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text by Yui Horiuchi / Ryoko Kuwahara
photo by Riku Ikeya

Interview with Ruby Francis “私たちは成長している旅の途中。自分の準備が整った頃にチャンスは必ず来るはず”




Jaz KarisとともにOPRCTにて初来日公演を行ったRuby Francis。ほぼセルフプロデュースで作り上げた“Paranoid”がSoundCloudで13万回再生され、数々のミュージシャン、プロデューサーからもラブコールを受ける注目のロンドン発のニューカマーだ。ヒップホップとネオソウル、どこか懐かしい80sサウンドが融合し、美しい歌声と絡みつくトラックは高い中毒性を持つ。彼女に幼少期の音楽体験から制作方法、そして未来について聞いた。(→ in English

――多様な音楽の要素を自然と取り入れていますが、その配合のバランスで自分独自のものだと思うのはどういうところですか。


Ruby「自然にそうなっていると思います。私が音楽を書き出すタイミングはたくさんあって。感情的になったり、楽しかったり、悲しい気持ちになったときもそうだし、友達からインスパイアされて実際とは異なる被害妄想のような曲も書いています。それが多様と言われる理由かも。また、私の父はベース奏者で、母もアナログレコードをたくさん持っていました。だから私は子供の頃から常に音楽を聴いていて。時々、頭の中でアイデアが浮かんで、そのまま曲が完成することもあるんです。特にドラムやベースライン、ピアノやバックコーラスをよく聴くようにしているし、常に指を鳴らしてリズムをとっています」


――作曲も自然にできるようになったんでしょうか。ご両親に「このパートはどうすればいいかな?」といったような質問をしたことはあります?


Ruby「そんな質問をした覚えはないですね。私の父はとても協力的なんです。多くの親は協力的でないし、音楽がちゃんとした仕事であるという認識をしていないこともある。でも父はいつも私のファンでいてくれて、応援してくれています。お金があまり無かった時でさえ、彼はなんとかやりくりして初めてのピアノを買ってくれたし、家族全員がお金を出し合ってくれました。ずっとそんな感じなんです。私が実際に作り上げているものは私の実力によるものだとは思いますが、私が必要な楽器や知識を得られたのは彼らのおかげです」


――ちなみにあなたは絶対音感があって、聴いただけでどの音か当てることができるんですよね。


Ruby「絶対音感があるとは言い切れないけど、たまに自分でテストしています(笑)。いつも耳で覚えて演奏してるから、楽譜も読めないんです」


――おそらく楽譜が読める必要がないのでしょうね。音をよく知っているし、聴いたらコピーしてもう一度正しい音を作れるでしょう?


Ruby「ええ、多分できます。私は正確に歌の勉強はしていないけど、もししていてもただ音を聴いて、コードを選んでいたんでしょうね(笑)」


――逆に耳がよくて困ってことはありますか?


Ruby「セッションミュージシャンになりたかったり、すぐに曲を学ばないといけない場合は耳だけでやっているのでは困るかも。でも私が作っているような種類の音楽の場合、楽譜を読んだり、書いたりする必要はないので問題ないかな。私は音楽を作るプログラムを使っているんです。日常生活では結構困ることがあって、家の隣に電車が通っているので眠れません!(笑)。家でトイレの水を流す時、滴る水の音をコピーして演奏してみたりすることもあります。車に乗っている時に、ウィンカーの音が規則正しいテンポではないのでそれにとてもイライラしたりするし」


――それって、つまりあなたが生まれながらの才能を持っているってことじゃないですか。


Ruby「他に何に使える才能かはわからないけど、そうね。私は自動車産業にウィンカーのテンポを直すように言うべきかも(笑)」


――その才能についてご両親に何か言われたことはありますか。


Ruby「これはおそらく遺伝だと思います。なぜなら私の父は実際ミュージシャンで音楽をとても愛していて、耳を使って全ての楽器を演奏しています。母方の曽祖父はピアニストだったけど楽譜が読めませんでした」


――代々そうなんですね。ベースプレイヤーのお父さんとあなたでよく弾いたり歌ったりしていた曲はありますか?


Ruby「まだ曲作りはやっていないけど、やりたい! 昔、父と一緒に即興演奏をしたことはあります。私がピアノを弾いて、父がベースを弾いて」





――子供の頃、自然に即興演奏をするようになったのですか?


Rub「はい。私がピアノを弾き始めた時、一緒にたくさん即興演奏をしました。私が中学生の頃、父が時々学校にきて、私の曲で一緒に演奏してくれることもありました(笑)」


――素敵(笑)。あなたの曲についてですが、非常に細かなレイヤーが施されていて驚きます。トラックメイカーとしておそらく完璧主義なのではないかと思うのですが、“この曲は完成した”と思える自分独自の目印のようなものはありますか。


Ruby「自分が完璧主義者だとは思いません。私は何かに凝ってそれを続けるタイプではないです。良いと思える瞬間があればその成り行きに任せたり、一回立ち止まってみたりします」


――その瞬間に気づくのが上手なのですね。


Ruby「多分そうですね。“そのドラム、そのスネア、その高いハックの音、合ってない”と言う時もあって調整したりするけど、“なるようになる”という感覚でやっているところもあって。混ぜ合わせないことが必要な曲もあるし。あと、この曲は広い世界にあるただの一つの曲なのだから、そのような点にこだわりすぎないようにしています」


――制作中に間違っているなと感じた時は、完璧だと感じるまで直しますか?


Ruby「ええ、ベストを尽くすようにしています。時々なにか違うなと感じることがあって、その時は一旦曲作りから離れて、また再開するようにしています。新しい視点でその曲を見れるから。例えば、最初曲を作ったときにダメだと感じても、1週間後にもう一度聴き直してみると“最高!”と思うこともあります」


――感じることが大切なのですね。


Ruby「そうですね、常にそんな感じです。でも、きちんと丁寧に作業してリストを作ることも大切。だって私だけでなくみんなが聴く音楽だから。私は世界に向けて自分のメッセージを翻訳しているつもりでやっているんです」


――ああ、いい言葉ですね。Chloe MartiniやジャズピアニストのAshley Henryを始め、多くのミュージシャンと活発に交流していますね。


Ruby「コラボレーションはとてもランダムなものだから、たまにライヴやコンサートに行って、良いアーティストがいたらインスタグラムやSNSを教えてもらうときもあります。Blue lab beatsとは何度もいっしょにコラボレーションしたのだけど、NKOKがSoundcloudで“君と一緒にやりたい”とメッセージを送ってきて、それから一緒に作り始めたり。私の音と調和できて信頼できる人は稀有だと感じていますが、私はオープンな性質だから、新しいアイデアをどんどん取り込んで既成概念を壊していくのは大事にしています」





――最近になってインスタグラムを始めましたよね?


Ruby「そうですね、ここ1、2年くらいで」


――始めたことで視野が広がりましたか?


Ruby「確実に広がりました。ミュージシャンだけでなくクリエイティヴに関わる全ての人にとって素晴らしいツールであると感じています。インスタグラムではミュージシャン同士がコメントしたり、話すことがとても簡単にできて、ミュージシャンのためのティンダーみたい(笑)。インスタグラムを通して一緒に作詞をしたり、ブランドとのコラボレーションをする機会ももらえました。プロフィールがわかって、キャラクターが少し見える。その人の興味関心事や、仕事、専門を指先一つですぐにわかって繋がれるんですよね。もちろんSNSに悪い面があることもわかっていますし、私自身も身をもって感じています。でも、他人と比較してネガティヴになってはいけないと思う。なぜなら、私たちは成長している旅の途中だから。自分の準備が整った頃にチャンスは必ず来るはずです」



――ファションアイコンなどはフォローしていますか?


Ruby「数人だけ。基本的にファッションブランドはフォローしません。携帯のスクリーンに夢中になりすぎないようにしているんです。間違ったイデオロギーやみんなが“パーフェクトだ”と褒め称えるような写真に汚染されないようにしているというか。私たちにはもっと注目すべきものが他にたくさんあると感じますね」


――政治が悪い時に盛り上がるのがロンドンの音楽シーンという印象がありますが、今の状況は?


Ruby「まさにそう。経済によってその日の気分が左右されるわけではないです。でもミュージシャンとして生計を立てている以上、経済が良くても悪くても大変であることには変わりありませんね。ミュージシャンはちゃんとした職業と思われていないから、これでお前は終わりだというようなことをよく言われます(笑)」



――ヴォーカルという肉体のアートを使っているあなたが、自分の体との付き合い方で気をつけていることは?


Ruby「精神的な面だと、私は無宗教だけど、スピリチュアルなことを掘り下げるようになりました。最近考えすぎていらいらしたり、落ち込んだりすることが多いんです。だから呼吸に集中して安らぎを感じながら、すべてはそうなる運命なのだから先走りしないように、と自分に言い聞かせている。1日のうちにそのような時間を取ることはとても大切だと思いますね」


――自分が何をすべきかということに集中するために瞑想しているのですね


Ruby「はい、それは音楽にもかなり関係しています。パフォーマンスする日の前夜は必ず深い呼吸をします。すると自分自身と向き合うことができます。肉体的な面では、もうちょっとエクササイズするべきかな。ただ食べて終わってしまうから(笑)。祖父がイタリア人だから全部のパスタが好きで。料理も瞑想に近いですよね。ソースを作っている時のサンプルを録って曲に入れてみたことがあります。異なる要素を混ぜ合わせるという点で料理と音楽は似ていますね」


――塩コショウを振りすぎると、味が変わったり。


Ruby「その通り!」





――ここから女性の身体についてのお話を聞きたいと思います。アメリカのアラバマ州では中絶が禁止となりました。これについてどう思いますか?


Ruby「私はフェミニストなので、正直うんざりです。人類は何百年も前から生きていて、今は2019年だっていうのに! 中絶を避妊の道具にすべきではないというのは理解できます。男性と女性が平等の権利と責任を持って、その行為に対してもっと真剣に向き合って、共に楽しめるようにしなくてはね。ただ女性として自分の身体に関する選択肢は持つべきだし、その選択が最終的にどうなろうと女性は周りの人たちからサポートされるべきです。本当にここから思います」


――ええ、他に話を聞いた女性みんながそう言います。


Ruby「みんな“この問題において、女性はどこにいるの? なぜ男性たちが私たちの身体に関する問題で口出しするの?”という感じでしょ?」


――日本では生理や性を含む体や自分との付き合いに対する教育があまりされていなくて、未知がゆえに自分の体を大切にできてない人もいる気がします。自分を大切にするためになにかアドバイスをするとしたら?


Ruby「いつも自分らしくいることとあなたの体とあなた自身が本当に何をしたいのかを自分自身に問うてみること。また、性に関することを恥じないべきだし、セックスすることを祝福するべきだと思う。そして、その危険性を知り、自分が心地よいと感じる人と行うべきだと思う。法律でOKとされる年齢になってからね。教育が大切だと思います。若い女性がNOと言っていいと知ること、危険だということがちゃんとわかったり、自分の権利を知っていたりするのは大事。frigidという言葉を知ってる?」


――いいえ、知りません。


Ruby「性行為に積極的じゃない人みたいな意味なんです。誰かがセックスすることを拒否すると、“ああ、君ってfrigidだね ”という使い方をする。でも男の子が、“他にヤラせてくれる子を探すよ”と言っても気にしなくていいし、恐れる必要はないんです。勝手に言わせとけばいい。あなたがセックスしたくないならしなければいい。これは普通のことだし、ルールなんてありません。世界中の人はどこかの時点でセックスするのですから。“ああ、やばい! どうしよう”という状態になっている若い女の子たちに、“大丈夫、怖がることない”と思ってほしい」


――ありがとうございます、若い子にはそうやって大丈夫と言ってくれる声が必要です。最後に、今後の予定を教えてください。プロデュース業なども考えていますか。


Ruby「実は既にプロデュースはしています。パーソナルな音楽作りをしていたからまだ慣れていないけど、“あなたのビートが欲しい”と言ってくる人もいて、ポジティヴに考えています。また、アカペラをして曲を作って、他の人のためにリミックスを作ったりもしています。カナダのノバスコシア州出身でロンドンに移住してきたLaura Rayという素晴らしいシンガーがいるのですが、彼女とは一緒にたくさん仕事をして、少しだけプロデュースもしました。まだ何もリリースはされていませんが。今は自分のアルバムを書いている最中でもあります。日本でも抜粋したものを出すし、イギリスではそれがわたしのファーストアルバムとなります。フィーチャーアーティストを迎えて一緒にプロデュースしたり、プロデューサーのビートにのせて私が歌ったりという感じのミクスチャーになると思います。
近々では仕事の都合で9月に2週間ほどLAにいくつもり。そこで、友達をたくさん作ったり、ラジオに出演したりやインタビューを受ける予定です。LAのカルチャーやバイブスなどからたくさん刺激を受けた音楽が作れるんじゃないかな」




photography Riku Ikeya
interview Yui Horiuchi
text&edit Ryoko Kuwahara



Ruby Francis
『Traffic Lights』
(SWEET SOUL RECORDS)

https://sweetsoulrecords.com/artists/ruby-francis/


Ruby Francis
幼少期からChaka Khan、Level42、Stevie Wonderらの音楽を身近なものとして成長してきたRubyは、10歳の頃、その才能に気づいた両親からキーボードを贈られた。「聴く」能力に長けた彼女は、愛してやまない様々な音楽のメロディーとコードを完璧に再現し、周囲を驚かせると、ごく自然な流れとしてオリジナル曲の制作にも着手するようになる。SoundCloudで公開した“Paranoid”が13万再生を超えるヒットとなり一躍注目を集めたRubyは、本格的な活動を開始してからはまだ3年足らずだが、既にDornik、Linden Jay、Shift K3y、そしてNAOのプロデューサーとしても知られるMiles Jamesなど、名だたるプロデューサーと競演を果たしており、そういった経歴からも彼女の才能に対する周囲の期待の大きさが伺える。日本では2017年にデビューアルバム『Traffic Lights』をリリース。


This interview is available in English

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