NeoL

開く
text by Ryoko Kuwahara

『カメラを止めるな!』上田慎一郎監督インタビュー/『One Cut Of The Dead』 Interview with Shinichiro Ueda

main_場面写真


挑戦であり革新である37分ワンカット、意表をついた構成、そして何より完璧なエンターテインメント作品として国内外で熱狂的な社会現象を巻き起こし続ける映画『カメラを止めるな!』。タイプの全く違う観客同士が否応なしに一体となる嬉しい映画体験、そして鑑賞後の晴れ晴れとした観客たちの顔。そんな娯楽映画“楽しいもの“の原点でもあり総てが詰まった本作は、いま私たちが求めていたのはこの感覚だったのだと気付かされる。誰もが何かを発信したがっている時代の中で作品の魅力を尊重してネタバレ厳禁を死守している現象からも、観客がこの作品をいかに親身に考え、愛しているかがわかるというもの。12月5日(水)のBlu-ray&DVD発売決定を記念して、上田慎一郎監督に改めて話を聞いた。



――NeoLでは現在アメリカのオースティンで開催されたジャンル映画の祭典ファンタスティック・フェスティバルを特集していますが、本作『カメラを止めるな!』も出品・上映され好評を得ていました。そういった海外からのラブコールを監督自身はどう捉えられていますか?


上田慎一郎「現在国内では公開から4カ月が経ち、ファンイベントといった催し物が行われているタイミングなので海外の映画祭に僕は行けていないというのが現状なんです。けれど、SNS上で聞こえてくる海外からの“面白かった!”という声は本当に嬉しく受け止めています。台湾でも日本映画としては驚くような興行成績を収め、国内外で18の賞を戴いていたり、日本だけではないお褒めの声をいただいていて。でも、最初から海外を視野に入れていたわけではなかったので、世界中で愛される映画になったというのは想定外の喜びでした」


――本作の汗の匂いすら感じさせる序盤の長回しは、まさに挑戦ともいえる革新的なシーンでした。


上田慎一郎「あのシーンはもちろん最初は色々な大人に反対をされました。ブンブン振り回す長回しですので、“1カット風”に繋ぐこともできたのですが、そうすると役者のテンションや空気感が繋がらないなと考えました。また、経験豊かではない役者と30代を中心とした若いスタッフが、37分間ワンカットでゾンビサバイバルものを撮ると必ずほつれやほころびみたいなものが出てくるだろうなと思ったのです。そして、むしろそういうものを一緒くたにしてフィクションとドキュメントがない交ぜになったライブ感を作ろうと考えてあのシーンが生まれました」


sub_場面写真_002


sub_場面写真_007



――『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年ジョージ・A・ロメロ監督)がお好きとお聞きしていますが、ロメロ作品のように時代性を反映させたエンターテイメント作品はむしろ時を経ても人々から愛される作品となります。『カメ止め』にもそういった時代性が感じられる要素があるとしたら、どういった点でしょうか。


上田慎一郎「ないですね(笑)。日本は映画的な面白さというよりも、メッセージやテーマ、時代性といった意義に重きを置かれることが多いと思います。僕はそうではなくて、とにかくただただ“面白い映画を作ろう”“娯楽映画を追求しよう”という気持ちで作っているんです。本作の劇中でも“出すんじゃなくて、出るんだよ!”というセリフがありますが、時代性やメッセージ、テーマは無くていいというわけではなく、意図せずにじみ出ていくものだと思います。にじみ出ていくものに任せました」

sub_場面写真_004


sub_場面写真_003



――“楽しいものとは何か”というプリミティヴな点を追求したということ自体が今の時代性を反映させた結果となっている気がします。おっしゃられていたように、日本のみならず海外の劇場でも鑑賞後みなさんが晴れ晴れとした顔をしていたのが全てを物語っていたと思います。監督自身の娯楽作品やポップカルチャーにまつわる思い出はありますか?


上田慎一郎「思春期の頃はハリウッドのブロックバスターものが大好きでした。『タイタニック』『インディペンデンス・デイ』『アルマゲドン』から入って、そのあとタランティーノのような90年代のいわゆる作家性の強い大衆作品にハマりまして。また、映画以外で言うと小学生の頃プレイステーションとセガサターンが発売されてゲームの全盛期を体験しました。『ファイナル・ファンタジー』や『メタルギア・ソリッド』といったソフトをプレイしていましたね。漫画も大好きで、未だに自宅の本棚に千冊以上あります。あとは、お笑いも大好きで、特にダウンタウンさんの映像は観れるだけ観て自分たちでも真似して漫才やコントを作って披露したりする子供でした。影響を受けたもの、というとキリがないほどいっぱいありますね(笑)」


――ゲームで言うとどちらのタイトルもストーリー性が強い作品ですね。


上田慎一郎「小島秀雄さんの作品は特に映画のような世界観ですよね。最近、小島監督が『カメ止め』Tシャツを着て“面白かった!”とツイートしてくださっていたのを見て不思議な気持ちになりました。漫画界でも『スプリガン』『ARMS』の皆川亮二先生も大好きなのですが、今度『カメ止め』の長回しシーンを漫画化してくださるということになりまして。子供の頃に憧れていたヒーロー達が自分の映画を観てくれて褒めてくれている現状は本当に不思議です」

sub_場面写真_010


sub_場面写真_011


sub_場面写真_008


――“大嘘が現実を変えた”がどんどん拡大していますね……。まだ質問してもよろしいですか? もう終了時間ですよね。


上田慎一郎「大丈夫です、止められるまでやりましょう!(笑)」


――ありがとうございます(笑)! 今回の脚本はアテ書きということでそれぞれのキャストの内面を知るためにどのようなことを行われたのでしょうか?


上田慎一郎「キャストにはワークショップで台本読みだけではなく作文の提出をお願いしました。“あなたが諦めたこと”といったテーマで。また、スタッフとして短編映画を撮ってもらったりもしました。そうやってキャストそれぞれの内面を知ったあとにアテ書きをしましたね」

――なるほど。失礼ながら、鑑賞して思ったのは「『カメ止め』は失敗や挫折の味が分かっている人じゃないと作れない映画だ」ということでした。


上田慎一郎「中学生や高校生のころは自主映画や演劇を作っていたのですが、当時は上手くいっていたんです。賞をもらったり大会で選抜されたりして、成功体験が積み重なっていたのですが、そのあと20~24歳のあいだであらゆる失敗をしました。詐欺まがいの事件に巻き込まれたり、小説を書いて出版したけど売れなかったり、ホームレスになったり。その後改めて映画制作を再開したのですが、20代前半の右往左往して失敗にまみれた時期は自分にとってすごく大切ですね。当時、失敗したことなどを毎日ブログに書いていたんです。ホームレスの時期も続けていましたが、そうやって辛い自分を一歩引いて観察し、面白おかしく書くといった作業は今考えるとコメディの作り方なんですよね。今にすごく活きている経験です」

(「そろそろ、カメラを止めます!」)


上田慎一郎「止められました(笑)」


――ありがとうございました(笑)!




『カメラを止めるな!』
http://kametome.net/

6/23(土)より新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサにて公開。ウディネ・ファーイースト映画祭(4/20~28・イタリア)にてSilver Mulberry Award(観客賞2位)受賞。FANTASPOA映画祭(5/17~6/3・ブラジル)にてインターナショナル部門・最優秀作品賞受賞。


とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に 本物のゾンビが襲いかかる!大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。
”37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイブムービー!”……を撮ったヤツらの話。



監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールのシネマプロジェクト第7弾作品。短編映画で各地の映画祭を騒がせた上田慎一郎監督待望の長編は、オーディションで選ばれた無名の俳優達と共に創られた渾身の一作。
脚本は、数か月に渡るリハーサルを経て、俳優たちに当て書きで執筆。他に類を見ない構造と緻密な脚本、37分に渡るワンカット・ゾンビサバイバルをはじめ、挑戦に満ちた野心作となっている。2017年11月に初お披露目となった6日間限定の先行上映では、たちまち口コミが拡がり、レイトショーにも関わらず連日午前中にチケットがソールドアウト。最終日には長蛇の列ができ、オープンから5分で札止めとなる異常事態となった。イベント上映が終わるやいなや公開を望む声が殺到。東京2館での公開から、国内&海外映画祭での評判やSNSなどで口コミが広がり日本全国47都道府県で感染上映、観客動員数200万人突破、330館28億円の大ヒットを記録し(2018年10月時点)、世界24か国60か所の海外映画祭上映、15冠に輝き、国内外で熱狂的な社会現象を巻き起こし続ける上田慎一郎監督長編デビュー作品。無名の新人監督と俳優達が創った”まだどこにもないエンターテインメント”。


監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:濱津隆之 真魚 しゅはまはるみ 長屋和彰 細井学 市原洋 山﨑俊太郎 大沢真一郎 竹原芳子 浅森咲希奈 吉田美紀 合田純奈 秋山ゆずき
撮影:曽根剛|録音:古茂田耕吉|助監督:中泉裕矢|特殊造形・メイク:下畑和秀|ヘアメイク:平林純子|制作:吉田幸之助|主題歌・メインテーマ:鈴木伸宏&伊藤翔磨|音楽:永井カイル|アソシエイトプロデューサー:児玉健太郎 牟田浩二|プロデューサー:市橋浩治
96分/16:9/2017年


DVD_sell_kesyoshi_2017_new


上田慎一郎監督作品『カメラを止めるな!』
12月5日(水) <豪華特典映像収録> Blu-ray&DVD発売/『お米とおっぱい。』DVD同日発売決定。
初のソフト化でもあるBlu-ray(セル)には、
約135分におよぶアツアツ豪華特典映像が満載!!(初回特典は特製プックレット付/DVDはメイキング、コメンタリーのみ収録45分予定)


・2種類のオーディオコメンタリー<監督&キャスト16名(わいわいver.)><うえだ監督&ふくだみゆき監督夫妻(じっくり語りver.)>

・貴重映像満載のメイキング
・未公開シーン
・国内外舞台挨拶集
・「ENBU OF THE DEAD」A&Bパターン
・「ONE CUT OF THE DEAD」GoProバージョン
・ 「ポン!」~護身術教材ビデオより~
・ 浅森咲希奈のカメ止めダンス!〜踊ってみた〜
・日本版予告編
・外版予告編


発売にあわせ、上田監督の初期唯一の長編作品『お米とおっぱい。』DVDの同日12.5発売も決定。2〜3カ月ものリハーサルを重ね本番に挑み、6分間の長回しや「カメラを止めるな!」で腰痛カメラマン役の山口友和が生真面目なサラリーマンを演じているなど、「カメ止め!」ファン注目の長編デビュー作品(2011年)。



上田慎一郎監督コメント
劇場でしか味わえないアツアツポイントがあれば、Blu-ray&DVDでしか味わえないアツアツポイントもあるはず!
好きなシーンを無限ループして楽しむも良し、一時停止して好きなキャラの表情を堪能するも良し、
家族や友達とツッコミながら見るも良し。これでカメ止めの楽しみ方がポンポン広がるはず!
特典映像は容量の限界まで詰め込みました。全135分を予定(本編より長い!)!最高かよ、おい!
ご覧になる際は丸一日空けておいてください。よろしくでーす!       


※特典映像はBD135分、DVD45分予定
© ENBU ゼミナール

<発売・販売> バップ


Print
『お米とおっぱい。』
©2011 PANPOKOPINA

<発売・販売> バップ


上田慎一郎
映画監督。1984年 滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を制作し、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2010年、映画製作団体PANPOKOPINAを結成。現在までに7本の映画を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。2015年、オムニバス映画「4/猫」の1編「猫まんま」の監督で商業デビュー。妻であるふくだみゆきの監督作「こんぷれっくす×コンプレックス」(2015年)、「耳かきランデブー」(2017年)等ではプロデューサーも務めている。「100年後に観てもおもしろい映画」をスローガンに娯楽性の高いエンターテインメント作品を創り続けている。本作が劇場用長編デビュー作となる。
主な監督作:短編映画 「ナポリタン」(2016年)、「テイク8」(2015年)、「Last WeddingDress」(2014年)、「彼女の告白ランキング」(2014年)、「ハートにコブラツイスト」(2013年)、「恋する小説家」(2011年)、長編映画「お米とおっぱい。」(2011年)。



text Ryoko Kuwahara

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS