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text by Yoshiko Kurata

ローカルに根付くカウンタカルチャーから未来を想像するアーティスト・Yuen Hsiehインタビュー


TRINI


ビデオディレクター、ビジュアルアーティスト、DJと多彩な顔を持つYuen Hsieh。台湾に生まれ育ち、2015年にセントラル・セント・マーチンズとロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業後、ロンドンと上海を拠点に、カウンターカルチャー、アニメ、ビデオゲームなどをインスピレーションにした映像作品を世界各国で発表している。SHOWstudioやForbes Under 30に取り上げられるほか、British Fashion Councilによる「New Wave Creatives 2021」に唯一アジア人ディレクターとして選出。また、自身でパーティ「AUDIO RIOT」を主宰するなどローカルカルチャーとの接点を大事にしている。久しぶりの海外旅行先に日本を選ぶほど、日本のカルチャーが好きだという彼に作品コンセプト、新たにローンチ予定のゲーム作品について、そしてパーティやクラブから形成されるコミュニティの大切さを語ってもらった。


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ー 幼少期に漫画家を目指していたほどに、漫画やアニメカルチャーに影響を受けていたことが現在のクリエイションにも繋がっているそうですね。一番最初に興味を持ったアニメや漫画はなんでしたか?


Yuen「。.:☆*:・学生時代に昼食代を節約して『週刊少年ジャンプ』を毎回買ってたよ。初めて読んだ漫画は、冨樫義博先生の「HUNTER×HUNTER」。ファンタジーで奇抜な世界観と、登場人物の超能力に惹かれたんだよね。彡✧」


― 90年代の日本の漫画やアニメにも登場してきますが、Yuenさんの作品には神話に出てくるようなクリーチャーがよく描かれますね。


Yuen「ཀ`メ そうだね。以前、DAZEDで発表したBVLGARI X AMBUSHのプロジェクトは神話をもとにした作品だったね。そのコラボレーションでは、アイコニックで曲線美を特徴としたデザインにネオンカラーのバッグを発表していて。僕はBVLGARIとAMBUSHに、中国星座『二十八宿
』の四神のひとつであり、長寿を意味する黒亀をアイデアにしました。北と冬を表すことから『玄武』とも呼ばれています。そうして、世界最大の島・カラーリット‐ヌナートに『SHIYA SCIENCE』という秘密のラボを作ることを思いつきました。 ☆ミ 彼らは未確認生物体を未知の場所でこっそりと孵化させていて。北のある場所では、氷の中に強力な石の守護者である黒い亀がいます。もし人間たちがそこにある資源を汚そうとすれば、彼らは目を覚まします。そうしたストーリーをもとに、ニューヨークを拠点とする2人の才能ある3Dアーティスト・Radimir VkochとNathalie Nguyenと協力し、ギリシャ神話、スラブ神話、日本神話からヒドラに関するビジュアルを参照しながら、ヒドラが地球を保護することを示しました。☆゚*・。*・:最終的に、この3Dアニメーションは上海で行われたBVLGARI X AMBUSHのオープニングパーティーで上映されました。☆*:.。.o(≧▽≦)o.。.:*☆」









BVLGARI X AMBUSH





CRYPTO MONSTER


― 「SHIYA SCIENCE」という自身のクリエイティブスタジオを立ち上げ、ワールドワイドに数々のファッションブランドや雑誌と仕事をしていますね。作品でもファッションは登場人物の個性を表すひとつのキーになっているようですが、Yuenさんにとってファッションはどのような役割ですか?


Yuen「゚゚・*。•̩̩͙✩•̩̩͙*˚僕が思うに、ファッションはムーブメント、音楽、社会学と深く結びつくものだと捉えています。衣服やパフォーマンスは、世界を再構築しようとする若者や新世代のアンダーグラウンドな力になります。セントラル・セント・マーチンズで学士号を取得した当時、パフォーマンスアートを専門にしたファイン・アートを学んでいました。その本質はクリティカル・シンキングであり、音楽、ファッション、ビデオアートなど、あらゆるアートフォームに適用可能な考え方でした。例えば、最も重要な作曲家の一人であるジョン・ケージは、人間の感情を表現するための媒体としての音ではなく、音は音であるべきだという考えを提唱し、音楽とは何かという考え方に挑戦しました。☆⌒ヽ彼の考え方を受けてから、どんなアート分野であっても、最近のVETEMENTSやBALENCIAGAのデムナのような反骨精神を持ったクリエイターが登場すると、とても興味が湧きます。彼はランウェイに、ビデオゲームやクラブカルチャー、パフォーマンスアートを取り入れた表現をしていますよね。一方で、個人的には、ファッションは自分自身の強いアティチュードとともに自分が何者で何をするのか表現するものでもあって。だからこそ、常に自由でアナーキーでなければならないと思っているのです。♡ඩ⌔ඩ♡」


― 2017年からロンドンと上海を行き来するようになったそうですが、当時に比べると上海はどのような変化を遂げたと思いますか?コロナ前によく上海に訪れていたのですが、新世代が次々と新たなクリエイションを起こしていく姿に驚いた覚えがあります。


Yuen「♰。・゚゚* Tik tokやInstagramが私たちのソーシャルライフを支配し、私たちが好きなこと、シェアしたいこと全てのビッグデータを収集するようになってからだと思います。アルゴリズムは、そうした自分好みのバイブスや美意識をもったフィードを提案してきます。美的感覚に溢れたカルチャーはまだありますが、そうしたSNSの影響で均一化され始めているように感じます。最近は、全体的に東洋と西洋、ジェンダー、ハイとロー、強さと柔らかさの境界が曖昧になりつつ、あらゆるものが混ざり合っているように感じます。・゚゚・。. ʚ(ȉˬȉ⁎)ɞ˒˒」


YUEN HSIEH X PROTOREALITY GAMES | TRINI NFT from YUEN.HSIEH on Vimeo.



YUEN HSIEH X PROTOREALITY GAMES | AKINO NFT from YUEN.HSIEH on Vimeo.



YUEN HSIEH X PROTOREALITY GAMES | SYTHE NFT from YUEN.HSIEH on Vimeo.



― 上海に訪れていた頃はよくALL CLUBに行ってて、そこでそういった美意識を持つ人たちに遭遇していました。よく友達と遊びに行く場所はありますか?


Yuen「♪♪そうなんだ!ALL CLUBでいつか会って、ショットでも乾杯できたら嬉しいね!(笑)コロナ以降、みんなパーティをやりたくても中国ではなかなか難しい状況になってるね。僕の友達の何人かは100日以上もアパートに閉じ込められていて、その期間中はテイクアウトの価格が高騰しちゃってて。主宰しているパーティ『AUDIO RIOT』のために台湾に戻った時も大変だったね。クラブは2ヶ月くらい閉鎖されてしまって、結局、別のかたちでゲリラ・パーティをすることにしたよ。コロナ0を目指す方針のもと、公園や川辺、橋の下、倉庫など野生的なエネルギやパワーを感じられて面白かった。◟₍ꃔ₎◞̊でも、やっぱり僕のお気に入りは、ALL CLUBの外の喫煙所。アイデアやラブストーリーから悲劇まで、新しい友だちができる場所だから。━=͟͟͞͞(Ŏ◊Ŏ ‧̣̥̇)━」


― 先ほどおっしゃった通り、自身で主宰するパーティ「AUDIO RIOT」を今年4月にい台湾・Final Taipeiで開催していましたね。コロナ以降のパーティでしたが、なにか変化を感じましたか?


Yuen「ꉂ パーティはすごく楽しかったし、実は台湾でのパーティーは初めてだったんだ。『Final Taipei』自体、COVID-19の直後にオープンしたから、海外アーティストを招聘するにも14日+7日の隔離時間が必須になってしまって。DJが色々な国をまわりながら、文化や食、音楽の交流ができないことは残念だよね。でも同時に、ローカルのDJ、プロモーター、プロデューサーにとっては自分たちのビジョンをキュレーションする機会が増えた良い機会にもなったんじゃないかな。僕のパーティでは結局42日間の隔離が必要になってしまって、その間、友人のパーティークルー・ PUREGに連絡をとった。♡PUREGはSYNAPSEってパーティーをやってるんだけど、SYNAPSE(シナプス)という言葉自体が、2つのニューロンもしくは、またはニューロンとエフェクター細胞同士が接触して情報を伝達するという意味を持っていて。そもそもSynapse(シナプス)は1897年にイギリスの神経生理学者CS Sherringtonが脊髄反射を研究した際に生理学に導入され、中枢神経系の神経細胞が互いに接触し、機能的な接続を達成することを示す言葉として生まれたんだ。「接触」と「接触」。僕たちはそうしたコンセプトで、クラブのダンスフロアにTaiwanese aka Changと一緒に没入型のレーザーインスタレーションも発表して。ビジュアル面のクリエイティブディレクションは、僕とXIИに加えて韓国人3Dアーティスト・Tec1nと一緒に制作した。☆
.。・゚゚・パーティーには300名ほど遊びに来てくれて、旧友から初めましての人までさまざまな人たちに会えて嬉しかった。パーティーは午前4時頃に終わって、そこに集まっていた人たちと一緒にカラオケに行き、昼の12時まで過ごして。大変だったし、疲れたけど、それよりも台湾の生き生きとしたエネルギーをたくさん感じられた瞬間だったね。・゚゚・。.
最近、日本にも久しぶりに来れたから、近いうちに東京で「AUDIO RIOT」を開催することができたら、とっても最高だな。୯ૃ(⁎⁾̵ ਊ ⁽̵)੭ુ⁼³₌₃」























AUDIO RIOT


― 東京では、渋谷のクラブが閉まり、新たな場所でオープンしようとしています。都市開発によって、そうした古くからあって気軽に若者が立ち寄れるようなコミュニティが減ってきているように感じます。上海はよりデジタルライフと近い距離にあると思いますが、フィジカルでパーティーをすることの意義をどう感じていますか?


Yuen「。・゚・そうだね。僕自身、やっぱりカルチャーやコミュニティは、フィジカルな場所で起こるものだと常に信じているよ。中国ではコロナ0を目指すために、2022年のほとんどがフィジカルな生活が実感できないロックダウン状態を数ヶ月過ごす日々だった。それゆえに、多くのクリエイターは、パーティ、プロテスト、ビジュアルワーク、ファッションや音楽などさまざまなフォーマットで表現をしていくしかなかった。それは巧妙な方法で溢れるインパクトとエネルギーを表現する手段だったと思う。まさに抑制的で独裁的な状況からそこに溜まったエネルギーを取り入れる中国らしいスタイルだと思う。*:・゚✧」


― 最近の投稿では、クリエイティブディレクターを務めた新たなゲームの発表をしていましたね。どのようなゲームでしょうか?


Yuen「✩DO119(Derivative Outstation 119)ゲームでは、アートディレクターとクリエイティブディレクターを務めているよ。ゲームの制作やストーリー開発に関わるのは、今回がはじめて。このプロジェクトでは、世界中のクリエイターとコミュニケーションをとり、一緒に仕事できていて。コロナ禍においては、クリエイターがフリーランスとして作品を発表したり、販売したりするためのプラットフォームをオンライン上で開いてるよね。 DO119 (Derivative Outstation 119)は、Web3.0ゲーム会社『ProtoReality Games』が開発したFree to Playもしくは、Play and Earnの新世代のモバイルゲーム。このゲームでは、プレイヤーはバトルやレース、探検を通して生き残って報酬を得られるようになっていて。ゲームキャラクターやスクリプトの制作に参加するほか、アーティストによる限定版NFTコレクションシリーズの開発も担当していて、ゲーム内のキャラクターをベースにしたリデザインや新しいコンセプトの追加も行なっているよ。いまは、NFTのキャラクターデザイン第3弾を制作中。最新のキャラクターは『AKINO』と言って、チームループに所属するドライバー。レース中に誤って右腕を失った彼のために、SHIYA ENTERPRISEのサイバネティクス・ラボは、AI人工知能を搭載した新しい義肢『Cyber-2000』を開発していて。『Cyber-2000』に搭載されたAIシステムは、ウィルス性のあるソフトウェアやハッキングによって機械式義肢が破壊されることを防げる機能を持ってるんだ。また、バッテリーも5日間持続するから、使用者が装着したスマートブレスレットと同期して義肢をコントロールできるようになってる。ここで集まったコミュニティを通して、アーティストがゲーム内でアイデアを交換して作品を販売するエコシステムを構築できるといいなと思ってるよ。( ◍ > . ╹)」


― 90年代の日本のアニメでは未来に対して期待と虚しさ、どちらも描かれることが多いような気がします。2020年代において、Yuenさんはどのように未来を想像していますか?


Yuen「♡未来は、サイバースペースから監視社会、ポスト資本主義に至るまで、ポストモダンで人間が経験することのスペクトルに渡るさまざまな範囲を示してると思う。僕が想像する未来は、絶賛新しいプロジェクト『Digital Afterlife Agency』で取り組んでいるから、近いうちにみんなに見てもらえるのが楽しみだな•*¨*•.¸¸♪」









DIGITAL AFTERLIFE AGENCY


text Yoshiko Kurata(https://www.instagram.com/yoshiko_kurata/



YUEN HSIEH

Director / visual artist / DJ
セントラル・セント・マーチンズ、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業。人工知能とインターネットをサンプルとして使用し、サブカルチャーとエレクトロニック・ミュージックをブレンドし、アイデンティティ、ジェンダー・アイデンティティ、マイノリティ・グループを探求するために実験的な方法で文化遺産を発信している。2021年に英国ファッション評議会の「ニュー ウェーブ クリエイティブ 2021」のリストに含まれる唯一のアジア人監督。彼の短編映画は、テリー賞、リーズ国際映画祭、カンヌ映画祭のインディー・ショート・アワードを受賞。彼の作品は、ニック・ナイトが設立したSHOWstudioによって選出。フォーブスによるアンダー30のエリートリストにも選ばれた。ブリティッシュ・フィルム・インスティテュート、インスティチュート・オブ・コンテンポラリー・アーツ、LONDON DESIGN BIENNALE(ロンドン・デザイン・ビエンナーレ)、La Biennale di Venezia(ベネチア・ビエンナーレ)などに作品が出品され、現在はクリエイティブ・エージェンシーSHIYA ENTERPRISEの創設者。

http://www.yuen-hsieh.com
https://www.instagram.com/yuenhsieh/

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