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text by Junnosuke Amai
photo by Akihito Igarashi(TRON)

Savages『Adore Life』Interview

NeoL Magazine JP | Photo: Akihito Igarashi (TRON) | Interview/Text: Junnosuke Amai | Edit: Ryoko Kuwahara

NeoL Magazine JP | Photo: Akihito Igarashi (TRON) | Interview/Text: Junnosuke Amai | Edit: Ryoko Kuwahara

今年の初め、2作目となるニュー・アルバム『アドア・ライフ』をリリースしたサヴェージズ。ライヴ録音だった3年前のファースト・アルバム『サイレント・ユアセルフ』とは異なり、楽器ごとにレコーディングを行い重厚かつモダンにビルドアップされた演奏とサウンド。そして、「とてもヘヴィな主題だし、謎解きのようなもの」と語るヴォーカルのジェニー・ベスによって今回初めて書かれた、“愛”についての考察に満ちた歌詞。より多様で奥行きのある表現を手にした彼女たちの『アドア・ライフ』は、レディオヘッドやアノーニのアルバムと並んで本年度のマーキュリー・プライズにノミネートされるなど、今年を代表する作品としてすでに高い評価を獲得している。
サヴェージズがまとう“黒”。そのアートワークやルックを飾るキー・カラーからは、それが象徴する彼女たちの態度や主張、抱え持つ感情のようなものを読み取ることができる。反抗心、タフネス、気高さ、ストイシズム……そして愚直さ。あるいは、そうしたサヴェージズとしての価値観や美意識は、何よりその音楽の表現自身に貫かれているものであると同時に、以下のベスのインタヴューが伝えるとおり、彼女たちが関心や敬意を寄せるアートやカルチャーともシェアするものでもあることが窺える。今回、2度目の来日となったホステス・クラブ・オールナイターのステージ、彼女たちはスーサイドの“Dream Baby Dream”のカヴァーを披露して、先日亡くなったアラン・ヴェガに哀悼を捧げた。

―今回のニュー・アルバム『アドア・ライフ』では初めてラヴ・ソングを書かれたということで、制作の過程ではこれまでに感じたことのなかった感情が湧き上がってくる場面もあったのでは、と思うのですが?
「今回のアルバムのテーマが、愛に対してもっと自分をオープンにして、心を開いていくってことなのね。その姿勢というか感情のあり方を、自分の人生の中でも体現していくという、そういうことがしたかったの。要するに、ありのままのその人を受け入れることだったり、もっといろんな感情に対して自分自身を開いていくっていうこと……そこで悟ったんだけど、愛に対して自分をオープンにしていくっていうことは、愛とは正反対の感情も受け入れなくちゃいけないのね。愛ってものを突き詰めようとすると、どうしてもついてくる別の感情があるわけじゃない? それは嫉妬だったり、愛する人が自分の元を去ってしまう恐怖だったり悲しみだったりって、どうしたって避けられないもので……たぶん子供の頃から誰もがみんな経験してる感情なんじゃないかな。だから、たしかに精神的にキツいというか、しんどい作業ではあるわよ。愛を探求することで、むしろ心の平穏なんてものから遠ざかってるんじゃないかしらっていう……全然気持ちが休まらない(笑)」
―愛を求めているにも関わらず?
「そう。平穏な生活を求めるなら、もっと頭の中を空っぽにしてかないとね」
―じゃあ、今はどんな状態ですか?
「そうね……現時点では自分の感情を伝えるのは難しいかな。今はまだ見えない……っていうか、冷静に自分の感情を見つめ直せる状態にはいないと思うの。今言えることは、とにかく心身ともに疲れ切ってるってことだけで、とりあえず今回のツアーが終わったら休みを取らなくちゃって。その次にどうするのかとか、今はまったく考えられない状態なの。何はともなく休みが必要だってことはわかってて。だって本当に働きづめだったのよ。しかも、ものすごく大変な1年だったし……ものすごく素晴らしいと同時に、しんどい1年でもあった。アルバムが発売されて1週間後にマネージメントから切られたりとか……今だからこそ、こうなってよかったと思えるけど、マネージメントがいないぶん全部自分達でなんとかしなくちゃいけない状況のままツアーに出なくちゃいけなかったわけで……もちろん、残ってくれたスタッフだとか、今のチームを支えてくれる人もたくさんいたし、今は新しいマネージメントがついたけど、前のマネージメントがいなくなってから何ヶ月かは本当に大変だったし、それで疲弊しきったっていうのもあるのね。だから、いろんな重圧を背負わなくちゃならなかった1年間だったのね」
―アルバムのテーマに話を戻すと、そうして精神的にもタフな作業を通じて出来上がった楽曲を、いざ作品やライヴ・パフォーマンスを通じて人前に晒すっていう場面になったとき、反応に臆するというか、不安に駆られるようなところはなかったですか?
「もちろん、思わないわけがない」
―ちなみに、今回の楽曲の歌詞を初めてメンバーに見せたときの反応ってどうでしたか?
「そうだな、曲によって違ってるわね。あまりにも個人的すぎるっていうんで、最初は受け入れてもらえないこともあったわ。でも、自分の中でしばらく考えて今回のアルバムで絶対にこれだけは伝えたいって強い気持ちが湧いてきて……それがたとえば“Adore” であり“Mechanics”なのね。曲によってはバンド内で話し合って説明した上で、ようやく納得して共感してもらえたりとかもあったし。とは言っても、そもそも難しいことなのよね。自分の人生というテーマをバンドの全員に共感してもらうっていうのは。もちろん、他のメンバーだってそれぞれに自分の個人的なテーマをバンドに持ち込んではいるんだけど、ただ、私の場合、歌詞が自分にとっては楽器にみたいなものだから、どうしてもあからさまになっちゃうでしょ(笑)」
―確かにあからさまなではあるわけですけど、ただ、それがラウドでノイジーなバンド・サウンドに乗せられることで、歌詞のイメージに奥行きや飛躍が生まれているような印象を受けます。
「もちろん。たとえば “The Answer”の『愛こそが答え』っていう歌詞とか、最初は全然言うつもりはなかったの。もともとジェマ(・トンプソン、ギター)が作ったギター・リフに合わせて書いた曲で、最初は別の曲用だったんだけど、あまりにも良いから、これを元に1曲作れるんじゃないかと思って、盛り上がっちゃって(笑)。そうやって出来た曲がすごくラウドだったから、だったらこっちも思いっきり振り切れてやろうってことでの『愛こそが答え』って歌詞なのよ。もちろん最初は躊躇したのよ。あまりにもあからさますぎるんじゃないかって。ただ、サウンドによって助けられたのね。サウンドとのコントラストで中和されると思ったから。もしもアコースティック・ギターの曲で、“愛こそが答え”なんて歌った日には、ね(笑)」

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