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text by Nao Machida

「私にとってこのアルバムは、困難なことを乗り越えて、ありのままの自分に満足できるようになることでもあった」アーロ・パークス 『Collapsed In Sunbeams』 インタビュー/Interview with Arlo Parks about “Collapsed In Sunbeams”




ロンドン出身で、ナイジェリア、チャド、フランスをルーツに持つ弱冠20歳のシンガーソングライター/詩人のアーロ・パークスが、年明けにデビューアルバム『Collapsed In Sunbeams』をリリースした。2018年にファーストシングル「Cola」を発表以降、音楽ファンから熱い視線を集めてきた彼女は、世界中がシャットダウンされた2020年、ついに待望のデビューアルバムの制作に取り掛かる。その間も少しずつ新曲を発表し、フィービー・ブリジャーズやビリー・アイリッシュといったアーティストたちから賛辞を贈られたほか、英BBCが期待の新人を選出する「BBC Sound of 2020」にも名を連ねた。そして完成したのは、耳心地の良い声が奏でる詩の朗読からスタートし、次第に言葉の数々が繊細かつ暖かみのあるサウンドに乗せられていく、独特の光に包まれた魅力的な作品だ。ここでは、アーロがロンドンの自宅から電話インタビューに応じ、シンガーソングライターになるまでの経緯や、アルバムに込めた想いなどを語ってくれた。 (→ in English)



―昨年から大変な一年でしたが、大丈夫でしたか?


アーロ・パークス「私は大丈夫、ありがとう。ワイルドな一年だったけど、ゆっくりと考えたり、映画を観たりする時間ができたから、気分はいいんだ」


―デビューアルバムのリリースおめでとうございます!


アーロ・パークス「ありがとう! ついにリリースされたことが信じられなくて。すごく長い時間が経ったように感じる。私の携帯の中にある小さなDropboxのリンクに過ぎなかったものが、今は世界中に広まっているなんて、エキサイティングだよね」


―ご自身が手がけた作品を世界中の人が聴いていると考えると、どんな気分ですか?


アーロ・パークス「なぜだかわからないんだけど、まだ少し緊張している気がする。みんなが楽しんでくれていることについてはワクワクするんだけど、『どうしよう、本当に世界にリリースされちゃったんだ!』という気持ちもあって。いまだにちゃんと信じられない(笑)」





―これまでの経緯についてお聞きしたいのですが、歌や曲作りはいつ頃に始めたのですか?


アーロ・パークス「基本的には、7歳か8歳の頃に短編小説を書き始めたことがきっかけだった。それから少しずつ、イメージに惹かれるようになって。自分が小さな世界を作り上げているように感じられるものを作りたくなった。文章に関しては長文を書きたいと思わなくて、数行で感情的なものにしたいと思っていたから、私にとっては詩を書くことが理にかなっていた。そしたら、私が詩に興味を持っていると気づいた先生が詩集をくれて。その後、14、5歳でギターを弾き始めて、GarageBandを使って独学でプロデュースを覚えた。その頃から曲作りを始めたんだ」


―自分の書いた言葉と音楽を一つにしようと思ったきっかけは?


アーロ・パークス「多分、当時聴いていたアーティストの影響だと思う。パティ・スミスやキング・クルールやフランク・オーシャンといった人たちの音楽を聴いていたんだ。物語を歌うことで、そこにさらなる深みを与えることができた。音楽はずっと好きだったから、自然とはまっていったんだと思う」


―あなたの書くリリックはとても美しくて、いつも素晴らしいストーリーテラーだなと思って聴いています。曲を聴いていると、頭の中にディテールまではっきりとシーンが浮かんできて、その瞬間が大好きです。


アーロ・パークス「ありがとう。それはまさに私がやりたいと願っていたこと。私はずっと、ポラロイド写真を見ているような感覚になる曲を作りたいと思っていた。もしくは、映画のワンシーンを見ているような気分になって、細かいディテールまで感じられるような。いつもそんな曲作りがしたいと思っているんだ」


―曲作りをする時は、どのようなことからインスピレーションを受けていますか?


アーロ・パークス「あえて構えて考えていないときにこそ、最高の歌詞が生まれるんだと思う。最近は『I’ve Seen the Future and I’m Not Going』(Peter McGough)という回顧録を読んでいて、そこからたくさんのインスピレーションを得ている。80年代のニューヨークのダウンタウンとアートシーンについて書かれた本なんだ。あとはインディーズ映画や外国映画からもたくさんのインスピレーションを受けていて、最近はエドワード・ヤン監督の『恐怖分子』を観たりして」


―ロックダウン中も曲作りはしていましたか?


アーロ・パークス「うん、アルバムもロックダウン中に書いたしね。今も曲は書いていて、デモを作って何ができるか試したりしている。困難なときは、間違いなく音楽に頼っていると思う」





―アルバムの制作はいつ頃始めたのですか?


アーロ・パークス「最初にできた何曲かは2020年1月に書いたはず。その頃はアルバムのために書いているという感覚ではなくて、ただ曲を書いていた。それで確か3月になってから、ロックダウンがスタートして。その頃にアルバム制作を本格的にスタートしようと決心したんだと思う」


―タイトルを『Collapsed in Sunbeams』にした理由は?


アーロ・パークス「ちょうどその頃、ゼイディー・スミスの『美について』(原題:On Beauty)という本を読んでいて、このフレーズ(”Collapsed in Sunbeams”)に、何だかとてもほろ苦さを感じたんだ。感情に圧倒されるような感覚で、でもその感情がポジティヴなのかネガティヴなのかはわからなくて。そして、太陽は成長を促す癒しの力なのだということを思い出させられた。私にとってこのアルバムは、困難なことを乗り越えて、ありのままの自分に満足できるようになることでもあったので、このフレーズが自分の中で腑に落ちたんだ」


―このアルバムをご自身の言葉で表現するとしたら?


アーロ・パークス「とても繊細なアルバム、かな。ジャンルに関しては、インディーとソウルとポップが少しずつ、かな?(笑) そして、詩に根ざしているアルバム。私に言わせるとそんな感じだと思う」


―アルバムの中で一番誇りに思っている曲は?


アーロ・パークス「多分、私にとっては『Hope』だと思う。曲に込めたメッセージもそうだし、自分たちがイメージした通りのドラムの音を入れられた気がするし。それに、ちょっと話し言葉が入っているのも気に入っている。きっとライヴでも、会場中の人たちが“You’re not alone”って歌ってくれたら盛り上がるだろうな。本当に特別な時間になると思う」


―収録曲の「For Violet」では、歌詞に日本人アーティストのNujabesの名前が出てきますね。昔からNujabesが好きだったのですか?


アーロ・パークス「昔から知っていたわけではなくて、確かJ・ディラのようなローファイヒップホップにはまっていたときにNujabesのことを知って。それで『Feather』を聴いたら、どこかに飛んでいったような気分になった。彼の音楽には、何だかとても異世界的な魅力があるよね。私はいつも心を落ち着かせたいときに聴いているんだけど、すぐに落ち着くことができる。彼の音楽が本当に好きなんだ」





―音楽以外の分野で親しみのある日本の文化はありますか?


アーロ・パークス「私が唯一知っていることといえば、スタジオジブリの映画についての幅広い知識があるだけかも(笑)」


―私もジブリ映画を観て育ちました。


アーロ・パークス「そうなんだ! このアルバムの曲作りをしていたとき、全作を観直してみたんだけど、ジブリ映画にはどこかとても心温まる魅力があるよね。大好きだよ」


―一番好きな作品は?


アーロ・パークス「そうだな…『ハウルの動く城』か『もののけ姫』かな」


―好きな作家は?


アーロ・パークス「すごくたくさんいる。実は村上(春樹)のことは昔から大好きだった。特に『ノルウェイの森』と『1Q84』がお気に入り。私が彼の文章のスタイルに惹かれるのは、彼の本の中には常にとても人間味のある人物が描かれているから。彼らはまるで自分の知り合いのように感じられるんだけど、それと同時に、彼の文章には何だかこの世のものとは思えないような質感があって、現実がちょっとずれているように感じられるんだよね」


―よくわかります。


アーロ・パークス「それに彼はとても優雅でありながらも簡潔な描き方で、非常に難しい、胸が張り裂けるようなトピックに取り組んでいる。私はそんな彼の文章が大好き。他の作家だと、ジョーン・ディディオンやオードリー・ロードが大好きだし、パティ・スミスの文章も大好き。詩人に関しては、パット・パーカーやアレン・ギンズバーグ、オーシャン・ヴオンが好きで……実は今、自分の本棚を見ながら、そこに並んでいる名前を読み上げているんだ(笑)」





―ライヴが開催できないパンデミックの最中にデビューアルバムをリリースしたにもかかわらず、誰もがあなたのことを話題にしていて、ミシェル・オバマのプレイリストにも選ばれていましたね。取り巻く環境が大きく変わったのではないかと思いますが、そのことについてはどう感じていますか?


アーロ・パークス「面白いことに、あなたが言うように確かにいろんなことが変わったし、たくさんの素晴らしいことが起きているんだけど、私は今も実家に住んでいるんだ。いまだにお皿洗いをしなさいとか言われて怒られている(笑)。私の生活は以前と何ら変わりがなくて、それが一番良かった気がしている。自分の夢は叶っているんだけど、今でも家族に囲まれていて、謙虚でいられる。それがいいなと思っているんだ」


―何か意外なところにインスピレーションを見出すなど、在宅期間中にアーティストとして興味深いことはありましたか?


アーロ・パークス「私にとっては、ポッドキャストと瞑想について掘り下げることができたのが良かった。これまでも興味がなかったわけではないんだけど、そのために時間を割くことはしていなかったから。あとは、一人の時間を過ごすこと。私は他の人からインスピレーションを受けることが多いんだけど、自分と向き合って、自分自身をよく知ることが、実はとても刺激的なことだとわかった。以前よりも自分自身と深く繋がれたような気がする。それに、静かな空間を設けて、その瞬間に自分が感じていることをただ受け入れてみた。この時期を振り返ると、それは間違いなく最も刺激的なことの一つだったと思う」


―昨年は音楽に癒されることが多かったのですが、在宅期間中はどんなことに癒されていましたか?


アーロ・パークス「私も自分にとっての癒しのアルバムを聴いていた。レディオヘッドの『In Rainbows』や、ソランジュの『A Seat at the Table』や、ソーコの『I Thought I was an Alien』とか…それにthe xxのファーストアルバムも。彼らのことは大好きなんだ。ただくつろいで、音に浸ることができるから、音楽には何かとても癒されるような魅力があるよね。それにレコードを聴きながら落書きしたり、作詞したり、メモを書いたりしていた。それは間違いなく私を幸せな気持ちにさせてくれた」





―パンデミックが終息したら、まずは何がしたいですか?


アーロ・パークス「正直なところ、何よりもライヴがしたい。だって、まだ地元でもライヴをやったことがないんだよ。ロンドンでライヴをしたことがないくらいだから、もちろん海外には行けていないしね」


―ぜひ日本にも来てください。


アーロ・パークス「もちろん!」


―日本に来たことはありますか?


アーロ・パークス「日本には行ったことがないんだ。マネージャーと初めて会ったとき、『世界のどこでライブができるようになりたい?』と聞かれたのを覚えている。私たちは声をそろえて『日本!』って言った。それで、『じゃあ、それが目標だね! いつか日本に行こう』って話したんだ。だから、いつか日本に行けるといいな。実現したら最高だね」


―たくさんのファンが待っています。日本のファンに伝えたいことはありますか?


アーロ・パークス「私の音楽に感動してくれてありがとう。多くの人の心に届いたことをうれしく思っています。いつか安全な状況になった時に、日本に行ってライブするのが待ちきれないよ」


―今後の予定は?


アーロ・パークス「今は詩集を制作しているところ。あとは常に新しい音楽を手がけている。それに演技や監督業ももう少し探求したい。それができたらすごく楽しいと思う」


―ガス・ヴァン・サント監督がGUCCIのために手がけたショートフィルムに出演していましたね。


アーロ・パークス「あれは素晴らしい経験だった。とても緊張したけど、すごく楽しかった。私にとっては、クリエイティヴな活動における自分の安全地帯を飛び出すような経験だった。たくさんのことが学べるから、私はいつもそういう経験を楽しむようにしているんだ」





text Nao Machida



Arlo Parks
『Collapsed In Sunbeams』
(Bing Nothing / Ultra Vibe)
世界同時発売、日本盤ボーナス・トラック5曲収録、解説/歌詞/対訳付
収録曲目:
1. Collapsed In Sunbeams 2. Hurt 3. Too Good 4. Hope 5. Caroline 6. Black Dog 7. Green Eyes 8. Just Go 9. For Violet 10. Eugene 11. Bluish 12. Portra 400 13.Paperbacks (Live for On Air)* 14.Cola (Live for On Air)* 15.George (Live for On Air)* 16.Angel’s Song (Live for On Air)* 17.Super Sad Generation (Live for On Air)*
*日本盤ボーナス・トラック

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