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text by Nao Machida
photo by Satomi Yamauchi

「A. Savage – Golden Week Blues-」 アンドリュー・サヴェージ来日インタビュー/Interview with Andrew Savage about “A. Savage – Golden Week Blues-”




フジロックでのパフォーマンスで日本にも多くのファンを持つニューヨークのロックバンド、パーケイ・コーツ。そのフロントマンにして、独特な世界観を放つ作品を展開するアーティストとしても活躍するアンドリュー・サヴェージ。グラミー賞最優秀レコーディング・パッケージ賞にノミネートされた『Human Performance』のアートワークを含む、すべてのアルバムジャケットやバンドTシャツなどを手がけてきた。だが、実はそれだけにとどまらず、音楽とは独立したアーティストとしてのキャリアをしっかりと築いている。東京での初めての個展「A. Savage – Golden Week Blues-」が開催された原宿のBig Love Recordsにて、来日したアンドリューに話を聞いた。(→ In English



——日本へようこそ!


アンドリュー・サヴェージ「ありがとう。今回は3度目の来日なんだ。日本は大好きだよ。毎回帰国の日が来ても帰りたくないくらい、本当に魅惑的な街だ。ニューヨークには長年住んで慣れ親しんでいるから、時にはよそ者として少し途方にくれたり、たった一人でさまよっているような気分になったりするのもいいものなんだ」


――出身はどちらですか?アートの道に進んだきっかけは?


アンドリュー「テキサス州だよ。大学で絵画専攻だったんだ。最初は音楽だったんだけど、僕には向いていなくて絵画に転向した。僕が入った音楽コースは競争が激しくてさ。当時はアップライトベースを弾いていたんだけど、それが11歳のときに始めた初めての楽器だった」


――子どもの頃から絵は描いていたのですか?


アンドリュー「子どもの頃はペインティング(絵の具を使った絵画)ではなく、ドローイング(イラストなどの線画)をしていたんだ。絵画は大学で始めたんだけど、大学時代はほとんどグワッシュで描いていた。卒業後はしばらく絵から遠ざかっていたよ。ニューヨークに引っ越したから、アパートに絵を描けるだけのスペースがなくてね。2014年になって自分のスタジオを構えた」


――ニューヨークには音楽のために引っ越したのですか?


アンドリュー「ニューヨークには、ただニューヨークに移り住むために引っ越したんだ。知り合いが少なかったから、一年目はすごくエキサイティングだったよ。街について学んだり、新しい友だちを作ったりして」




――パーケイ・コーツを始めたのはいつ?


アンドリュー「パーケイ・コーツは2010年にニューヨークで始めた。バンドのアートワークはすべて自分で手がけてきたから、常にアートには関わっていたのだけど、絵画は2014年に始めたんだ」


――今回は東京での初の個展開催おめでとうございます。作品を間近で観ることができて、すごくうれしいです。


アンドリュー「僕もだよ。光栄に思っている」


――今回の個展を「Golden Week Blues」と名付けた理由は?


アンドリュー「きっかけとして、まずは主題を決める必要があった。ゴールデンウィークに開催されることは聞いていたし、さらに絵を描きたいブルーのジャケットがあったんだ。(ジャケットに絵を描くことは)最近ちょっとやっているんだけどね。だから、“ブルース”はブルーのジャケットを意味する。つまり、僕はゴールデンウィーク用の自分の衣装を作りたかったんだ。ここに並ぶのはゴールデンウィークの衣装なんだよ。でも、音楽としてのブルースみたいなものでもある。二重の意味があるんだろうね」


――なるほど。


アンドリュー「それに僕は会場のBig Loveの大ファンだから、彼らにオファーされてすごく光栄だ。本当に良い人たちだし、クールな店だし、コミュニティーでもあるよね。今回の滞在中、昼間は店で過ごしているんだけど、いろんな人が遊びに来る。すごく良いコミュニティー感があって、世界中の人からリスペクトされているんだ。今回彼らのために作ったプリントやTシャツは、僕にとっての東京とニューヨークを並べてあって、だから“ネオトーキョー”“ネオヨーク”と書いてある。それに、一般的な都市や都市生活に関して、特に後期資本主義においては、グローバル資本主義がいかに様々な場所を均等化しているか、世界中の都市生活を一つの経験にしているかを意味している」


――確かに世界のどこでも大都市はどこか似ている気がします。


アンドリュー「今回の個展のために書いたアーティストステートメントの中で、僕は世界中のどこにでもあるコーヒーショップをメタファーとして挙げた。みんなから『どの店のこと?』と聞かれるんだけど、特定の店を指しているわけではない。僕が言いたいのは、世界のどの街にいても、自分の居場所を考えずに同じような消費者経験ができるということ。つまりは、何が東京とニューヨークをユニークな存在にしていて、何がそれらを同質的ではなくとも似たような存在にしているのか、ということだ。だから野球のようなたくさんのイメージを描いた。それは2つの都市の似ている部分でもあり、同時にそれらを少しだけユニークな存在にするものだから。一般的に野球カルチャーは、とてもユニークなものなんだ」




――あなたの絵画にはイラストレーションの要素も含まれています。子どもの頃にイラストを描いていたことが影響しているのでしょうか?


アンドリュー「だろうね。その理由から、僕は絵画ではあまり線を使わないようにしている。イラストと絵画には違いを感じているし、イラストっぽく見えるかもしれないけど、絵画はイラストではないから。そこら中にあるものだから、僕を含め、誰もが人生においてイラストに触れてきたはず。でも、『Wide Awake!』のジャケットのように、イラストは(絵画とは)別物だと思う。もっと線に頼っていて、どちらかというと漫画風なんだ。実はあのアートワークはエルジェ(『タンタンの冒険』)のような漫画家へのオマージュだった。その一方で、絵画では線を使わず、色にフォーカスして形を作ることが多い」


――子どもの頃に影響を受けたアートはありますか?


アンドリュー「漫画は間違いないね。僕にとって『レン&スティンピー』は大きかった。多分あれのおかげで絵を描くことを楽しむようになったんじゃないかな。めちゃくちゃはまっていたよ。Tシャツやぬいぐるみも持っていた。すごくキモくて変なんだよね。あの番組は現代には通用しないんじゃないかな」


――アルバムジャケットを作るときは音楽というインスピレーションがありますが、今回のような個展の場合は、最初にコンセプトやテーマを決めるのですか?それとも、描いていく中でコンセプトが決まるのですか?


アンドリュー「絵画をはじめとするすべての創作活動において、僕は事前にじっくりと計画を練るんだ。文章を書いたり、スケッチしたりして、自分が伝えることや伝えたいことを見出そうとする。創作期間の半分は計画に費やしているよ。今回のプロジェクトでは、スタジオの壁に貼った絵や文章をじっと見つめていた。自分が伝えたいことを理解するのは、とても大切なことだから。コンセプトやメッセージなしに絵を描き始めると、作品が少し不明瞭になり、意味のないものになってしまうことに気づいた。ただきれいな絵を描くだけだと、飾り物になってしまう。作品には意味が必要だし、そこに込められたコンセプトが不可欠だ。今回展示しているジャケットだって、ただいろんな形をペイントしただけではソウルがなくなってしまうだろう? 作品にはソウルが必要で、コンセプトが必要なんだ。僕にとって空っぽだったら、みんなにとっても意味のないものになってしまう。まずは自分にとって意味を持つことが必要だ」




――自分でアートワークを手がけるミュージシャンは他にもいますが、あなたの場合は本格的に絵のキャリアも確立しています。音楽と絵という2つの芸術形態をどのように捉え、バランスを取っているのですか?


アンドリュー「自分の時間を計画的に使う必要がある。去年はとても忙しかった。忙し過ぎたくらいだよ。ロサンゼルスにあるゴールドディガーズというホテルから、20枚の絵を発注されたんだ。さらにパーケイ・コーツは去年だけで200回以上のライブを行った。そんな中で20枚の絵を描かなければならなくて。基本的にはツアーから戻ったらスタジオに直行して、1〜2週間絵を描いて、それから再びツアーに出て、戻ってきたらスタジオで絵を描いて…それしかやっていなかった。そのためにはいろんなことを犠牲にする。熱中する必要があったから、常に友だちに会えるわけでもなかった。でも今年は去年よりライブも少ないし、レコーディングはするけど、今回みたいな仕事ができる機会が多いんだ」

――そんなに忙しい中での創作活動は難しそうですね。


アンドリュー「もう習慣のようになっているんだよね。ニューヨークにいるときは、ほぼ毎日スタジオに行くようにしている。あの環境に身を置くことが習慣になっていて、あの部屋に足を踏み入れると頭が切り替わるんだ。マッスルメモリーみたいなもので、あの部屋に入るとやりたいことを考え、クリエイティブになるよう頭が理解している」


――バンドの楽曲もご自分で書いているんですよね?


アンドリュー「そうだよ」


――すごい生産性の高さ!


アンドリュー「ありがとう(笑)。たまにそう言われるよ」


――実は最初にパーケイ・コーツを知ったのは、『Wide Awake!』のジャケットのアートワークがきっかけでした。アートワークでグラミー賞最優秀レコーディング・パッケージ賞にもノミネートされたそうですね。


アンドリュー「『Human Performance』のアートワークでノミネートされたんだ」


――どんな気分でしたか?


アンドリュー「グラミー賞の授賞式に行くことができたし、エキサイティングだった。タキシードを着てね。(ノミネーションは)とても驚いたよ。自分の作品がエントリーされていたことも知らなかったんだ。レーベルがエントリーしたんだけど、事前に聞いていなくて、ある日突然、『グラミー賞に行くよ!』ってメールしてきた(笑)」


――アーティストでもあり、ミュージシャンでもあって、とてもお忙しそうですが、創作する上で壁にぶつかることはありますか?


アンドリュー「もちろん!」


――そんなときはどうしていますか?


アンドリュー「待つしかないときもある。でも辛抱強く待つしかない一方で、手を止めるわけにもいかないんだ。僕は壁にぶち当たってもスタジオに通い続けることにしている。インスピレーションを得るためには、スタジオに居ることが大切だからね。それに読書や瞑想も役に立つ。一番難しいのは、『僕は何を伝えたいんだろう?』という質問に答えること。曲作りにしても絵画にしても、自分のアイデアさえ固まって、伝えたいことがはっきりすれば楽しくなる」


――日本のファンには、この個展からどんなことを感じ取ってほしいですか?


アンドリュー「正直なところ、何でもいいんだ。もしこの個展が完全にくだらないと捉えられても、少なくとも観客にとって目新しいものだし、何かしらの感情を生み出せるわけだから。でも、街やゴールデンウィークへのオマージュであること、僕なりに外から解釈した東京であること、それに、東京とニューヨークについての今回のプロジェクトに対する僕の熱意を感じてくれたらうれしい。たくさんの面白いイベントが行われるBig Loveのおかげで、クールでクリエイティブな人たちが世界中から集まってくるからありがたいよ。みんながBig Loveをサポートし続けてくれることを願っている」


――今回は日本でゴールデンウィークを過ごしたわけですが、何か新しいインスピレーションは得ましたか?


アンドリュー「もちろん!東京にはかっこいいオヤジと彼のレコードコレクションからなる素晴らしいバーがたくさんあるよね。『僕もレコードバーをオープンするべきかな?』と思わされるよ。自分の音楽を流したり、自宅にあるレコードを置いたりしたらいいかも。このコンセプトはニューヨークに持ち帰るべきかもな(笑)」



photography Satomi Yamauchi
text Nao Machida


Parquet Courts
http://parquetcourts.wordpress.com


「A. Savage – Golden Week Blues- 」

開催期間 :5月3日(金)18:00 – 5月19日(日)
開催場所 : Love(〒1500001東京都渋谷区神宮前2-31-3宝栄ビル3F)
www.bigloverecords.jp


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This interview is available in English

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