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text by Ayana Waki

.nl Issue:性教育授業中の中学生のリアクションを撮影した『Foreplay』Anne Van Campenhout監督/ Interview with Anne Van Campenhout director of ‘Foreplay’





オランダのクリエティヴ業界を盛り上げているアーティストたちを取り上げる「.nl Issue」。近年、多くの国が国境を閉鎖しナショナリズムが高まり、世界共通の言語でもあるアートを通して団結することが以前よりも重要となってきている。NeoLでは、現在の状況と予測不可能な未来のために、議論ができる空間を様々な形で人々に提供するアーティストやアクティビストへのインタビューに取り組み続けている。本特集では、限界に挑み続け、フロントランナーとして走るオランダに在住するアーティストを紹介し、国の魅力についてはもちろん、今現在の環境、社会構成、政治などの問題を乗り越えるために必要とされる緊急性と行動力を喚起したい。
ティーンエイジャーにとって「セックス」は気まずいトピック。特に両親が自分を産むために行ったと知った時はなおさらだ。しかし、オランダ出身のAnne Van Campenhout監督はセックス未経験の多くの子供たちが、大人向けの性的コンテンツを見ているという事実を知り、思春期の子供が持つセックスに対する感情に興味を持った。
この年頃の子供の間で、「セックス」というテーマを真面目に扱うのはばかられやすく、実際、彼女も思春期の頃に自らの性的な関心に孤独を感じたそうだ。そんな自身の経験もあって、彼女は自分が思春期の頃にあれば助けられただろうと思えるようなドキュメンタリーを制作することにした。それがまさに性教育の授業中の中学生のリアクションを撮影した『Foreplay』である。彼女がセックスに関するドキュメンタリーを製作するのは2回目。前作の『My fucking problem』では、「膣炎」という普段話すのは拒まれるが、とても一般的なトピックを自然に描写したことで高い評価を受けた。今回は、アンに彼女の作品やオランダの映画産業の現状について話を聞いた。(→ in English



ーーまずは『Foreplay』において、“セックス”というトピックを選んだ理由と、現在の社会情勢の中でこの話題を扱うことの緊急性を感じた理由を教えてください。
 
アン「まず、トピックを選んだ理由は子供向けの“性”に関するドキュメンタリーが少ないからです。そのために、子供達は彼ら向けではないセクシュアルなコンテンツを観ているのです。実際、オランダのデータを分析すると、より多くの若者が性的なコンテンツを観ているにも関わらず、性的な体験を初めてする年齢は、年々、平均年齢が16歳から18歳へと上がっていることがわかっています。また、自分の性的関心に気づくと、『こんな風に感じているのは世界で私しかいないんじゃないか』と感じて他人に話さないようになってしまう子も多いでしょう。でも、みんな同じように感じていることを知れたらたら気分が楽になるだろうと思うんです。だから、私が思春期の時に観たかったようなものを作りました。
また、昨今、私たちの社会はよりリベラルな方向へと向かっていますが、タブーと言われる出来事も増えています。例えば、ポーランドでは性教育がロリコンと同じだと考えられているため、性教育の授業の実施を犯罪としようとするムーブメントが広がっています。さらには性教育を実施してしまった教師は2、3年牢屋に閉じ込められるのです。
撮影方法については、インタビュー形式がいいなと思ったのですが、それだけだと生々しすぎると思ったので、それを囲むフレームワークが必要だと気付き、そこから性教育の授業風景を撮影するアイデアが浮かびました。性教育の授業を行った後で、インタビューを子供達にするスタイルを取ったことで、自然な流れが作れました。この機会が子供達にとって、自分のセクシュアリティについて話す初めての機会になったのではないかと思います。今、子供達にはセックスの知識が増えても、自分の気持ちをオープンに話すことが出来なくなってるという二重性の問題が存在しているんです。『Foreplay』という作品は、まさに今起こっている問題と繋がっているんですよ」



ーー12歳から15歳の中学生は、子供でもなく大人でもない、思春期の時期でもあります。なぜこの年齢層をターゲットしたのですか?
 
アン「セックスについて初めて知るのがこの時期だと思うからです。セックスを週に何回するのか、どうやるのか、叫ぶのは有りか無しかとか。最近、私の多くの友達がまだセックスを顔に射精する行為で終わらせていることを知って、少しびっくりしました。行動自体には全く問題はありませんが、これはポルノの影響だと思いますね」
 
ーーもともと予想していた中学生の反応を撮影したかったのですか? それとも、思春期真っ只中の子たちが持つセックスに対してどう考えているのか知るためにドキュメンタリーを作ったのでしょうか。
 
アン「彼らが性についてどう思っているのかにすごく興味がありました。学術的な証明よりも子供達はオープンだとは予想していましたが、実際のところを知りたかったんです。子供達は、自分の両親さらには自分のおじいちゃんでさえも、思春期に同じように悩んでいたことに気づきます。そして、親もセックスをしたことに気付き、それを自分があと数年後に“やる”と気づくと、気持ち悪いと思ったり、逆に興味が湧くのは世界共通で、みんなが経験することでしょう。もちろん、その人の置かれている状況によって差異はありますけどね。
『Foreplay』では、子供達がこのテーマに対して、必死にもがいている姿が見られると思います。“初めて”をどう想像するのかと中学生に訊いたのですが、彼らは事実とは掛け離れた、バラやロウソクが置いてある超ロマンチックな光景を描くと予想していたら、全く違う答えが返ってきました。男女問わず、相手に携帯を部屋の外に置いてもらうように頼むと言ったのです。その答えにはかなり驚きましたが、彼ら曰くセックス中の動画がネットに上げられ、学校中の人に見られるのを防ぐための策だそうです。実際、インタビュー内でも、数人の女の子たちが、セックス中の動画がネット上に載ってしまい退学になった子の話をしてくれました。彼女たちも動画を見たのかと訊いたら、『うん』と頷き、気の毒な気持ちが湧く前に笑ってしまったと素直に答えていました。その気持ちも分からなくはないです。携帯画面を顔面に差し出されて、友達か誰かに『これ見て』って言われたら、見たくなくても見てしまいますから」

 
ーー特に最近の子は若い頃からスマホを持っているし、何かが一回ネット上に上がってしまうと、それを完全に消すことは難しいですよね。
 
アン「逆にネットの存在が当たり前な時代に育った子供は、その危険性についてもかなり理解しているようですね。しかし、撮影を通じて、思っていたよりもずっとネットの子供への影響は大きいなと感じました」

 

 
ーーオランダの様々な地区に位置する5校の中学校で撮影されたということですが、インタビューした子の中で特に印象に残った反応などはありましたか?
 
アン「ある男の子に性暴力の意見を聞いた時の回答が印象に残っています。私は、彼が相手の女性の気持ちを考えずに性行為に及んだ時、どうするのかを訊きたかったのですが、彼は、逆に女性である私(アン)が彼の承諾を得ずに何かをした場合について話してきたのです。私はこのような状況で、男性は絶対に犠牲者にはならないと勝手に決めつけていたので、自分のモラルを考え直しました。
でも、最初、彼が少しナイーヴに見えてしまうのを避けたくて、作品にこのシーンを入れるかすごく迷ったんです。だけど、彼の考えは非常に重要ですし、彼だけでなく他の男の子たちも考え込んでいる問題なのではないかと思い、結局彼のシーンも取り入れることにしました」
 
ーーあなたが予想していたドキュメンタリーを見た子供達の反応は、実際の反応と異なりましたか?
 
アン「上映開始前に何度か試写会を実施しましたが、なかなか難しかったです。というのも、子供達にとってセックスのトピックはかなり恥ずかしいもので、何も意見や感想を言ってくれませんでした。上映中、彼らの表情は変化し、お互いを観察しあっていました。“恥”という感情は、何かについて十分知識が足りない時に生まれる感情です。このドキュメンタリーを観たおかげで、少しでも彼らのその気持ちが薄れ、また刺激を与えられたのなら私は満足です」

 


 
ーー前作の『My Fucking Vagina』では、「膣炎」という一般的だけど話しにくいトピックを扱いながらも、その自然な描写に高評を受けました。今回と前回の作品を比べて、制作していくうえで、何か異なった点はありましたか?また、「膣炎」というテーマを扱っていく上で大変だったことはなんですか?
 
アン「自分が主役のドキュメンタリー作品なので、いつもとは違う点がたくさんありました。まず、メインキャラクターが私の彼氏など、自分の周りの親しい人だったことは大きいですね。だけど、実は最初、作品に出演する気は無く、するとしてもインタビュアーくらいのつもりだったのですが、私自身が膣炎経験者の女性ということもあって自然にカメラが私に向けられました。そして、フィルムを編集している最中に、自分が出演したシーンを全て使うことになったんです。最初はなんだか違和感を感じましたが、いまでは自分がカメラの前にいることもだいぶ慣れましたね」
 
ーーでは当初は、自分を中心とする作品ではなかったのですね。
 
アン「そうです。性交が当たり前なものではないと感じている女性や直接的な性交をしなくても満足している人、双方の目線での作品を作りたかったんです。だから、様々な視点を持つ女性にインタビューしました。膣炎を経験したことがある女性の中でも意見は分れるんですよね。例えば、性行為無しの人生で幸せを感じている女性がいれば、ずっとしたくても出来ない女性もいます。実際、30年間ずっとしていない女性の話も聞きました。彼女の気持ちが時間の経過によって変わるかどうか知りたかったんです。でも、インタビュー中、彼女たちが逆に私にいろんな質問をしてきて、そこから徐々に自分が主人公になっていったという感じですね」
 
ーーこのドキュメンタリーを制作する理由はいくつかあったと思います。膣炎について情報発信をしたかったのも一つの理由ではないでしょうか。自分と似た問題を抱えている女性の話を聞くことで、あなた自身も何か変われた点はありますか?
 
アン「もちろんです。他の女性の話や意見を聞くことによって自分のことを以前より受け入れることができました。実際、ドキュメンタリーが公開されてから、1000件ほど女性からメールが届きましたね」
 
ーNeoLではシスターフッドに関連するトピックを繰り返し取り上げていますが、『My fucking probelm』の撮影を通して出会えた女性たちとの間にシスターフッドは感じましたか?
 
アン「そうですね。実際、多くの膣炎経験者の女性たちが私と話をしたいと言ってくれたのですが、一人一人と会う時間がなかったので、膣炎経験者の女性を集めて、皆で話せる会を開きました。それが8回ぐらい続きましたね。
このような会を企画するのが得意な友達に計画を頼み、彼女がフォーマルになりすぎず、会話を弾ませる方法を教えてくれました。そして、参加者には一人5ユーロ募金してもらい、その資金でヨガスタジオやフェミストの本が揃っている図書館などの場所を借りて、会を開催しました。その会では、『Letters to my Vagina』という自分の膣に対しての手紙を書き、みんなの前で読み上げたりと、様々なアクテビティーを行いました。膣痙経験者の女性の母親や姉妹、パートナーを連れてきた日もありましたね。膣炎を経験している女性のパートナー同士が話せる機会ってなかなかないと思うので、その日はとても盛り上がりました。
また、私だけが注目を浴びてしまうような会は避けたくて、女性同士が繋がれる機会を作るのが目標だったので友達に企画を頼んでよかったと思います。2年間ぐらい続いて、最初の会は約40人ぐらい出席していましたが、徐々に減っていき最終的には8人になって自然消滅した感じです。今はFacebook上でこの交流で続けています」

 
ーー彼女たちの状況を受け入れているパートナーが多かったですか?
 
アン「パートナーの膣炎を受け入れられない男性もいましたが、彼らの気持ちを聞くことも大切だと感じました。というのも、経験している女性ももちろん大変ですが、そのパートナーたちも同様に周囲になかなか理解してもらえず、大変な思いをしているはずです。だから、素直に『辛い』と男性同士が本音を吐ける場所が作れてよかったと思います。なので個人的にパートナーが一緒に訪問してきた日が一番印象的でした」

 

Anne van Campenhout


 

ーー過去にも女性を中心したドキュメンタリーを制作されていますが、自分自身をフェミニズムの映画監督と思いますか?
 
アン「私が制作する作品は、性に関してオープンになることを促すものが多いです。私自身はフェミニストですが、自分の作品が女性の権利や不平等さを訴えるものではないため自分を『フェミニストな映画監督』と呼べるのかは正直分かりません。でも、いま考えてみると、私の作品は常に女性を題材にしているので、それが女性たちに間接的に良い影響を与えられているかもしれません」
 
ーーオランダはジェンダー平等などのトピックに関して、世界的にかなりオープンな国として知られています。オランダの女性監督は十分スポットライトを浴びられていると思いますか。
 
アン「良くはなってきていると思いますね。実際、映画学校のドキュメンタリージャンルを学んでいる学生は半分以上が女性ですが、フィクションのジャンルになると、まだ女性が少ないという現状もあります。また、フェミニズム的な表現をすることの難点は、テーマが「男女格差」や「女性の不利な面」になりがちなことです。仕事について女性にインタビューするとそんな答えが返ってくるのは普通のことなんですけどね。だけど、私は「女性映画監督が普通である」というメッセージを次世代の若い女の子に送りたいんです。だから、女性監督が少ないことを強調するのではなく、逆に女性監督であることのポジティブな面について考えていきたいと思っています。例えば、映画監督になりたい少女がいたとして、私としては彼女に「女性監督ってあんまりいないんだ」とがっかりさせたくなくて、それよりも女性監督というのが珍しい職種でなく普通のことであると思って欲しいのです。また、個人的に問題を指摘し続けるのではなく、ポジティブな局面に集中するアクティビズムが好きというのもあります。素晴らしい女性監督はたくさんいると思いますしね!」
 
text Ayana Waki

 
Anne Van Campenhout
Anne Van Campenhout is an Amsterdam based film director. Her work is characterized by urgency in topics and creativeness in style. She is specialized in documentary film, but does commercial and TV work as well.
https://annevancampenhout.nl/
https://www.instagram.com/anne.film/

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