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text by Ryoko Kuwahara
photo by Yudai Kusano

「埋もれていってしまうものや圧力で潰されてしまいそうな人たち、その境遇や生き方みたいなものの中の小さな感情を一つでも掬い上げたい」内山拓也監督&清水尋也『青い、森』インタビュー



映像作家・井手内創と、「ヴァニタス」でPFFアワード2016観客賞、話題作「佐々木、イン、マイマイン」の公開が11月27日に控える内山拓也が共同監督を務め、清水尋也が主演を務めた『青い、森』が11月6日に公開。
家族を早くに亡くし、自身も顔に傷をおった波(清水尋也)は世界から孤立したように生きていたが、高校で志村(門下秀太郎)と長岡(田中偉登)と出会い、次第に心を通わしていく。卒業を前にヒッチハイクの旅に出た3人。しかし途中で波が姿を消し、2人は波を探し求める。喪失により鮮烈に切実に浮かび上がる存在、残された者の感情。十代の何気ない日常に宿る美しさと、非日常の神秘的な美しさ双方を捉えた映像、戯曲のように印象を深く残す言葉、ラストを飾る原田郁子による書き下ろし曲。
50分に込められた願いのような祈りのような本作について、内山監督と、自身の世界の表と裏をらせんのように行き来する表情で観る者をひきつける清水尋也に話を聞いた。


――内山監督の作品『ヴァニタス』『佐々木、イン、マイマイン』を拝見して、十代の少年期の友情を通し、学生として並列にどんな境遇の子とも仲良くなれたものの、そこから自分たちの友情だけでは乗り切れられない社会やその人が抱えているバックグラウンドに否が応なしに直面していくという物語が通底してあるように思いました。本作もまさにその要素が含まれる作品だと思うのですが、そうした作品を作る動機や着想のきっかけはなんだったのでしょうか。



内山「僕は脚本も書くのですが、自分の中からしか出ないと言うか、自分が思っていることは如実に表そうとしています。それは実体験とかそういうことではなくて、いろんなことを踏まえて自分の言葉にし、ちゃんと自分の口で言えるまでは咀嚼して映像だったりセリフにしようと思っているということ。中でも世間と個人の価値観とのズレのようなものは特に日本はまだ大きくあると思っているし、自分の年代は特にそういうギャップの影響を受け続けていて、幸福な世代ではない気がしてはいるんですね。そういう僕ら世代が感じていることを若者としてちゃんと伝えることは僕の役目だと思っています。
だからと言って特に若者に対してということであったり、青春映画みたいなものを作ろうということではなくて、むしろ埋もれていってしまうもの、圧力で潰されてしまいそうな人たち、その境遇や生き方みたいなものの中の小さな感情を一つでも掬い上げたい、掬いとりたいということの方が常々あって。僕はずっと名もなき人たちの感情、名もなき戦士の映画を作りたいと言っているし、それは変わらず貫いているんですけど、そういう人たちにエールを送って、頑張れとか一歩踏み出せということを言いたいわけでもなく、半歩前に出たら変わるんじゃないかという想いを込めているんです。1歩だったら崖に落ちてしまうかもしれないけど、半歩だったらギリギリ踏みとどまれる瞬間があるかもしれないから、ちょっとだけ前に出て無理だったら戻ってもいいし、それでまた違う選択肢をとれるかもしれないと。だからそういうきっかけになるもののために代表して矢面に立ちたいなとは思ってはいますね」


――その中でも本作に関して特にきっかけとなったりインスパイアされた出来事はあるのでしょうか。


内山「インスパイアはとても難しくて、あまり形容できないんですけど、これを撮ったのは2018年なんです。それをこの2020年に公開できることはどういうことなのかなとは思いました。再編集したり、エンドロールも付けたり、新しくした部分で見えてくることが自分自身でもあって、その当時思っていたことが2年半かけてより強固になった。本作では“喪失”を描いていますが、それが色濃く出ている2020年において発見させられたことがある。親や友達も含めて、人がいなくなってしまうこととか何かを失うということは自分の人生の中でも大きなテーマであり、自分の中に喪失する側という目線もあるからこそ、失踪してしまった人――本作では波ですが、波をただ波の目線で波らしく全部描くよりは、他の感情だったり、波をどう見ているか、どう見えるかという、残された方のいろんな視点をもって波を語りたかった。波のことを語るなら波が語らない方がいいんじゃないかと。その、より客観があるからこそ主観が際立つという形も監督している3作品に共通している部分です。例えば心に残るエンタテインメントや名言、そういうものって、他の人には言えない、自分だけがそう思っているのかなと感じていることを、みんなもそう思っていたんだ、と再認識して言えることだと思っていて、“喪失”にまつわるそうした感情を今作でも収めています」





――本作の後にはKing Gnu“The hole”のMVでお二人はご一緒されていますが、その際も清水さんでなければストーリーを変えるというくらいキャストには重きを置かれていたそうですね。清水さんが映像の中、映画の中で放つものをどのように捉えてキャスティングされたのか教えてください。


内山「彼と出会う前からずっと彼の出演作は観ていて、デビューすぐの高校生のドラマ(『高校入試』2012年/フジテレビ)も観ていたくらいなんです。『渇き。』(2013年)などで一気に尋也の凄さが広まる前から勝手に気にしていて、同じカルチャーや言語が通じる若者の中でも本当に天才だと客観的に思っていました」


清水尋也(大きく頷く)


内山「(笑)。単純に上手いし、類似役者がいない。彼にしかできない表情や佇まいが確立され過ぎていて、尋也を考えた時に、もしスケジュールなどが合わずキャスティング出来なかった場合、尋也と似ているこの人にしようかということが思いつかない。彼以外はいないんです。だから彼とやりたいとはずっと思っていて、ダメ元でもいいからお願いしてみてほしいというのは僕から言いました」



――それを受けて清水さんは? 


清水「脚本を読む前から内山さんにジャブを打たれていたんですよ」


――ああ、じゃあ前からお知り合いだったんですね。


清水「その時は知り合いじゃなかったんですけど、先輩の役者さんから急に電話がかかってきて、『久しぶり! 尋也と話したいって人がいるから代わるね』って急に言われて、『初めまして、内山拓也です』って。『……誰?』みたいな感じになって(笑)。多分内山さんにしてみれば、そのすぐ後に会うことになっていたのでそれを踏まえての電話だったと思うんですけど、僕はまだそれを聞いていなくて、急に知らない人に『今度よろしくお願いします』って言われて、『(硬い声で)は、はい、よろしくお願いします』と。さっきのなんだったんだろうって電話が終わって。後で映画の話を聞いて、ああ、そういうことだったのかということがあったんです」


内山「その先輩も僕が友人と行ったところにたまたまいて、今なにしてるのとか話をしていたら尋也と繋がってることを知って。そしたら俺も久しぶりに声を聞きたいから電話しようかなみたいなことではあったんだよ」


清水「わりと無茶ぶりだった部分もあったんですね(笑)」


内山「今電話しなくていいんですけどって。わざわざ変なことはしてないとだけは理解していただきたい!」





――根回ししたわけではないと(笑)。脚本を読まれての印象はどうでしたか。


清水「第一の印象は、変わった作品だなと思いました。あと、最初に読んだ時から、別に無理に答えを見つけなくてもいいかなと思っていました。最初に読み終わって、『え? ん?なに?』となったんですけど、それは嫌な『なに?』じゃなくて、わざとそうしているんだろうなというか、そこまでの過程に魅力が詰まっていたので。実際に青い森という存在は現実からは飛躍している部分もあると思うし、友達が失踪することも滅多にないだろうけど、対象がなんであれ、そういったものを追い求めるとか、自分を取り巻く環境において何かを探してもがく若者の姿というのは共通する部分が必ずあると思うんですね。だからそこが若干現実とかけ離れていたとしても、メッセージが伝わりづらいとも思わなかったし、スッと入ってこれた。ありきたりではなく、ちゃんとした芯もあって、かつ変にわかりやすくさせようとしない感じもすごくいいなと思ったので、即答でやりますと答えました」



――そこから波というキャラクターの造形をどのように作られたのでしょう。監督との共通の認識をどのように作られていきましたか。

内山「初めましての挨拶や衣装合わせなど業務的なことはもちろんあったんですが、その業務的なものの前に時間をとっていいですかということで、僕ともう一人の井手内監督と尋也と3人で軽く喋ったんです。その時に大前提としての僕らのやりたいことは伝えたんですけど、あまりわかろうとしないでいてくれとか、この役はこうだからこうしてというような具体的なことや、上から被せるようなことは言ってないはずで、尋也自身も自分の感じ方や意見を持ってきてくれていたので、その場で話して、その話の後に役に対して議論したり、すり合わせるということはなかったです。ヴィジョンははっきりしていたので、どちらかというと、どう現場を成立させていくか、どのように映画を主演と監督なりに遂行して全うするかみたいなことを話した気がします」


――では清水さんに役はわりと委ねられてる部分があった?


清水「委ねられていたというか、わかり合っていたんですね。最初に会ってそういう話をされた時に、ああなるほどと思って。監督がそうしたいと言っているからそうするというのが役者の仕事だと思っているし、僕もそこに反論はなくそれが一番素敵な形だったので、わかりましたという話をして。現場はとにかく、いかにこのシーンをよくするかしかないので、『ここをもうちょっとこうする?』というくらいの感じですね」



内山「そうですね。僕らの関係値をどれだけ深めていくかの方が大きかったので、映画じゃない話をたくさん話したかもしれないです」





――監督も先ほどおっしゃったように、波は不在の中でその背景や感情、気持ちが強く浮かび上がります。そのために3人といるときの演技にはそこを想像させる幅が求められていたと思います。そのような余韻/残響を残す波を演じるということで心がけたことはありますか。

清水「僕は波が2人に見せていない部分やじっと閉じ込めていたものを強く意識していたわけではなかったです。虫歯が痛い時って、友達と遊んでいると忘れるじゃないですか。その感覚ですね。だから彼らといるときはすごく楽しんでいたけど、ふと気づいた時にやっぱり痛いというのと似ていて、ある時ふっと彼の表情に出る時もあり、そこはフックにもなっていると思います。わかりやすい部分でいうとガソリンスタンドのシーンですよね。自分の過去を2人に話すシーンも、なぜ話したんだろうと思うじゃないですか。2人がその過去を100%受け止めて、噛み砕いたかと言うと、あまりにも事実が重いのでそうじゃないし。でも波がそれを話したということは彼なりのSOSだったのか、はたまた自分がいなくなるということを踏まえた上での踏ん切りの付け方なのかわからないですけど、そういう特別な意識を彼らに対して抱いていて、彼らも彼らで見て見ぬふりはできず、衝動として追いかけてしまう。そこはすごくいい関係性だし、彼らは普通の友人ではないという感じはしたんですけど、3人ではしゃいでいる場面はわりと素でやっていました」


内山「そうだと思う。なるべく僕もそれを見守ろうとしたし、僕も井手内も場合によっては参加していたというか、僕ら自身もそういう気持ちだよという想いは込めて一緒にいました。みんな各々ビジョンを持って参加していたから馴れ合ってるわけではないけれど、純粋に楽しんでいた気はします。そこから持ち帰ったものを、各々が担っているシーンにどう当てていくかとか、一緒にいた後、ふと一人になった瞬間をどうするかというようなことに繋げて、全うしてくれていました」

清水「軽トラのシーンは、 1日ヒッチハイクして歩き回って川で水遊びした後なんですよ。僕は私生活で、1日中友達と遊んでその後に家に帰ってめっちゃ考え込んでしまうことがあるんです。そこには別に理由があるわけじゃない。だから波にもそういう部分があったのかなって。移動してきて、みんなが落ち着いた時に、空を見て波の中からふわっと出てきてしまった感情――波が不思議なやつだからとかそういうことじゃなくて、誰しもにそういう一面、瞬間はある。それが彼の場合の出方としてああいうミステリアスな感じに映ってますけど、別に変なことではない。僕は波を『なに言ってるの、こいつ』って見え方にはしたくなかったんです。急に変なことを言うやつという見え方にはしたくなかったので、余計にそういう自分の普段からの、こういうことってあるよなっていう部分とリンクさせてやりました」



――最後に、内山監督はこの2020年に観て改めて気づいたことがあったということですが、清水さんは今改めてご覧になっていかがでしたか。

清水「懐かしいなと。あと、監督が新しい編集で思い切って削いだ感があるんですよね。それを観て、『ちょっと余裕出てきたんじゃない?』って(笑)」


内山(笑)


清水「上から目線とかじゃなくて、僕たちは2年の間に2回一緒に仕事をして、割と定期的に会ってもいるんです。僕も内山組でも成長しているし、他の現場でも成長してそれを見せに行ってる部分もあって。監督にもそれを感じるんですよね。削ぐことに関しては、僕もそういうことを意識していた時だったので、余計にいいなと。怒っている芝居はみんな怒鳴りがちですが、一番怖いのは静かに怒ること。最近松雪(泰子)さんとお仕事をさせていただいたのですが(映画『あまいお酒でうがい」)、芝居のトーンが落ちついているのに喜怒哀楽の全部が伝わってくる。それを見て、わかりやすい抑揚が必要な時もあるけど、落ち着きのある方が深みが出るなと感じて意識していたこともあったので、出てきたものを全部ギュウギュウに詰め込むよりも、ここがいいんじゃないかと削いでいたのがよかった。無理に全部を伝える必要はないんですよね」





photography Yudai Kusano
text&edit Ryoko Kuwahara





『青い、森』
11月6日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
https://aoimori.site/
清水尋也
門下秀太郎 田中偉登
伊藤公一 岩崎楓士/山田登是
監督|井手内創 内山拓也
主題歌:原田郁子「青い、森、、」(クラムボン)
エグゼクティブプロデューサー:神康幸 | 統括プロデューサー:利光佐和子 |プロデューサー:田村菜摘 松永弘二 脚本:内山拓也|音楽:小野川浩幸|撮影:志田貴之|照明:疋田淳| 録音:岸川達也| 助監督:東條政利|美術:平原孝之|装飾:山本直樹 衣裳:松田稜平| ヘアメイク:寺沢ルミ|キャスティング:新江佳子 | 制作担当:篠崎泰輔 | 編集:井手内創 |VFX:渡辺隆彦/柴亜佳里 整音:紫藤佑弥 |宣伝:平井万里子 |宣伝美術:寺澤圭太郎 | 配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS


《ストーリー》
幼い頃に両親を亡くし、育ててくれた祖父をも失った波( 清水尋也)は、 祖父のある言葉だけを胸にしまい世界から心を閉ざしていた。しかし、 志村( 門下秀太郎)と長岡( 田中偉登)と出会い、次第に心を通わしていく。高校最後の思い出に、 三人はヒッチハイクで北を目指す旅に出て、 忘れがたい時を過ごす。 そんな中、波が忽然と姿を消してしまい、歯車が大きく狂い出す。 あれから4年の月日が経とうとしていた……。波は何故、そして一体どこ へ? それぞれがもがき果てに、掴んだ景色とは……?

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