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text by フジワラダイスケ

「美」と極限まで対峙し愛した人間の超ハードコアなノンフィクションラブストーリー 『マックイーン:モードの反逆児』に寄せて by フジワラダイスケ

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まずはじめに。なんとなくファッションを好きなどと言い、「美」と中途半端に向き合っている人はこの映画を見るべきではない。少なくとも私は見終わったとき、ちゃんと向き合うということに対して怠惰な自分がうしろめたく、息苦しかった。これが所謂ファッション映画ではなく、「美」と極限まで対峙し愛した人間の超ハードコアなノンフィクションラブストーリーだからであろう。


冒頭、リーは「心の奥深い闇から恐ろしいものを引き出し、ランウェイに乗せる」と語った。彼は大成功を収めファッション史に名を残したが、結末は自殺という闇の最終形態とされる選択だった。究極のファッションとは死の危険をかえりみず心身を削らなけらば手に入れることのできない諸刃の剣であり、彼の様に自身のクリエイションと心のシンクロ率が100%となることは一種の死刑宣告なのかもしれない。果たして我々はどれほどのシンクロ率を持ち合わせているのだろうか。そもそもシンクロニシティの対象は自分の精神世界に設定されているのか。テンプレートの「ビ」にスポットライトが当たり、おまけに強すぎるスポットライトで白飛びしてしまったような舞台を幾度となく目にする。リーの舞台が輝いていたのは、スポットライトを操りつつその光で自分の心を照らし続けたからなのだろう。



「美」とはどこにあるのか。同じく鬼才ガリアーノと比較され嫉妬すら抱いたリーだが、彼等には根本的に違うところがあるように感じた。生まれの星。優劣ではなく、地球か火星かということでもなく、受精された瞬間に割り振られる性別くらい曖昧なもの。ただはっきりと、光に美を見出す星と闇に美を見出す星があるのだ。光に美を見出して闇に表現する人も、はたまたその逆も然りなので判断は難しいが唯一、同星人には鮮明に見分けることができる。リーが美を見出だしたゴツゴツとしたその星は醜い感情で埋め尽くされていて、地球という名前がつけられていた。その感情は彼の作ったランウェイの様に複雑で繊細で、あまりにも美しい。究極の「美」は人間そのものだ。





彼の手掛ける最後のコレクションとなった”Plato’s Atlantis”こそ、私に人生はじめてファッションを意識させたものだった。2009年ロンドンのサマースクールにいた私は母に連れられハーヴェイニコルズに。ふらふら歩いていると耳に入ったのがレディーガガのBAD ROMANCE。14歳の少年の全細胞を活性化する働きが最大限に確認された曲である。音の発生源はAlexander Mcqueenのウィンドウ、画面いっぱいに彼のラストショーが映し出されていた。レディーガガに導かれたそれの強すぎる刺激にいよいよ全細胞は活動を放棄し、私の骨髄奥深くの感覚に直接はたらきかけてきたのを今でも覚えている。ランウェイの背景には母なる海が映し出され、徐々に宇宙へと変化してゆく。地球を代表する様々な動物モチーフの服、モデルは非人間的なシリコンの凸起をつけられ、歩くことが奇跡とも思われるアルマジロヒールを穿かされ、物質的にも精神的にも地球外生命体となっていた。そしてこのショーの本質こそ、リー自身が地球を捨てるという行為にあった。なんてわかりやすい演出。そんなショーのフィナーレでBAD ROMANCE。地球人が最後に彼の姿を拝むことができた瞬間、この曲が流れていた。彼は地球に、人類に恋をしていたのだ! 未完成な私の熟さぬ脳ミソですら、これが「ファッション」という名をつけられた「美」である、と断定できた。圧倒的な「美」だったのである。





レディーガガは2010年BRIT Awardsにて、急遽リーを追悼するパフォーマンスをした。リーが地球を飛び立った4日後のことである。彼女の顔はリーが成りたくて仕方なかったスカルを模したレースに覆われ、ステージにそびえ立つニック・ナイト手掛けた巨大なガガ像はあのアルマジロヒールを履いていた。
最後のワンコーラスは彼が愛したこの地球から宙に向けて共鳴させているようであった。


“Baby love to dance in the dark ‘Cuz when he’s lookin’, she falls apart”


真っ暗闇で踊る私に当てるスポットライトは私が支配したいものである。





フジワラダイスケ
1995年7月生まれ23歳。青山学院大学卒。GLAMHATEデザイナー、メイクアップアーティスト。




『マックイーン:モードの反逆児』 4/5(金)より TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開

アレキサンダー・マックイーン、本名は、リー・アレキサンダー・マックイーン(Lee Alexander McQueen)。1969 年ロンドン生まれ。自身の名を冠した「アレキサンダー・マックイーン」はイギリスを代表するファッションブランドとなり、2011 年にはキャサリン妃が結婚式に選んだウエディングドレスとして話題をさらった。前衛的なデザイン、人間の光と闇を映し出す独自の美学、エッジのきいたセンスとエレガントなラインが絶妙なバランスで融合するコレクションは、ビョーク、レディー・ガガ、リアーナなどのオンリーワンを求めるアーティストから愛されていたほか、ブリティッシュ・デザイナー・オブ・ザ・イヤーを 4 度にわたって受賞した。 2010 年、母親をロンドン・ファッションウィークの数日前に亡くす。そして母の葬儀の前日である 2 月 11 日朝、自宅で亡くなっているのを、家政婦が発見。40 年という短い生涯を終える。


監督・脚本:ピーター・エテッドギー『オネーギンの恋文』(脚本) 監督・製作:イアン・ボノート『エッジ・オブ・スピード』 音楽:マイケル・ナイマン『 ピアノ・レッスン』『ことの終わり』 出演:リー・アレキサンダー・マックイーン、イザベラ・ブロウ、トム・フォードほか配給:キノフィルムズ コピーライト:© Salon Galahad Ltd2018 上映時間:111 分
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