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text by Junnosuke Amai

Be Free Issue : ガス・ダパートン“閉鎖的な小さな町で育ったことが、そこから抜け出すためのモチベーションを育ててくれた” /Interview with Gus Dapperton




ガス・ダパートンことブレンダン・ライスは、ニューヨークのワーウィック出身、現在22歳のソロ・アーティスト。もっとも、その個性的なルックスが物語るように、彼に注がれる視線は音楽の世界からにとどまらない。“90s‘ normcore meets Balenciaga”“90s‘ Swingers’ revival”とも評されるファッション・センスしかり、ヴィジュアルや映像の分野へもボーダーレスに存在感を示すキャラクターは、まさに「ポップ・アイコン」といった形容がふさわしいものだろう。そんなダパートンがこの度、初のスタジオ・アルバムとなる『Where Polly People Go To Read』をデジタル・リリース(※国内版CD、フィジカルは7月)。元ヒップホップのトラックメイカーで、キング・クルール、J・ディラ、マック・デマルコ、ニュー・オーダーらの影響を公言するそのソングライティングやプロダクションは、一見ガジェット感もある佇まいとは裏腹に洒脱でモダン。生楽器やシンセ・サウンドを織り交ぜ、R&Bやブルー・アイド・ソウル、60年代のソフトロックや80年代のニュー・ウェイヴ、アンビエント、ブラジル音楽のサウダーヂな感覚を掬い上げたブリージンなポップ・ミュージックを作り上げている。2019年11月28(木)には来日公演も決定。慌ただしさを増すなか、ようやくコンタクトの取れたダパートンに話を聞いてみた。


――今回、あなたのアルバム『Where Polly People Go to Read』が日本でもリリースされます。ガス・ダパートンは日本でもコアな音楽リスナーの間では知られた存在ですが、多くのひとは今回のリリースをきっかけにあなたを知ることになると思います。なので今回のインタヴューでは、まずは基本的なところから話を聞かせてもらえればと考えています。


Gus「オッケー」

――あなたの音楽にはさまざまな要素が散りばめられていますが、影響を与えたミュージシャンを挙げるとしたら誰になりますか。理由も併せて教えてもらえると嬉しいです。


Gus「僕はアーティストに影響を受けたというよりもオールド・ロックや80s‘ミュージックやメインストリームのポップ・ミュージックを聴いてきたんで、そういった“音楽のジャンル”というものが欠かせないんだ。60s‘ロック、80s‘ロック/ニュー・ウェイヴ、1990年代から2000年代初期のR&Bかな。アーティストではなくジャンルだね」



――ガス・ダパートンのファッションについては“90s‘ normcore meets Balenciaga”や” 90s‘Swingers’ revival”などさまざまな言われ方もされますが、個人的に興味がひかれるポイントは、そこにアートやファッションにおけるヒエラルキーを覆したい、さらにはジェンダーの壁や境界を無意味なものにしたい、という美学が感じられるところです。あなたのファッションにおけるポリシーを教えていただけますか。


Gus「唯一のファッション・ポリシーは自分の好みで似合うものを着るってことかな。アートというのはすごくユニバーサルに考えられるのに、なぜかファッションはそうではなくわけられてるんだよね。ジェンダーや男女でわけられたりしていて、僕自身がファッションで自分をどう表現するか制限されてしまっている気がする。自分の見た目を変えられる髪型やメイクというオプションなどももっとユニバーサルであるべきだと思う」

――アウトプットにおいて、音楽とファッション、映像も含めたヴィジュアル・イメージはどのような関係性にあると説明することができますか。


Gus「自分の心に正直にものを作るので、どれもすごくダイレクトに僕を表現しているんだ。音楽にしろ、ファッションにしろ、映像にしろ、全てのアートに自分の持っているものを100%注いでいる。例えばアーティストが曲に100%注いでも、MVが中途半端な感じで作られてたら作らないほうがマシだと思う。どのアーティストの表現方法も100%でやるべきだ。アーティストである以上、それは責任のひとつだからね。だから僕はアーティストだけど、ディレクターでもあるし、全ての面において100%で取り組むから、どちらかというと総合芸術家なのかもしれないな」





――そうしたガス・ダパートンという総合芸術が形作られた過程において、決定的な影響を与えたアーティストや作品、あるいは出来事を教えていただけますか。


Gus「この人!というアーティストはいないけど、出来事に関してはいろいろある。作曲に興味があまりなかったのに、初めて曲を作ってみたらいきなりすごくハマっちゃったんだよね。あとは高校の時のパーソナルな経験が僕をアーティストの道へと導いてくれたんじゃないかなと思う」

――その総合芸術家としてのガス・ダパートンをもっともリプレゼントしている楽曲を、いまだあなたのことを知らないリスナーにリコメンドするとしたら、どれをあなたは選びますか。理由も併せて教えてもらえると嬉しいです。


Gus「そうだな……ニュー・アルバムには入っていないんだけど、僕は自分の曲ではあまりメジャーじゃない“Beyond Amends”を選ぶかな。一番好きな曲だから。でも、僕を知らないひとが聴いただけで僕のことを理解できる曲を選ばないといけないなら“Prune, You Talk Funny”を選ぶよ」





――ところで、あなたはどんな子供時代を過ごしていたんでしょうか。今でも強烈に記憶に残っている出来事、あるいは後のガス・ダパートンの誕生のきっかけになったといえるようなエピソードがあれば教えてください。


Gus「エピソード、あるよ。僕はすごくシンプルでわかりやすいアート以外は理解されないような閉鎖的な小さな町で育だったんだ。それで少し広い視野でアートを視つめる僕や僕の友達も理解されなかった。そういう場所にいたこと自体が、僕にそこから抜け出すためのモチベーションを育ててくれたんだと思う。具体的なエピソードだと、僕が中学2年生だった時の音楽のクラスの必須プロジェクトで全生徒が“ガレージバンド”で曲を作って、その中で一番よかった曲を先生が選んで、選ばれたひとは地元のラジオに出演をして曲を流してもらえるという者。それまで僕はあまり曲を作ったりはしていなかったんだけど、とりあえず曲を作ってみたらその曲が選ばれて僕が優勝したんだよ。その瞬間から作曲というものにハマって、一生これをやっていきたい!って思った。あとは、高校高学年が僕にとっての暗黒時代というか、大切なひとが何人か亡くなってしまったり、僕自身が膝の怪我をして手術をしないといけなくなったり、自分の命くらいに大切にしてたマックブックが壊れちゃったり、大好きな彼女と別れたり……っていうのも僕の誕生のきっかけかな」



――子供時代はどんな音楽が好きでしたか。また、新曲が出たら必ずチェックするアーティストって、今誰かいますか。


Gus「子供の時は正直いなかった。クラシックと言われるビートルズやマイケル・ジャクソン、ブリトニー・スピアーズなんかをいろいろ幅広く聴いていたね。でも子供の頃から音楽は大好きだった。両親と一緒に“フライデーナイト・ダンスパーティー”というのをやっていて、毎週金曜日の夜に親父がテレビから音楽を流して、家族でダンスパーティーみたいなのをやってたよ。自分の好きな音楽のテイストに目覚めた時には、マッドリブやマッドヴィリアン、MF ドゥームなんかのアンダーグラウンド・ヒップホップを聴いていたね。その辺のアーティストを結構チェックしていたよ」

――あなたにとって“90年代”の魅力、“90年代”に惹かれてしまう理由とはどういうところにあるのでしょうか。


Gus「僕が実際に生きた90s‘はわずか3年ほどだったんだけど、全体的にいうとファッションやスタイルかな。今とは違って、ブランドものというよりもシンプルで色鮮やかでベーシックなものの方が多かったように感じる。そうだな、やっぱりファッションに惹かれるのかな」





――“World Class Cinema”のMVは映画史へのオマージュにあふれた作品ですが、あなたの好きな映画作家、あるいは自分の人生を変えた映画作品を教えてください。また歌詞には女優のローズ・マッゴーワンの名前が出てきますが、彼女はあなたにとってどのような存在、あるいは何の象徴なのでしょうか。


Gus「僕はディレクターとしてのウェス・アンダーソンが本当に大好きなんだ。映画だと『ドニー・ダーコ』が一番好きだね。すごく影響を受けた映画だよ。ローズ・マッゴーワンに関しては、一度LAのバーで彼女を見かけたことがあったんだ。家に帰って当時付き合っていた彼女にそれを伝えると、彼女がローズ・マッゴーワンが出てた映画の話をし出してきて、そこで僕が“マッゴーワン”の発音を間違えていたことを指摘された。ローズ・マッゴーワンは結構変わり者で、あくまで僕の意見だけど、人として終わってると思うんだよね。当時の彼女もそんな感じだったから、ローズ・マッゴーワンの名前はシンボリズムというか、その時の彼女との関係を歌ったんだ。でも、ローズ・マッゴーワンを褒めたりディスったりしているわけじゃないんだよ」

――映像作家のシュー・ディロン・コーエンと制作された“I’m Just Snacking”のMVも素晴らしいですね。官能的で、ロマンチックで、けれど孤独や痛みも同時に感じさせるような。楽曲と相まって様々な感情にとらわれるような作品だと思います。かつてはヒップホップのトラックメイカー的なことをされていたそうですが、現在のような自身の歌声とリリックを使った音楽表現をする上であなたがもっとも大事にされていること、ガス・ダパートンというシンガーソングライターにとってのエッセンシャルな部分とは何でしょうか。


Gus「まず、歌詞をすごく重視している。結構複雑なヒップホップを聴いて育ったから、知的なリリックにすることを心がけているね。僕は、何万回も聴いたことのあるようなありきたりなリリックが大嫌いなんだ。あと、普段聴かない音や、あまり聴いたことのない音を使うことにもこだわっている。僕は全部自分でやっているから、曲を作り上げるための要素ひとつひとつ、全てが重要だと思っている」

――一方で、あなたの歌声はリリックや自分の感情をデリバリーするものであると同時に、楽曲によってはサウンドを構成する楽器のひとつのようにして扱われているところが特徴でもあると思います。実際のところ、ヴォーカルのプロダクションやソングライティングにおけるサウンド面に関して、あなたがもっとも重要視しているポイントとはどういったことなのでしょうか。


Gus「“ダイナミクス”かな。声の中にあるダイナミクス。僕はメリハリのあるメロディが大事だと思っている。すごく脆弱な声からアグレッシブな声に上がり、また脆弱な声に戻ってくる、そういう“ダイナミクス”が重要視しているポイントだね」





――今回リリースするアルバム『Where Polly People Go to Read』ですが、R&Bやブルー・アイド・ソウル、60年代のソフトロックや80年代のニュー・ウェイヴ、アンビエント、ブラジル音楽など、ここにはあらゆるものが入っています。これまでも様々な楽曲を制作されてきましたが、今回のアルバムを制作する上での課題をあげるとするなら、それはどんなことでしたか。


Gus「課題という課題はなかった。僕がこの一年間で成し遂げてきた成長がテーマになっているとは思うけどね。すごく長い間音楽を作ってきたけど、ここ2年くらいでやっと本格的に動き出したんだ。特にこの一年は僕の人生のハイライト。僕の人生がすごく変わった一年だ。課題、ゴール、どちらもこのアルバムを作る上で意識はしていなかったけど、自然と僕のこの一年間の成長がテーマになってしまったみたいだね。気づいてたらできていた感じ。細かくいうと愛や失恋、恋愛の現実も含まれているよ」

――ちなみに、今回のアルバムを制作中、どんな音楽をよく聴いていましたか。アルバムのリリースに合せてプレイリストを公開するとしたらどんな曲が収録されるのか、興味あります。


Gus「僕は制作中に音楽を聴いてインスピレーションを受けたりはしないんだ。制作中に他の音楽を聴くこと自体あまりしない。今回のアルバムの制作期間のほとんどがツアー中だったから、訪れた場所で受けたインスピレーションでできている。音楽よりも人生のアートが僕のインスピレーションだね」

――ここまでの話を踏まえた上で、あなたが今回のアルバムのキーとなる3曲を選ぶとしたら、どの曲になりますか。解説も含めてリコメンドしていただけると嬉しいです。


Gus「難しいな……シングルは全部キー曲になってしまうと思うけど、僕自身が決めるのであれば“Coax & Botany”、“Eyes for Ellis”……やっぱり選べないや。全曲って言いたいね。全ての曲があってのひとつのアルバム、ひとつの作品という気持ちだからね」

――Fill Me Up Anthem”という曲がありますが、あなたにとって「Anthem」といえる曲、自分を鼓舞したり祝福してくれる曲を教えてください。


Gus「マイケル・ジャクソンの“Remember The Time”とザ・スミスの“This Charming Man”だね」

――最後に、日常生活の中で必ずやること、ルーチンになっていることが何かありましたら教えてください。


Gus「毎日必ず朝ごはんを食べないと何もできない。朝に限らず、例えば夕方に起きたとしてもスクランブルエッグなんかの朝ごはんメニューを食べないと一日中何もできないんだ。遅刻していても食べるね。あとは洗濯したてのきれいな真っ白の靴下を履くことかな」




text Junnosuke Amai
edit Ryoko Kuwahara


Gus Dapperton来日公演決定
2019年11月28日(木)代官山UNIT
OPEN 18:30 / START 19:30
オールスタンディング 5,500円 (税込・別途1Drink代)
※未就学児入場不可

企画・制作・招聘: Live Nation Japan
協力:Beatink
お問い合わせ:Live Nation Japan info@livenation.co.jp

公演リンク: http://bit.ly/GusDJP19


Live Nation Member 先行:5/22(水)18:00~5/25(土)23:59 http://bit.ly/GusDJP19 *先着受付
プレイガイド独占先行:5/26(日)~6/1(土)
その他先行:6/2(日)~
一般発売: 6/15(土) 10:00〜チケットぴあ、イープラス、ローソンチケットにて発売



Gus Dapperton
『Where Polly People Go to Read』

国内盤CD 2,000円+税
歌詞対訳/解説書付き


【ご予約はこちら】
BEATINK.COM
http://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10245
amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/B07R51TSWX/
tower records: https://tower.jp/item/4903104/
hmv: https://www.hmv.co.jp/product/9826618

Apple Music: https://apple.co/2GupzEA
Spotify: https://spoti.fi/2VUlhwO



公式サイト: http://gusdapperton.com/
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