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text by Ryoko Kuwahara
photo edit by Ryoko Kuwahara
photo by Satomi Yamauchi

Kim Ann Foxman × PUNKADELIX Interview

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PUNKADELIX「確かにね。KIMの作る曲はダンスクラシックやシカゴハウスの影響を感じるんだけど、音楽的なルーツを教えてくれる?」


KIM「クラブミュージックを知る前からエレクトロニックミュージックにハマっていたかな。ラテンのフリースタイルやブレイクダンスの音楽、初期のエレクトロとかね。どれもドラムマシーンをベースにしたエレクトロニックミュージックだったな。80年代に育ったから、マーズの“Pump Up the Volume”やテクノトロニックによって、アンダーグラウンドなサウンドに導かれたわけ。で、誰かがものすごく安っぽいベタなテクノのコンピレーションをくれて。私が育ったハワイではそういう音楽は耳に入ってこないから『なんだ、これ!?』って一気に好きになって、同時にロンドンなんかにあるレイヴのシーンの存在を知ったのかな。1994年頃にはハワイにも小さなレイヴのシーンが誕生したんだけど、私はその頃、ハワイのクラブで働いていて」


PUNKADELIX「レイヴのクラブ?」


KIM「うん。ママがすごく厳しかったから、夜に出掛けられるようにクラブでバイトすることにしたわけ。遊びじゃなくて仕事だから、ママも許してくれて。私は未成年だったからノンアルコール・バーの担当で、レイヴに来る人たちのためにスムージーを作っていたんだよ(笑)」


PUNKADELIX「おもしろい(笑)」


KIM「そこにサンフランシスコのDJがたくさん来ていんただけど、彼らに向こうのシーンはすごくいいと聞いてたから、レイヴのためにサンフランシスコの美大に進学したの(笑)。その頃にレコードを買い始めて、レコードショップに行ったり、DJをフォローしたりして……。NYに引っ越した時にはハウスやテクノのシーンが全くなかったんだけど、レコードショッピングには最適だったな(笑)。当時The Thingという店があって、まったく分類されていない状態で全部2ドルで売ってたから、何時間も居座って、お宝が詰まったクレートを発見して興奮してた。私が引っ越した年はちょうどエレクトロクラッシュの終わりでダンスロックが流行っていたから、誰もそんなレコードに注目してなかったんだよね」


PUNKADELIX「KIMみたいに、アンダーグラウンドなテクノやハウスのシーンで、自分のアイデンティティを表現する作品を作り続けているのは素晴らしいよね。新しいものとルーツをミックスしているけど、特にこのシーンの中でそれをフレッシュに見せていくのはすごく難しいことだと思う」


KIM「ありがとう。そうだね、難しいことだよ。音楽シーンでは、多くの人が人気のあるものや新しいものに飛びつくけど、リリースする頃にはトレンドをフォローしているだけになってしまう。私は古いものにインスパイアされていて、トレンドは無視してきた。だから、ハウスやテクノがNYでイケていないとされていた時でも気にしなかったんだ(笑)。自分の大好きなものを手放さずにいたら、最終的にどこかに辿り着ける。妥協していれば経済的にはもっと稼げていたはずだけど、そうはできなかった。そんなことをしていたら、きっと今頃すごくアンハッピーだったと思う(笑)」


PUNKADELIX「NYといえば先日の大統領選は衝撃的だったけど、これからどうなっていくと思う?」


KIM「NYだけを見ると、新しい大統領は支持されていない。支持している人もいるけど、すごく奇妙な状況なんだよね。人生で初めて人々が分裂しているように感じている。『ああ、あなたは彼ら側なのね』という感じで、激しい分断が起きている」


PUNKADELIX「世界的にナショナリズム化しているよね。そういった状況が今後カルチャーにどんな影響をもたらしていくのか、すごく気になる」


KIM「このまま分裂した状態が続くか、それとも最終的にもっとオープンになるのかわからないけど怖いよね。でもこれによって人々が目を覚ますようなトレンドが生まれたらいいなと願っている。多くのアーティストには、偏った考え方を変えられる影響力があると思うから」


PUNKADELIX「歴史を振り返ってみても、悪い状況の時ほどアーティストたちが頑張っていたりする。まだ日本では音楽と政治の話はタブー視されているけど、それはむしろ逆だと思うし、これからはそうは言っていられなくなると思うよ。アメリカやイギリスの状況を見ても、アーティストたちが積極的に社会に対してメッセージを発信していたことが、とても印象的だった」


KIM「声を出して意見を言う時は、たくさんの憎しみを受ける心の準備が必要だよ。たとえば私が自分のページに何かの署名を求める投稿をすると、驚くほどのクレイジーなコメントが届くし、いわゆる“荒らし”みたいなことが起きる。それらを無視して、なんでもないような態度でいる必要があるんだよ。私は政治家でもなければ、必ずしも改革を起こそうとしているわけではないから、他の人がどう思おうがシェアしたい意見があればするようにしている。それによってフォロワーが減っても全く構わない。ただ自分の人生が生きたいだけ。自分自身や自分が良いと思うことに正直になることを恐れずにいられたらいいな」


PUNKADELIX「私はアーティストはそうあるべきだと思うし、そういう強さは作品に影響すると思う」


KIM「間違いないよね。それにインスパイアされて、リアルでピュアなアートを自分でも作ろうと思う人が出てくるかもしれない。ポップカルチャーは作られたものだから、もっとリアルなものがトレンドになるかもしれないし。今って昔に比べてセクシュアリティやジェンダーにも遊びがなくてすごく閉鎖的だよね。すべてが完璧過ぎてリアルじゃない偶像。それがマスで、完璧かつキャッチーなフックのための方程式なんだよ。私は完璧じゃなくていいから、リアルなものが好き。その人のルーツが感じられるものがいいなと思う」


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