NeoL

開く
text by Yukiko Yamane
photo by Marie Tomanova

I Just am Issue: Interview with Marie Tomanova




ニューヨークを拠点に活動する写真家マリー・トマノヴァ。チェコ共和国の小さな町で育った彼女はアメリカへ渡り、写真を通して自分のアイデンティティを見つけた。『Young American』と名付けられたポートレイト作品は、ニューヨークのリアルな若者を切り取ったもの。200枚以上に渡る写真には夢や希望、自由が溢れている。2018年6月、チェコセンターニューヨークで開催した自身初となる個展をきっかけに注目を集め、憧れの写真家ライアン・マッギンレーの序文とともに今年3月には写真集をリリース。今夏の来日中には代官山蔦屋書店でソールドアウトしたことが記憶に新しい。現在は、プラハのプラゴフカギャラリーで個展を開催中。オープニングには多くの人々が集い、現地テレビやメディアでも大きく取り上げられた。そんな興奮冷めやらぬ翌日に滞在先近くのカフェでインタビューを敢行。作品のこと、リアルなアメリカとチェコについて話を聞いた。(→ in English


ーー南モラヴィアの小さな町出身ですが、当時海外の情報はどうやって入手していましたか?


マリー「わたしはミクロフという小さな田舎町出身です。学校から帰ると畑を手伝ったり、犬と森の中を走り回っていました。今とはまったく違う世界ですね。海外のテレビチャンネルはないけど、国営放送でアメリカの映画を観れたんです。ほとんどがメインストリーム作品で、好きな映画のひとつは『プリティ・ウーマン(1990)』。16〜17歳のころは『セックス・アンド・ザ・シティ』をよく観ていました。アメリカに住んでいる親友のいとこがいつもDVDを送ってくれてたんです。かなりハマってましたね。わたしがアメリカについて知っていたことはそれだけです。当時はそれがアメリカなんだと思っていました」


ーー実際にアメリカ、そしてニューヨークへ移住して何を感じましたか?


マリー「とても衝撃を受けました。まずチェコとかなり違うこと。もうひとつは『セックス・アンド・ザ・シティ』ではなかったこと(笑)。実際はそれがとてもよかったんですけどね。ニューヨークは大きなエネルギーのあるとても”リアル”な場所。素晴らしい文化のるつぼなんです。どこから来たとか、何が好きとか、何を探してるとか関係ない。ニューヨークでは何かを見つけることができるんです。ここにはたくさんのレイヤーがあって、本当に気に入っています。わたしの新しいホームです」





ーーチェコでは絵画を専攻していましたが、ニューヨークでは写真をメインに活動していますよね。写真を始めたきっかけについて教えてください。


マリー「最初ノースカロライナに引っ越したときにはもう絵を描いていませんでした。でも日記を書くことに多くの時間を費やしていたんです。自分の感情や気付き、新しいと感じたすべてのことやたくさんの出来事を記録していました。書くことでカルチャーショックに対処しようとしたんだと思います。それから1年後にニューヨークへ移住しました。毎週末ミュージアムに足を運んでいて、あるときグッゲンハイムでフランチェスカ・ウッドマンの展示を見たんです。初めて彼女の作品を見たのですが、本当にインスパイアされました。そこには写真とともに彼女の個人的な日記が展示されていて、とても感動しましたね。これを機に写真を撮り始めたんです」


ーーセルフ・ポートレイトを通じてどのように自分のルーツやアイデンティティを見つめ直したのでしょうか?


マリー「セルフ・ポートレイトはわたしの写真活動にとってかなり重要なパートです。移住して最初の数年間、わたしはアメリカに所属していないと感じていました。まるで長い間見知らぬ土地にいるよそ者のようで。セルフ・ポートレイトを撮影することは、アメリカの風景の中にいる自分自身を強く主張するのに役立つ実践なんです。アメリカの風景の中にいる自分のイメージを見ることは、自分が所属していることをよりはっきりと自覚し理解する効果がありました。このプロセスは自分自身を理解する上でとても重要だったんです。『Young American』シリーズはある意味同じ実践の継続。アメリカの社会情勢とそんな社会にいるすべての若者、その中にいるわたしの空間を確立しているんです。わたしは今その一部だと感じています」





ーー素晴らしい経験ですね!セルフポートレイトから一転、『Young American』では、ニューヨークのリアルな若者を撮影しています。この作品を始めたきっかけとは何でしょうか?


マリー「わたしにとってセルフ・ポートレイトは簡単ですが、誰かを撮影するとなると責任が多く発生するので抵抗があったんです。長い間してませんでしたね。そんな中、フォトグラファーの友人が街を離れることになって、彼女が撮影していたブルックリンのクィアマガジン『POSTURE』にわたしを引き継ぎ役として提案してくれたんです。そのときはダウンタウンのラッパー、カント・マフィアとの撮影でした。他の人を撮影するのは初めて、ドアを叩くときとても緊張しましたが、素晴らしい経験となりました。楽しい時間を過ごせましたし、彼女も写真を気に入ってくれて。この経験から、写真を通して人と出会える、簡単に友達を作れるということに気付いたんです。インスタグラムから連絡して、わたしをインスパイアする人たちと会うようになりました。1〜2時間ほど会って話して撮影をする。人と会って写真を撮ることが大好きで、それが新たな情熱となったんです」


ーーこのシリーズでは300人以上の人たちと会って撮影したそうですね。撮影で大切にしていることはありますか?


マリー「わたしにとって撮影する人との繋がりを作ることが大切ですね。お互い心地いいと感じて一緒に楽しい時間を過ごせば、いい作品が撮れるから。その人のことを知るためには、少なくとも数分間一緒にいる必要があるんです」





ーー作品を通して見えてきたアメリカの今、リアルな姿について教えてください。


マリー「ニューヨークの若者は『セックス・アンド・ザ・シティ』とは違います。たくさんの異なるアングルにおいて、よりリアルで多様、活動的なんです。わたしと同じように夢を叶えるためにニューヨークに集まった若者は世界中から来ています。彼らは人を感化し、コミュニティでとてもアクティヴ。環境の変化や平等の権利、銃規制などを改善しようと強く求めています。ソーシャルメディアは発言の場なので、彼らはここでもかなりアクティヴ。今どき話を聞いてもらうために『ニューヨーク・タイムズ』のインタビューを受ける必要なんてないですよね。インスタグラムでも同じように発言することができる。とても重要なことだと思います」


ーーニューヨークの若者からインスピレーションを受けたのですね。


マリー「はい。社会にはまだ起きるべき変化があります。それは若者がもたらすもの、権力とお金を持っている年配の人たちではありません。それがわたしの感じていることであり、『Young American』は異なる背景、ジェンダー・アイデンティティ、夢、意見を持つ若者についての作品です。彼らはアメリカの未来なんです。『Young American』は、まさに彼らが自分らしくいることについてまとめた作品でもあります。疲れていて、幸せで、優しく、傷つきやすく、不完全。ニキビや傷跡などもすべてです。一番大切なのは、あなたが自分らしくいるということ。そのままのあなたでいてください」





ーープラハ初となる個展のオープニングはいかがでしたか?


マリー「とてもよかったです!『Young American』をプラハに持って来れたことがとても嬉しかったんですよ。たくさんの若者がオープニングに来て、とてもいい反応をしてくれました。個人的な意見ですが、チェコはまだわたしが望んでいるほど進歩的ではありません。人と違うことをはじめ、性別や宗教、肌の色に関係なく平等に感じることが難しいんです。例えば大半のチェコのマガジンに起用されるカバーガールはいまだにブロンドか茶色のロングヘアー、セクシーで修正されたものが”女性の美しさ”とされています。凝り固まった美の理想を壊すことが重要です。わたしは『Vogue Czechoslovakia 』を高く評価します。同誌は実際にこの問題と向き合った先駆者ですし、前回のカバーでは流動的なジェンダーやセクシュアル.・アイデンティティのモデルを起用しているからです。とても大事なことだと思います。『Young American』を通してたくさん異なるアイデンティティがあることを表現し、見た人たちに人と違うのはいいことなんだと気付いてほしいですね」


ーーアメリカのトランプ政権、イギリスのジョンソン政権、チェコのバビシュ政権など、世界的に広がるポピュリズムの動きに対してどう思いますか?


マリー「政治についてあまり取り上げたくないのですが、それはすべて間違っているし正気ではありません。来年のアメリカ合衆国大統領選挙で変化が起きることを願っています。チェコも同じですね」





ーーアメリカへ移住して、自分のルーツであるチェコを俯瞰的に見ることができたと思います。最近のチェコについてどう思いますか?


マリー「今チェコはまさに素晴らしいステージにいると思います。というのも、海外へ出ていろんな国で生活する本当をチャンスを得た最初の世代がわたしの世代なんです。海外を経験したほとんどがチェコに戻り、そこでインスパイアされた新しいレストランやコーヒーショップ、ギャラリーをオープンしています。彼らは自分たちの国に積極的に投資して、よりよい場所にしている。素晴らしいことですよね。世界を見てきた人々の新しい空気や波を得ることはいいことです。わたしが5歳のときに共産主義は終わりました。それまでこの国はとても孤立していたんです。そのため当時はアートやギャラリーの本格的なマーケットがありませんでした。お金がありませんでしたし、アートはただの贅沢品で手の届かないものだったんです。でも今ではそれも変わって、チェコのアート市場は成長しています。今はとてもエキサイティングで、新しいことを始めるたくさんの機会があるんですよ」


ーーこれからが楽しみですね!最後に何かお知らせがあればどうぞ。


マリー「11月4日から12月14日までプラハ芸術アカデミーで別の展示を開催しています。同校の220周年を祝うグループエキシビジョンで、わたしは特別ゲストとして招待されました。現在次の写真を制作中、来年はたくさんの展示を控えています。とても楽しみです!」




















Marie Tomanova
www.marietomanova.com
@marietomanova:https://www.instagram.com/marietomanova/


photography Marie Tomanova
text Yukiko Yamane

1 2

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS