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Fashion/Reborn: 「人間が人生で残せるものはものすごく少ないので、できるだけ長く残るものを作れたらと思っています」Interview with KENT NAGAYOSHI

NeoL Magazine JP | Photo: KENT NAGAYOSHI Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara


誰もが経験したことのないニューノーマルの時代に突入している中、クリエイティヴ業界では、アート/コマーシャルの垣根を超えて新たな側面から制作に取り組む姿勢が見受けられる。今回は、様々なバックグラウンドを持つフォトグラファーたちの創造力・技術への向き合い方を探りながら、華美な物語からストリートで巻き起こるファッションフォトグラフィーの過去・現在・未来においてどのような変遷が起きているのか掘り下げていく。
肌や骨格など人間が備え持つ美しさに焦点を当て、解放感に満ちた全裸や半裸姿の被写体をありのままに捉える写真家 KENT NAGAYOSHI。KENTがフィルムのレンズを通じて映し出すシネマティックな要素を含んだ
耽美的な世界観に誰もが引き込まれていくだろう。医療従事者であるという側面を持つ彼が、試行錯誤を重ねて導き出した独自のスタイルや自身の死生観などをどう作品に落とし込んでいるのかについて迫る。

ーー自己紹介をお願い致します。フォトグラファーになった経緯など。

KENT「はっきりと写真家になろうと思ったことはなかったのですが、インスタグラム上に載せていたiPhoneで撮ったスナップ写真に対して面白いと言ってくれる人がいたことで、これなら自分でも何かできるかもと思い始めました。そこで、2年程前に“フィルムで撮ってみたら?”と友人から言われたのをきっかけに独学で撮り始めました。反応をくれた人の中にはファッションや芸術などクリエイティヴな分野で活躍している方が含まれていたことも足を踏み出せる力になったと思います」

ーーどのようなプロセスを経て、現在のスタイルに至ったのかお聞かせください。

KENT「カメラを購入して数ヶ月はそれまで撮ってきたものの延長線上でドキュメンタリーやストリートフォトグラフィーのような写真を撮っていました。今でも旅先で撮ったりはしますが、本当に自分がやりたいことはなんだろう、写真ってなんだろう?良い写真ってなんだと試行錯誤していくうちに自分が受け手として作品を見ていた時に最も魅了されていたのが身体表現だったので自然と今のようなスタイルを取るようになりました。幼い頃に母親に人体に関する展覧会に頻繁に連れて行かれたことも影響しているかもしれません」

ーーどのように自身の個性/アイデンティティを作品に落とし込んでいますか。また、どのようにそれを極めているか教えてください。

KENT「何が自分のアイデンティティなのかは明確にはわかりません。僕は医療従事者でもあるので、毎日ではないにしても人間の肉体の変化や生死に関わっています。そこから生まれている死生観はあるかもしれません。人間が人生で残せるものはものすごく少ないので、できるだけ長く残るものを作れたらと思っています。
僕自身、絵画が好きで、特に好きな画家がいるんですが、その画家の絵を初めて観た時に感じた時の感情は今でも思い出せたりするんです。言葉では表すのがちょっと難しいのですが、僕が感じたようなものを僕の写真を観た人にも再現できたらいいなとは思っています。なので、この作品はどう見えるのか、誰かに何らかの感情を呼び起こすものかは常に考えるようにしています」


ーーその好きな画家のどのような側面に惹かれたのでしょうか。

KENT「好きなアーティストは沢山いますが、最も影響を受けたのはフランシス・ベーコンです。僕が彼の絵画を初めて目にした時、歪曲した身体や鮮烈な色使い、死や恐怖を連想する絵画のもつ圧力みたいなものに圧倒されたのを覚えています。
僕は醜さやグロテスクなもの、一見価値のないと思えるものの中に美しさや価値を見出したり、その境界線を探ることが好きなんだと思います。彼は生前のインタビューの中で自身の作品を“具象的なものを、神経組織に対して、より暴力的に、そしてより鋭くもたらそうという試みなんです”と語っています。実際に暴力的な描写をするわけではありません。優れた芸術作品は鑑賞者の視覚だけに留まらず神経組織まで辿り着く筈だ、という考えに影響されています」


NeoL Magazine JP | Photo: KENT NAGAYOSHI Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara

 

NeoL Magazine JP | Photo: KENT NAGAYOSHI Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara


ーー全裸もしくは半裸姿のモデルを捉えている作品が多いと思ったのですが、どのような意味合いを持っていますか。

KENT「単純に綺麗だと感じます。人間の持つ肌や骨格は唯一のものだと思うので撮っています」

ーーご自身が好む身体の部位はありますか。また、ポージングでのディレクションなどのこだわりについてお聞かせください。

KENT「特定の部位に拘ってはいないです。僕の写真の中で身体は具体的なイメージ、行為やポージングは抽象的なイメージと捉えています。その2つがどういう意味を持つのか、多くの示唆に富むものかについて、拘りというよりは僕自身にとって純粋な関心があります。そういう意味では毎回実験的な感覚ですね」

ーー医療従事者であることで、身体の構造について学ぶと思うのですが、それがポージングのディレクションにも影響しているのでしょうか。

KENT「確実に影響していると思います。解剖学や運動学を通して、人間の肉体の可動範囲やコントロールの限界を学びましたが、写真を通してそこからどう逸脱できるのか模索しているところではあります」

ーーインスピレーション源はどこから湧いてきますか。

KENT「芸術や知覚するもの全部、あとは友人です」

ーー作品をクリエイトする際、心掛けていることはありますか。

KENT「くだらなくて自分でも思わず笑ってしまうようなアイデアでも、その場、その瞬間で思いついたことはとにかく試すようにしています」

ーーロケーションの選び方が独特だと思ったのですが、こだわっている点は何でしょうか。

KENT「あらかじめ調べることもありますが、散策中に勘で決めていることが殆どなのであまり考えたことはないです。モデルにとってはちょっと過酷な場所もあるかもしれません」

ーーロケーションを決める際、その中でのポーズまで想定しているのでしょうか。また、その背景と体とのマッチングなどといった要素も考慮した上決めているのでしょうか。

KENT「即興に近いですが、背景やロケーションに関しても、その場所から連想される抽象的なイメージとポーズを組み合わせています。撮影時に特に意図していなかったことでも、後から自分の中で別の意味や解釈が生まれることもありますし、それは成功としています」

ーー撮影の際、ライティングなどこだわっている点がありましたら、教えてください。

KENT「基本的にフラッシュ撮影で強い光を当てるようにしています」

ーーどういう風に現代の流れと自身のスタイルのバランスをとっていますか。

KENT「特にバランスを気にしたことはないです。僕は単純に“いいね”と素直に受け入れられるより、少し周りを困惑させたいという気持ちがあるので、そういう意味ではアンバランスでもいいと思っています」

ーーSocial isolation(外出自粛)の期間が長引いていた中、自身のクリエーションに対する捉え方などに変化はありましたか。

KENT「海外では日本よりも強力な都市封鎖や外出規制がある中でもインスタグラムなどのプラットフォームを通して作品発表を続けている友人やアーティストを目にしてきたこともあって、やりたいことはむしろ増えました。家の中でもできることはたくさんありますよね。僕自身が表現したいものは根本的には変わっていないです」

ーー今後、新たにチャレンジしてみたいことはありますか。

KENT「可能であればエキシビションも考えています」

ーーこの事態が収束した後、これからどのようにファッションフォトグラフィーは変化していくとお考えですか。

KENT「事態が収束しつつある国では撮影を今まで通り再開していたりもするのであまり変わらないのではと思っています。ただ、こういった感染症は今後も予測されると思うのでそういった状況下でも全てがストップしてしまわないような仕組み作りが必要なのかなと思います」

NeoL Magazine JP | Photo: KENT NAGAYOSHI Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara


写真家:KENT NAGAYOSHI
IG @kntngys

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