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宇宙特集:Music Seleciton by Tsutomu Noda

SunRa


音楽で宇宙ですかぁ……、あまりにも数多くて、3枚選ぶのはじつに難しいですねー。ぼくの場合は、サン・ラー、P-FUNK、まずはこの二大巨頭が思い浮かびますが、宇宙と言っても、スペースやユニヴァースという言葉とコズミックという言葉では意味が違っていて、ぼくの二大巨頭はスペースやユニヴァースでしょうね。地球圏外の空間、もしくは地球を含む全空間といったところだと思いますが、コズミックという言葉には、神秘的なニュアンスも入るので、よりサイケ色が強まるというか、70年代のクラウトロックにおけるサイケデリック・ロックをコズミック(コスミッシェ)と形容したようにです。


 最初の1枚は直球でいきましょう。やはりサン・ラーは外せませんよね。で、彼の膨大な枚数のカタログから何を推薦すればいいのかというと、これまた難しい選択ですが、ここでは1973年にBlue Thumbというレーベルからリリースされた『Space Is The Place』を紹介します。冒頭のスペースという言葉の説明を重ねながら、このタイトルを意訳すると、「地球圏外の空間こそが私のいる場所」となります。
 どんな音楽かというと、教会のコール・アンド・レスポンスの宇宙版といいますか、教会を宇宙に見立て、ゴスペルをやろうっていうことです。ゴスペルというのは、アメリカの黒人にとっての古き共同体の教会音楽なわけです。そのことは、サン・ラーのメッセージにも繋がるこの音楽のミソです。黒人の共同体が宇宙に存在する。なんていうと、ロマンティックにも聞こえますが、Space=地球圏外というのは、アメリカの外/差別のある社会の外側というメタファーで、つまりサン・ラーとは大いなる否定の音楽なんですね。宇宙感覚の表現および彼/彼ら=アフリカ系アメリカ人の激しい感情の起伏の音的表現において電子音やフリー・ジャズのダイナミズムが加味されています。
 サン・ラーは、発表したアルバム数が(出し直しを含めたら)100枚は越えるほどの多作家で、その全作品を網羅しようというマニアが世界中にいます。だから自分には手に負えないとか、なんだかつかみどころがなく難しい印象を持っている人もいるかもしれませんが、音楽ファンならいつかは出会うべき巨星であることは間違いありません。40年代から活動しているサン・ラーは、初期はドゥーワップをやったり、50年代はスウィングをやっていたり、そしてのちにフリー・ジャズをやっていたりします。93年に亡くなっいますが、彼自身がひとつの宇宙といえるそうなほど、けっこう長く活発な活動を続けていた人です。もしこれから聴きたいという人は、まずはサン・ラーの特徴が際だっている70年代前半の作品から入って、彼の宇宙を探索してみるのがいいと思います。ひと昔前はサン・ラーを聴くことはそれ相応の(経済的な)努力を要しましたが、現代ではストリーミング・サーヴィスで彼の膨大なカタログの多くが聴けますからね。なんという時代に生きているんだと思います。エレキングからは湯浅学さんの『てなもんやSUN RA伝』というサン・ラの本を出していますので、参考にしていただけたら幸いです。


Dick Hyman + Mary Mayo - Moon Gas (Stereo Version) - Front Cover Reconstruction


 さて、お次は、なんにしましょうか……(しばし考える)。人間、歳を取ってくると、まずサイケという感覚がなくなってくるんですよね。コズミックというものへの欲望がじょじょになくなっていくんです。あまりぶっ飛びたいと思わなくなるんですね。そうなると、宇宙といったときに、スペース・エイジ・ポップでも聴くか、ということになってくる。50年代~60年代のアメリカで生まれた、カクテルを飲みながら現実逃避するために大衆化されたラウンジ・ミュージックですね。大戦後いよいよ人類が宇宙を身近に感じはじめた時代は、ちょうど33回転で12インチのレコード盤が普及しはじめた頃と重なります。大衆音楽はまだ7インチのシングルが主流の時代で、高価な12インチのLPレコードは贅沢品だった時代ですから、そこそこ消費活動ができる人たち向けのものだったんですね。スペース・エイジ・ポップのジャケットには美女が多う登場するのも、ある程度稼ぎがあって、それを自由に使える大人(男)を主な対象にしたいたんだと思います。で、スペース・エイジ・ポップの、その「宇宙」のところで電子音が活躍するわけですが、音楽の基盤となっているのは、軽めのジャズ、ラテン、あるいはドビュッシーやラヴェルだったりします。芸術というより産業として生まれた音楽ですが、近年その面白さが再評価されています。とくにクラブ・ミュージックが普及してからは、サウンドのドリーミーさゆえに安定した人気をほこっています。たくさんの名盤がありますが、ここでは、ディック・ハイマンの『Moon Gas』(1963年)を挙げておきましょう。
 その1960年代のスペース・エイジを背景に、下積み時代を経てヒットを飛ばしたのがデヴィッド・ボウイです。「スペース・オデティ」や「スターマン」といったヒット曲、そして『地球に落ちてきた男』という初出演した映画のタイトルからも、彼には宇宙からの使者めいたイメージがあります。これまで述べてきたように、宇宙を音表現するときによく使われたのが電子音(エレクトロニクス)ですが、ボウイがエレクトロニクスを彼のキャリアにおいてもっとも前面に打ち出した2作は、ヨーロッパの歴史であり、人間的なドラマを描いた作品でした。その最たる例が「ヒーローズ」です。自己宣伝めいて恐縮なのですが、この3月にエレキングから刊行した『ヒーローズ』という本は、「トム大佐」であり「スターマン」であり、そして「地球に落ちてきた男」だったデヴィッド・ボウイがベルリンというヨーロッパ史における生々しい拠点のひとつに居を構え、音楽的にはドイツのコズミッシェなどからの影響を取り入れながら、しかしじつに人間的な音楽を作ったという物語です。なんで最後は『ヒーローズ』といきたいところですが、これは宇宙ではなく人間の話で、このややこしい社会の話なので、止めていきましょう(笑)。


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 最後の1枚は、ヒップホップのオールドスクール、1983年から1984年までのあいだにトミー・ボーイというレーベルを中心に大流行したエレクトロ・ヒップホップの名盤のひとつ、ジョンズン・クルー(Jonzun Crew)の『Lost In Space』にしましょう。陽気で、お茶目で、最高にファンキーで、サン・ラの曲と同名の「Space Is The Place」なんていうのもありますが、そんな切羽詰まったシリアスさのない、前向きな意味でのバカバカしい音楽です。(談)



Tsutomu Noda/野田 努
1963年、静岡市生まれ。1995年に『ele-king』を創刊。2004年~2009年までは『remix』誌編集長。2009年の秋にweb magazineとして『ele-king』復刊。著書に『ブラック・マシン・ミュージック』『ジャンク・ファンク・パンク』『ロッカーズ・ノー・クラッカーズ』『もしもパンクがなかったら』、石野卓球との共著に『テクノボン』、三田格との共著に『TECHNO defintive 1963-2013』、編著に『クラブ・ミュージックの文化誌』、『NO! WAR』など。現在、web ele-kingとele-king booksを拠点に、多数の書籍の制作・編集をしている。
http://www.ele-king.net/




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