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text by Ryoko Kuwahara

「閉じ込められていない解放的な人でありたい」Yoon Jiyoung『Blue bird』『wwwe / eternal』インタビュー




韓国のシンガーソングライターYoon Jiyoung(ユン・ジヨン)が、自身初となるEP『Blue bird』を10月28日にリリース。語りかけるような美しい声とどこかノスタルジックでいて新しいメロディ、そしてその自由な表現や生き方でユースのアイコンになりつつあるアーティストだ(昨年9月に発表した“a will(feat. Car the garden)”のMVの再生回数は100万回を超え、「DAZED」のグラビアも)。初のEPには表題曲の“Blue bird”を含む5曲が収録され、同曲のMVはHYUKOHのヴィジュアルも手がけ世界で注目を浴びるdadaism clubのチョン・ダウンが監督、同じくdadaism clubのハン・ダソムがアーティスト写真を手がけていることでも話題に。11月3日のレコードの日には日本国内で初のリリースとなる7inchも発売。Yoon Jiyoungに曲作りやアートワークについて、またその枠にはまらない表現の根底にある考えについて聞いた。

ーーEP『Blue bird』のリリースおめでとうございます。あなたはピアノで作曲するそうですが、広がりのある音が語りかけるような独特の歌い方と調和していてとても美しいです。ピアノで音を探すときは歌いながら自分の声に合う音を探すのでしょうか、それとも音とヴォーカルは切り離して考えていますか。


Yoon Jiyoung「ありがとうございます。曲を書くとき、ピアノと歌のメロディを一緒に作るのが好きですね。そうすると一番自然に調和するように思います」


ーークラシックなピアノを学んでいたところからポップスに興味を持ったきっかけは?


Yoon Jiyoung「クラシックを8年ほどやりましたが、手を怪我してピアノを休むことになりました。そのうちラジオを聴くことにハマって多様な音楽を知るようになり、Cyworld(当時流行していたブログのようなものです)のBGMを聴きながらこんな音楽がやりたいと思うようになったんです」


ーー心情が素直に書かれた歌詞は親友の日記を読んでいるような気持ちになります。歌詞を書くために心がけていることは? 


Yoon Jiyoung「歌詞を書く時は紙に書きながら修正していくようなことをせず、初めて口から出る言葉による表現を用いるようにしています。修正する過程でも、できる限りその時々の悩みとそれをポンッとすぐに吐き出しているような表現にする努力をします。頭を使ってあまり普段使わない口調で書く歌詞はぎこちなく感じてしまうので」


ーーRex Orange CountryやTHE 1975などが好きだそうですが、2020年の中で現時点までで一番よく聴いたアーティストは?


Yoon Jiyoung「今年はWhitneyとking kruleを 一番たくさん聴いたと思います。寒くなって、一週間前からは毎朝Kings of convenienceを聴いています」









ー今回の日本での『wwwe / eternal』リリースはレコードの形となります。レコードはA面とB面があり、針を落としたり裏返して聴くという行為を伴う記録媒体です。そして7incは主に片面1曲ずつという特徴があります。そのような特徴のある記録媒体におさめるにあたりA面、B面のバランスや収録曲の内容をどのようなものにしたいと構想しましたか。


Yoon Jiyoung「ある意味全く違うスタイルの2曲ですが、だからこそ同じレコードに収めたんです。そうすることで 私が持っている2つのアイデンティティを見せられると思いました」


ーレコードジャケットのアートワークはEPとまた異なり、油絵のようなシックなヴィジュアルとなっています。あのアートワークについて教えていただけますか。


Yoon Jiyoung「その絵は”wwwe(우우우린)”のカバーで、親友で仕事仲間でもあるダソムリが描いてくれました。新しい視線でものを作る鋭敏な感覚をもった友人です。この曲に対する話を聞いてもらって、全体的な色やどのような時間か、温度といった抽象的なことを伝え、できるだけ考えがシンクロできるようにたくさん話し合いを重ねました。同じような考え方をする、でも他の人が表現した“wwwe(우우우린)”を見たかったんです」



ーーたまごっちとCDプレーヤーについて話しているインタビューをいくつか読んだのですが、レコードやターンテーブルにまつわる思い出もあれば教えてください。


Yoon Jiyoung「残念ながらレコードやターンテーブルと日常的に接していた世代ではないので、幼少期の思い出はありません。だからこそより気になるのかも」




ーーdadaism clubによるEP『Blue Bird』のヴィジュアル、MVはとても独創的で、かつあなたにマッチしていて素晴らしい出来栄えでした。アルバムのジャケットやポートレイトがいつも優れていますが、どのようにして一緒に作るアーティストを選んでいるのでしょうか。


Yoon Jiyoung「かっこいいアーティストを見つけたら、すぐに連絡してみるタイプです。そして、クリエイティヴな人脈のある友達も多いんです。一緒にものづくりをして良い友達になったら、次の作品を一緒に作るアーティストを見つけてくれたりね。何しろ私と私の音楽をよく知っている友達になったわけですから。今回のジャケットを作ってくれたクリエイターはインスタのハッシュタグで見つけて、一目惚れしてすぐ連絡しました。おもしかったのが、一緒に仕事をしている子がdadaism culbのファンになってすすめてくれたのですが、私はもう連絡済みだったんです。最近ファンになったから連絡してみようという話が出て、思わず会議の途中で叫びそうになりました」



ーープールのシーンの撮影風景をSNSでもアップされていましたが、あのシーンはとても好きです。出来上がったMV、ヴィジュアルを見ての感想と制作で印象深かったことを教えてください。


Yoon Jiyoung「最初に編集したものを観て 『これまでこの世になかった全く新しいMVだ!』と思いました。本当に新鮮だったし、私が望んでいた新しさがあって、何も言うことはなかった。そしてアイデアを出してから撮影当日まで、確信を持ってものづくりを引っ張っていく姿がとても印象的でした」


ーー彼らの魅力、そしてどのようにお互いにこのヴィジュアルやMVの内容をすり合わせていったのか、制作のプロセスを教えてください。


Yoon Jiyoung「MVと写真撮影、全てが同じように重要でした。そこにはdadaism clubの感覚がそのまま込められています。私は何か枠組みを整えておくようなことはなく、信じて待っていただけ。元々は全て作業の前にはっきりとイメージを決めておくタイプなのですが、今回は正反対。初めてそうした作り方をしましたね」


ーーMV内の衣装もどれも大好きでした。あなたが選んだものですか? おすすめのブランドなどあればぜひ教えてください。


Yoon Jiyoung「今回の作業で良かったのは、dadaism club同士の仲がよいこと。ダソムさんが決めたコンセプトの中で、イェヨンさんが衣装を全て選んできたんです。直線的な服が多かったのですが、その中には日本からの服もありましたよ。 @yushokobayashiさんの服は印象深いです」








ーーあなたのタトゥーも芸術的です。特に両親の結婚写真をイラスト化したタトゥーには感動しました。タトゥーを最初に入れるようになったきっかけは? タトゥーアートは世界的にも人気ですが、どのようにご覧になっていますか。


Yoon Jiyoung「母に人生でいつが一番幸せだったかという質問をしたことがあるんです。結婚式の日だと言っていたので、姉とその話をしながら一緒にタトゥーを入れてきました。タトゥーというものには責任感が伴う、そこに大きな魅力を感じます。一生身体に刻んでおくべきタトゥーを決めるということ、そして後悔したとしてその後悔にもしっかり責任を負わなければならないという点でいい経験だなと思います」

ーー携帯灰皿の動画も好きです。喫煙者であることも公言していますが、韓国では女性が喫煙することには批判的な風潮があると聞いています。あなたが公言したことで解放されたとポジティヴに捉えた女性たちもいるのではないでしょうか。あなたの元にそう言ったポジティヴなメッセージは届いてますか。


Yoon Jiyoung「女性のアイドルや役者の喫煙がとても大変なことであるかのように書かれている記事やその反応がおかしいと思っていました。もちろん今は喫煙自体も少なくなっているので直接メッセージをもらったことはありませんが、私が喫煙していることがごく自然なことに見えることで、それを見た誰かが他の誰かにより広い包容力を持った態度で接することができればいいなと思います」






ーーあなたの自由なヴィジュアルや発言にエンパワメントされる女性も多く、若い世代のロールモデルにもなってきつつありますが、その現状をどう思いますか。


Yoon Jiyoung「女性の人権問題や社会的問題について最も憤っていた時、自分には何もできないと無力さを感じていました。でも少しずつですがたくさんの人たちに話を聞いてもらえるようになっていき、自分にもできることがあると思えるようになりました。私が関心を持っていることが、私に注目してくれている人たちやその周りの人たちにも伝わっていくと信じています。もちろん、私の考えはあくまで私の考えであって、絶対的な答えではないというのが前提。問題に対してどう考えるかは、その人自身が選ぶものですから」


ーーNeoLでは韓国の文学を特集したこともあるのですが、女性の作家が非常に元気ですよね。韓国のインディペンデントな音楽シーンでも女性の活躍は目立ってきていますか?


Yoon Jiyoung「ええ、いろいろな方面で自分を表現する女性が増えました。 今育っている子どもたちの目に、多様な女性像が映るればいいなと思います」


ーー成長の過程での刷り込みなどで、自分を知らず知らずカテゴライズしたり、抑圧してしまっている人も多いと思います。自分を表現し、自由を楽しむための秘訣があれば教えてください。


Yoon Jiyoung「時々、自分自身がどんな人間かをわからないまま死んだらどんなに残念だろうかと思います。 自分が誰なのか、そしてどのように生きていきたいのかをある程度わかったうえで死んだらどんなにいいだろうと。そうしたことを考えているため、何かにとらわれることなく、自分のことをもっとよく知り、その自分が思うがままに生きているのです」






ーー今はCOVID-19でライヴなどができにくい状態が続いていますが、クリエイティヴへのモチベーションをどのように保っていますか。


Yoon Jiyoung「クリエイターの友人ばかりなので彼ら彼女らとの対話を通じて多くのことを解消しています。お互いにものづくりへのパッションを見せ合うことは思っている以上にモチベーションを上げてくれるんです。そして、好きなアーティストたちのCOVID-19以前のライヴ映像を観ながら、いつかできるであろうライヴをどのようなものにするか計画を練っています」

ーーCOVID-19で自身のクリエイションに何か変化を感じますか。


Yoon Jiyoung「活動し始めはまだライヴの計画を立てていなかったのですが、2019年にようやく本格的なライヴのスケジュールを組んだんです。偶然にもそれからすぐにこの事態になり、多くの支障が生じましたが、むしろちょっとしたライヴの経験とその練習ができた年だったと思っています」



ーー今後どのようなアーティストとして活動していきたいかヴィジョンを教えてください。


Yoon Jiyoung「閉じ込められていない解放的な人でありたい。自分が進もうとしている方向でさえ、その方向の中での型にはまらないようにしたいと思っています。頑固で、自分のやりたいことを作り出す時に胸がいっぱいになるけど、だからこそ予測不能なものを作ることができるか、ありきたりにならないか心配になる時もあります。音楽においてもヴィジュアルにおいても、柔軟でいつも新鮮なアーティストになりたい」



ーー最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。次はぜひ日本でライヴも!


Yoon Jiyoung「日本に行くのが好きでいつも日本で活動したいと思っていました。これからも様々な機会を通じてお話したいし、いつかみなさんとライヴで会える日が来ることを願っています。またその時に会いましょう〜」





text Ryoko Kuwahara



Yoon Jiyoung
7inch『wwwe / eternal』
(Bside / Lawson Entertainment, Inc.)
https://www.hmv.co.jp/news/article/2009081004/
https://www.bsidelabel.com/bsidek-indiesseriesvol3
https://www.instagram.com/bside_label/



Yoon Jiyoung
EP『Blue bird』
https://music.apple.com/jp/album/blue-bird-ep/1537546076
https://open.spotify.com/album/79aVg7uljET5XuVio9dNFr?si=5mqzUrybT3CjmG9xm75kOw


Yoon Jiyoung
https://www.instagram.com/bye_xoxo_/

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