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text by Nao Machida

ナサニエル・ラッセル 来日インタビュー / Interview with Nathaniel Russell about “False Music” and more







スケートボードやサーフィンのシーンを中心に幅広く活躍し、アメリカのみならず世界中に多くのファンを持つアーティスト、ナサニエル・ラッセル。ペインティングやウッドカット、シルクスクリーンをはじめ、ブックカバーやアルバムジャケット、壁画など、多彩な手段で独特な世界観を表現しているほか、ミュージシャンとしても活動している。ここ数年は日本でも個展を開いており、今年も10月に東京・富ヶ谷のThe Beach Galleryにて、架空のアルバムジャケットをテーマにした「False Music: Paintings About Records」を開催した。ここでは来日したナサニエルにインタビューを行い、インスピレーションやものづくりについて語ってもらった。(→ in English

——まずはバックグラウンドについて教えてください。出身はどちらですか?アートに興味を持ったきっかけは?


ナサニエル・ラッセル「出身はインディアナ州インディアナポリス。アートに興味を持ったのはかなり幼い頃なんだ。『MAD』誌や新聞のマンガに夢中になって、大きくなってからはスケートボードやいろんな種類の音楽に興味を持ち、そういった趣味に関連したあらゆるイメージにはまっていった。大学では版画を専攻して、それ以来、ずっとものづくりを続けている」


——当初はベイエリア(サンフランシスコ周辺の都市圏)で活動していたそうですが、なぜカリフォルニアを選んだのですか?


ナサニエル・ラッセル「10歳の頃、父親とサンフランシスコに行ったんだ。父の出張だったんだけど、エンバカデロ・センターに連れて行ってもらって、その印象が強く残った。それに僕は昔からサンフランシスコ発の音楽やアートとか、サンフランシスコで撮影された映画が大好きだったんだ。だから、住んでみたいと思うのは本当に自然なことだった」





——ものづくりをするにあたって、最初にインスピレーションとなったのは?


ナサニエル・ラッセル「幼い頃の僕は叔父にインスパイアされていたんだ。叔父はよくマンガを描いたり、ペンとインクで納屋の完成予想図などを描いたりしていた。僕は彼のことをものすごく尊敬していたんだ。大きくなってからは、音楽やスケートボードの雑誌で見て心に響いたアートワークがインスピレーションとなった。それに両親もときどき美術館に連れて行ってくれたり、アートのレッスンを受けるよう勧めてくれたりして、たくさんのものに触れさせてくれたんだ」


——インディアナのアートシーンはどのような感じですか?


ナサニエル・ラッセル「他のどの都市とも同じように、一つの大きなシーンの中にたくさんの多彩な細かいシーンが存在しているんだ。僕自身が属していると感じるシーンは、ベイエリアのシーンと似ている。とてもDIY志向で、非伝統的で、実験的だけど純粋なフィーリングや体験に根付いているんだ」





——ウッドカットやシルクスクリーン、絵画や壁画など、さまざまなアートを制作されていますね。テーマと表現手段は事前に決めているのですか? それとも作っていくうちにコンセプトが浮かび上がってくるのでしょうか?


ナサニエル・ラッセル「いつも最初にイメージを考えて、ちょっとしたスケッチをするんだ。ときには異なる手段を試してみて、どれが一番うまくいくかを見ることもある。でもほとんどの場合は、ウッドカットや壁画など作りたいものがわかっていて、そのために具体的に何をするか考えるんだ」


——ちょっとクスッと笑えるような言葉やフレーズが入った作品も多いですよね。作品にフィーチャーする言葉はどのようなところから生まれるのですか? 作品における言葉の重要性は?


ナサニエル・ラッセル「ああいった言葉は、いつも持ち歩くようにしているノートに書いてあるんだ。僕にとっても作品にとっても、言葉はとても大切なものだよ。僕はそういった言葉を詩や歌詞として考えていて、文字の輪郭は形として考えている。僕の頭の中では、文字は絵と同じくらい重要なんだ」





——Fake Flyers(架空のフライヤー)のシリーズは、どのように始まったのですか?


ナサニエル・ラッセル「あれは自分自身のための小さなプロジェクトとしてスタートしたんだ。ジョークとしてああいったアイデアを考えていたんだけど、それをリアルなものにしたかった。それからさらに興味が深まって、人々からの反響もあったので、どんどん作るようになってシリーズが続いている」





——公式サイトにて無償で提供されている、“Resist Fear / Assist Love”のイラストについて教えてください。


ナサニエル・ラッセル「あの絵はドナルド・トランプが大統領に当選した後に描いたんだ。別に大きな声明だとか、何かしらの解決策として作ったわけではない。僕はただ、たとえ不完全な形だとしても、より平穏な生活に向かって前進する方法について、何らかのフィーリングを言葉にして発したかっただけなんだ。あっという間にできたものだけど、言葉についてはたくさん考えたよ。あの絵に対して、他の人たちがポジティブな形で反応してくれるのを見るととてもうれしい。あのデザインのタトゥーを入れている人も何人か見たことがあるし、世界中であの絵を目撃している。最高の気分だよ」


——10月に東京で開催された個展「False Music: Paintings About Records」は素晴らしかったです。レコードに関する作品を作ろうと思ったきっかけは?


ナサニエル・ラッセル「実は架空のレコードをテーマにした個展は、ギャラリー(東京・富ヶ谷のThe Beach Gallery)のオーナーの井出靖さんのアイデアだったんだ。僕は過去の個展で(架空のレコードを)いくつか展示したことがあって、ここ数年でときどき作っていたんだけど、彼はあのスペースに架空のレコードを展示したら素晴らしいコレクションになるのではないかと思ったそうだ。それで僕にやってみないかと勧めてくれた。僕は課題やプロジェクトを与えられるのが好きなんだ」





——個展のタイトル「False Music」に込められた意味は?


ナサニエル・ラッセル「False Musicという言葉の響きが好きだから名付けたんだ。その意味は不明確だけど、目には見えない隠れた具体的な定義を示している。音楽ではないものって何だろう? それぞれの架空のジャケットを見て、どんな音楽なのかを想像してほしいんだ」


——個展では実際にレコードも販売されていましたね。音楽制作はいつから始めたのですか? アートと音楽の楽しみ方の違いは?


ナサニエル・ラッセル「音楽制作は20歳の頃に始めたんだ。独学でギターとレコーディングを習得して、最終的に曲作りと歌も覚えた。昔はアートと音楽を分けていたんだけど、今では音楽もアート活動の自然な要素だと考えている。どちらも出発点は同じだよ。僕にとっては、言葉とイメージと音とフィーリングなんだ。曲と絵の中で同じ言葉を使うのも好きだよ」


——今回の来日はいかがでしたか? 何かインスピレーションは得られましたか?


ナサニエル・ラッセル「滞在期間が短すぎたけど、日本ではいつでも仕事をしたり、インスピレーションを得たり、穏やかな瞬間を楽しんだりと、バランスよく時間を過ごせるんだ。今回はコンサートに行ったり、いくつかの美術館を訪れることもできたし、いろんなものを食べた。いつも旅をするときは、ぼんやりと物思いにふける時間が持てるのがうれしい。普段はそういう時間に良いアイデアが生まれるんだ」




——制作中に壁にぶつかることはありますか? そういう時はどうしますか?


ナサニエル・ラッセル「退屈に感じたり、だらけたり、疲れたりすることはよくあるよ。でも、そういう時にやる気を起こしたり、新たな視点から見直したりできるように、アイデアやリストをノートに書き留めてあるんだ。もし本当に何も感じられないときは、その時間を使って荷物を梱包したり、スタジオの掃除をしたり、フレームやパネルを作ったりと、より肉体的な作業をすることにしている」


——若いアーティストの卵たちに、何かアドバイスがあれば教えてください。


ナサニエル・ラッセル「とにかくものづくりを続けて。四六時中。あとはアートショーや音楽やプロジェクトなど、友だちとものづくりをしてみてほしい。クリエイティブな仕事をする上での究極の報酬は、その過程で生まれるすべての友情なんだ。良い作品を作ることは最高だし、満足感も得られるけど、理解し合える友人たちと過ごす時間こそが本物のギフトだよ。もし可能であれば、お金よりも経験を追い求めてみてほしい」




artwork Nathaniel Russell
text Nao Machida


Nathaniel Russell
http://nathanielrussell.com
https://www.instagram.com/nathanielrussell/

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