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text by Nao Machida

BLACK LIVES MATTERについて知る:映画・ドラマ編 – Nao Machida




アメリカ・ミネソタ州で黒人の男性が白人の警官に首を押さえつけられ死亡した事件を受けて、各地で抗議デモが行われている。「息ができない」と苦しそうに訴える被害者のジョージ・フロイドさんが力尽きて動かなくなるまでの一部始終が収められた動画は一瞬にして拡散され、関与した警官は殺人罪で起訴された。ソーシャルメディアは「#BlackLivesMatter」(黒人の命は大切だ)のハッシュタグで埋め尽くされ、抗議デモの写真や動画、人種主義(レイシズム)に関する情報などが飛び交っている。


筆者は10代〜20代をアメリカで過ごした。似たような家庭環境の子どもたちに囲まれて育った日本での生活とは違って、アメリカでは様々な人種やバックグラウンドの子どもたちと机を並べ、アジア人として、ある程度の差別や人種の壁を感じたこともある。でもアフリカ系アメリカ人が日々直面している現実は、ただ単に肌の色の違いによる差別というわけではない。そこには長年にわたって深く根付いている、複雑な国家の仕組みや社会の制度が絡んでいる。


ニュースやソーシャルメディアを見て気になっていても、日本で暮らしていると人種主義の問題は身近ではないかもしれないし、何をしていいかわからない…という人もいるかもしれない。自分自身も遠い日本にいて発言することに躊躇したし、実際に「当事者じゃないくせに」という意見も耳に入ってきた。でも、「海の向こうにいるから何もできない」「差別はいけないと思うけど日本人だし」と言い訳しているうちは、問題を見過ごしているのと同じだ。何をしていいかわからなかったら、まずは人々の言葉に耳を傾け、歴史や現状について調べ、学んだらいい。 


ここでは、人種主義やアメリカの現状を理解する上で助けになりそうな映像作品をピックアップした。もちろん、そこから学べることは限られているけれど、ドキュメンタリーであれ、フィクションであれ、知らない世界を垣間見ることができる映画やドラマを通して、今まさに世界で起きている出来事を少しでも理解し、考えるきっかけになればいいなと思う。






『ドゥ・ザ・ライト・シング』
ジョージ・フロイドさんが殺害されたニュースを観て、『ドゥ・ザ・ライト・シング』を思い出した人は少なくないはず。スパイク・リー監督が30年前に手がけた映画の舞台は、ニューヨーク・ブルックリンの黒人が多く暮らしていたエリア。監督が自ら演じた主人公のムーキーは、イタリア系の店主が経営するピザ屋でアルバイトしている。ある暑い夏の日、ピザ屋の店内にイタリア人の写真しか飾られていないことに腹を立てた黒人の客が店主と口論になり、町中の人を巻き込んで、次第に取り返しのつかない暴動へと発展していく…。“正しいことをしろ”を意味するタイトルの“正しいこと”とは何なのか? 映画は明確な答えの代わりに、観る者一人ひとりに考える機会を与える。


*刺激的な内容が含まれています。閲覧の際にはご注意ください。


監督は今回の事件を受けて、ジョージ・フロイドさんが警官に首を押さえつけられている映像と、2014年に警官に絞殺されたエリック・ガーナーさんの映像、そして本作からのワンシーンを編集した動画『3 Brothers – Radio Raheem, Eric Garner And George Floyd』を公開した。『ドゥ・ザ・ライト・シング』から30年経った今も同じことが起きている現実に言葉を失うが、監督はBBCによるインタビューで、「これは新しいことではない。400年以上前から続いていることだ」と語っている。

https://twitter.com/SpikeLeeJoint/status/1267269978320826368







『13th 憲法修正第13条』
公民権運動の最中に起きた“血の日曜日事件”について描いた映画『グローリー 明日への行進』のエイヴァ・デュバーネイ監督が手がけたドキュメンタリー映画。タイトルの憲法修正第13条とは、1865年に制定された奴隷制を禁止する修正法のこと。しかし、そこには“犯罪者は除く”と明記されており、この言葉が抜け穴となって、黒人が犯罪者として逮捕されやすい現状を生み出している。映画は識者や元受刑者たちのコメントを交えて、アメリカにおける人種問題や黒人の大量投獄などを解説。さらに、囚人たちを強制労働させることで多大な利益を生み出す、巨大なビジネスと化した歪んだ刑務所制度にも深く切り込む。統計データに基づいたわかりやすい検証により、奴隷制の時代から現在までの歴史的背景がより深く理解できる。

Netflix





『私はあなたのニグロではない』
いずれも暗殺された公民権運動家のメドガー・エヴァース、マルコムX、マーティン・ルーサー・キングJr.の軌跡をたどり、60年代の公民権運動から現代のBlack Lives Matterに至るまで、アメリカにおける人種主義や差別の歴史に迫るドキュメンタリー映画。3人の盟友でアメリカ黒人文学を代表する作家ジェームズ・ボールドウィンの未完の作品を主軸に、彼の著書やエッセイ、インタビュー、講演での発言や記録映像を通して“差別の正体”を解き明かす。「差別とは何か」を語るボールドウィンのスピーチは、今でこそ耳を傾けたい内容だ。



6月12日~6月25日アップリンク吉祥寺、6月19日~6月25日アップリンク京都、6月26日~愛知・刈谷日劇にて、緊急上映決定。


ちなみに2019年公開の映画『ビールストリートの恋人たち』はボールドウィンの小説が原作で、不当に逮捕された婚約者の無実を晴らそうと奔走する黒人女性の物語が描かれている。






『ボクらを見る目』
1989年にニューヨークのセントラルパークで起きた性的暴行事件で、不当に逮捕された少年たちの実話を基にした全4話のシリーズ。マスコミから“セントラルパーク・ファイブ”と呼ばれた5人の少年たちはハーレム出身の黒人とヒスパニックで、事件当時の年齢は14歳〜16歳。その時間に公園に居たというだけで拘束され、圧迫尋問の末に犯していない罪を自白させられる。5人のうち4人は少年鑑別所に送られるが、唯一16歳だったコーリーは成人として裁かれ、一度も保釈されることがないまま成人刑務所で過酷な刑期を務めることに。幼い少年たちが瞬く間に犯人に仕立て上げられていく様子や、彼らが過ごした地獄のような日々は、思わず目をそらしたくなるほど恐ろしく、これが実際に起きた出来事であるという事実に愕然とする。

Netflix


Netflixでは、オプラ・ウィンフリーが司会を務め、原案・監督・脚本のエイヴァ・デュヴァーネイを含むスタッフやキャスト、そして実際のセントラルパーク・ファイブにインタビューしたトークショー『オプラ・ウィンフリーPresents: 今、ボクらを見る目』も配信中。

Netflix



事件については、2012年に制作されたドキュメンタリー「The Central Park Five」に詳しい(日本未公開)。






『ヘイト・ユー・ギブ』
不条理な現実を突きつけられた一人の少女の葛藤と心の成長を描いたヒューマンドラマ。主人公は低所得世帯の黒人が多い地域で暮らしながら、裕福な白人の子どもたちが生徒の大半を占める私立高校に通う16歳のスター。ある夜、幼なじみの黒人の少年カリルが、突然にして白人の警官に射殺されてしまう。事件の唯一の目撃者となったスターは、亡くなってもなお差別や偏見にさらされるカリルのために、自分がするべきことを模索していく…。幼い子どもたちが警官に止められたときの対処法を教え込まれるシーンなど、アフリカ系アメリカ人が経験している厳しい現実が随所に垣間見える。タイトルはラッパーの故2PACのリリックからの引用。原作はヤングアダルト向けのベストセラー小説だが、すべての世代にとって学ぶべきことが詰まっている作品。






『ブラインドスポッティング』
カリフォルニア州オークランドを舞台に、人種の違いや貧富の差が生み出す社会問題を描いたヒューマンドラマ。主人公は黒人の青年コリン。残り3日間の保護観察期間を問題なく過ごすため、幼なじみで問題児の白人マイルズにひやひやさせられながらも真面目に暮らしている。ある夜、コリンは丸腰の黒人が白人の警官に撃たれる瞬間を目撃。この日を境に、自分たちを取り巻く現実やお互いの間にある見えない壁を認識していく…。主演のダヴィード・ディグス(ラッパー/俳優)とラファエル・カザル(スポークン・ワード・アーティスト/教育者/舞台脚本家)は、実生活でもオークランド出身の長年の友人同士で、本作では脚本も担当。同じ環境で同じ経験をして育った大親友でも、肌の色の違いによって見えている世界が異なるという状況に、“ブラインドスポッティング”というタイトルの意味を考えさせられる。





『親愛なる白人様』
2014年に公開されたジャスティン・シミエン監督の映画『ディア・ホワイト・ピープル』を基にしたNetflixオリジナルシリーズ。アメリカにある架空の名門大学で、ハロウィンに白人の学生たちが黒人扮装パーティーを開催。これをきっかけにキャンパス内の人種問題が浮き彫りになり、黒人の学生たちは不条理な現実と向き合っていく。主人公は、学内のラジオ番組「親愛なる白人様(Dear White People)」を通して、歯に衣着せぬストレートな意見を発信する3年生のサム。シリーズは彼女を中心に、エピソード毎に異なる学生の視点から同じ日の出来事が描かれる。シミエンをはじめとする複数の監督が各エピソードを手がけており、シーズン1の第5章は『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスが担当した。


Netflix





『黒い司法 0%からの奇跡』
多くの死刑囚を救出してきたアメリカの弁護士/社会正義活動家のブライアン・スティーブンソンの実話を映画化。舞台は黒人差別が根強い80年代のアラバマ州。若手弁護士のブライアンは、不当に逮捕されて死刑を宣告された黒人男性の無実を証明しようと立ち上がる。しかし、仕組まれた証言や白人の陪審員たち、証人や弁護士への脅迫など、様々な不正が立ちはだかり、司法の闇が浮き彫りになっていく。主演を務めたのは『ブラックパンサー』のマイケル・B・ジョーダン。冤罪の死刑囚役をジェイミー・フォックスが演じた。アメリカの司法制度が抱える多くの問題を通して、人種主義や差別の背景が描かれている。

6月17日リリース/デジタル同時配信。



Nao Machida
ライター/翻訳。アメリカにて10代、20代を過ごし、現在は映画を中心に執筆や翻訳を行う。








BLM支援のための寄付
Black Lives Matter
Black Visions Collective
The Okra Project


被害者遺族への寄付

Official George Floyd Memorial Fund
Justice For Breonna Taylor
In Memory Of Tony McDade
I Run With Maud [Ahmaud Marquez Arbery]
Justice For Regis [Korchinski-Paquet]
Justice For David McAtee
R.I.P Belly Mujinga

署名
Justice For Breonna Taylor
• #JusticeForFloyd
Justice For Belly Mujinga
Defund The Minneapolis Police Department
National Action Against Police Brutality

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