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text by nao machida

「僕らは音楽におけるインディーズ映画なんだと思う。誰かに付き合ってもらって、ジョエルとイーサン・コーエンの映画のようなことをするんだ」ロイクソップ 『Profound Mysteries』 インタビュー/Interview with Röyksopp about “Profound Mysteries”




90年代から活躍するノルウェーのダンス/エレクトロ・デュオ、ロイクソップが、「最後のアルバム」として『The Inevitable End』をリリースしたのは2014年のこと。もう2人の新作を聴くことはないのか、と残念に思っていたファンは少なくないだろう。その後は未発表曲をストリーミング配信する『Lost Tapes』プロジェクトなどを手がけていた彼らだが、2022年を迎えて、クリエイティブ・ユニヴァースを拡大した壮大なプロジェクト「Profound Mysteries」をスタート。4月に第1弾の『Profound Mysteries I』を、そして、8月19日には第2弾の『Profound Mysteries II』を発表した。ここでは、今もノルウェーを拠点に活動するメンバーのスヴェイン・ベルグとトルビョルン・ブラントンにリモート取材を行い、新たなプロジェクトの誕生秘話について聞いた。
→ in English)



――2014年に『The Inevitable End』が最後のアルバムだと思っていたので、今回また新たな作品を聴くことができてうれしかったです。このプロジェクト『Profound Mysteries』を始めようと思ったきっかけは?


トルビョルン・ブラントン「正直な話、僕たちが“最後のアルバム”と言ったのは、“最後の従来型のアルバム”という意味だったんだ。『Melody A.M.』から始まって『The Inevitable End』で終わるアルバムという形のアートは、完成した芸術作品のように感じた。でも僕たちは、まだ音楽制作を続けたかった。だから、過去のアルバムに収録しなかったけれど発表すべきだと思った曲を、あまり派手な宣伝をせず控えめにリリースするプロジェクト『Lost Tapes』をスタートして、それと同時に、どうやって別の形で音楽を発表しようか話し合っていたんだ。『Profound Mysteries』というコンセプトを考えるのに時間がかかったけど、これはアルバムではない。かつてのように、アルバムを制作して、1、2枚シングルを出して、それからアルバムをリリースする、ということではないんだ。それよりも、一つの流れというか、音楽がどんどん流れてくる川のようなもの。それが『Profound Mysteries』のアイデアなんだ」


――このプロジェクトをスタートした時期は?


トルビョルン・ブラントン「うーん…5日前だったかな?(笑) わからないよ。スヴェイン、正解は?」


スヴェイン・ベルゲ「正解は考え方によるよね。最も古い曲のアイデアという意味では、僕らがティーンエイジャーだった、14、5歳の頃までさかのぼる。収録曲の『Unity』は、人生においてレイヴが重要だった90年代に考えたアイデアなんだ。だから、一番初めのアイデアとしてはそれだけど、プロジェクトをキックオフしたのはパンデミックの直前と言うべきかな」


――『Profound Mysteries』は、現代美術家のJonathan Zawadaが制作したビジュアライザーとオブジェや、数々の短編フィルムを含む、壮大なマルチメディアプロジェクトですね。そういったアイデアは当初からあったのですか?


スヴェイン・ベルゲ「このプロジェクトは音楽以上のものにしたかったから、あのアイデアはコンセプトを練っていた初期の段階からあった。ちょっと自画自賛になってしまうけど、自分たちの音、自分たちの音楽がどんな風に聴こえるかという点で、ロイクソップは非常にユニークだと思いたいんだ。僕らは自分たちがいかに様々なジャンルを行き来しているか、どうにかしてリスナーや視聴者にアピールしたかった。そして、それは(Jonathan Zawadaによる)オブジェが強調してくれたように思う。それに、Baconが手がけた短編フィルムも。表現の幅がとても広いからね。そういったアイデアはかなり初期の段階に思いついたもので、特にJonathan Zawadaとは、どのようなオブジェにして、見た人がどのような反応をすべきかを考えていた。なぜなら、これらのオブジェが一体何なのか、その目的は何なのか、どのような感じがするのか、全然わからないから。僕たちは人々の想像力を刺激したかった。とても抽象的だけど、そんなアイデアだったんだ」





――ビジュアライザーはどこか瞑想的で、永遠に観ていられます。癒されるというか。


トルビョルン・ブラントン「それは良かった」


スヴェイン・ベルゲ「うれしいね。特にオブジェから何を見いだして、どのように共鳴するかは、本当に見る人次第なんだ。つまるところ、それは想像力だとか、そういった類のことで、それはある意味、『Profound Mysteries』が祝福しているものでもある。想像力や、すべてについて熟考するということは、トルビョルンと僕にとっての楽しみでもあるんだ」


――過去のアルバムにも参加していたSusanne SundförとJamie Irrepressibleを含め、『Profound Mysteries』にも素晴らしいゲストアーティストたちが名を連ねています。ポップなバックグラウンドを持つAstrid Sの名前を見て驚いたのですが、どのような経緯で参加することになったのですか?


スヴェイン・ベルゲ「少し操作的に聞こえるかもしれないけど、僕たちは驚かせるのが好きなんだと思う。それが成功したかどうかはわからないけど、Astridのようなバックグラウンドの人を僕らの世界に迎えたら面白いと思ったんだ。同じポップでも種類が違うからね。メインストリームでもなければ、商業的でもないポップにおいて、何ができるか試してみた。僕らは音楽におけるインディーズ映画なんだと思う。誰かに付き合ってもらって、ジョエルとイーサン・コーエンの映画のようなことをするんだ。僕らとコーエン兄弟を比較してみた(笑)。とはいえ、予算のないコーエン兄弟だけどね」


トルビョルン・ブラントン「良い比較だね。より商業的な作品で知られる俳優と仕事をしている、インディーズの映画監督といったところだ。でも、もちろん、僕らはAstridの声が本当に大好きなんだよ」





――『Profound Mysteries I』と『Profound Mysteries II』のサウンドは明らかに違いますよね。『Profound Mysteries II』の方が少しノスタルジックで哀愁を感じました。パート1と2で意図的にサウンドを変えたのですか? 


スヴェイン・ベルゲ「そうだね。また少しうぬぼれているように聞こえるかもしれないけど、すべての曲、すべての小節は、意図があって配置されているんだ。このような結果になったのは、ある種の恣意的な偶然ではない。これは実際にたくさんの時間を費やした結果だ。これもまた受け手次第だけど、パート1は僕たちの“復活”だから、少し秘密めいたもの、つまり、内省的で隠されたものにしようと思っていた。この数年間隠れていた僕らが、現実の世界に戻ってくるような内容にしたかった。


そして君が言うように、パート2にはより大きな存在感がある。少なくとも音楽的には、これが今の僕たちだ、これが僕たちの作品だ、という感じだけど、同時に過去のことも振り返っているから、哀愁やノスタルジーのようなものも感じられる。過去のものや音楽のスタイルなどを意識しているんだ。そこには明らかにノスタルジーを感じさせるものがあり、僕らはそれを受け入れている」


――例えば、どのようなアーティストの影響が作品に反映されていますか?


スヴェイン・ベルゲ「特定のアーティストというよりは、音楽のジャンルやスタイルから影響を受けているんだ。ある曲では明らかに、80年代初頭から中頃のイタロディスコを意識している。『Unity』という曲は先ほど話した通り、90年代初頭にUKやヨーロッパ本土を騒がせたレイヴシーンを明確に意識しているんだ。それにフリートウッド・マックやニール・ヤングのような、初期から中期のアメリカのシンガーソングライターに敬意を表した曲もある。風変わりなミックスなんだ。僕たちが自分に課した課題は、これらのことをすべて実行して、パート 2を 1 つのまとまりのある物語にまとめることだった。少なくとも、ある程度は達成できたんじゃないかな」 





――USのシンガーソングライターからのインスピレーションは、Susanne Sundförがフィーチャーされた「Tell Him」から感じられました。


スヴェイン・ベルゲ「正解」


――彼女の歌声はいつも素晴らしいですが、彼女が歌うことを想定して曲を作るのですか? それとも先に曲を書いてから、誰が歌うかを決めるんですか?


スヴェイン・ベルゲ「希望するアーティストありきのプロセスなんだ。ちょっと機械的でプラトニックに聞こえるかもしれないけど、まるで楽器のようなものなんだよね。それに、彼らが曲にどのような感情を持ち込んでくれるかも重要だ。一体どうやっているのかわからないけれど、彼女は孤独や悲しみ、絶望や絶望感を、いとも簡単に素晴らしく伝えることができる。だから、あのような感情が必要な曲を書くときは、彼女にお願いすることにしている。つまり、僕らは特定のボーカリストを念頭に置いて曲を書いているんだ」





――前作から6年が経過して、音楽の配信方法やSNSを使ったプロモーションなど、音楽業界でも様々な変化が起こりました。ロイクソップもインスタグラムを始めたんですね。


トルビョルン・ブラント「自分自身を売り込む方法はたくさんあるけれど、SNSでどれだけ頑張りたいかは個々のアーティスト次第だよね(笑)。僕らとしては、特に世界に披露したいことがない限り、SNS上ではかなり控えめにしている。興味を持ってもらえると思えるものがあるときだけ出現するんだ」


スヴェイン・ベルゲ「自分たちが子どもの頃に好きだったのは、あまりよく知らないアーティストだった。クラフトワークをはじめ、80年代中頃から90年代にかけてのエレクトロニックミュージックは、12インチのアナログ盤のスリーブに書いてある情報しかなかったからね。出身国と作品のタイトルしかわからなくて、その人がどんな人なのか判断するのは自分次第なんだ。あくまでも音楽が中心にあって、その背後にいる人は必ずしも中心ではない。僕らはそういう芸術性に魅力を感じるのだと思う。これまでに好きになったほとんどのアーティストに共通するのは、ちょっとプライベートで、自分のペルソナを秘密にしているということなんだ」 


トルビョルン・ブラント「アーティストが夕食に何を食べたかを知ると、それだけで少し現実味が出てくるかもしれない。それは何も悪いことではないけれど、スヴェインが言うように、僕らはミステリアスにしておきたいんだ」


スヴェイン・ベルゲ「デヴィッド・ボウイの音楽を楽しむために、彼が朝ご飯に何を食べたのかを知る必要はないよね。常にジギーのような姿でいると想像する方が面白いと思うんだ。僕の頭の中では、その方がいい。顔に稲妻があってほしいんだよ」


――お二人は10代から一緒に活動されているそうですが、始めた頃はこんなに長く続くと思っていましたか?


スヴェイン・ベルゲ「個人的には、“30年間続けて、31年目に辞めよう”なんて計画はしていなかったよ」


トルビョルン・ブラント「そうだね。僕らがまだ活動しているという事実は少し不可解だけど、活動できていることには非常に感謝している。スヴェインと出会った頃、僕らは将来についてよく考えていた。でも、それはもっとSF的というか、2016年を舞台にした『ブレードランナー』のようなイメージだった。子どもの頃の僕たちにとって、それはずっと先のことだったんだ。2025年に50歳になるとわかったときは、かなり遠い未来だと思ったものだ。今となっては、世界は僕たちよりも奇妙なものになったような気がするよ」


――今後の予定は? 『Profound Mysteries III』は期待できますよね?


スヴェイン・ベルゲ「このプロジェクトに注目している人たちは、パート3を匂わせるヒントがたくさんあることに気づいているはずだし、パート3がないフリをする意味はないよ。もちろんパート3はあるし、世に放つのを楽しみにしている(笑)」


――楽しみにしています。次回はぜひ日本に来てくださいね。


スヴェイン・ベルゲ「僕たちは日本のファンが大好きだし、できるだけ早く日本に戻りたい。日本はいつ行っても素晴らしい時間が過ごせて、とても楽しいんだ。とにかく早く日本に行きたいよ」


*本インタビュー後、『Profound Mysteries Ⅱ』の公開と同時に本シリーズの完結編となる『Profound Mysteries III』が11月18日にリリースされることが発表された。


text nao machida



RÖYKSOPP(ロイクソップ)
『PROFOUND MYSTERIES REMIXES(プロファウンド・ミステリーズ・リミクセス)』

■収録曲目:
1. Impossible (ft. Alison Goldfrapp) [&ME Remix]
2. How The Flowers Grow (ft. Pixx) [Rodriguez Jr. Remix]
3. This Time, This Place (ft. Beki Mari) [Township Rebellion Remix]
4. This Time, This Place (ft. Beki Mari) [Henry Saiz Darktrip Remix]
5. This Time, This Place (ft. Beki Mari) [Henry Saiz Downtempo Egodeath Version]
6. This Time, This Place (ft. Beki Mari) [Henry Saiz Remix]
7. Breathe (ft. Astrid S) [Röyksopp Remix]
>>> https://royksopp.lnk.to/impossible-andme-rmxEm

2022.8.19 ON SALE[世界同時発売]

20年以上のキャリアを誇る北欧エレクトロの至宝、ロイクソップ。

クリエイティブ・ユニヴァースを拡大した壮大なコンセプチュアル・プロジェクト「プロファウンド・ミステリーズ」の第二弾がリリース。




RÖYKSOPP(ロイクソップ)

『PROFOUND MYSTERIES II(プロファウンド・ミステリーズII)』
世界同時発売、解説付

(ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ)


■収録曲目:

1. Demiclad Baboons

2. Let’s Get It Right feat. Astrid S

3. Unity feat. Karen Harding

4. Oh, Lover feat. Susanne Sundför

5. Sorry feat. Jamie Irrepressible

6. Control

7. It Was A Good Thing feat. Pixx

8. Remembering The Departed

9. Tell Him feat. Susanne Sundför

10. Some Resolve


Röyksopp
1998年に結成されたノルウェーのダンス/エレクトロ・デュオ。メンバーはSvein Berge(スヴェイン・ベルゲ)とTorbjørn Brundtland(トルビョルン・ブラントン)。2001年、デビュー・アルバム『Melody A.M.』をWall of Soundよりリリース。アルバムはノルウェーで1位を獲得し、UKでもトップ10ヒットを記録。ワールドワイドでのセールスは100万を超え、歴史的な名盤として認知された。その後も『The Understanding』(2005年)、『Junior』(2009年)、『Senior』(2010年)とリリースを続けるも、2014年の『The Inevitable End』を最後に、伝統的な「アルバム」というフォーマットとの決別を宣言。クリエイティブ・ユニヴァースを拡大した壮大なコンセプチュアル・プロジェクト、「Profound Mysteries」をスタートさせ、その第一弾となる『Profound Mysteries』(http://bignothing.blog88.fc2.com/blog-entry-12928.html)を2022年4月にリリースした。2009年にはフジロックフェスティヴァルでホワイト・ステージのヘッドライナーを務める等、ここ日本でも高い人気を誇る。

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