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text by Junnosuke Amai

JAMES VINCENT McMORROW 『We Move』Interview

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―ちなみに、ダーティー・プロジェクターズの新作(『ダーティー・プロジェクターズ』)は聴きました? 


ジェイムス「うん、素晴らしかった」


―あのアルバムなんかもまさに、あなたが今やろうとしていることと姿勢の部分で共感できる一枚なんじゃないでしょうか。


ジェイムス「デイヴ・ロングストレスからはものすごく影響を受けている。ちょうど『アーリー・イン~』を作ろうとしている頃にダーティー・プロジェクターズの『ビッテ・オルカ』を聴いて、あのハーモニーの美しさやアイデアにものすごくインスパイアされてね。デイヴも毎回違う作品を作ってるし、そのときどきの自分の感性に従って作品を作ってるよね。それとデイヴの人となりにもすごく共感できるし、多くのミュージシャンに影響を与えている人物だと思う。新作は胸が締めつけられるような痛々しい作品で、しかもそれまでデイヴが築き上げて来たハーモニーなり、ギターなり、華やかなバンド・サウンドっていうものを一切覆すような作品だよね。本当に悲しみに満ちた作品なんだけど、素晴らしくて、プロデューサーとしても本当に腕のある人なんだなってつくづく思い知らされたよ」


―そのダーティー・プロジェクターズの新作にも顕著でしたが、先ほど名前の挙がったフランク・オーシャンや、あるいはチャンス・ザ・ラッパーやカニエ・ウェストに代表されるR&B/ヒップホップの作品に通じるプロダクションやフィーリングというのが、今回のあなたのアルバムにもあると思うんです。


ジェイムス「そうだね。ただ、カニエは別格だよ。カニエが、今挙げてくれた人達の音楽の流れの土台を作ったと言っても過言じゃないし。『808’s&ハートブレイク』(2008年)なんて、自分と同世代やその下のシンガー・ソングライターはほぼみんな影響を受けてるんじゃないかな。自分個人の経験で言えば、もともとヒップホップが好きで聴いてたんだけど、あのサウンドを使ってシンガー・ソングライターのスタイルをやるっていうのが想像がつかなくて……当時の自分は、ピアノとギターっていう固定観念に縛られててね。あのアルバムを初めて聴いたときに、すごく赤裸々で、内省的なアルバムだと思ったんだ。自分の心の内をさらけ出すような感じだから、自然に感情移入できて、かつ、ヒップホップ的なサウンドを使ってここまでシンガー・ソングライター的なアプローチができるんだっていうのが、ものすごく新鮮で衝撃だったんだ」


―『808’s&ハートブレイク』を聴いて、今の自分の音楽の方向性が見えた?


ジェイムス「カニエは今どきのポップ・ミュージックの生みの親的な存在で、ドレイクとかチャンス・ザ・ラッパーも、フランク・オーシャンもボン・イヴェールも、ジェイムス・ブレイクも自分も、みんなカニエのあの作品があったから今のスタイルに行き着いたようなもので(笑)。音楽の在り方をすべて塗り替えたアルバムっていっても過言じゃないよ。最近は、チャンス・ザ・ラッパーみたいにヒップホップ側からシンガー・ソングライター的な美しい曲が生まれていたりする。要するに境界線がなくなってるわけで、それはすごくいいことだと思う。自分も1つの枠に留まってはいたくないからね。チャンス・ザ・ラッパーみたい人も、きっとヒップホップという1つの枠の中には収まっていたくないだろうし、ラッパーだからって四六時中ラップしてなきゃとは思ってはないはずで。歌いたかったら歌うし、ラップしたかったらそうするし、何をやったっていいんだ」


―ただ、今名前の挙がったアーティストの多くはオート・チューンなどを使ってヴォーカルを加工していますが、あなたはほとんどしていませんよね。そこにはこだわりがある?


ジェイムス「ヴォーカルに手を加えない理由は、自分がヴォーカリストとして成長したいからなんだ。実際、『アーリー・イン~』のときに比べてはるかに歌に表現力がついてるしね。歌えるようになるにつれて、表現したいものも増えて、もっともっと歌による表現を追求してみたいっていう気持ちになった。言うならば、人力によるオート・チューンの実践を試みている最中という(笑)。『アーリー・イン~』のときはヴォーカルにリヴァーブをかけたり、自分の声が中心に来るのを避けていた部分があったけど、作品を重ねるにつれて自分の曲に自信が持てるようになったし、もっと明確に主張したいっていう気持ちになった。それがヴォーカルにエフェクトを使わない理由なんだ。単に、高い音域のヴォーカルを出すためにエフェクトを使うっていうのは好きじゃない。音程を合わせるためにヴォーカルを加工するなら、何でわざわざ歌う必要があるんだってことになるし。カニエやボン・イヴェールのようなエフェクトの使い方は、まさにクリエイティヴで見事というほかないけどね」


―ちなみに、今回のアルバムの制作に参加したフランク・デュークス、アントニー・ポール・ジェフリーズ、ベン・アッシュの3人のプロデューサー/トラック・メイカーの中で、一番長く時間を過ごしたのは誰になりますか。


ジェイムス「ナインティーン85のポールだね。ポールこそ、今回のアルバムの影の仕掛人なんだ。ポールが背中を押してくれたから、今回のアルバムを作ることができた。ずっと自分の書いた曲をポールの元に送って意見を聞いてたんだけど、もともと自分で歌うことを想定していなくて。そうしたらある日、ポールから『これは君の作品に入れるべきなんじゃないか』ってメールが来てね。しかも、そのために自分が協力するとまで言ってくれたんだ。前からポールと一緒に作品を作れたら最高だろうなとは思っていたけど、自分からは口に出すことをしなかった。友人関係を壊したくないっていうのもあったし、ただ、とにかく忙しい人なんで。最近ではドレイクみたいな大物の作品も手掛けてるくらいだしね。だから今回も、いつものように自分ひとりで作品を作るつもりでいたんだ。ただ、ポールが『この曲は君が形にすべきだ。何かやりたいことがあるなら、それを形にするための手助けをしたい』って言ってくれてね。実際、今回のアルバムでポールの果たしてくれた役割は凄く大きかったよ」


―今回の制作に入る前に、dvsn(※ドレイク主宰のレーベル〈OVO Sound〉に所属するR&Bデュオ。ポールはその片割れ)のアルバム『SEPT. 5TH』でポールと共演したことも大きかったんでしょうか。


ジェイムス「そうだと思う。あの作品以来、僕とトゥー・インチ・パンチのベンとでちょくちょく一緒に作業するようになって、そこにdvsnやナインティーン85が絡んできたり、自分が昔録ったデモの声がドレイクの作品(『ヴューズ』)に採用されたりして……そうやって自然な流れで進んでいった感じで、決して何か意図的にどうこうっていうわけじゃないんだ。だから、作業しててもすごく楽だったし、絶対にこうであらねばならないっていうのがなかったからね。おそらく彼らと一緒に共演するために喜んで大金を積む人達がいるんだろうけど、自分はそうする気にはなれないし、自分のキャリアはあくまでも自分自身の作品でありパフォーマンスを中心に築いていくものだと思ってるから。そもそも、自分の声が『ヴューズ』に採用されること自体、自分ではまったく予想してなかったしね。dvsnのあのアルバムにしたって、もともと自分がエリオット・スミスの曲をカバーしてるのをたまたまポールが聴いて、その曲を元に一緒に作品を作ることになったんだ。自分は彼らのことが本当に人間的に好きなんで、ただ一緒につるんで音楽を作るっていうだけでも嬉しいんだ」


―ところで、先日、ダーティー・プロジェクターズのデイヴとフリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドがインスタグラム上で交わした議論が話題になりましたよね。内容をざっくりと言えば――いま、もっとも実験的で刺激的な音楽が生まれているのは、いわゆる「インディ・ロック」ではなく、先ほど名前を挙げたようなR&B/ヒップホップ・アーティストに代表されるメインストリームのポップ・ミュージックにおいてである、と。


ジェイムス「うん、そのインスタの内容は知ってるよ。ただ、両方のバンドがデビューした時の状況を自分は記憶してるんで……ちょうどフリート・フォクシーズが出て、ダーティー・プロジェクターズが出て、グリスリー・ベアの『ヴェッカーティメスト』があって、当時のインディー・ミュージックってすごく、何だろう……言ってみれば、複雑なものだったんだよね。変調を多く使っていて、複雑であるってことに、ある意味重要な意義があったんだ。ただ、彼らの音楽の複雑さや緻密さや、それを実現するための努力とは別にして、今の世の中はもっとシンプルで簡潔な表現を求める方向に行ってるんじゃないかな。それは音楽がつまらなくなったというのとは別の話で、前よりも複雑であることが重要ではなくなったってことなんだ。実際、ポップ・ミュージックでは、ジャンルの境界がどんどんなくなってきているよね。ファーザー・ ジョン・ミスティがビヨンセに曲を提供してたり、テーム・インパラのケヴィン・パーカーがレディー・ガガのアルバムに参加してたり、トバイアス・ジェッソJr.がアデルに曲を提供してたり……ね。その結果、リスナーのほうも、よりシンプルな表現を求めるようになってるんじゃないかな。実際、フリート・フォクシーズの新曲を聴いてみても、昔に比べて複雑ではなくなってるし、ダーティー・プロジェクターズのアルバムに至ってはポップですらあるからね。彼らの音楽にしたって複雑さを排除する方向に向かっているわけで、今はシンプルでわかりやすいってことが1つの鍵になっている時代なんだと思う」


interview & text Junnosuke Amai
edit Ryoko Kuwahara


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JAMES VINCENT McMORROW
『We Move』
発売中
(P-VINE)



JAMES VINCENT McMORROW
2010 年のデビューアルバム『Early In The Morning』がプラチナ・セールスを記録、続く 2014 年の 2nd『Post Tropical』が日本の音楽ファンの間でも話題となったアイルランド出身のシンガー・ソングライター。Kygoの『Cloud Nine』にフィーチャーされたことでも話題となった気代のヴォーカリストでもある。2016年12月3rd『We Move』をリリース。

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