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text by Ayana Waki

.nl Issue: 移民の物語を映像とファッションで伝え続ける、日本とオランダのハーフとして生まれたデザイナーのLisa Konno/Interview with designer, Lisa Konno


photo by Laila Cohen
 

オランダのクリエティヴ業界を盛り上げているアーティスト11人を取り上げる「Dutch Creatives」特集。近年、多くの国が国境を閉鎖しナショナリズムが高まり、世界共通の言語でもあるアートを通して団結することが以前よりも重要となってきている。NeoLでは、現在の状況と予測不可能な未来のために、議論ができる空間を様々な形で人々に提供するアーティストやアクティビストへのインタビューに取り組み続けている。本特集では、限界に挑み続け、フロントランナーとして走るオランダに在住するアーティストを紹介し、国の魅力についてはもちろん、今現在の環境、社会構成、政治などの問題を乗り越えるために必要とされる緊急性と行動力を喚起したい。
日本とオランダのハーフとして生まれたデザイナーのLisa Konnoは西洋からみた日本の文化に魅了されてきた。2017年に、元空手世界チャンピオンの父親である“NOBU”こと信広が日本からオランダへ移住した時期の経験を描いたショートフィルム、また同時に日本とオランダの双方の文化の特徴となる要素を取り入れたファッションコレクションを制作。そして次なる試みとして、移民についての物語を伝え続けたいという思いから『Baba』を生み出した。トルコからオランダへ移住した主人公Ceylanの現実を撮影した映画の中では、日本の移民と比べ、トルコの移民に対する態度の違いも浮き彫りになっている。彼女の作品の礎となるストーリーについて聞いてみた。(→ in English

 
ーー『NOBU』のコレクションを代表する一着は大きなピンク色のレインコート。オランダのレインコートから形を取り、裏地は着物の生地を用いて制作されていますが、この二つの要素を組み合わせた理由を教えてください。
 
Lisa「父からの影響が強いです。毎日大きなレインコートを着て仕事に出勤している姿を見ていて、すごくオランダ人っぽいと思っていたんです。でもその一方で、日本で過ごしていた時の思い出も大切にしているので、そんな彼を表現するためには二つの文化の要素を融合することが大切だと思いました。そこで古い着物を解体してレインコートの裏地として使ったり、他にも父の引き出しに埋もれていた空手のT-シャツなども取り入れて作ったんです。あとは、多くのデザイナーが容易に使ってしまいそうな、日本やオランダと聞いてすぐに連想されるデザインや民族服(着物、浴衣)、チューリップなどのデザインをわざと取り入れています」
 

NOBU film by Sarah Blok & Lisa Konno
 
ーー着物のデザイン、生地や柄などの要素にインスパイアされ、多くの西洋デザイナーがコレクションに取り入れていますよね。中でもマルジェラが足袋に近代的なデザインを加えTabiブーツを発表した時は衝撃を受けました。他に日本の民族衣装を基盤として流行りそうなアイテムはあると思いますか?
 
Lisa「下駄なども近代に合うよう少し手を加えれば流行るのではないかと思います。日本古来のファッションの要素はほとんどの西洋のデザイナーがコレクションに取り入られていると思います。着物を支える布でできた帯、簪などももう何回も繰り返し使われてきていますよね。そのために『NOBU』を制作する以前、日本の伝統服を取り入れたコレクションを行うに対して躊躇した時期もありました。けれど、父親の移住プロセスを描いたパーソナルなストーリーと結び付ければ、やりすぎとも思われそうなほどに日本の伝統のファッションをフィーチャーしたコレクションを制作できるとのではないかと考えました」
 

photo by Laila Cohen
 
ーー『Nobu』に続く第二編となる『Baba』はトルコから移住してきたCeylan Utluの移住過程を、ファッション、映像、写真の媒体を掛け合わせて描いたプロジェクトです。Jeylanに出会ったきっかけを教えてください。
 
Lisa「大元には、私の父親であるNobuを始め、違う国籍をもつ移民たちの父親の移住する過程を描く作品を作りたいという思いがありました。出会いでいうと、どちらの作品も脚本と監督を務めたSarah Blokと一緒に制作したのですが、彼女の友人がCeylanの娘だったんです。Sarahは友人からCeylanの話をたくさん聞いていて、彼がとても魅力的な人物だとわかったので出演を依頼し、快くOKをもらうことができました。Ceylanは、私の父親であるNobuとは真反対の性格だったのですが、2人の間に共通点を見いだすことができたのが面白かったですね。国籍が異なるので、遭遇する問題やコンプレックスが異なり、社会がトルコからの移民にとる態度と日本からの移民の扱い方の違いがはっきりとわかると思います。またトルコ人は感情豊かなので、歌や詩を通して思いを伝えるCeylanを撮影できたのも良かったです」
 

photo by Laila Cohen
 
ーー Ceylanと自分の父親NOBUが経験された問題やコンプレックスがそれぞれ異なったということですが、特にどのようなことにCeylanは苦労したのでしょうか?
 
Lisa「例えば、彼の娘との関係ですね。オランダは違いますが、親の世話係としての責任を若い頃から持つのが常識とされる文化がある国は多いのです。しかし、父親が生まれた国の文化とは違った環境で生まれてきた子供にはこの風習を理解することがとても難しい。また、父親の言語と文化を通訳するような役割を子供が持つという体験についてもよく聞きます。特に何かが大変だと言わない彼の性格が、主役として逆に大切な特徴だと思いました。移民の話題はネガティブなイメージを持たれがちですが、このプロジェクトでは移民をより前向きに描きたかったのです。Ceylanは西洋ではまだレアとされていた音楽を演奏するミュージシャンとして、移住の際にはあたたかく歓迎されたようですが、そのために余計に現実よりもエキゾチックなイメージを持たれがちでした。そして私の父親と比べ、Ceylanはオランダ語が流暢だったためにより受け入れられやすかったということもあります。その国の言語を話さなくても良い場合もありますが、ある国の文化にどのぐらい溶け込めたのかという測りとして言語力が考慮されることが多いので、彼がオランダ語を話せたのは受け入れられた大きな理由の一つでもあったと思います」
 
ーー日本とオランダの両国籍をもつハーフとして、いずれかの文化と自分との断絶を感じたことはありますか。
 
Lisa「周りからは日本人として見られていなかったのでオランダでは問題はありませんでした。酷くても、アジア圏の固定概念に対するジョークなどを言われるくらいでしたね。逆に日本の文化に触れた時の方が、アウトサイダーと感じたことが多かったです。幼少期は週末に補習校に通っていたのですが、他の学生はみんな私より読み書きができ、居場所がないと感じていた頃もありました。しかしひどい差別などは受けていないので、むしろ両国籍をもつことで“常識”の意味を広げてくれたように感じます」
 
ーーオランダに住んだことで、日本の文化の魅力をより感じるようになったということはありますか。
 
Lisa「日本の文化を客観的に観察していたぶん少しはそういうことがあるかもしれませんが、本当に魅力を感じだしたのはここ最近です。今はダイバーシティ(多様化)や文化の盗用(cultural appropriation) と評価(cultural appreciation)の違いを判断するのが難しくなってきている時代です。だからこそ特に“西洋から見た日本”に大変に興味があります」
 

photo by Laila Cohen
 
Artezを卒業後、ファッション界の問題を訴えるプラットフォームとしてランウェイを活用。2015年には、ZaraやH&Mなど多くのファストファッション業界を代表する会社の下請けとされていたバングラデシュに位置する工場rana plazaが崩壊し、多くの労働者が死亡したダッカ近郊ビル崩落事故の写真を拡大することによって、コレクションの服の柄として利用。一目で見れば美しいが、近づけば全く違うというファッション業界を指した比喩表現として使用したのだ。2016年に発表されたコレクションYours TrulyはH&MでTシャツが売られている同じ価格の20ユーロで彼女が考えた柄(Pattern)つきの生地のみが買えるPattern package を行う。H&Mなどの店で売られているTシャツと同じ価格で生地だけを売ることによって、消費者に20ユーロなどで売られる服の価格には、制作するために必要とされる労働力の価値が考慮されていないというメッセージを送った。
 

photo by Team Peter Stigter
 
ーー様々な作品を通して、ファッションが、着用する衣類だけではなく、幅広い意味を持つという考えを推奨してきたと思いますが、これらのプロジェクトが完成するまでのクリエティヴの過程を説明していただけますか。
 
Lisa「Artez在学中は、ファッション業界で働きたいけど大量生産と労働者を搾取し続ける体制を支援したくないという強い意志を持っていました。その思いから、卒業後はランウェイを生産または消費方法を改善して覆すことを訴える場所としての活動を始めました。なるべく多くの人にこの問題について意識してもらうことから始まり、意識が高まった時点でそこから消費者を参加させられる方法を考えた結果、どのくらいの労働力が洋服一着を作り上げるために必要とされているのかを教えることが大事だと思ったのです。そこからパターンパッケージのアイデアが湧きました。5ユーロで売られているTシャツなどの真の価値を問い直して欲しかった。パターンパッケージはH&Mで売られているTシャツの価格と同じ20ユーロで、私がデザインした柄の生地のみを販売しました。購入された方が自ら服を縫い合わせないといけなかったのです。アイデアだけで20ユーロかかるなら、制作する労働力を換算すればたった20ユーロで服を売るのはバカらしいというメッセージが込められています」
 

Photo by Peggy Kuiper
 
Lisa「プロジェクト『Collect』は流行など関係なく長持ちする一品を作りたいという友人であるKarin Vlugの発想から生まれました。時代に沿ってトレンドやスタイルが変わることに魅力を感じるからこそファッションが好きな人が多いと思いますが、常に斬新でフレッシュな服を、大量な生地を無駄にせずに生産できる方法はないかと考えたんです。そこからイケアやレゴブロックなどの会社の特徴とされている部品替えのコンセプトを取り入れました。人は自分が完成に貢献した気持ちがあるともっと物を大切にする傾向があるので、ベースの色だけ、または袖のデザインや幅などの一部分を変えられるという主導権を与え消費者も制作過程に参加できるようにしました。ファッションはストーリーを伝える力があることも忘れてはいけません。最新プロジェクトの『Baba』と『Nobu』はファッションを通してストーリーを伝えたい気持ちが込められています」
 

photo by Team Peter Stigter
 
ーー持続することの可能性を訴え続けていますが、政府、消費者または大手の企業が一番意識しなければいけないことは何だと思いますか。
 
Lisa「ファッションはグローバルで広範囲に渡る業界なので、透明性を求めるのは難しいと思います。とはいえ政府はファストファッションなどの企業の透明性を訴える重大な責任を持っています。例えば、ファストファッションの下請け工場をヨーロッパに移す政策など。H&MやZARAなどのメジャーブランドの服の裏地が作られている工場はコートにボタンをつける場所とは全く違うことが大半ですが、一着を作るために服がどの工場にいき渡るのかを把握していないブランドが多いため、工場の労働条件やプロセスに手を加えられないのです。責任を持ってプロセスの最初から最後までの過程を管理することから変化が加速すると思います」
 
text Ayana Waki
 
Lisa Konno
Lisa Konno graduated at the Fashion Design department of Artez in Arnhem. Currently based in Amsterdam, she continues to experiment with new ways and techniques to develop fashion.
http://www.lisakonno.com/home/
https://www.instagram.com/lisakonno/

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