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text by Nao Machida

「この状況はどこへ向かっていて、みんなにとって本当に価値のあるものやモラルはどこにあるのか。そして私が解明したかったのは、このような状況に対する解毒剤は何なのかということ」ジア・コッポラ監督 『メインストリーム』インタビュー/Interview with Gia Coppola about “Mainstream”




家族や友だちと日常を共有したり、世界中の人とリアルタイムで交流できたりと、私たちの好奇心を刺激してくれて、今や生活の大きな一部となったソーシャルメディア。その一方で、そこには様々なトラブルが潜んでいることも周知の事実だ。映画『メインストリーム』が描くのは、YouTuberとして脚光を浴び、ソーシャルメディア界の“メインストリーム(主流)”となった若者の物語。ロサンゼルスで何者かになりたいともがいていた20代のフランキーは、謎めいた男・リンクと出会い、作家志望の友人ジェイクの力を借りて、リンクを“ノーワン・スペシャル(ただの一般人)”というYouTuberとして売り出す。驚くほどの早さで富と名声を得た彼らだったが、楽しいだけの刺激的な日々が長く続くことはなかった…。監督はフランシス・フォード・コッポラの孫で、ソフィア・コッポラの姪に当たるジア・コッポラ。リンク役にアンドリュー・ガーフィールドを迎え、ソーシャルメディアの生み出す快楽と得体の知れない不安を見事に描き出した。ここでは10月8日の日本公開を前に、コッポラ監督にリモートインタビューを行い、映画の制作秘話やソーシャルメディアに対する考えなどを聞いた。 (→ in English)



――映画『メインストリーム』の日本公開おめでとうございます。長年の構想を経て完成したそうですが、インフルエンサーのカルチャーを描いた本作のテーマは、今の世の中にもぴったりですね。


ジア・コッポラ監督「7年前に本作の制作を始めた時点ですでに浸透していて、どんどん大きくなっていたテーマだったので、今日性は高まる一方だろうと思っていました。でも、私が興味をそそられたのは、何年も先まで振り返ることができるタイムカプセルのような作品にして、たとえ変わりゆく部分があったとしても、少なくとも常に同じ感情が得られるようにするにはどうしたらいいか、と考えることでした。というのも、私は1950年代の映画『群衆の中の一つの顔』(※マスコミによって祭り上げられて有名になった青年の悲劇を描いた物語)からインスピレーションを得たんです。ラジオからテレビへの転換期を舞台にした作品なのですが、本作とよく似た問題を扱っていました。このようなことは繰り返されるのだと思います」


――私はYouTubeを観て育った世代ではないので、ネットで配信されているコンテンツの面白さを理解できないと言うフランキーに共感を覚えました。監督はなぜこの物語を伝えたいと思ったのですか?


ジア・コッポラ監督「まさに、みんなが夢中になっているものや、虜になっているものが理解できなかったからだと思います。少なくとも私にとって、何かに夢中になるにはストーリーが必要なのですが、多くのコンテンツにはストーリーがなくて、それでもたくさんのフォロワーがいるんですよね。そのような好奇心もあって、自分が抱いていた疑問から解放されたいという気持ちで本作を手がけました。答えが見つかったとは思わないけれど、少なくとも、ポップカルチャーの好みとかけ離れているように感じていた自分の気持ちを和らげることができました」


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――リンク役のアンドリュー・ガーフィールドのパワフルな演技に圧倒されました。本作ではプロデューサーも務めたそうですが、彼の意見で印象的だったことはありますか?


ジア・コッポラ監督「リンク役はアンドリューに演じてほしいと、ずっと思っていました。私は彼の作品の大ファンでしたし、彼は言うまでもなく才能豊かで熟練した役者ですから。あれほどのレベルの才能を持つ人と一緒に仕事することができたら、今回のような大きなアイデアでも、シンプルで少し甘いおとぎ話のように、もしくは、ダークなおとぎ話のように感じられる物語を伝えられるかもしれないと思ったんです(笑)。このような題材は説明的になりやすいので、感情を前面に出すにはどうしたらいいのだろうと考えていたのですが、アンドリューは非常に知的な人で、私の疑問にもとても熱心に向き合ってくれました。コラボレーターになってくれて本当に助かりましたし、とても贅沢な時間でした」


――フランキー役のマヤ・ホーク、ジェイク役のナット・ウルフとのアンサンブルも素晴らしかったです。彼らをキャスティングした経緯は?


ジア・コッポラ監督「私がアンドリューにリンク役を演じてもらいたかったもう一つの理由は、彼がよくヒーローを演じていたことでした。リンクは嫌われるようなことをいっぱいやるので、観客が話についていくことができて、彼には良いところもあるんだと感じてもらえるような、完全に嫌うことはできない人物にしたかったんです。ジェイク役のナット・ウルフとは前作『パロアルト・ストーリー』(2015)で一緒に仕事をしたのですが、そのときは(リンクと)よく似たタイプの迷える魂のような役を演じてもらいました。実際の彼は私にとって弟のような存在で、とても優しくて愛すべき人なんです。だから、今回は私が大好きな彼の一面を見せられる役を演じてもらおうと思いました。フランキー探しはとても難航したのですが、ちょうどキャスティングを行っていた時期に、ザック・ポーゼンのキャンペーンのために(フォトグラファーとして)マヤを撮影する機会があったんです。私たちはすぐに意気投合して、言葉を交わさなくても瞬時に通じ合えた気がしました。『よし、彼女がフランキーだ』と思って、この3人に決めたのですが、ありがたいことにすべてがうまくいきました」





――監督が手がけたブラッド・オレンジの「You’re Not Good Enough」のミュージックビデオが大好きなので、デヴ・ハインズが本作の音楽を担当していると知ってうれしかったです。彼とは本作についてどのような話をしましたか?


ジア・コッポラ監督「デヴは本当に天才なので、私は一歩引いて彼に任せることにしました。どんな意見を伝えるよりも前に、まずは彼がどのように解釈するかを知りたかったのです。でも、私がずっとイメージしていた、本作を構成する3つの幕については少しだけ伝えました。第1幕は若くて純粋なロマンスのような感じで、第2幕は絵文字が顔に飛び込んでくるような、楽しくてちょっと大げさな世界観です。そして、そこからとてもダークで目が覚めるような状況へと変わっていきます。それを感情的にたどるような音楽にしたかったのですが、彼はすでにお見通しでした」 


――日本でもソーシャルメディアに関連する問題は少なくないですし、スマートフォンに釘付けの人も多いので、この映画は様々な会話のきっかけになると思います。


ジア・コッポラ監督「こういったものがどのように設計されているのかリサーチしたのですが、ただのビジネスであり、企業が私たちを縛りつけようとしていることがわかって非常に気分が悪くなりました。それは私たちに精神的な影響を与えます。特にまだ知識も浅く、未熟で発展途上にある若者にとっては、本当に危険なものです。学校で注目を浴びるレベルではなく、(ソーシャルメディアでは)世界中の人々の目にさらされて、意見を押し付けられるわけですから。そのようなレベルの注目に対応できる人なんていないと思いますし、思春期の子ならなおさらです。私自身は20代までソーシャルメディアがなかったのですが、始まった当初は友だちと写真を共有したり、知らない人と交流したりできて、とてもエキサイティングでした。でも、次第にある種のモンスターが成長していくのが見えて、いろんな意味で有害な場所なんですよね」





――インターネット上のコンテンツは、映画やテレビなど他のメディアとは異なる独特なものだと感じます。監督がそのように感じることはありますか?


ジア・コッポラ監督「そのことに関しては、感じていることがたくさんあります。私はソーシャルメディアからたくさんのインスピレーションを得ていますし、まるで昔の雑誌のように画像を保存したりしています。それは本当に素晴らしいことですが、ソーシャルメディアのせいで読書の時間が減少していることも証明されているんですよね。それに、内容よりスタイルが重視されていて、インスタグラムのフィルターがかかっているように感じられる映画も多いです(笑)。とはいえ、通常では考えられないほど多くの画像にアクセスできるという利点もあるんです」


――本作を観ると、ネット上では誰もが瞬時にたくさんの注目を集められるということ、そして、それがいかに有害で中毒性があるかがわかります。観客に答えを与えるというよりも疑問を投げかけていますが、映画を観終えた後、どのようなことを考えてほしいですか?


ジア・コッポラ監督「私たちがこれまでに話してきたような疑問を持ってくれるといいなと思います。この状況はどこへ向かっていて、みんなにとって本当に価値のあるものやモラルはどこにあるのか、ということです。私が解明したかったのは、このような状況に対する解毒剤は何なのか、ということでした。本作を通して、そして、今回のパンデミックを通して学んだことは、今日の私たちに与えられたテクノロジーにどれだけ素晴らしい側面があったとしても、自然や本当の意味でのつながりは何物にも代えがたいということです。富や人気を重視することが多いカルチャーですが、それは実際に私たちを育んだり、満たしたりするものではないと感じています」





――クリエイターとして、今回のパンデミックから影響を受けたことはありますか?


ジア・コッポラ監督「私はパンデミックの間に大きな刺激を受けました。家族とナパバレーで過ごしていたのですが、長時間をかけて車で往復する際に、よくフィクションのポッドキャストを聴いていて、すごくクリエイティブだなと感じたんです。ロケ地も高額な契約も必要ないので、好きなだけ奇妙でワイルドなものにしたり、お金をかけたりすることができるんですよね。ポッドキャストは本当に興味深い遊び場だと思うし、みんながもっと挑戦するべきエリアだと思いました」


――フォトグラファーとして、ビデオディレクターとして、そして映画監督として活躍されていますが、日本でアーティストを目指している人たちにアドバイスはありますか?


ジア・コッポラ監督「私たちはみんな個性的な存在だと思うんです。だからこそ、みんながそれぞれの個性を受け入れ、それを共有することで、自分の得意分野とは全く異なる物語に触れられたらいいなと思います。物語を伝え続けて、共有してください。今は手頃な価格でみんなに共有できるテクノロジーがある時代ですから、ぜひそれを活用してくれたらと思います」





Text Nao Machida



『メインストリーム』
10月8日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
公式HP:happinet-phantom.com/mainstream/ 


【STORY】
スターダムへの野心が狂気に変わる時、最悪の事件を引き起こすー
夢と野心が交錯する街LA。20代のフランキーは映像作品をYouTubeにアップしながら、さびれたコメディバーで生計を立てる日々に嫌気がさしていた。ある日、天才的な話術の持ち主・リンクと出会い、そのカリスマ性に魅了されたフランキーは、男友達で作家志望のジェイクを巻き込んで、本格的に動画制作をスタートする。自らを「ノーワン・スペシャル(ただの一般人)」と名乗り、破天荒でシニカルなリンクの言動を追った動画は、かつてない再生数と「いいね」を記録。リンクは瞬く間に人気YouTuberとなり、3人はSNS界のスターダムを駆け上がってゆく。刺激的な日々と、誰もが羨む名声を得た喜びも束の間、いつしか「いいね!」の媚薬は、リンクの人格を蝕んでいた。ノーワン・スペシャル自身が猛毒と化し、やがて世界中のネットユーザーからの強烈な批判を浴びるとき、野心は狂気となって暴走し、決して起きてはならない衝撃の展開をむかえる―


監督・脚本:ジア・コッポラ (『パロアルト・ストーリー』) 共同脚本:トム・スチュアート
出演:アンドリュー・ガーフィールド マヤ・ホーク ナット・ウルフ
ジョニー・ノックスヴィル ジェイソン・シュワルツマン アレクサ・デミー コリーン・キャンプ
原題:Mainstream│2021年│アメリカ映画│シネマスコープ│上映時間:94分│映倫区分:G
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2020 Eat Art, LLC All rights reserved.
公式twitter:@mainstream_jp 公式Instagram:@mainstream_jp

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