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text by Takahisa Matsunaga
photo by Yosuke Torii

Interview with Tash Sultana about “Flow State”/タッシュ・サルタナ『フロー・ステイト』来日インタビュー




ギターを筆頭に、ドラムやホーンなどたったひとりで数多くの楽器を演奏しながら、その身体のどこから湧き出るのだろうか?信じられないほどのエネルギーを発し、そこにいるオーディエンスはもちろん、さらに動画配信された世界中でも大きな衝撃をもたらした、サマーソニックでのタッシュ・サルタナ。その壮絶で衝撃的なパフォーマンス直後に、音楽への思い、さらに生きざまに迫った。(→ in English


──SUMMER SONICのステージはいかがでしたか?SNSのトレンドワード入りをするほどの大反響でしたが。


Tash「大阪での公演が台風の影響でキャンセルしてしまったので、そこでの思いも込めてパフォーマンスをしたから、それが多くの人に届いたということになるんでしょうか」


──ステージ上では、いろんな楽器をひとりで駆使してパフォーマンスする姿が、とても印象的でした。またそのどれもが、CDなどの音源とは異なる音になっていましたね。


Tash「スタジオでは、後でいろんな音を重ねることができるけど、ライヴではその場で、今自分が表現したいことすべてをみなさんに聴いてほしいという思いが強いから、自然と異なるものに変化していくんです」


──一体どれくらいの楽器を駆使できるのですか?


Tash「ピアノやマンドリン、ドラム、シタール、フルート……、この世にあるすべての楽器を演奏できたらと思っている。幸い、私はまだ若いから、できるものをどんどん増やしていけたらって」





──でも、すべての楽器のベースにあるのはギターだと思いますが、どういうきっかけで手にするようになったのですか?


Tash「3歳の頃に、祖父から譲り受けたものがきっかけ。そこから、一生懸命練習していくうちに、入れたいなと思う楽器をどんどんプラスさせていったら、今に至ったという感じ。だから、すべての楽器における基盤がギターなんです」

──ギターを弾くにあたってのこだわりは?


Tash「テクニックはもちろん大切。活動し始めた頃は、それを見せびらかすことにただ興奮していて。でも、後々映像などを見て確認すると、独りよがりだったなと思います。今は、もっと落ち着きを持って演奏しなくてはいけないと、一生懸命練習しているところですね」


──あなたは元々、地元メルボルンのストリートでライヴをしていたのがキャリアの始まりと聞きました。


Tash「そう。もう随分前の話になるけど。あそこで経験したすべては、今の私にとってとても大切なものになっています」


──特に印象深い思い出は?


Tash「ホームレスの人とかとも仲良くなった。彼らのトイレに付き添ってあげたり、食事を与えたりなど、音楽以外の交流をして、人との結びつきの大切さを学んだんです」


──ひとりでそんな場所でパフォーマンスすることに、不安はなかった?


Tash「確かに怖いこともあったけど、楽しかった。ひとりで路上パフォーマンスするということは、すべての責任を自分で追わなくてはいけないというリスクもあるけど、そこで会得した度胸によって、今ではどんな場所でもとても穏やかな気持ちでパフォーマンスできるようになりました」





──今では、サマソニをはじめ、数千人、数万人を前にパフォーマンスをしていますが、ストリートでライヴをしていた頃と比べて心境に変化は?


Tash「今振り返ると、状況は全く異なるんだけど、その都度目の前にいる人を興奮させることだけ考えているから、そんなに変化はないかな」


──緊張はしない?


Tash「もちろんしますよ。大勢の人の前で演奏するということは、それだけの期待に応えなくてはいけないというプレッシャーがある。でも、今はお酒やタバコもやめたから、とても穏やかな気持ちで臨むことができています」

──また、演奏力だけでなくその声も魅力的ですよね。ステージ上では飛び跳ねたりしてワイルドな印象ですけど、声を出すととても繊細というか。


Tash「たまには、叫んだりキンキンな声を出して歌うこともあるけど(笑)。ヴォーカリストとしてもまだまだと思う。でも、見た目と声にギャップがあるとよく言われますね」


──そのギャップもまた魅力。


Tash「だから時々、口パクじゃないか?って疑われることもあって(苦笑)」



──では歌詞に関しては、どういうこだわりを持っているのですか?


Tash「私そのものを表現したいと思っています。聴いた人が少しでも共感していただけるようなストーリーにして」





──7月に日本でもアルバム『フロー・ステイト』が発売。これはどんな思いを込めて制作?


Tash「フローな状態と言うのかな。自分を解き放った瞬間、つまり周りの環境や思惑などすべてを取り払って見えた景色を表現した作品なんです」

──オーストラリアでは、このアルバムが発売されて1年が経過しました。その間いろんな経験をしてみて、このアルバムに対する思いに変化は?


Tash「ライヴでは、常にこの収録曲をアレンジを加えて演奏しているから、いつも感じる風景が異なります」


──では今はどんな気分?どんな音を刻みたいですか?


Tash「成長している自分を表現したいだけ。今回のサマソニも含め、私は日々たくさんの刺激を受けている。それを通じて成長している姿を、音に刻みつけていきたい」


──リスナーには、あなたの音楽から何を感じてほしい?


Tash「ポジティヴなメッセージかな。どんなこともできるっていう」


──例えば、同世代の女性に向けてならば、何を伝えたい?


Tash「ちょっと待って。女性とか性別でカテゴリーをするのって、ちょっと違うと思う。私たちは、その前に『人間』なんだから」


──わかりました。では、同世代の人に対してどんなメッセージを伝えたいですか。


Tash「とにかく冷静に自分の周囲を見てほしい。SNSなどの情報に惑わされることなく、自分がどういう生き方をすべきなのかじっくり考える時間を作ってほしい。その助けに自分の音楽がなれば幸いです」





photography Yosuke Torii
text Takahisa Matsunaga
edit Ryoko Kuwahara



タッシュ・サルタナ
アルバム『フロー・ステイト(ジャパン・エディション)』
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナルより発売中
https://www.sonymusic.co.jp/artist/TashSultana/


PROFILE
1995年オーストラリア・メルボルン生まれ。08年から<Mindpilot>というバンドに所属後、16年頃よりソロ始動。地元のストリート・ライヴで実力を磨き、17年3月にEP『Notion』をリリース 。 収録曲「Jungle」がオーストラリアチャート39位を記録。翌年アルバム『Flow State』を発表、母国オーストラリア・アルバムチャート2位を記録し、地元の最も権威のある音楽賞と呼ばれる<ARIAミュージック・アワード>において最優秀ブルース&ルーツ・アルバム賞を獲得した。




This interview is available in English

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