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text by Nao Machia
photo by Shiori Ikeno(portrait)Keisuke Tanigawa(still)

Our Body Issue: リリアン・マルティネス/Interview with Lilian Martinez “すべての女性たちが私の絵の中に自分の強さや美しさを見出してくれるといいなと思います”




ポップカルチャーのシンボルや古典的な彫刻や花瓶のイラストが描かれた、どこかシュールなブランケットで多くの人をとりこにするロサンゼルス発のブランド、bfgf。そのファウンダーであるメキシコ系アメリカ人のアーティスト、リリアン・マルティネスが、約1年半ぶりとなる日本での個展を開催した。主に有色人種の女性が描かれた独特な世界観の絵画が展示された会場のgallery commune(東京・幡ヶ谷)にて、アーティストになった経緯や作品制作に込めた思いをたっぷりと聞かせてもらった。 (→ in English



――ロサンゼルスをベースに活動されているそうですが、出身はどちらですか?


リリアン「シカゴで生まれました。両親はメキシコ人で、兄弟もみんなメキシコで生まれたから、私は家族の中で唯一のアメリカ生まれ。シカゴにはかなり長い間住んでいて、シカゴ美術館付属大学を卒業した後もシカゴに残って、あらゆる仕事をしていました。私は写真専攻だったから、自分が何をしたいのか見つけるために、写真関係のいろんな仕事を試していたんです」


――絵ではなくて写真の勉強をしていたんですね。


リリアン「自分にとって、写真が一番理解しやすいものだったんだと思います。初めて興味を持ったのが写真なのだけど、ずっとイメージを作りたいという願望があって。写真は一番理解しやすそうだったし、私にも学べるんじゃないかと思ったんです。それまで絵を描いていたわけではないから、アートは全然知らなくて。子どもの頃に触れる機会もなかったですし」


――そうだったんですね。


リリアン「アーティストになる人は、生まれつきアーティストなんじゃないかと思っていました。アーティストになる術を学ぶのではなくて、最初からアーティストなんだ、って。どのような過程が必要なのかを理解していなかったのです。だから大学では、自分が最初に興味を持った写真の勉強をしました。でも自分が求めているような写真が全然撮れなくて、すごく大変でした。いつも変えたくなるようなディテールがあって、そのためにはフォトショップを使うかセットを作るかしかないんだけど、それも違和感があって。絵は4年ぐらい前にロサンゼルスに引っ越してから描き始めました。かなり最近のことなんです」





――LAに引っ越した理由は?


リリアン「夫のダニエルがLAで仕事をすることが多くて、彼が行くたびに私も一緒に行っていて。それに、新しいことに挑戦するのは楽しいでしょう。当時は絵を描いていたわけでもなかったから、本当はもっと写真を追求しようと思っていたけど、いざLAに移ったらそういう気分じゃなくて、それで絵を描き始めました」


――ご自身のブランド、bfgfはいつ始めたのですか?


リリアン「シカゴにいる頃です」


――絵を描くよりも前に始まったのですね。


リリアン「ええ。長年写真をやっていたから、最初は手で触ることができるものを手がけたいと思って。スクリーン上の平面的なデジタル画像ではなくて、触ったり使ったりできるものがよかった。本当はオリジナルの生地をプリントして、バッグとか洋服を作りたくて。でも、当時は今ほど簡単に生地をプリントすることはできなかったから、版画とかスクリーン印刷とか試して、自分が本当に気に入る生地を模索していました。実は裁縫もしていて、バッグやトップスやポーチなどを作っていたんです」


――裁縫もできるんですか?


リリアン「最高の仕立て屋とまではいかなくとも、縫うことはできます(笑)。でも、裁縫はたくさんの労力を要するから大変でした。すごくたくさん時間を費やしても、あまり稼ぎにはならなくて。デザインすることよりも、実際に作品を作ることにたくさんの時間を費やしていました。それでLAに引っ越す1年くらい前から、デジタルで絵を描くようになりました。そしたら友だちから、『織布製のブランケットを作るべきだ』と言われて。最初はそんなことできたらすごいなって思っていました。そんなものが作れる場所があるとは知らなかったから。でもできるところがあると知って、実際に作ってみて、それ以来ずっとその会社と仕事をしています」




――ブランケットに施されたアートでは、90年代のポップアイコン的要素が花瓶や彫刻といったものと並んでいるのがいいですね。


リリアン「90年代のポップアイコンについては、私が90年代育ちだからだと思います。それから、移民二世としての経験も関係しているはず。自分の好きなものをすべてかき集めて組み込んでいるんです。両親が教えてくれたすべてのことに加えて、テレビや学校で学んだすべてのことをね。今でも共鳴できるような子ども時代のものと、建築やアートなど、今の私が興味を持っているものとのリミックスのような感じがします。これはある意味、自分にとって大切なものや美しいもののコンビネーション。その結果に人々がつながりを感じてくれて、とてもラッキーだと思います。多くの人は同世代で、私と同じようなものや同じような興味を持っていたんじゃないでしょうか」


――アートを施すプロダクトは、どのように選んでいるのですか?


リリアン「実用的だけど美しくて、家にあったら幸せな気分にしてくれるんだけど、毎日使うことができるもの。ブランケットはピクニックに持って行ってもいいし、大きなアートピースのように壁に飾ることもできる。もしこんなに大きな絵画を買うとしたらとても高いだろうけど、これなら手頃に日々の生活にアートや美を取り入れることができるから。それは私にとってはすごく重要なことなんです。アートは私の生活をハッピーにしてくれるから、他の人にも提供したいと思います」


――今回初めてあなたの絵画を拝見したのですが、すごく素敵ですね。この絵の世界に住みたいと思いました!


リリアン「私も! だからこそ絵を描いているんだと思うんです。多くの女性から、『こんな世界に住みたい』と言われます。それは私も同じで、女性にとって、特に有色人種の女性にとって、美しくて平和で完璧な世界を作ろうとしているんだと思います。それは現実では目にしないことだから。いつも何かがおかしいというか」




――4年前に絵を始めたとのことですが、独学なのですか?


リリアン「独学です。実は最初は描き始めるのがすごく怖かった。なぜだかはわからないけど、私にとっては怖いことだったんです。だけど、いざ描き始めたらとにかく楽しくて、良い気分になりました。自分をハッピーにしてくれるから私は絵を描くんだと思います」


――ここに描かれた女性たちは小さな頭に大きな体が特徴的です。パワフルだけど柔らかくもあり、力強い中にもたくさんの光を感じます。あなたが絵を通して表現したいことは?


リリアン「まさにその通り。私は彼女たちを強くも柔らかくも見せたいんです。私にとっては、大きな肩は強さを表しています。そして小さな頭は彼女たちを美しく見せるだけでなく、中性化しているのです。彼女たちは、ただこの平和な場所に存在している。色も非常に重要で、自分にとってしっくりとくる完璧な色のコンビネーションを見つけたいと思っています。これらの色もまた、とても力強くもあり、柔らかくもある。力強いにもかかわらず、どこか柔らかくて穏やかなのです」


――有色人種の女性を描く上でのインスピレーションは?


リリアン「おかしなことに、絵を描き始めたときは『褐色のボディや有色人種の女性だけを描こう』とは思っていませんでした。ただ自然にそうなったという感じ。でも、たくさんの作品を手がけるようになって、なぜ自分がこのような作品を作っているのか、よく考えるようになりました。私はすごく肯定的な観点で、白人以外の女性たちが興味深い形で表現される姿を見たかったんだと思います。彼女たちは必ずしもメキシコ系とは限らないし、いろんな国籍やミックスかもしれない。ただ白人ではない女性だというだけ。でももちろん、すべての女性たちが私の絵の中に自分の強さや美しさを見出してくれるといいなと思います」





――今回の個展はなぜ「Rosa Mariposa」と名付けたのですか? ピンク色の蝶という意味ですよね?


リリアン「実は”Rosa”はローズをイメージしていたのだけど、どちらの意味でも通じると思います。それをピンク色の蝶と解釈してくれる人がいて、すごくいいなと思いました。(タイトルは)とにかく遊び心があるし、楽しい響きだなと思って。本当にこのタイトルでいいのか、遊び心が強すぎなんじゃないかと迷っていたんだけど、個展のための作品制作を始めたときに、メキシコから飛んで来た大量の蝶がカリフォルニアを通過したんです。スタジオからの帰りに高速道路を運転していたら、蝶が飛んでいるのが見えて。都会の中でたくさんの蝶を見るのは、すごく変な気分でした。毎年移動していると思うんだけど、今年は特に蝶が多かった。雨がたくさん降って、花がたくさん咲いたから。あとは、作品の制作中にプリンセス・ノキアをよく聴いていたんだけど、“Biohazard Butterfly”という曲があって。汚染された街にいる蝶のことを歌った曲で、ちょうどいいと思ったんです。それでこのタイトルにしようって決めました(笑)」


――インスパイアされたアーティストや、尊敬しているアーティストはいますか?


リリアン「マティスの作品の持つ喜びやパレットが大好き。あとはイギリスの彫刻家のヘンリー・ムーアも大好きです。彼は女性の体を形取った大きな彫刻をたくさん作ったのだけど、そのすべてが少しだけ抽象的なところがすごく好き。でも全体的に建築からの方がインスパイアされている気がします。建築物のディテールや色を見るとインスパイアされるんです。東京を散歩していても、いろんな色や形の建物を見ることができる。私は日々の生活で目にするものに、すごくインスパイアされるんです」


――将来的にはどのようなことに挑戦したいですか?


リリアン「大規模な屋外のインスタレーションを手がけてみたい。家具やアニメーションもやってみたいです」


――今回の個展によって、日本にはさらにファンが増えたのではないでしょうか。あなたの作品を見て、どんなことを感じ取ってほしいですか?


リリアン「とにかく良い気分になって、エネルギーを感じて、インスパイアされてくれたら。ある男性から『力をもらったよ!』と言われて、すごくうれしかった!それはまさに私が感じてほしいことなんです。言語や言葉を使わずに観客に語りかけ、彼らとコネクションが持てたらいいですね」





photography Shiori Ikeno(portrait)Keisuke Tanigawa(still)
text Nao Machida
edit Ryoko Kuwahara


Lilian Martinez | リリアン・マルティネス
1986年生まれ。シカゴ美術館附属美術大学写真科を卒業後、 LAに移りアーティスト活動の傍ら2010年 アートブランド 「bfgf」を立ち上げる。デジタルプロダクトの他、紙やキャンバス、リネンへのペインティング、セラミック作品も制作している。 http://www.lilianmartinez.com https://www.instagram.com/bfgf/

This interview is available in English

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