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text by Nao Machida
photo by Satomi Yamauchi

『アンダー・ハー・マウス』 エイプリル・マレン監督監督インタビュー

NeoL_ April2 | Phogotraphy :  Satomi Yamauchi


ジェンダーを超えた官能的なラブストーリー『アンダー・ハー・マウス』が、10月7日より全国で公開される。ジェンダーレスな魅力で人気のトップモデル、エリカ・リンダーの映画デビュー作としても話題の作品で、同性愛者の女性ダラス(リンダー)と、ファッションエディターとして活躍し、婚約者と幸せな同棲生活を送る女性ジャスミン(ナタリー・クリル)が出会い、恋に落ちていく姿が美しく繊細に描かれている。

メガフォンを執ったのはカナダ出身のエイプリル・マレン。女性監督として、女性の視点から描くことにとことんこだわり、現場のスタッフもすべて女性を起用したという。7月に来日を果たした監督に、本作に込めた想いやレインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)で上映した感想、そして日本のLGBTコミュニティへのメッセージなどを聞いた。



——日本公開おめでとうございます。今回の滞在はいかがですか?


エイプリル「とてもエキサイティングですし、映画が日本で公開できて感動しています。こちらのLGBTコミュニティの状況がどれだけシビアなものなのかを、私はあまりよく知りませんでした。ですので、今回の来日で本作が日本公開されることの重要性を感じて、その一部になれたことを光栄に思っています」


——監督はこれまでアクション映画など、まったく異なるジャンルの作品を手がけていますね。2人の女性のラブストーリーを描いた本作は新たな挑戦だと思うのですが、最初に脚本を読んだときはどう思いましたか?


エイプリル「脚本を読んで、すぐにこの作品との繋がりを感じました。私は映画が大好きですし、映画製作が大好きです。必ずしも特定のジャンルにこだわっているわけではありません。どのジャンルもとてもエキサイティングですし、ユニークで挑戦的だと感じるのです。本作については、私的なレベルで繋がりを感じました。すごく素直で大胆なところが気に入ったのです。セックスシーンについては、あんなに親密なシーンを撮影した経験がなかったので怖かったです。でも、自分には何か特別なものを提供できるのではないかと感じたのです」


——特にどのような部分にこだわりましたか?


エイプリル「女性の視点、恋に落ちること、強く求めること、そして誰かの側にいたいと思う、しびれるような気持ち…そういった感情を観客に感じ取ってもらうためには、どのように描くべきかを考えました。まっさらなキャンバスに青写真を描いていくように、たくさんの沈黙の瞬間を作り、会話に頼らずに、体に語らせました。自由な型にはまらないプロットですし、人生のたった48時間を切り取った作品です。とても新鮮かつユニークで気に入りました」


——確かに一つの週末の物語なんですよね。


エイプリル「『なぜそんなにすぐ恋に落ちるんだ』とか、『すぐに相手のことを理解できるわけないじゃないか』と批判されることもあります。『人生や夫との関係を捨ててまで一緒に居たいなんて、どうしてそんなにすぐにわかるんだ』と。でも、だからこそユニークで特別な作品だと思っていたので、心配はしていませんでした。実際に街を歩いていたら誰かに出会って、人生が変わることだってあります。相手の年齢や文化や性別には関係なく、すべてを超えて繋がりを感じることもあるのです」


——女性の視点から女性同士の関係を描く上で、どのようなことに気を配りましたか?


エイプリル「スクリーン上に女性の視点を持ち込むことが、とても重要だと思っていました。そのためにも、まずは幼い頃から言われてきたことや、広告やテレビや映画などで見せられてきたセックスや女性のイメージをすべて忘れる必要がありました。その大半は、男性を刺激することが目的だったり、男性の妄想だったり、男性が想像する女性像であって、真実とは限りません。自分の中に植え付けられたイメージを削除して、自分の内側を見つめる必要がありました。人として、どのようなときに誰かと親密になりたいかと考えたのです。そして、それを音楽やカメラワークや照明を駆使して視覚化する方法を考えました。女性の視点であることを明確にするために、できる限り素直に描く必要がありました。少なくともそうすることで、男性が抱く妄想ではない、新しい何かを生み出すことができると思ったのです。自分の中に植え付けられた情報と常に戦わなければならなくて、まるで綱引きのようでした。女性の視点や自分にとっての真実に向き合うまでは、洗脳されているような状態だったのだと思います」


——自分自身が同性愛者ではないので、そこまで登場人物に共感できると思っていなかったのですが、劇中でダラスが「私はただ自由になりたいんだ」と言ったとき、完全に共感している自分に気づきました。


エイプリル「セクシュアリティに関係なく、きっと誰もがそのような気持ちを抱えているのだと思います。私たちの誰もが他の人とは違う部分を持っていて、それによって世界から取り残されたような気持ちになるのではないでしょうか。パートナーや友だちにでさえ、心を開くのが怖くなってしまうときもありますよね。あなたが境界線を忘れて、ラブストーリーとして受け入れてくれたことをうれしく思います。それこそが、私たちが望んでいたことですから。私たちは普遍的なラブストーリーを描き、そこに2人の女性が描かれることを、当たり前のことにしたいと思っていました。それは2人の男性でもあり得るし、性別や文化は関係ありません。それよりも、主人公が自分の抱く強い気持ちに気づいて、平凡で安全な人生から飛び出す勇気を得ていく姿を描くことが目的でした。だからこそ、この作品はこんなにも美しいのだと思います」


——あなたはダラスやジャスミンに共感しましたか?


エイプリル「どちらにも共感しました。でも、長年付き合っている人がいるので、婚約者のいるジャスミンのことの方がよりよく理解できました。それに、私は恋に落ちたら完全に心から落ちてしまうタイプなのです(笑)。ダラスはガードが堅くて、いろんな女の子と付き合っているし、一夜限りの関係でも構わない人ですよね。でも、私はいつでも感情的にものすごくはまってしまうのです。『もうこんなに感じたくないから、放っておいて!』というくらいに(笑)。だから、どちらかというとジャスミンに共感するのだと思います」

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