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text by Junnosuke Amai
photo by Satomi Yamauchi

「『いつまでも子どもでいよう』と若者文化を推奨する世界に向けてのコメント」 Interview with Superorganism about “World Wide Pop”




スーパーオーガニズムの新しいアルバムのタイトルは、ずばり「ワールド・ワイド・ポップ」。パンデミックの前から制作が始められた今作には、ペイヴメントのスティーヴン・マルクマスやフランスのシンガーソングライターのピ・ジャ・マー、さらに日本からCHAIや星野源といったミュージシャンがゲストで参加。「スーパーオーガニズムは多くの異なる個体から構成される(“SPRORGNSM”)」と歌ったかれららしく、さまざまな個性が合わさり色鮮やかなスペクトルとなって一枚のアルバムを彩っている。そして、孤独や疎外感などかれらの内面を映したリリックや作品のメッセージは、隔離されていた私たち繋ぐようにして、コロナ禍以降の沈んだ世界を深くまで照らし出している。友情、“フェティッシュ化”された若さ、ポップ・スター、音楽と生活について――最近もアメリカと日本を行き来していたというオロノ、かたや日本に来るのは3年前のツアー以来となるハリーに話を聞いた。



――ハリーさんは日本に来て驚いたんじゃないですか? イギリスはもうマスクなしの生活だと思うんですけど。


ハリー「そうだね(笑)。でも、来る前に検査をしたり、証明書を発行してもらったり、(位置確認の)アプリをダウンロードしたりと、いろいろなことをしなければならないと知っていたので驚きはなかったよ。ただ、確かにイギリスでは何の制限もなく、今はその生活に慣れてしまったので、(日本の状況は)昔のことのように感じられるというか、何だか不思議な感じがするね」


――今回のアルバムですけど、これはコロナが起こる前から作り始めていたんですか。


ハリー「前のアルバム(『Superorganism』、2018年)が完成してすぐに、このアルバムのための初期のデモを作り始めたんだ。最初に書いたのは“Teenager”と“Put Down Your Phone”だったと思う」


オロノ「2017年の夏だね」


ハリー「そう。だからその2曲が一番最初にレコーディングしたもの。そして最後にレコーディングしたのが“Oh Come On”と“Flying”。その2曲はパンデミックの後に作り始めたもので、長い間制作に携わっていたから、おまけみたいなものなんだよね(笑)」





――実際、アルバムを作る上でパンデミックの影響はありましたか。


ハリー「どうだろう? ないんじゃないかな」


オロノ「というか、できるだけ早く出したかったんです。ただ、全部終わった、と思ったところにパンデミックが起きて。本当は2019年の終わりぐらいにリリースしたかったんですけど、そしたらレーベルが『もっと時間をかけてもいいよ』と言ってくれて。『じゃあ、そうしよう』ということになった。でも、それ以外は特になかったですね」


ハリー「だから、パンデミックが何か足かせになったようなことはなかった。ただ、リリースが遅れただけで。でもその分、作業する時間がもらえたので、結果的にいいものになったよ。だから、アーティスティックな部分では何の支障もなかったね」


――今回の「World Wide Pop」というアルバムのタイトル、すごくいいなあって思ったんですけど。これはどんなふうにして付けたんですか。


ハリー「これは曲のタイトルから取られたものなんだけど、実は最初に思いついたのがこの言葉だったんだ。アルバムの全曲が完成した時点で、タイトルを考えていたんだけど、思いついたのがどれもひどいタイトルでね(笑)。それで、何のアイデアも出てこなかったから、結局、この言葉に戻ってきてしまった。あの曲自体は、とてもキャッチーでくだけた感じで、あまり深い意味はないと思うんだけど、ただ、あのタイトルが僕らにとって目を引いたってことなんだと思う。このアルバムはとても個人的で、自分たちの経験に深く根ざしたもので、様々な場所に入り込んでいる。だからまあ、アルバムの名前が、何て言うんだろう……レコードに収録されているあらゆる種類のバカげた曲のサブタイトルになったのは、とてもいい感じだね(笑)。それに、そんな僕たちがグローバルでユニークなことをしているっていう、壮大なアイデアのようなものを表したタイトルでもあるんだけど、そこにはある意味、少し皮肉が込められている部分もあると思う」


――コロナがあって、パンデミックで世界中が隔離されて……という状況を受けての「世界を超えて」というタイトルなのかな?とも思ったんですけど。


オロノ「多少の影響はあると思う。でも、ほとんどの場合、ちょっとした偶然の産物なんです。アルバムのアートワークもそうだけど、パンデミックの前から自分たちが表現したいアイデアがあった。でも、パンデミックが起きて、様々な意味合いや解釈が加わったというか。だから、結果的に深みが増したように思う」


ハリー「不思議だよね。この曲のアイデアやアートワーク、その他もろもろは自分たち自身の孤独や孤立といった経験に基づいたものだと考えていたのに、それが(パンデミックによって)全世界に広がってしまった。でも世界中がそうなることで、僕らもそれに感化されていったんだ。そうしているうちに、自分たちがここで書いていることは、実は誰もが共感できることだって気づいた。でも、それは自分たちが書いていることの本来の意図とは違うんだよね」





――今回のアルバムにはいろんなミュージャンがゲストで参加しています。先ほど“Teenager”は初めにできた曲だと話していましたけど、CHAIが参加することも最初から決まっていたんですか。


オロノ「いや。サウス・バイ・サウスウエストに出演した時にCHAIもいて、そこで観たかれらのライヴが本当に素晴らしくて。それで、その時はまだ制作に取りかかっている曲はほんの一握りしかなかったんだけど、その中から選んでかれらに声をかけました。ただ、どのフィーチャリングもそうなんだけど、特定の人のために書いたり、特定の人を思い浮かべて書いたりしたわけじゃなくて。空いたヴァースがあるから誰かにちょっと歌って欲しいとか、そういう感じなんです」


ハリー「でも、“Teenager”とCHAIの組み合わせはとても理にかなっていると思う。というのも、この曲のアイデアは『永遠のティーンエイジャー』であるというもので、かれらはそのようなエネルギーを持っていて、とても派手でエネルギッシュで、一緒にいると楽しいということを知っているからね」


――実際に楽曲からも楽しそうな様子が伝わってきます。


ハリー「うん。そして、同じことがミュージック・ビデオでも起こった。ブライアン・ジョーダン・アルヴァレスという男がいるんだけど(※ビデオに出演)、かれも同じようなエネルギーを持っているんだ。かれはCHAIより年上なんだけど、踊っているときはまるでティーンエイジャーのようで、誰の目も気にしない。だからこの2組は曲にぴったりと合っていて、とても自然にフィットしたんだ」





――そもそも今回、いろんなミュージシャンを呼ぼうってアイデアはどこから生まれたんですか。


ハリー「計画していたわけではないよね」


オロノ「友達がたくさんできたんです。で、それがたまたまミュージシャンだったっていう」


ハリー「ミュージシャンをやっていてよかったなと思うことのひとつは、同じような考えを持った人たちと出会えることで。それも様々な文化的背景を持った人たちに出会える。ピ・ジャ・マーとかも、たまたまパリで一緒に演奏したことがあって、その時のライヴがすごく良かったんだ。それで一緒にツアーをしたらとても仲良くなったので、何曲か出てくれるように頼んだ。スティーブン・マルクマスもそう。みんな、旅や音楽を通じて出会った人たちなんだ」


オロノ「そうした延長線上に今回のアルバムはあって。だからごく自然な流れなんだと思う」





――前のアルバムにある“SPRORGNSM”って曲の中に「スーパーオーガニズムは生物であり、多くの異なる個体から構成される」って歌詞がありますよね。今回はいろいろなミュージシャンが参加していますけど、かれらもみんな含めてスーパーオーガニズムみたいな、生物としての一体感が感じられるというか。


ハリー「マーベル・ユニバースのクロスオーバーみたいにね。スパイダーマンが他の作品に出演したり、そういうクロスオーバーをずっと見てきたからね」


オロノ「まさに『アベンジャーズ』だね」


ハリー「その通り。そして、他の人たちがカメオ出演して、数分間だけ映画の一部になっている。例えば“Into The Sun“のような曲には、ゲン(星野源)とスティーヴン・マルクマスとピ・ジャ・マーが参加している。この3人はまったく異なるアーティストなんだけど、みんな一つの曲のためにこの小さな宇宙に入ってきて、僕らと同じように宇宙の一部になっている。そして、かれらの声や個性を取り入れることができるのは本当にクールで、とても自由なことなんだよ」


――実際、作っていてとても楽しかったんじゃないですか。


ハリー「このようなケースでは、制作はとても簡単だった。というのも、僕たちがアプローチした方法は、かれらにこう言うだけだったから。『あなたはどうしたいですか?』と問いかけるだけで。具体的に何をするようにとも言わなかった。かれらはただ、自分たちの個性を発揮してくれたんだ。それがとても重要だったと思う。というのも、かれらは単なるキャラクターとしてではなく、僕たちの世界をより豊かにしてくれる存在であってほしかったし、かれら自身の声を届けてほしかったから」





――“Teenager”の「大きくなったらティーンエイジャーになろう」という歌詞も印象的です。


オロノ「最近の子どもたちは大人になったらユーチューバーになりたがるし、有名な人気ユーチューバーやインフルエンサーはこう宣伝してるんです。『いつまでも子どもでいよう』って。そういうライフスタイルや若者文化を推奨している。ポップカルチャーの世界では昔からあることだけど、だから、それに対するコメントみたいなものです」。


ハリー「そう、つまり“フェティッシュ化”されている。でも同時に、僕たちが音楽やアートにアプローチする方法は、子どものような好奇心と素朴さを保つことだと思うんだ。自発的で衝動的であること、人の目を気にしないこと、失敗を気にしないこと。これらはすべてとても子どもらしい行動様式で。だから、この曲は面白いんだと思う。一方では、さっき言ったような、若さがフェティッシュ化されていることについてのコメントをしているんだけど、他方では、自分たちの中でそれを認めて、祝福し、自分たちの素朴さを保とうとしているんだ」


――さっきも名前が出ましたが、日本の音楽ファンにとって、今回のアルバムに星野源さんが参加していることは大きなトピックだと思います。星野さんは日本の音楽界のポップ・スターであるのはもちろん、TVスターであり、ムービー・スターであり、ラジオ・スターであり、またエッセイを書いたり、教養番組に出演したりと、他にあまり見ない独特な存在だと思うんですが。お2人から見て、そんな星野さんの魅力、共感できるポイントってどんなところにありますか。


ハリー「うん、彼はとても多才で、いつもすごく刺激になる。それに彼と僕たちは似ていると思うんだ。僕たちはいろいろな種類のアートに興味があり、いろいろな種類のアートに取り組みたいと考えている。そして、彼は僕たちよりもカメラの前にいることが多いかもしれないけど、でも、そこには敬意があると思う。さまざまなアートに時間を割き、そのすべてを本当にうまくこなすことができる人は、僕にとってほんとに驚きなんだ。そして、彼はその過程においてもつねに優しく、本当に親切な人なんだよ」


オロノ「彼はある意味とても普通で、とても落ちついている人です。そこが彼の魅力的なところだと思う」


ハリー「すごく有名で成功している人って、実際に会うとちょっと雰囲気が違うんだ。なんというか、他の人に対してどうとも思っていないというか。でも、彼はその正反対なんだ。本当に純粋に優しくて、人に対して関心や興味を抱いてくれる。彼のような人に出会うことは、本当に新鮮なことです」


オロノ「彼がスーパースターであるという事実が、実はかれの最も興味深くない部分かもしれない。というのも、彼は普通のチルな男なんです。とても素敵で、オープンで」


――なるほど。


ハリー「彼と一緒にシドニーでミュージック・ビデオを撮影したんだ。で、シドニーの街をぶらぶらしていても、彼っていう存在に誰にも気づかれることはなくて、そういう環境にいると、彼が日本ではこのように有名で成功しているってことを忘れてしまう。ただ、実際にはその人は信じられないくらい何でもできるんだっていう……それが好きな反面、ただ何でもできる人がいると、嫉妬してしまうようなところもあったりするのだけど(笑)」





――ただ、星野さんはそうした反面、ポップ・スターであることの葛藤みたいなものもオープンにされていて。そこがまた、星野さんが多くの人から共感される部分なのかなって。


ハリー「間違いなく、間違いなく彼に共感するし、同情する。彼が受けるプレッシャーの大きさは、ただただ異常なほどなんだろうな。正直なところ、彼はどうやってそれに対処しているんだろう?って」


オロノ「日本にいるとき、彼の周りにはいつも大勢の人がいて。でもそれを見て、自分はあんなふうになりたくないなって思ってしまう。実際にああしてスタッフがいることはとても助かることだと思う。でも、どうなんだろう? 自分にとってはプライバシーがとても大事なんです。そこをちゃんと分けることができればいいんだろうけど。そうですね、だから、彼にはなんとなく共感します」


――ええ。


ハリー「僕たちは自分たちの作品が有名になることは望んでいるけど、有名になることに個人的な興味はないんだ」


オロノ「嫌悪感さえ抱いている」


ハリー「うん。僕らが望んでいるのは、できるだけ多くの人に僕らの曲を知ってもらうことで。僕らの顔を知ってほしいということとは別なんだ。それは、私たちを突き動かす何かではないような気がする」






――今回のアルバムの“Black Hole Baby”という曲の中に、「俺の人生はモンタージュ」って歌詞がありますよね。つまり、自分はいろんな誰かによって切り取られたイメージによって出来上がっている、という感覚を表したものだと思うんですけど、その感覚はどういう時にわき上がるものなんですか。


オロノ「なんだろう……ツアーをやってるときとか。とても早いライフスタイルの中で、常に何かが起こっていて、みたいな。でも、人が見ているのはそのほんの一部で……」


――例えばさっき話していた、プライベートと活動の部分とのバランスは、いま上手く取れていますか。


オロノ「うーん、いや、どうだろう……」


ハリー「僕は音楽が大好きで、いつも夢中になって音楽に取り組んでいる。でも、音楽とはまったく関係のないことも生活の中に置いておきたい。例えば、友達とスポーツを見たり、仲間とビールを飲んだりして、時には音楽のことを考えずに、ただスイッチを切る。一人の人間として深みを持ち、一面的な人間にならないためには、音楽以外のことにも興味を持つことが必要なんだと思う。そして、それが芸術をより面白くすると思うんだ。インド音楽に夢中になっているインディーズ・ミュージシャンの視点は何度も聞いたことがあるけど、僕には僕だけの興味の組み合わせがあるから、それが僕の芸術をユニークにしてくれる。そして、それを育て、植物に水をやるように、自分の興味という“庭”を維持することが必要なんだよ」


photography Satomi Yamauchi
text Junnosuke Amai



Superorganism
『World Wide Pop』
Now On Sale
(Domino / Beat Records)


BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12674


TRACKLISTING
01. Black Hole Baby
02. World Wide Pop
03. On & On
04. Teenager (feat. CHAI & Pi Ja Ma)
05. It’s Raining (feat. Stephen Malkmus & Dylan Cartlidge)
06. Flying
07. Solar System (feat. CHAI & Boa Constrictors)
08. Into The Sun (feat. Gen Hoshino, Stephen Malkmus & Pi Ja Ma)
09. Put Down Your Phone
10. crushed.zip
11. Oh Come On
12. Don’t Let The Colony Collapse
13. Everything Falls Apart
14. Black Hole Baby (ME-GUMI Cover) [Bonus Track]
15. crushed.zip (mabanua Remix) [Bonus Track]

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