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text by Ryoko Kuwahara
photo by Satomi Yamauchi

ジャック・ドワイヨン監督インタビュー 『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』by Jan Urila Sas

neol_Jacques_jan_3 | Photography :  Satomi Yamauchi


——ああ、それは美しい。ロダンはヴィクトル・ユゴーの彫刻をカミーユに見せているときに「動物的に見えるのだったら成功だな」という言葉を放っていますが、自由な意識がうごめいて制作物が変化していくなかで、どの段階で成功だと意識の区切りをつけるのでしょうか。


Jacques「テイクを進めていくと、あるとき突然なにかが起きて、私は初めてこれを見ているという感銘を受けることがあります。自分が書いた脚本であること、俳優がセリフを完璧に覚えていることも関係ない。明らかに自分にとってなにか新しいものを発見したという感覚なので、わかります。スタッフに『3、4分ひとりにしてほしい』と言って自分の気持ちを沈めるほどの感動で、奇跡にも近いものです。そしてその突然出現した素晴らしいシーンを、自分が信じられるかどうかを考えます。良いテイクとは、俳優がよく演技をしているとかそういうことではなく、そこに見えるものが完璧に信じられるということ。子どものように無邪気な観客として、本物だと信じられるかを重要視しています。残念ながら毎日そういう瞬間があるわけではないのですが」


——いまその瞬間のことを思い浮かべながら話されていたのだろうと思います。その瞳が忘れられません。美しいものを見てきた結晶のようです。


Jacques「ありがとう(笑)。私はヌーヴェルヴァーグから15年後にやってきた世代です。ジャック・リヴェットやロメールは時折違うやり方に挑戦していますが、ゴダールにしてもトリュフォーにしてもアラン・レネにしてもヌーヴェルヴァーグの監督たちは俳優の使い方に関して若干怠惰であるような気がします。俳優の使い方を進め、その変化を出せたのは、モーリス・ピアラ、マルグリット・デュラス、アンドレ・テシネ、そして私だと思います。ピアラと最初に道で会ったとき、『昨日君の映画を観た。俳優がよかったので驚いた。だからもう一度観に行く。そしたら欠点が見つかるだろう』と言ってきたのはおもしろかった(笑)。私たちはそのように映画を進め、いまも新しい瞬間を目にしています」



photography Satomi Yamauchi
text & edit Ryoko Kuwahara



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『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』
今年11月に没後100年を迎える、“近代彫刻の父”オーギュスト・ロダン(1840~1917)。《地獄の門》や、その一部を抜き出した《考える人》で高名な19世紀を代表する芸術家である。彼は42歳の時、弟子入り切望するカミーユ・クローデルと出会い、この若き才能と魅力に夢中になる。本作はロダン没後100年を記念し、パリ・ロダン美術館全面協力のもと、『ポネット』(1996)、『ラ・ピラート』(1984)の名匠ジャック・ドワイヨンが、ロダンの愛と苦悩に満ちた半生を忠実に描いた力作である。『ティエリー・トグルドーの憂鬱』(2015) でカンヌ国際映画祭、セザール賞の主演男優賞をW受賞したフランスきっての演技派ヴァンサン・ランドンがロダンを演じる為に8カ月間彫刻とデッサンに没頭しロダンの魂までも演じきり、“ジャニス・ジョプリンの再来”と呼ばれる『サンバ』のイジア・イジュランがカミーユを好演。2017年カンヌ国際映画祭のコンペティション作品部門にてお披露目され話題となった。
解禁された予告編では、えびぞりの裸婦モデルを前に創作に没頭するロダンの姿、さらに≪地獄の門≫や賛否両論を巻き起こした≪バルザック像≫といった代表作の創作風景が映し出される。1880年パリ、42歳を迎えたロダンが出会った愛弟子カミーユ・クローデル。互いに惹かれあい激しく愛し合う二人だが、やがて、彫刻家として名声を得たいと願うカミーユはロダンを拒絶するようになる。カミーユへの行き場を失った愛をぶつけるように、モデルたちとの官能的な絡み合いを繰り広げるロダン。愛と苦悩の日々の末、近代彫刻の父が創り上げた最高傑作誕生の瞬間とは――。


映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』は、11月11日(土)新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほか全国公開。

監督・脚本:ジャック・ドワイヨン 撮影:クリルトフ・ボーカルヌ 衣装:パスカリーヌ・シャヴァンヌ
出演:ヴァンサン・ランドン、イジア・イジュラン、セヴリーヌ・カネル
2017年/フランス/フランス語/カラー/シネスコ/120分
配給:松竹=コムストック・グループ (C) Les Films du Lendemain / Shanna Besson
http://rodin100.com




ジャック・ドワイヨン
1944年、パリ生まれ。1974年に初めての長編『頭の中に指』を監督し、フランソワ・トリュフォーから賛辞を受ける。その後、自身の製作会社を設立し『あばずれ女』(1979)でカンヌ映画祭ヤング・シネマ賞を受賞。『放蕩娘』(1981)で主演に起用したジェーン・バーキンと結婚し、現在女優として活躍するルー・ドワイヨンをもうけた。『ラ・ピラート』(1984)はカンヌ映画祭コンペティション部門に出品され、そのインモラルな内容が物議を醸すが、その後フランス一般公開で好評を博した。15歳の少年の無垢な心を描いた傑作『ピストルと少年』(1990)はルイ・デリュック賞、フランス映画大賞、ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞など様々な賞を受賞した。日本でも記録的ヒット作となった『ポネット』(1996)では4歳の女の子が母の死を乗り越えていくさまを描き、史上最年少のヴェネチア国際映画祭主演女優賞をもたらした。今回は、『ラブバトル』(2013)以来の来日となる。


Jan Urila Sas
1990年パリで生まれ、東京育ち。2008年から音楽キャリアをスタート。Naomi (jan and naomi)と共に、2013年に突如、東京のミュージック・シーンに現れた。2014年には話題のjan, naomi are”をリリース。GREAT3,The Silence(ex. the Ghost)といったベテランミュージシャン達とのセッションを積みながら、独自の世界感とセンスで、音楽にとどまらないアートの世界で存在感を表している。https://janurilasas.tumblr.com/

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