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text by Shiki Sugawara

FIVE BEST MOVIES of 2018‼

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ここ最近の映画シーンは春の時代と呼べるほどの充実度で、公開作のチェックに油断が出来ない嬉しい悲鳴が上がる。急激な価値観の変革やNetflix・Amazonプライムビデオなどビデオ・オン・デマンドサービスの爆発的普及、そして技術発達により映画制作への参入ハードルが下がったことでより多岐に渡ったクリエイターが頭角を現してきたことが、近年の映画シーンがみせる盛り上がりの理由として考えられるだろう。昨年も沢山の素晴らしい作品が公開されたが全てを紹介していくのはキリがないので、今回は”今だからこそ観てほしい!”そんな作品を5本に選りすぐってご紹介。



1.スリー・ビルボード



近年映画の宣伝文句として”予測不可能”という言葉が用いられる。それほど人々は驚きを求めているし、どうせ表現に触れるなら知らない世界を見たいものだ。この『スリー・ビルボード』を観たときに感じたのはまさに究極の”予測不可能”感であった。

本作はミステリーの形を取っているが、公開後9か月が経った昨年11月に犯人考察記事がネットに上がるやいなや、ネット上ではちょっとした騒動となった。というのも、「本作において犯人を考察するということ自体ナンセンスなのではないか?」という意見が多かったためである。つまり鑑賞者の捉え方自体が議論になるほど、この作品は私たちが観てきたこれまでのあらゆる映画とは一線を画している。 実際私も鑑賞後劇場を後にしてから友人と「本当に良かったね」と言い合うだけに何時間も費やしたが、どんなに頑張っても具体的な言葉が出てこなったのを覚えている。 ミステリーというジャンルの枠組みを超えた本作は、映画的ステレオタイプを捨て知らない世界を私たちに届けてくれるのだ。


2.ROMA




主人公クレオによって掃除されている石畳のクロースアップショットから始まるオープニング。絶え間なく流される石鹸水に反射して見える空からは、ミクロを通してマクロを見つめるという本作の姿勢がうかがえる。
70年代初頭、メキシコシティの裕福な白人家庭に使用人として仕えるクレオは監督アルフォンソ・キュアロンを育てキュアロン家に仕えていた女性リボリアがモデルとなっている。実際にリボリア本人の口から語られたエピソードで形成された本作は、監督自身の非常にパーソナルな思いが詰まっている。リボリア役のヤリッツァ・アパリシオは演技初経験にも関わらず、クレオの慈愛やたおやかな美しさを表現し圧倒的な存在感を放つ。作中強調される、一人で掃除をし一人で決断し一人で子供を産むクレオの姿と、”誰がなんと言おうと、私たち女性はいつだって孤独なのよ”という台詞。仕える家庭の崩壊、政情に揺れる激動の70年代メキシコの中に強く生きるクレオを通して見える、全ての女性たちによる壮大な戦いのサーガに向けられた賛歌のような映画だ。なお、本作はNetflixが配給権を獲得しているいわゆる”Netflix作品”ながら、ゴールデングローブ賞で各賞を受けており非劇場公開作品のこれからの可能性を期待させる。

3.アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル


クリストファー・ノーランによるバッドマン三部作をはじめ、最近では『スーサイド・スクワッド』、デッドプールシリーズ、『ヴェノム』などダークヒーローの時代だ。倫理ではなく自分自身の美学のもと戦う彼らの姿に魅せられる人々は多い。だが真のダークヒーロー(ヒロイン)、トーニャ・ハーディングのことをご存じだろうか?

1994年リレハンメル五輪フィギュアスケート女子代表を決める全米選手権で有力選手ナンシー・ケリガンが何者かに襲われたのち、トーニャはオリンピックへの切符を手にした。しかし、彼女の元夫が容疑者として逮捕されたことで世界中から疑惑の目を向けられ、以降彼女は世界中から徹底的に目の敵にされてきた。本作は、事件までの道のりやスケート演技、そして彼女や周辺人物による実際のインタビューまでを再現した自叙伝なのだが、デッドプールもビックリのなんともヘンテコで爽快な作品になっている。冒頭、現在のトーニャがカメラ目線で放つ一言「生まれたときからずっと痛められ続けてきた。今度はあんたたちが私を痛めつけてきたんだ、あんたたちみんなだ」、これこそが彼女の美学。世界中から目の敵にされるもっと前から、世界中を敵に回し続けてきたトーニャの姿はなぜかめちゃくちゃかっこいい!(ちなみにトーニャ役は『スーサイド・スクワッド』でハーレイクインを演じたマーゴット・ロビー。ダークヒロインを演じさせたら彼女の右に出る者は今のところいないのでは……)



4.ザ・ライダー



ドキュメンタリックかつ詩的な魅力を持つ映像に対し、アメリカ人であること・カウボーイであること・男性であることへの執着を描いた本作は、北京出身の女性監督クロエ・ジャオによって手がけられた。主人公のカウボーイ(ブルライダー)レーンは、ロデオの事故で頭部に重傷を負いライダーとしての生命が終わろうとしている。ライダーであることこそが男だというその地の文化のなかでライダーであることをアイデンティティとして生きてきた彼。それでも自分のどこかに潜んだロデオに対するピュアな愛を見つけるべく身体的ハンデを背負いながら命がけでもがく。演技経験のない地元のカウボーイをキャストとして迎える本作の制作スタイルは、実験的でありながらも確実に彼らやその地に根張れた文化背景や生活、時間を描き出し、映画の限界を越えた表現を可能にした。

『ザ・ライダー』の高い評価を受けアジア女性として初のマーベルシリーズの監督就任が決定しているクロエ・ジャオ自身こそ、本作同様に新たな可能性を開拓する存在となっている。

日本では劇場未公開作となっており、Amazonプライム・ビデオなど動画配信のみで鑑賞できる。


5.ゴッズ・オウン・カントリー



イギリスの小さな田舎町にある農場を継ごうとしているジョニーは、父親の病気や、伝統と自らのセクシュアリティなどの葛藤から酒におぼれた日々を送っていた。しかし農場に外国人労働者として来たルーマニア人ゲオルゲの存在が彼の世界を揺るがすこととなる。最初は反発しあうふたりだったがストイックで愛情深いゲオルゲにだんだんと惹かれていくジョニー、そしてそれをゲオルゲも受け入れてゆく。濃霧垂れ込める荒涼な田園風景と生命力溢れる男二人のロマンスが織りなすコントラストが美しく儚い。

イギリスのEU国民投票を受けて撮影され、より孤立したイギリスの展望が秘める不安感をジョニーと農場を通して描き出している本作はベルリン国際映画祭、サンダンスなどで批評家からの絶賛を受けた。しかし、日本での国内配給がつかず、第27回レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~で上映されたのみだった。その後、数人の有志により5回のみの劇場上映権を獲得、東京と大阪での鑑賞チケットは全て即完売となり、再上映を望む声も多く出たことからこの度全国公開が決定した最注目の一本。


text by Shiki Sugawara



『スリー・ビルボード』
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『ROMA』
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Netflixにて配信中


『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』
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『ザ・ライダー』
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『ゴッズ・オウン・カントリー』
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2/2(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかでロードショー
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