙に演じ分けてくださっています。そうした沢城さんのスキルが、より掴みどころのない不二子を形成してくれているのではないでしょうか。普段の声もとても魅力的なかたで、スタッフが沢城さんに『小池監督はヘンタイなんですよ』とふざけて紹介したら『ヘンタイなんだぁ?』とあの声で言われて、ちょっとゾクッとしてしまいました(笑)」


――それはかなり羨ましい体験です(笑)。沢城さんはもとより、ルパンは栗田貫一さん、次元は小林清志さん、そして今作には登板していませんが、五ェ門が浪川大輔さんで銭形警部が山寺宏一さんと、錚々たる皆さんがレギュラーで演じられています。監督からキャストの皆さんへ、ある程度のディレクションやリクエストなどは伝えるんでしょうか?


小池「スタジオでは主に音響監督さんが全体を仕切られて、気になった箇所があれば、それを伝える程度でしょうか。今回で言えば、ストーリーの中心となる不二子もビンカムも完璧でした。僕からは、ちょっとしたニュアンスについてのリクエストを少し伝えた程度でした。どちらかというとジーンと、その父のランディとの親子の会話のほうを注視していましたね」


――栗田さんの『LUPIN THE ⅢRD』シリーズにおけるルパンの声は、『ルパン三世』シリーズ時と比べると、少し青臭く、狡猾なニュアンスを感じさせますね。


小池「たしかに栗田さんは『LUPIN THE ⅢRD』シリーズでは、『ダークなルパンを意識して演じている』と語っておられました。今回は、ややウエットに入って、最後はシブくキメてくださっています。その辺りのバランス配分もやはり絶妙でした」





――原作のモンキー・パンチ先生は、先日(※2019年4月11日)、惜しまれつつこの世を去られました。今回の『峰不二子の嘘』は……?


小池「残念ながら間に合わずで、先生はご覧になられていません」


――それは残念でしたね。


小池「はい。でも過去2作は楽しんでいただけました。1作目の際は、『大人が楽しめる新しいルパンを作っていただいた』、2作目の際は『新しい五ェ門像を作っていただけた』とコメントもしてくださいました」


――一度、取材でお会いしたことがありますが、先生は「この方がルパンの生みの親なのか?」と、こちらが少し驚いてしまうくらい、とても柔らかいお人柄でしたね。


小池「本当にそうでしたね。僕も短い時間でしたが、直接お話しさせていただく機会がありました。貴重な思い出です」


――その時代ごとに、手掛けたクリエイターの数だけ、『ルパン三世』が存在する。『ルパン三世』というのは、とんでもない汎用性を持った稀有な作品とも言えますが。


小池「おっしゃる通り、本当に『ルパン三世』は懐が深くて広い。しかも、それでいて国民的な知名度の作品なんですよね。そんな作品を自由に手掛けられるのは、とても光栄なことだと感じています」


――3作まで重ねた『LUPIN THE ⅢRD』シリーズですが、監督が思い描いた、ハード&リアリズムを形にできているという手応えは感じられていますか?


小池「そう思います。例えばリアリズムを意識して、アニメ的な細かいカット割りを排除して、実写でいう“長回し”を多く採用することで、人物描写を丁寧に救い、あまりアニメにおける嘘が生まれ辛いよう配慮して、アクションについても臨場感を生み出せるようにしています。自分なりにやりたいことはトライできているんじゃないかと思っています」


――でも長回しは台詞も長くなるから、キャストのかたには負担ですよね。


小池「そこは流石のベテランの皆様ですよね。お陰様で助けられています(笑)」





――小池監督にとって『LUPIN THE ⅢRD』シリーズに影響を与えているご自身のルーツとなる映画監督は?


小池「やはりタランティーノは好きですね。前作『血煙の石川五ェ門』では深作欣二監督の作風を意識しました。若干B級ではないですが、本流とは外れていても、自分なりの映像を追求する潔さが好きですね」


――いわゆる実写映画における007やDC、マーベルのシリーズ映画によって、既存のドラマを、一旦更地に戻して、最初からスタートするという“リブート”という手法が観客に受け入れられているという状況も、『ルパン三世』のこれまでの各シリーズや、『峰不二子という女』、『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの誕生に、少なからず影響を与えているのでしょうか。


小池「そこはどうでしょうね。少なくともどのルパンシリーズも、特定のシリーズや作品のリブートに影響を受けていることはないと思います、僕に関して言えば、お話しした通り、『“自分が観たかったルパン”を具現化したい』という思いが『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの原動力となっているので。ただ、単発だったり、尻切れとんぼになってしまうと、“シリーズ”として胸が張れない。『峰不二子の嘘』では、過去2作と関連する、ある伏線も描かれています。自分が作りたいドラマまで、しっかりと描いて、『LUPIN THE ⅢRD』をシリーズとして完結させることが当面の目標です」


――順当に行けば、次の作品はルパンか銭形のいずれかの主役回なのか、もしくはその2作が続けて実現という可能性もあるのでしょうか?


小池「何作まで作れるかは、実のところまだ全くの白紙なんです。そこには皆様の応援が大きく影響しますので、ぜひ、多くのかたにご覧いただけたらうれしいです」






『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』
5月31日(金)より新宿バルト9ほか限定劇場公開
【公式サイト】fujiko-mine.com 【公式twitter】@lupin3_series

【STORY】
不二子は逃げていた。父親が横領した5億ドルのカギを握る少年ジーンとともに。二人はジーンの父・ランディを襲った殺し屋ビンカムに命を狙われていた。呪いの力によって人の心を操るビンカムから一度は逃げ延びるが、拘束されてしまう不二子とジーン。ビンカムの鋭利な爪が今、不二子に襲い掛かる――!


共同配給:ティ・ジョイ、トムス・エンタテインメント
コピーライト:原作:モンキー・パンチ ©TMS
原作:モンキー・パンチ
監督・演出・キャラクターデザイン:小池健
脚本:高橋悠也/音楽:ジェイムス下地/クリエイティブ・アドバイザー:石井克人
【声の出演】
栗田貫一、小林清志、沢城みゆき、宮野真守、ほか
【製作・著作】トムス・エンタテインメント  
【アニメーション制作】テレコム・アニメーションフィルム



監督:小池健 Takeshi Koike
監督・アニメーター。1968年生まれ。石井克人監督の「PARTY7」(2000)のOPアニメーションで監督デビュー。「サムライチャンプルー」(2004)ではOP原画、「アイアンマン」(2010)ではメカニックデザインなど圧倒的な画力で幅広く活動。「アニマトリックス ワールド・レコード」(2003)、「REDLINE」(2010)を監督。強烈な印象で世界中のアニメ映画ファンを熱狂させた。「LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標」(2014)「LUPIN THE ⅢRD血煙の石川五ェ門」(2017)でも監督・演出・作画監督を担当。

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