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text by Takahisa Matsunaga

Conan Gray「何がスタンダードなんて決まっていない。自分自身であることが大事だとみんなが理解できるようになるために、お互いヘルプし合えたらいい」Interview with Conan Gray about “Kid Krow”



恋愛など日常のハッピーな出来事ではなく、自身の辛い経験やもどかしい思いをリアルに綴った言葉を、エレクトロニックや生音などさまざまな機材や要素を取り入れたサウンドで表現。また、ジェンダーレスなヴィジュアルも独特の世界観を放ち、2019年初めよりネット上ではビリー・アイリッシュのような注目を集めていた、コナン・グレイ。2020年3月に待望の初アルバム『Kid Krow』では、自身の生い立ちそして現在までを、時にメランコリックに、時にエモーショナルに表現し、すでに大きな絶賛を獲得している。そんなアルバムについてだけでなく、自身と音楽、さらにルーツのひとつである「日本」とのつながりについても聞いた。
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──あなたは日本人の血が流れているそうですね。


Conan : そうだよ。日本とアメリカのハーフ。母親が広島県出身だから、子供の頃そこに2年半暮らしていたよ。


──日本語は話せますか?


Conan : 日本語は実は最初に話し始めた言語なんだけど、もう全然覚えてなくて。ただ食べ物の名前だけはたくさん覚えてる(笑)シャケムスビ、オニギリ、カレーパンとか(笑)。子供の時に食べてたものの名前は覚えてるよ。


──音楽的ルーツの中に、日本の経験、音楽からの影響はありますか?


Conan : 僕の音楽の中では自分の子ども時代が多く反映されているんだけど、ジャパニーズ・アメリカンとしてテキサスで育った経験は大きく影響していると思う。半分日本人としてアメリカで暮らすのは、僕にとって容易ではなかった。アメリカに住んでいるしアメリカ人だけれど半分日本人でもあるし、自分をどうアメリカの生活にフィットさせればいいのかわからなかったんだよね。今こそそれが特徴だと思えるし、自分の魅力の一つだとその部分を愛することが出来ているけど、それがわかるまでは時間がかかった。ずっと孤独で、自分はアウトサイダーだと感じていたんだ。今となっては日本人であるということは自分自身のお気に入りの特徴の一つなんだけど。幼かった頃に抱えていたジャパニーズ・アメリカンとしての混乱は、大きな影響の一つだと思う。もう一つの影響は、日本でもアメリカでも暮らしたことがあるから、視野が広いということ。両サイドを見て経験しているから、その違いを見ながら自分なりの意見や世界観を構築してきた。曲を書く時は子供の頃の思いや経験を書くことも多いから、そういった影響が曲の中に滲み出ていると思うよ。


──では音楽を始めたきっかけを教えて。


Conan : 曲を書き始めたのは12歳の時。当時は引っ越ししまくっていたから、学校ではすごく大人しくて、シャイだった。だから、自分の感情をベッドルームで静かに曲を書くことで外に出し始めたんだ。そのあと自分が作った曲を歌っているビデオをオンラインにアップするようになって、高校でも曲を書いて歌い続けた。やがて“Idol Town”っていう曲をベッドルームで作ってプロデュースして、YouTubeにアップしたら、それがすごい広まっちゃって。レーベルと契約が決まって、LAに引っ越して、大学に通い始めて、ツアーも始まって……。“Idol Town”がきっかけで、すべてが次から次に始まったんだ(笑)。結果、アルバム『Kid Krow』がリリースされるまでになったんだ。


──ベッドルームで音楽を制作し始めたとのことですが、どういうプロセスで楽曲が生まれることが多い? ルーティーンはある?


Conan : 曲の作り方は始めの頃とほとんど変わらない。『Kid Krow』の収録曲の中には友達と書いた曲も何曲かあるけど、ほとんどは未だに一人で書くしね。曲は未だにベッドルームでベッドに座りながら作ってる。大抵はランダムに思いついたメロディからスタートすることが多くて、作る時間も様々。特には午前3時にメロディのアイデアを思いついて作業し始めることもあるし、友達と出かけている時にヒントを得て、帰ってきてからそれを忘れないようにレコーディングする時もある。そうやってスタートしたあとは、ギターを使って曲を作り上げていくんだ。ギターは昔からずっと弾いている楽器だから、僕にとっては扱いやすいんだよね。




──あなたの楽曲は、ポップでカラフルな印象を持ちながらも、どこかダークな印象を持つサウンド。またエレクトロニックから生音まで、多彩な要素を取り込んでいます。サウンド・メイキングに対してのこだわりは?


Conan : プロダクションに関しては、曲それぞれにその曲独特のサウンドを持たせることを意識してる。僕自身リスナーとして本当に沢山の種類の音楽を聴くし、様々なジャンルの音楽が好きだから、自分が作る音楽を一つだけのジャンルに制限したくないんだ。自分の音楽を作る時は、境界線を気にしない。その曲にどんなサウンドが必要かだけを考える。だから、“Maniac”みたいなピュアなラジオ系ポップソングぽい曲もあるかと思えば、“The Story”のような超フォーキーな曲もある。あまり考えすぎずに、自分が作りたいと思うサウンド、その曲に合うと思うサウンドをそのまま形にしているんだ。あとは、その曲を生でパフォーマンスした時に観客が叫んだり踊ったり、その瞬間を存分に楽しめるような曲を作るということも僕にとっては大切なことだね。ベストなショーをやることもすごく重要だよ。


──歌詞に関しては? 恋愛よりも、日常や人生について考えたリアルな言葉を感じますが。


Conan : その通り。僕は全部自分で曲を書くから、自然と自分の人生で何が起こっているかが反映された曲になる。あと、僕はまだ真剣な交際を経験したことがないから、恋愛に関してはまだ書けないんだよね。書いてはみたいけど、今書こうとしたら、「なんで僕のこと好きになってくれないの?めちゃくちゃ悲しい!」っていう曲ばかりになっちゃうから(笑)。自分以外のことだと、テキサスに住んでる親友のことをよく歌詞にするんだ。彼女は僕にとってすごく大きな存在だから、彼女と一緒に過ごした時間や体験したことも多いし、よく歌詞に出てくる。あとは、自分の友達たちへの愛を表現することもあるし、今の21歳という年齢の複雑さに関しても歌ってる。何かや誰かをすごく大好きになったり、大嫌いになったり、ただただハグして欲しくなったり、酔っぱらいたくなったり、自分でも混乱しちゃうんだよね(笑)。そのフィーリングはよく歌詞にする。僕ってすごくタフなシチュエーションで子供時代を過ごしたし、周りでめまぐるしく色々起こっていったから、平穏で落ち着いた環境っていうのをあまり人生で経験していないんだけど、それについて書くのって好きなんだよね。辛い過去について書こうとしない、語りたくない人の方が多いと思うんだけど、僕の場合は大変なことを乗り越えたからこそ色々なことがベターになっていっていると思うから、それを表現したいんだ。








──自らを「ガーリー・ボーイ」と言うなど、男性や女性というジェンダーの垣根を超えた表現や表情を感じますが。そこは音楽を制作するうえで、大切にしている部分?


Conan : 今の時代、より多くの人々がこれまでの伝統的な男女の区切りというものがそこまで重要なことでないということを理解し始めている。みんなが自分が表現したいことを自由に表現できる時代になってきたということは、すごく素晴らしいことだと思うし、僕自身、あまり性別を意識したり、性別で何かをわけて考えたりはしないんだ。僕は僕自身であって、それで十分。男だからこうでないと、女だからこうでないととやっぱり考えてしまう人もいるけど、自分が自分であればそれでいいんだよ。何がスタンダードなんて決まっていない。自分自身であることが大事だとみんなが理解できるようになるために、お互いヘルプし合えたらいいなって思うんだ。


──サッド・ポップ・プリンスと評されたりしているけれど、自分でもそう思う?


Conan : 僕の音楽はサウンドだけ聴くと超楽しい感じがするんだけど、もっとよく聴くとすっごく悲しかったりするからね(笑)。それって僕自身がそうなんだ(笑)今回のアルバム名を『Kid Krow』にしたのも、親友が僕のことをカラスみたいって言ったからなんだ。僕ってカラスみたいにダークな感じもするけど、ちょっとおどけてたりもする。皮肉っぽい時もあるけど面白おかしくもあるのが僕なんだ。僕は全てを笑うようにしてる。ダークな物事、とことんダークにはしないんだよ。人間って暗い出来事があるとそれをすごく真剣に受け止めすぎてしまって超暗くなってしまいがちだけど、僕はそれを楽しいポップソングにして人を笑わせる。ダークなことを笑うのって楽しいし、逆にそれに向き合えると思うんだ。僕はこれまでの人生で色々乗り越えてきたから、子供時代は明るいとは言えなかった。だから大人になってからの人生は、とにかく楽しみたいんだ。自分自身が笑いたいともいうのはもちろんだし、人々のことも笑わせたい。だから、人生のありのままのことを表現しつつも、楽しい曲を書きたいんだよ。僕のアルバムは、100%僕自身について。「僕のアルバムを最初から最後まで全部聴いたら、最後の曲を聴く頃までには君は僕のベストフレンドになってるよ」ってよく言うんだ。このアルバムを聴けば、僕の秘密を全部知ることになるからね。それが僕が今回のアルバムに込めたかったことなんだ。アルバムのテーマは、これまでの僕のライフストーリーと21歳の今の僕が考えていることの両方。親友たちのこととか、失恋のこととか、混乱する気持ちとか、僕がそのまま反映されているんだ。







──このアルバムを通じて感じて欲しいこと、メッセージはある?


Conan : このアルバムが、聴いている人の孤独感を少しでも和らげてくれたらいいなと思う。僕は人生でずっと様々なことに対して”こんなの僕だけ”と思ってきた。同じことを感じている人たちが沢山いると思うんだけど、このアルバムを聴いて、僕の経験を知って、「自分だけじゃないんだ」とか、「これってクレイジーじゃない。自然なことなんだ」とか感じてほしい。歌詞に繋がりを感じてもらえたらすごく嬉しいね。


──ミュージック・ビデオなどのヴィジュアルも印象的です。”Crush Culture”のハートのバルーンなど、とても「色」を大切にしている気がしたけどどうですか?


Conan : 曲を書いている時に、自然とその曲のカラーが見えてくるんだよね。曲を書いたら、考えなくても自動的にその曲の色が見える。だから“Crush Culture”を書いた時も、赤、白、ピンク、時々オレンジ、みたいなのが自分でも理由はわからないけど既に頭にあったんだ(笑)。“Maniac”を書いた時は、すぐに「この曲は紫だ!」と思った。これも何故かは説明できないけど、僕の中では「パープル・ソング」なんだよね。ビデオを作る時は、その色を大切にする。だから僕のビデオやヴィジュアルはカラフルなんだ。しかも、その色というのは自分の頭の中で自然に決まっているんだよ。


──ファッションでこだわっているポイントは?


Conan : 僕のファッションは昔の時代に影響を受けていると思う。テキサスで育ったから、歳を取った人たちが周りに沢山いたんだ。ジョージタウンという街に住んでいたんだけど、その街は定年退職した人たちが集まるコミュニティの街として知られている。その世代のファッションと自分と同じ世代の若者達のファッションの両方を間近で見てきたから、それが混ざったファッションが僕の主なファッションかなと思う。


──日本のリスナーにメッセージを。


Conan : 僕のこと、僕の音楽を気にかけてくれて本当にありがとう! 日本は僕のホームだから、ホームのみんなが僕のことをサポートしてくれているというのは本当に嬉しいことだよ。皆の前でパフォーマンスするのが待ちきれない。みんなでお好み焼きを食べれたらいいな(笑)。




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