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text by Junnosuke Amai
photo by Marisa Suda

「自分が抱えている痛みをすべて受け止めてあげることも大事なこと。それが自分を成長させるのだから」Interview with Snail Mail




「いまの自分をとても誇りに思う」。昨年アルバム『Valentine』をリリースした際、そう話してくれたスネイル・メイルことリンジー・ジョーダン。デビュー作『Lush』で脚光を浴びたのち、メンタル不調に対処するため回復施設で治療を受ける時期を過ごし、そこで書き溜めたアイデアや歌詞を元に制作された10の楽曲。かなわぬ恋や自身のクィアネスについて、あるいはその痛みや怒り、落胆に翻弄される感情の起伏を率直な言葉で歌い上げた『Valentine』は、ジョーダンにとって文字どおり“癒しと再生”を意味し、またミュージシャンとして大きな糧をもたらした作品だった。ジョーダン本人も「スネイル・メイルという本の新たな章のページをめくる作品」と自負する『Valentine』だが、先日にはなんと、A24(『ミッドサマー』、『ムーンライト』)がプロデュースするホラー映画『I Saw the TV Glow』に役者として出演することが発表。さらなる飛躍が期待されるなか、先日出演したフジ・ロックのステージ直後、ジョーダンとの撮影を敢行。後日メールインタビューを行った。(→ in English)



――フジ・ロックはどうでしたか。


ジョーダン「フジ・ロックは最高だった! 日本に来て街を散策する時間があったのはラッキーだったし、フジ・ロックのお客さんも素晴らしかった! みんな、エネルギッシュで興奮してたし」

――困難な状況や経験をへて制作された昨年のアルバム『Valentine』は、幅広い評価と大きな共感をもたらすと共に、あなたにとっては“癒しと再生”を意味する作品だったのではないかと想像します。リリースの直前にはインタビューもさせてもらったのですが、その際、制作中に大事にされていたこととして「自分が抱えているいろんな感情のための場所を作って、(自分のことを)もっとよく理解したい」と話されていたのが印象的でした。『Valentine』を作ることで得られた新たな気づき、あるいは『Valentine』をへて自分のなかで変化を感じる部分などあれば教えてください。


ジョーダン「感情を言葉にすることは、日記を書くのと似ていて、自分にとって物事が明確になってくるんです。『Lush』からこのアルバムまでの期間で、自分はミュージシャンとして、作詞家として、人間として、そして音楽愛好家として大きく成長しました。だから、『Valentine』の制作プロセスも全く違ったものになったんです」





――例えば、曲を書いた当時と時間がたった今とでは、自分のなかで意味合いやニュアンスが変化したり、歌っていて異なるフィーリングが湧き上がるような曲はありますか。


ジョーダン「もちろん。アルバムの曲を書いている時は、書いている出来事のほとんどが起こったばかりだったから感情が高ぶっていました。でも自分はもう、2019、2020年の自分とはまったく別人! 自分が過去に感じた気持ちに対しては今でも共鳴できるけど、現時点ではずっと昔のことみたいに感じます」

――『Valentine』には、デビュー作からの間にあなたが経験した感情が包み隠さず綴られていて、痛みや悲しみに向き合うことが、自分自身をいたわること、そして他者に向ける優しさにつながっていくようなダイナミクス、ドラマ性を聴いていて感じました。『Valentine』がより大きな共感を得る作品となった理由はそこにあるのではないかと思うのですが、あなた自身としてはどう振り返りますか。


ジョーダン「『Valentine』を制作することは、自分の人生の強烈な時期のカタルシスの役割をしてくれました。なので他の人も――その人がどんなことに直面していようと――このアルバムを通して癒しを感じられたり、共感してくれることができたなら嬉しい。自分は、パーソナルな音楽を聴くのが好きなんです。なぜなら、他の人の体験に共感できるという感覚が好きだから。その感覚を自分から人々に与えることができるって、すごくクールだと思う」





――昨年インタビューした際、『Valentine』の制作に飛び込むことは怖かった、当時のことを思い返すのは今でもストレスを感じる、と話されていました。『Valentine』が多くのリスナーをエンパワーメントしたように、当時のあなたを後押ししてくれた音楽やアート、心の支えとなったものはなんでしたか。

ジョーダン「曲を書くということは、自分のなかにある弱い一面を曝け出す感じがあります。だから作曲して、それを世の中に送り出すのは、毎回怖いと感じるし、プレッシャーもすごい。でも、自分は音楽が好きだからこれをやっているし、自分は有能なアーティストであり作曲家である、とつねに自分に言い聞かせることで乗り切ることができました。それから、広い視点を持つことで、自分の作品について他人がどう思おうとまったく気にしなくていいんだということを再認識できます」



――まだ先の話になると思いますが、『Valentine』をへて、これから先歌っていきたいこと、音楽を通じて伝えたいこと、そのあたりの思いや予感などあれば教えてください。


ジョーダン「いろいろと進めてます。ゆっくりだけど、確実に取り組んでいます!」

――今いちばん関心のあるトピック、夢中になっている出来事はなんですか。


ジョーダン「プレイステーション4で『Stray』(ストレイ)をたくさんやって、デニス・クーパーの本をたくさん読んでます! あと(テレビドラマの)『セヴェランス』も大好き!」






――最近よく聴いている音楽、チェックしているミュージシャンは誰かいますか。昨年話を聞いた際は「プリンスやヒップホップ、R&B的なもの、あとジャズをよく聴いている」と話していましたが。


ジョーダン「最近は、ウォーター・フロム・ユア・アイズとマンマをよく聴いてます。いつも聴いているのはエリオット・スミス」

――『Valentine』は、シンセの導入やストリングスのアレンジ、プロダクションも含めてサウンドの部分でも前作の『Lush』から大きな飛躍を遂げたアルバムでした。今後取り組みたいアプローチ、思い描いているサウンドのアイデアなどあれば教えてください。


ジョーダン「自分の音楽の幅を広げるのはワクワクします! 次のアルバムで試したいアイデアがすでにいくつかありますが、それはすべてサプライズにしておきます!」



――最後に。いまのあなたが、困難な状況にあった過去の自分にアドバイスできるとしたら、なんて声をかけたいですか。


ジョーダン「『結局は何もかも大丈夫になるからね』と伝えつつも、『自分が抱えている痛みをすべて受け止めてあげることも大事なこと。それが自分を成長させるのだから』と言いたいです」





photography Marisa Suda(https://www.instagram.com/marisatakesokphotos/
text Junnosuke Amai(https://twitter.com/junnosukeamai



Snail Mail
『Valentine』
(Matador / Beat Records)
発売中
Beatink: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12100

Tracklist:
01. Valentine
02. Ben Franklin
03. Headlock
04. Light Blue
05. Forever (Sailing)
06. Madonna
07. C. Et. Al
08. Glory
09. Automate
10. Mia
11. Adore U (Valentine Demo)*Bonus Track for Japan

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