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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#13山

C250035



いち、に、いち、に。交互に足を前へ出して行けば、そのうち自分の足が腰から上を何処かに運んでくれる。いち、に、いち、に。続けるうちに、頭の中に充満していた思考が一つ二つと順に消えてゆき、そのうち空っぽになってしまう。信号がないから、自分が止まろうとしなければ、どこまでも斜面を歩き続けて行ける。思考が抜け落ちて、ただ歩き始めたら、そこから先は美しく優しい孤独の世界だ。
その世界では、見るもの聞こえて来るもの全てが初めてのものに感じられるかもしれない。葉の形や色や柔らかさに新鮮さを覚えるかもしれないし、風や空や雲を心で触るような感じもあるだろう。小さな虫や小動物から友情を得るかもしれない。
ただ歩いているだけで、私が別の星に来たかのようにいつも感じるのは、とても楽しい。
自分だけのペースで歩き、立ち止まり、感じるには、やはり一人で行くのが一番だと思う。不安があるのなら、最初は誰かと連れ立っていき、次に同じルートを一人で辿るのも良いだろう。
一般的には、山の一人行きは、ある程度経験を積んでからが良いとされているが、岩場などのないルートならば問題ないと思う。
私が一人で行くことを勧めるのは、山と一対一の関係を結ぶことで、五感が刺激され、様々なセルフコンディショニングの再起動が見込めるからだ。
この「新月譚」でも切り口を変えて度々語ってきたことだが、人間に限らず生物には、自分を正しく生かそうとする能力がセットされている。自己治癒力と呼ばれているその力には限界があるものの、大方のことは自分で治せると私は信じている。
外的なストレスなどによって崩れた心身のバランスが不調や病気を生むのだから、それを調えることによって、ゆっくりと悪い部分は快復するだろうし、良い状態を保つためにも必要な事だ。自己治癒力が充実している人は個体として生命力に溢れ、周囲の人を惹き付ける魅力を放っているはずだ。健康的な人というのは、やはり美しいし魅力的である。なおさら自己治癒力の充実に気を配りたい。
その自己治癒力は心身両方に働きかける環境によってより多くもたらされる。

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