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text by Junnosuke Amai

Interview with Shura about “Forevher”/シャウラ『Forevher』インタビュー




2014年にセルフ・リリースした楽曲“Touch”がYoutubeで3000万回以上の再生数を記録。ロシア人の女優の母とイギリス人のドキュメンタリー映像作家の父を持つマンチェスター出身のシンガー/プロデューサー、シャウラ。3年ぶりとなるニュー・アルバム『Forevher』は、自身のパーソナルなストーリーを織り交ぜつつ、現代を彩るさまざまな愛のかたちが描かれた作品だ。モダンなエレクトロ・サウンドを基調としながら、アンビエントなプロダクションが際立つことで官能性や親密さが増したヴォーカル。また、ホイットニーのウィル・ミラー、サウス・ロンドンの女性シンガーのロジー・ローらによる素晴らしい客演が、そんな本作のチルでクワイエットなムードを魅力的に演出している。なお、プライベートではLGBTQであることをオープンにしている彼女。アルバムの話を振り出しに、これまでの活動やバックグラウンドについてメールで聞いてみた。(→ in English



——『Forevher』は3年ぶりのアルバムになります。今回は〈Secretly Canadian〉からのリリースになりますが、レーベルを移籍した経緯について教えてください。また、レーベルを移籍したことで制作の面や気持ちの部分などで何か変わったことはありましたか。


Shura「〈Secretly Canadian〉とは、私の初めての曲“Touch”をリリースした頃からずっと連絡を取り合っていました。私はこのレーベルの大ファンで、所属しているたくさんのミュージシャンを尊敬していますし、本当に素晴らしいと思っています。私のファースト・アルバム(『Nothing’s Real』)リリース後に〈Universal〉を辞めたとき、今のレーベルから『次のレコーディングから一緒に働きたい』と連絡がありました。そして自然な成り行きで仕事を一緒にすることになりました。自分のキャリアの素晴らしいステップとなったと思います」


——3年前のデビュー・アルバム『Nothing’s Real』は国内外で高い評価を受けましたが、振り返ってみて、あの作品に対してはどんな印象をお持ちですか。あなたの人生を大きく変えた作品だと思いますが、シャウラというアーティスト、あなた個人の人生においてどんな瞬間が記録された作品だと言えますか。


Shura「私は1stアルバムが大好きですし、すごく誇りに思っています! 『Forevher』の制作を終えた1月にデビュー・アルバムを再び聴いてみて、すごくエモーショナルな気持ちになりました。“Touch”のリリース後、制作中は徹底的に細かくチェックしてレコーディングしなくてはいけなかったのですが、そういうことを思い出したりして楽しかったです。多くの曲は失恋についての曲ですが、突然たくさんの注目を集めてプレッシャーを感じたという私自身の経験についても同時に触れています。初めてのレコーディングのときに経験したパニック発作についての曲を作った後、アルバムに『Nothing’s Real』と名前をつけました」


——『Forevher』について教えてください。今回のアルバムは、あなたと恋人との関係を下敷きにして、出会い系アプリやSkype、SNSを通じた現代ならではの愛のかたちが描かれた作品になっています。今作の制作はどういった感じで始まったのでしょうか。


Shura「まず、コンセプトというものは初めから作っていません。私はただ新しい自分や、今までは感じていなかったことに関する感情にインスパイアされて書いているだけです。じつは、昔は悲しい経験の方が書きやすかったんですが、今はポジティブな経験も歌詞に用いることができるようになってきて、自分自身すごく興奮しています。どちらのやり方も同じくらい刺激的ですから。そして歌詞を書いていくプロセスの途中で、『これは私の恋愛経験についてのアルバムになる』と気づいたんです。それから、方向性を考えたり、私がやりたい曲をまとめていきました」


——その様々なかたちの愛の描き方については、あなた自身のパーソナルな視点と、今の時代を客観的に見つめるような視点とが見事に組み合わされていて、芸術性と批評性が絶妙なバランスで成立しているような印象を受けました。今作のストーリーを作るうえで大事にされていたこと、あるいは難しかったことはどんなことでしょう。


Shura「私は永遠にアイデアを探し続けていきたいと思っています。人は恋に落ちるとき、永遠に続くものなんてないとわかっていながらも、誰もがこの恋は永遠に続くものと考えます。そんな感情の無邪気さ、素直さがすごく好きなんです。最も大変だった点は、一つのストーリーの中で距離感のあるアイデアを用いる時です。例えば、ニューヨークに住む私の恋人と私との距離、トミー(※“Tommy”に登場する人物)と亡くなった妻との距離とか。生と死の距離感。なんだか私もレイア姫を探して彷徨っているようです。この“距離”というテーマが“憧れ”や“永遠性”というアイデアの力を強めていると思います。また、青という色合いのアートワークからもこれらのアイデアを連想できるのではないかと思います」


——この3年の間で、ジェンダーやセクシャリティをめぐる議論や環境は大きく変わりました。#MeToo運動をはじめとした女性のエンパワーメントを促す流れが起きた一方、それに対するバックラッシュが様々な場所で起きていることも事実です。そうした時代や社会の変化が今回のアルバムの制作に影響を与えた部分もありますか。


Shura「ジェンダーやセクシュアリティに関する議論は本当に大きな変化が起きていると思います。私の1stアルバムと今回のアルバムにも驚くべき変化が見られると思います。だけど、そのようなムーブメントがアルバムに必ずしも影響を与えたとは言えないですね。このアルバムは私の人生の中の3年間の集大成ですから。アメリカでの恋は興味深いものでした。というのも、政治情勢がそのとき大きく変わっていたからです。アメリカは様々な点から見てより恐ろしい場所になっているのですが、それでもこのクィアなラヴ・ストーリの背景ではあったと思います」





——前作にも収録された“Touch”は、MVも含めてシャウラというアーティストの存在を印象づけるエポックメイキングな曲でした。同様に、その延長線上にある曲を今回のアルバムの中から選ぶとするなら、それはどの曲になりますか。


Shura「難しいですね。“Touch”は『Nothing’s Real』の芯となる曲だと今でも思います。それと同じように“Religion”という曲も『Forevher』の軸になるようにしました。もちろん、その2つの曲は全く違っていて、全く違うMVが作られていますが、軸という部分では同じです。ニュー・アルバムの中では、“Princess Leia”という曲が好きですね。この曲は音楽的にも詩的にも私が誇りを持っている曲です」


——今作のサウンドについても教えてください。今回は共同プロデューサーとしてジョエル・ポットが迎えられていますが、彼とシェアしていたアイデア、ソングライティングやプロダクションのアプローチとはどういったものだったのでしょうか。


Shura「ジョエルと私はファースト・アルバムでもかなりの部分で一緒に作業していました。私たちはすごくいい関係を持っていて、お互いのことをよく理解できています。バンドのメンバー同士のような感覚です。彼はレコーディングの際、細心の注意を払いながらもたくさんの愛と共に私をサポートしてくれるんです。また、私たちはこのアルバムの大部分の曲を一緒に制作して、定期的にアイデアや考えを共有していました。私たちはSONIC PALETTE(MIDIコントローラータイプの楽器)を使いたかったのですが、それを使うことが別の方向性に向かう第一歩になるということにかなり早い段階で気づくことができたんです。素晴らしいミュージシャンたちが演奏する本物の楽器を曲で使う私にとって、この発見はとても大きなものでした。あと、過去のテープやレコーディングも使いたいというアイデアを持っていました」


——前作と比較して、クワイエットで親密なニュアンス、チルでアンビエントなムードが色濃く打ち出されているようにも感じられます。サウンドに関して、今回の制作に際してあなたをインスパイアしてくれたもの、いい影響を与えてくれたアーティストやレコードがあれば教えてください(個人的には、アーサー・ラッセルがプロデュースしたエリザベス・フレーザー、ブラッド・オレンジがプロデュースしたトレイシー・ソーンを連想させる場面が今作にはあるように思います)。あるいは、直接的な影響はなくとも関連性という点で、今回のリリースに合わせてプレイリストを公開するとするなら、どんなアーティストの曲が収録されそうですか。


Shura「『inspiration fm』というSpotifyのプレイリストに私がインスパイアされた曲をたくさん入れています。また、曲作りの際に聴いていた曲もプレイリストには入っています。 あなたが言った通り、アーサー・ラッセルはそのプレイリストに入っていますよ! トレイシー・ソーンも私にとってヒーローのような存在です。EBTGを聴いて育ちましたし、ジョニ・ミッチェルの“River”やビーチ・ボーイズの“Surf’s Up”、(ミニー・)リバートンの“Baby, This Love I Have”、プリンス、ポール・サイモンの“American Tune”などをたくさん聴いていました。昔ながらの曲が多い気がします」


——今回のアルバムには共同で何人かのソングライターが参加していますが、なかでもジャグワー・マーのジョノ・マー、ホイットニーのウィル・ミラーの名前が目をひきました。彼らが参加することになった経緯は?


Shura「ウォーペイントのステラ(・モズガワ)が滝を見るための熱帯雨林での山登りに誘ってくれて、オーストラリアでジョノにあったんです。帰り道の途中、車の中でジョノが編集した『ジュラシック・パーク』のテーマ曲を大音量で流したのを覚えています。ジョノがロンドンに住み、働いているのを知っていたので、私たちは彼と一緒に仕事をすることを決めました。私は、以前ギタリストと一緒に作り始めていたトラックを彼に聴かせました。すると、彼はすぐにその曲の全てのシンセサイザーのパートを最高にカッコよく仕上げてくれたんです。ジョノと仕事をするのが大好きです。だけど、彼は今オーストラリアにいるので、次に私があちらに行くまで会えないですね。ウィルのことはレーベルに紹介してもらいました。私はホイットニーの最初のレコードの大ファンで、“Princess Leia”のホルンのアレンジをして欲しかったんです。というのも、飛行機が死因の戦死者についての歌詞の部分で、その状況を表現したくてブラス・バンドの演奏を取り入れていたんです。ウィルにそのトラックを送ると、彼はアレンジを引き受けてくれて、その後たくさんの録音データを送ってくれました。データが送られてきたときは本当に興奮しました!」





——ローラ・ニーロも連想させる“Princess Leia”が好きなのですが、この曲のエピソードを教えてください。


Shura「この曲は、飛行機や空港にまつわる私自身に起こった出来事について書かれています。最初の部分で歌っているのは、私が飛行機でオーストラリアに向かっている最中に、私のヒーローでもあるキャリー・フィッシャー(※『スター・ウォーズ』作品でレイア姫を演じたアメリカ人女優)の死を知った時のことです。その時は本当に困惑しました。二つ目は、テキサス州のエルパソへの飛行機に乗っていたのですが、同じ飛行機で亡くなったアメリカ兵の遺体が運ばれていたという出来事です。コーラスのための歌詞を書くのに時間がかかったのを覚えています。ある日、私は 『death is served just like a soda, coca cola, didn’t even want it but it’s complimentary』という歌詞の一部分を歌って、そのデータをジョエルに送りました。すると、『この歌詞いいね』という返信がすぐに返ってきました。飛行機では、たとえ喉が乾いてないとしてもタダで飲み物が飲める。なぜなら、無料だから。これは、死についての私の考えに通じるものがあるんです。私は死にたくないけど、いつかは死ぬことになる、なぜなら、今生きているのだから――といった感じで」


——“Religion (u can lay your hands on me)”のMVで着ている白のジャケットは、先日のグラストンベリーのステージで着ていた衣装と同様のコンセプトのものだったように見えました。アルバムのリリースに合わせて衣装なりメイクなりといったヴィジュアルのイメージを変えられると思いますが、今回のアルバムに際して考えていたコンセプトなどありましたら教えてください。


Shura「“Religion”のMVでの法王の格好はすごく気に入っています。ノーマルな服を着たくないという思いがさらに強くなりました! 衣装代は絶対高かったと思いますが、あの格好でステージ上でパフォーマンスするのはすごく楽しかったです。ミュージシャンという職業の面白い側面のひとつじゃないですかね。ツアーの洋服ダンスをパンパンにしたいですね。衣装は確実にステージでの自信に繋がると思うので」


——あなたにとって、信仰の対象といったものはありますか。宗教性や信仰心というのは、シャウラというアーティストやその音楽を規定している重要なモチーフだったりするのでしょうか。


Shura「私は無神論者だけど、様々な宗教を魅力的だと感じています。全ての文化にはそれぞれ独自のスタイルがあるのが興味深いですよね。じつは大学時代に神学を勉強していたこともありました。でも、神学を勉強する人のほとんどが司祭になるために学んでいることに気づいてやめてしまいました」


——アルバムのタイトルを『Forevher』と名付けた理由を教えてください。


Shura「これは、“for her”と“forever”と“forever her”を混ぜたものです。私は、ずっと曲作りをしてきましたし、タイトル名をこのように言葉で遊んでみたり、初めて性別の代名詞を取り入れたのを気に入っています」



——最後に、あなたが思う最高のラヴ・ソングを教えてください。


Shura「プリンスの“The Most Beautiful Girl”とデズリーの“Kissing You”ですね。この2曲は本当にロマンティックです。また、後者はロミオとジュリエットを参考にしていると思います。あと、ルーサー・ヴァンドロスの“Never Too Much”も好きです」





text Junnosuke Amai
edit Ryoko Kuwahara


Shura(シャウラ)
『FOREVHER(フォーエヴハー)』
Now On Sale
(Big Nothing/Ultra Vibe)

収録曲目:1. that’s me, just sweet melody 2. side effects 3. religion (u can lay your hands on me) 4. the stage 5. BKLYNLDN 6. Tommy 7. princess leia 8. flyin’ 9. forever 10. control 11. skyline, be mine


Shura
ロシア人の女優の母と英国人のドキュメンタリー映像監督の父を持ち、UKマンチェスターで生まれ育ったAleksandra Dentonのソロ・プロジェクト“Shura”。13歳でギターを、16歳の時にレコーディングを始め、2011年にはデビュー作を自主リリースしそのキャリアをスタートした彼女は、2014年に現在Youtubeで3000万回以上再生されている「Touch」を自主リリース(その後2016年に契約したポリドールから再発売)、2015年にはBBC Music Sound of 2015に選出され、翌2016年にポリドールよりデビュー・アルバム『Nothing’s Real』をリリースしている。そして『Nothing’s Real』のアルバム・ツアーを経て制作されたのが前作から3年ぶり2ndアルバムとなる本作『Forevher』。8週間に渡るUSツアーが終わった後、ギタリストのLuke Saundersと共に10日間ミネアポリスに滞在し本作の制作が始まった。本作では自身の経験をベースにしたニューヨークとロンドンでの遠距離恋愛のストーリーが、出会い系アプリやスカイプチャットといった現代的なフィルターを通して描かれている(Shuraは現在のガールフレンドとツアー後に滞在したミネアポリスで初めてオンラインで出会いその関係を始めている)。ロマンスの芽生え、共に生きていることへの喜び。-クイアとしていかに生き、いかに愛するか- はShuraにとってこれまでも不可欠なテーマだったが、そうしたストーリー/テーマがJoni MitchellやMinnie Riperton、The Internet、そしてPrinceといった様々なアーティストからの影響/インスピレーションを受け(アルバムに先駆け公開されている「religion (u can lay your hands on me)」でも顕著なように、現在のガールフレンドとの出会いの場ミネアポリスでPrinceをパイオニアとして成立した“ミネアポリス・サウンド”から本作は大きな影響を受けている)、『Forevher』は彼女独自のモダンで大胆なアプローチが結実したアルバムになっている。



This interview is available in English

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