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text by Shiki Sugawara

Short Shorts Film Festival 2018 Report

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世界130以上の国と地域から集まった1万本を超える作品の中から優れたショートフィルムを選出する短編映画の祭典、ショートショート フィルムフェスティバルが本年も開催。記念すべき20周年を迎えた今回も、250本あまりの25分以内の映画作品が上映された。
20回目の節目となる年、コンセプトを“Cinema Smart”~想像力で人生を発見する~と掲げ、映画がもたらす想像力による人生の知を探求した。ここではショートショート フィルムフェスティバル2018受賞作品の中から厳選した二作品を紹介。


1.ジョージルーカスアワード受賞作品『カトンプールでの最後の日』

うだるようなシンガポールの熱気のなか、汗の玉を首にびっしり付けた男が急ぐようにプールへ駆け込んでくる。大きく息をしながらプールサイドを見渡す。あの日から変わらないままのカトンプールが少年時代の“ある男”への憧憬の念を引き戻し、スーツのまま水面へ飛び込む。


シンガポールでは1980年代から現在まで政府による同性愛の統制が厳格に行われている。特に男性間の性交渉は犯罪とし、2年以下の禁固に処される。また、違法行為に言及することも避けなければならず、同性愛や安全な性交渉についてのガイドをボランティアが配布するのを、警察がやめさせたという報告もある。当然、映画を含む芸術作品が同性愛を題材として取り扱うことも禁止されている。
シンガポールでは今も統制改正の賛成派と反対派による文化戦争を政府が押さえ込み、出口は見えない状況だ。


本作の終幕曲として使われる『もみの木』は、もともと普遍的な愛を賛美する曲として生まれたが、時の流れとともにクリスマスキャロルとして歌われるようになった。もみの木は、人間の移り気な情感に対して変わらぬ愛の比喩として用いられている。一年を通して冬のないシンガポール、それもプールを舞台としたこの作品で聞こえる『もみの木』は、これまでの単なるクリスマスキャロルとしての存在とは間違いなく一線を画して観客の心に訴えかける。



『カトンプールでの最後の日』(Benjamin’s Last Day At Katong Swimming Coplex)
Yee Wei Chai/15:19/シンガポール/ドラマ/2017 シンガポール国際映画祭2017-オフィシャルセレクション、シンガポールパノラマ部門

STORY
幼少期に通っていたカトン地区のプールが解体されることを聞きつけたベンジャミンは、過去に感じた魔法のような時間を取り戻そうと願いながらプールへ向かう。


2. 和楽器バンド特別製作作品『遠い時間、月の明かり』


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音楽と映画の関係性は近年、切っても切れない結びつきを強化している。日本で社会現象にもなった『君の名は。』、またハリウッドでも『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』といったニューエイジ・ミュージカル映画、そして『ベイビードライバー』など数を上げればきりがないほど音楽に密接な名作が生まれ、映画館を賑わせている。この現象で、映画のサウンドトラックの売り上げは急増しており、米ビルボードによると2017年には全体を通し昨年比でその売り上げは3割アップしたという。まさにメディアミックス的相乗効果が表現の可能性を拡げているのだ。


本作『遠い時間、月の明かり』は“和楽器と洋楽器の融合”で音楽性の改革を追求し続ける、和楽器バンドによる楽曲『細雪』をモチーフとした作品である。和楽器バンドによる儚くも彩り鮮やかな音色は、本作の遠く離れた男女の間に数奇な出会いともよべる縁をもうけ、日本特有の“侘び寂び”といった本質的な点に繋がりを持たせるのみでなく、さらに美しい疾走感を躍動的にドライブさせた。
また語り口としてボーカル鈴華ゆう子が参加し、まさに映像・詩・音楽の三位一体としての世界観の広がりを豊かにしている。
メガホンをとった岸本司監督の語る「曲に導かれて物語を作ることは至福の体験だった」との言葉通りの本作は、ショートフィルムというジャンルにおいて音楽と物語の出会いといった新たな可能性を見せてくれる。


タイトル:遠い時間、月の明かり
出演:本仮屋ユイカ、尚玄、嘉人、モコ(アイモコ)
ナレーション:鈴華ゆう子(和楽器バンド)
監督:岸本司
主題歌:和楽器バンド「細雪」
作品時間:12分17秒



ショートショートフィルムフェスティバル & アジア 2018 in 横浜(SSFF & ASIA in YOKOHAMA)(『カトンプールでの最後の日』上映予定)
2018年8月17日(金)~2018年8月19日(日)
横浜美術館 レクチャーホール
6月開催のSSFF & ASIA 2018で上映された作品の中から厳選したショートフィルムを上映。さらに、「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA」と連動したスペシャルイベントとして、ダンスをテーマにした作品上映付トークイベントを実施。
鑑賞料金:無料(一部有料イベントあり 1000 円)
チケット予約サイト http://shortshorts2018yokohama0817.peatix.com
主  催:ショートショート実行委員会 / 共催:横浜アーツフェスティバル実行委員会
公式サイト:http://www.shortshorts.org/2018/yokohama/



text by Shiki Sugawara

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